孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ネパール  ようやくマオイストの新首相選出

2008-08-16 12:56:43 | 国際情勢

(今年6月6日 カトマンズでのマオイストの集会 “flickr”より By rex dart: eskimo spy
http://www.flickr.com/photos/chicagolau/2641619152/)

【遅れた首相選出】
今年4月10日に投票が行われたネパール制憲議会(定数601=小選挙区240、比例区335、指名26)選挙は、大方の予想を裏切りネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト派)が圧勝、220議席を獲得して第1党になりました。
90年代から政権を担ってきたネパール会議派と統一共産党はそれぞれ110議席、103議席にとどまり、暫定政府のコイララ首相は5月24日、第1党になるネパール共産党毛沢東主義派のプラチャンダ議長(58)に組閣を要請しました。
そして、ネパール制憲議会はようやく8月15日、新首相にプラチャンダ議長を選出しました。

この間、5月28日には、制憲議会は王制廃止と共和制移行について採決を行い、圧倒的多数の賛成(賛成560、反対はわずか4)で採択、240年続いた王制が正式に廃止され、同国は共和国となりました。

しかし、大統領選出をめぐり紛糾。
大統領ポストは、5月の制憲議会で王制廃止と同時に設置が決まったポストです。
新体制では実権は首相が持ち、大統領は儀礼的存在ですが、軍最高司令官の肩書が与えられます。

この王制廃止に伴う新たな国家元首となる大統領を選出する投票は、7月19日制憲議会で行われました。
毛派は武装解除には応じたものの、依然兵力を維持しており、また、これまで王制廃止以外には明確な政策を示していないこともあって、各政党には毛派への警戒感が根強く存在しています。

第1党の毛派が推薦するシン氏と第2党ネパール会議派のヤダフ幹事長の対決となり、第1回投票では当選に必要な過半数を得た候補がなく、再投票を行うことになりました。
なお、シン、ヤダフ両候補とも、南部テライ地方出身。
インドからの比較的新しい移住者が多い南部住民(マデシあるいはマドヘシ)は近年、自治権拡大を主張して政治的発言力を強めており(制憲議会選挙でも躍進)、大統領選出でもマデシ系政党の支持獲得がカギになると見られたため、毛派、会議派とも南部出身者を候補に擁立して臨みました。
このあたりも、毛派勝利、王政廃止ほど目立ちませんが、新しいネパールの流れです。

その後7月21日、再投票で第3党の統一共産党はじめ少数政党の票を幅広く集めた第2党ネパール会議派のヤダフ幹事長が初代大統領に選出されました。
この結果を不満とする毛派は、新政府の組閣を拒否する方針を決め、一時政局は混迷しました。
自派に対する周囲の強い警戒感に毛派が“すねた”ような形ですが、もともと選挙で圧勝したことも、一番予想外だったのは毛派自身だったのではないかという状況ですので、大統領ポストまで全部を望むのは“欲が深すぎる”きらいはあります。

そんな混迷もありましたが、ようやく毛派のプラチャンダ議長首班指名に漕ぎつきました。
大統領選出で会議派についた第3党の統一共産党、南部のインド系住民でつくる第4党のマデシ人民の権利フォーラムが、今回は毛派支持に回ったそうです。

【課題:毛派兵士の国軍統合】
今後の最大の政治課題は、2万人いる毛派兵士と国軍の併合問題と見られています。
プラチャンダ議長はこれまで「06年の政府との和平合意の際、国軍統合が約束されていた」と主張し続けています。しかし、国軍は「ゲリラと正規軍では戦い方も思想も違う」と拒否。他の政党勢力も「別の治安組織を新設する方が現実的」と否定的だといわれています。

毛派兵士達も自分等の将来に強い不安を抱いています。
5月末時点でのルポでは、ネパール南西部の山奥で「統合の準備」を名目に“模造銃”などを使用して軍事訓練を続けているそうです。
07年1月から始まった国連監視下での武装解除で、宿営地内に国連の監視員が常駐、武器は鍵のかかった倉庫に保管されています。

平均年齢25歳という若者達で、「我々は兵士以外の生きる道を知らない。国軍統合がかなうことを願うしかない」という言葉が紹介されています。
なお、制憲議会選挙に新党を率いて日本国籍も捨てて出馬、落選した長野県出身の宮原巍さんは「(ネパールに対してはインドが大きな影響力を持っており)最近のインドの新聞によると、マオイストに職業訓練をすることを主張しており、今後インドの出方が注目される。」と語っています。
その処遇をめぐって、新政権の安定を揺るがす火種にもなりかねない難しい問題です。

【王政廃止で祭りは?クマリは?】
ところで、王政廃止したことに絡んでこんな記事もありました。

****王政が廃止されたネパール、祭りは誰が主催する?****
【8月14日 AFP】今年5月に王政が廃止されたネパールでは、ヒンズーの数々の重要な祭りを誰が執り行うべきか、議論になっている。
ネパール人は、節目節目で祭りを行うが、同国が最も頭を悩ませているのが、国王が主催する祭りだ。こうした祭りでは、ヒンズーの神・ビシュヌ神の化身とされる国王が国民の祝福を受けることになっている。
前年のインドラジャトラの祭りでは、暫定政府のコイララ首相が国王の役割を引き受けた。
1768年から続くこの祭りでは、生き神「クマリ」が国王を祝福することで、国王による統治が暗黙裏に承認されるという意味合いがあった。
だが、4月の制憲議会選挙で第1党となり、次期政権に就くことが確実なネパール共産党毛沢東主義派(毛派)は、ヒンズーのカースト制を批判して王政の廃止に尽力してきただけに、そうした役割を引き受けるとは考えにくい。
*************

たとえ毛派のプラチャンダ新首相が拒否しても、大統領が祝福を受ければすむ問題かとは思いますが、個人的に気になるのは“生き神”「クマリ」の今後のほうです。
ネパールでは厳しい基準で選定された初潮前の少女が“生き神”「クマリ」として崇められています。
特に、首都カトマンズのクマリの場合、“クマリの館”と呼ばれる建物で家族ともはなれ、外界とは遮断された形で“生き神”として暮らします。当然学校にも行かず個人授業になります。

このような生活が人格形成に多大の影響を及ぼすことは言うまでもなく、しかもクマリの場合、初潮を迎えるなどによって現実世界に戻って暮らすことを余儀なくされます。
年金は支給されるようですが、現実生活にうまく適応できないケースも多いように聞いています。
“クマリの館”での“隔離生活”は、一種の児童虐待ではないか・・・との考えもあります。

クマリの“霊力”を文字どおり信じる立場ではまた違った考えになるかとおもいますが、私などは「伝統文化のなかでの役割を果たし、国民統合の象徴として機能するという意味では、長年の隔離生活などは不要で、セレモニー数日前に禊をする程度でいいのでは・・・」と考えます。
王政も廃止された今、伝統文化も現実世界との共存を考える必要があるのではないでしょうか。
コメント
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