(アフガニスタンの大地に広がる緑の畑 亡くなった伊藤さんが目指したものもこのような光景だったのでしょうか。 “flickr”より By machina
http://www.flickr.com/photos/mulestance/518695630/)
【「村人たちに守られている」】
アフガニスタンで拉致された伊藤和也さんの事件は最悪の結果となりました。
事件の詳細、背景はまだよくわかりません。
犯人グループがどの程度タリバンと関係あるのか、殆ど山賊の類なのか?
どのような思惑で伊藤さんを拉致したのか?
最後の状況についても、アフガン内務省関係者は、「警察が誘拐犯を近くまで追いつめたため、(伊藤さんを)射殺し、そのまま置き去りにした」と語り、誘拐犯が射殺したと主張していますが、タリバンの関係者には、「タリバンの同胞が伊藤さんを誘拐し、追跡してきた治安部隊との銃撃で(伊藤さんが)巻き添えになって死亡した」と、「巻き添え」説を強調する者もいるとか。
ただ、タリバンのスポークスマンを務めるムジャヒード氏はタリバンのグループが伊藤さんを拉致したと言明。その上で、人質を連行中、拉致の通報を受けて捜索に乗り出していた治安部隊と遭遇し、銃撃戦となり、「足手まといになった」ため射殺したと説明しているとも。
脚などに被弾しているとも伝えられていますが、日本政府関係者は伊藤さんの遺体の状況について、「上半身に30発程度の銃弾を受けた模様だ」と述べているとも報じられています。
今回の事件の衝撃が大きいのは、犠牲になられた伊藤さんが“ペシャワール会”という現地密着ということでは有数のNGO団体のメンバーであったことです。
アヘン栽培が蔓延するアフガンで、サツマイモや茶などの農業指導、灌漑施設整備に現地の人々と一緒に働いておられたそうですが・・・。
ペシャワール会の現地代表、中村哲医師の著作は1冊だけ読みかけたことがありますが、自分達のやり方でしかアフガン再建はできない、政府・軍は何もわかっていない、自分達はアフガンの人々とともにある・・・といわんばかりの強烈な自負心に、正直なところ辟易するところがあって、途中で読むのを止めたことがあります。
逆に言えば、そんな自負心がなければ、アフガンのような過酷な環境、厳しい情勢のなかでの活動なんてできないのでしょう。
「村人たちに守られている」が「ペシャワール会」代表の中村氏の口ぐせだったそうですから、今回の件については、「伊藤君は現地の人たちに好かれ、住民に完全に溶け込んでいた。彼は大丈夫だと思っていたが、私の状況認識が甘かった」と衝撃を受けておられるようです。
【軍の民生支援活動】
NGOだけでなく、米軍やISAFもアフガンでは民生支援活動・人道援助を行っています。
軍主導によるこの種の活動には2種類あり、一つは軍直属の部隊が軍事作戦の一貫として人道援助をする場合、もう一つは、PRT(Provincial Reconstruction Team)と言って、軍の民生部隊及びUSAID(米国国際開発庁:米国務省のもとで、非軍事海外援助を行う政府組織)とそれを保護する戦闘部隊との混合チームです。
中村氏などNGO関係者はかねてから、軍による民生支援活動であるPRT等については、軍の宣伝活動であるPRTとNGO活動が同じようなものと現地の人が誤解し、NGO活動が外国軍と関係したものと考えられ、NGOの活動を阻害し、関係者の安全を脅かすこと、また、PRTによる安易な“ばらまき”が、現地の人達の自発的・持続的な活動を育てようとするNGOの活動を阻害し、また、限られた予算の範囲でやりくりしているNGO活動を非常にやりづらくすること、そうした観点から批判しています。
(PRTの事例については、日本国際ボランティアセンター(JVC)のサイトに紹介があります。
http://www.ngo-jvc.net/php/jvcphp_epdisp.php?ThreadName=a01&ArticleNo=18)
NGO関係者は、同様の趣旨で、日本のPKO活動などについても、日の丸を掲げた軍隊が入ることで日本人NGOの活動が軍と関係したものと誤解されて活動しにくくなると批判しています。
今回の事件についても、NGO活動が外国軍隊と関係がある活動と見られたのか、あるいは、NGOと協力している住民が“あの連中は外国人とつるんで旨い汁を吸っている”と他の住民から妬みみたいなものを買ったのか・・・そんなことでもあったのでしょうか?
それとも単なる金目当ての犯行か?重機などを使用したペシャワール会の活動が目立ちすぎたのか?あるいは、日本の海自の活動がなんらか日本人のイメージに影響しているのか?
【越えられない溝】
日本人からすると、“アフガンのために尽力しているのに、どうして・・・”という理不尽な思いがつのります。
まったく事象は異なりますが、かつてタリバンがバーミアンの大仏を破壊したことについても、“いろいろあるだろうけど、どうして世界的遺産を破壊しなければならないのか?”“なぜ世界中の思いが彼らタリバンには伝わらないのか?”という、やりきれない“心のズレ”を感じました。
彼らの外国人を見る目には、私達の思いとは全く別物が映っているのでしょうか?
越えられない溝があるのでしょうか。
伊藤さんの捜索には村人600人余りも参加してくれたそうで、そのことが彼と彼の活動が一般のアフガンの人々にはきちんと受け止められていた証のように思えます。
それがせめてもの救いでしょうか。
ペシャワール会の現地代表、中村氏は「大部分のアフガン人は我々を守ってくれる存在であり、一部の犯罪者の存在によってアフガン人を断罪しないでほしい」と語っているそうです。