(シーア派の第3代イマームとされるフサインが殉教したカルバラのフサイン廟に集まるシーア派の巡礼者。 カルバラはバグダッドの南西およそ100km “flickr”より By James Gordon
http://www.flickr.com/photos/jamesdale10/2268402180/)
【テロの恐怖にも負けない巡礼者】
*****イラク・カルバラでシーア派宗教行事、300万人以上が参加****
イラクにあるイスラム教シーア派の聖地カルバラでは、17日未明に最高潮を迎えた同派の宗教行事に参加するため、300万人以上のシーア派信者が巡礼に訪れた。・・・・・イラク人シーア派信者は、巡礼団への攻撃が相次ぎ、14日以来36人の死者が出ていることにも動ぜず、同国各地から徒歩でカルバラ入りした。【8月18日 AFP】
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14日には、首都バグダッドの南60キロのイスカンダリヤで、聖地カルバラに向かう巡礼者の一団の近くで女2人(米軍発表では1人)が自爆し、18人が死亡、75人が負傷。
16日にはバグダッド北東部ウル地区で、やはり巡礼団を狙ったと思われる自動車爆弾が爆発し、6人が死亡、11人が重軽傷を負っています。
その他、バグダッド南部ザフラニヤ地区で巡礼に向け設置された検問所でも爆発があり、警官1人が死亡、5人が負傷しています。
宗派間対立を煽りたいテロリストにとっては、巡礼団は格好の標的になります。
それを承知で大勢の人々が宗教行事に参加する・・・・毎年のことながら信仰心の薄い者にとっては、この宗教的情熱には圧倒されるものを感じます。
まあ、300万人のなかの36名なら、日本国内だって交通事故でそのくらいのリスクはあるさ・・・と言えなくもないですが。
なお、イラク国内のテロについては、女性による自爆テロが急増しています。
夫を殺害されたり、拘束された女性の復讐心に武装勢力がつけ込んでいるもので、自爆志願者を勧誘する組織的なネットワークが存在すると言われています。
現実的な問題としては、イスラム特有の女性の服装が爆弾などを隠しやすく、また、検問所などでの女性の検査が比較的甘いことがあります。
これだけ女性の爆弾テロが多ければ、“公の場ではチャドルの着用を禁じる”としてもいいようにも思えるぐらいですが、現実にはたとえいかなるリスクがあろうが信仰にのっとったチャドル着用が当然とされており、リスク管理より宗教優先です。
【拡大するイランの影響】
イラク国内ではシーア派が人口の約6割、スンニ派が約2割といわれています。
大体アラブではスンニ派が主流ですから、シーア派主体は珍しく、それだけにシーア派国家の隣国イランとの絆も強いものがあるようです。
今年3月にはイラン・アフマディネジャド大統領がイラクを公式訪問したほか、イラク・マリキ首相は今年6月にテヘランを訪問。首相としてのイラン訪問は3回目になります。
かねがね、アメリカはイラク国内武装組織へのイランによる武器供給を問題にしています。
また、シーア派内の権力闘争で、マリキ政権とサドル師のマフディ軍との抗争が激化した際も、関係者がイランを訪問してイランの仲介で関係調整が行われました。
そうした軍事や政治の場面だけでなく、イランの影響力は大きなものがあるようです。
****イラン、イラクに電力供給****
バグダッドの北、ディヤラ州の首都バクバでは、1日12時間の電力供給しかなかった。55度の猛暑の中、扇風機、クーラーが使えなければ、商売や市民の健康さえ危うい。
しかし、2年前に締結されたイラン・イラク政府間の契約に従い、イランは4カ月前から電力供給を開始した。
今や停電は、特定の時間帯に2時間、時に4時間となった。送られてくる電気の電圧は必要な220-240ボルトを下回るが、それでも大幅な改善だ。
ディヤラ州電気局は、イラン側が送電線1本の電圧工事を行っており、1か月後に完成すれば電圧が上がるだけでなく電力供給時間も長くなると発表している。・・・・【現地発8月7日 IPS】
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市民生活、経済活動もイランからの支援が期待されている・・・という記事ですが、自国兵士の命を犠牲にしながらイラク治安安定に励むアメリカにとっては、そのイラクにイランの影響が拡大するという事態はなんともやりきれないところでしょう。
【関係構築に乗り出すアラブ諸国】
イランの影響拡大を懸念するのはアメリカだけではありません。
スンニ派が主導権を握る周辺アラブ諸国にとっても、シーア派イランの影響力拡大は悩ましい事態です。
***アラブ諸国:イラクに続々と大使館 シーア派イランに対抗****
イラク戦争(03年)後、治安上の懸念からイラクに大使館を置かなかったアラブ諸国が、続々とバグダッドの大使館開設を表明している。治安が改善傾向にあることが公式理由だが、イスラム教スンニ派が大半を占めるアラブ諸国にとって、イスラム教シーア派が国民の約9割を占める隣国・イランの影響力拡大に対抗したい意向が背景にある。・・・・・この2カ月間にアラブ首長国連邦やヨルダンなど6カ国が開設の意向を公式に表明。うち4カ国はすでに大使を任命した。・・・・・【8月19日 毎日】
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上記記事に“ヨルダンのアブドラ国王はイラク戦争後、イラン、イラク、レバノン南部を「シーア派三日月地帯」と呼び、シーア派勢力拡大に警鐘を鳴らしてきたが、今月11日、アラブ諸国の元首として戦後初めてイラクを訪問。「アラブ諸国はイラクに手を差し伸べなければならない」と主張した。”ともあります。
いくらスンニ派・シーア派の違いがあるとは言っても、“アラブ諸国の元首として戦後初めてイラクを訪問”というのは冷淡に過ぎるような気がします。
マリキ首相がイランを頼るのも無理ないところです。
イラクはこのシーア派、スンニ派だけでなく、クルド人も存在します。
前にも触れたように、シーア派・スン二派の問題は同じアラブ人として利害調整も可能なように思えます。
それよりクルド人の処遇が難しそうに見えます。