孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア、ウクライナのNATO加盟先送り EUの対ロ接近

2008-12-02 14:13:25 | 国際情勢

(2004年12月、ウクライナの通りには凍りつく寒さをも溶かす希望と熱気が溢れていました。あれから4年・・・オレンジ革命の主役達が互いに争う混迷に陥っています。
“flickr”より By joshuaone6to9
http://www.flickr.com/photos/saritalad/148189455/)

【ライス長官 「両国の加盟準備は整っていない」】
グルジアでの紛争以降、更に対ロ強硬姿勢を示すアメリカ・ブッシュ政権は、これまでグルジアとウクライナのNATO早期加盟実現を強く推し進めてきましたが、昨今の情勢・欧州各国の慎重姿勢を反映して、両国の加盟候補国入りを先送りする方向で止むを得ないと判断したようです。

****NATO:外相会議開催へ グルジアなどの加盟問題先送り****
北大西洋条約機構(NATO)の外相会議が2、3の両日、ブリュッセルで開かれる。焦点のグルジアとウクライナの加盟候補国入りは、早期加盟にこだわってきたブッシュ米政権が欧州主要国の慎重論に配慮し態度を変えたため、先送りが確実になった。
NATOは4月の首脳会議で両国に「将来の加盟」を約束したが、8月のグルジアとロシアの軍事衝突で状況は一変。独仏などは「加盟を急げば(加盟に反対する)ロシアとNATOの緊張を高め、地域不安定化につながる」と懸念を強めた。 

これを受け、ライス米国務長官は11月26日、「両国の加盟準備は整っていない。(加盟の前提となる)加盟行動計画を今、協議する必要はない」と表明。加盟行動計画を経ずに将来の加盟を目指す考えを示した。
メドベージェフ露大統領は11月27日、ライス発言を米国の方針転換と位置付け、「道理が通ったのは喜ばしい。米国が今後、無分別な考えを言い張らないことが肝要だ」と述べた。
 
NATO外相会議ではグルジア紛争を受けて凍結したロシアとの大使級対話の再開も協議される。欧州連合(EU)は2日、ロシアとの協力強化のための協議を再開するが、NATOを主導する米国はロシアによるグルジア和平合意の履行が不十分だとして「対話再開は時期尚早」との立場だ。 【12月1日 毎日】
******************

【グルジア大統領 「必要な措置だった」】
先のロシアとの衝突でグルジア側が先に手を出したことを認めざるを得なくなったグルジアの国際的立場、そして、サーカシビリ政権の国内的立場は苦しくなってきています。

****グルジア:大統領「先に軍事行動」認める****
インタファクス通信によると、グルジアのサーカシビリ大統領は11月28日、8月のロシアとの軍事衝突に関する議会調査委員会で証言し、南オセチアで先に軍事行動を始めたのはグルジアだったと述べた。大統領はこれまで「最初に侵攻したのはロシア軍」と主張していたが、それを翻した形で、大統領の開戦責任を問う声が強まるのは必至だ。
サーカシビリ大統領は「我々が軍事行動を始めたことは認める」と発言。そのうえで「(ロシア軍の)干渉から領土を守り、市民を救うために決断した」と軍事行動の正当性を主張した。
また、グルジアのキツマリシビリ元駐ロシア大使がこのほど、サーカシビリ大統領が7月にライス米国務長官と会談した直後から南オセチア攻撃を米国が容認したと考えるようになったと発言したことについて、大統領は「完全にばかげている」と一蹴(いっしゅう)した。 【11月29日 毎日】
******************

サーカシビリ大統領は「責任ある政府なら自国民の安全を守るためこうした決断をしただろう」と“必要な措置”であったことを主張していますが、5年前のバラ革命の立役者だった有力女性政治家、ブルジャナゼ前国会議長を党首とする反政権派新党「民主運動-統一グルジア」の結成大会が先月首都トビリシで開かれるなど、大統領の責任を追及する声が大きくなっています。

【ウクライナ政局混迷】
一方のウクライナもユーシェンコ大統領とオレンジ革命の同志、ティモシェンコ首相の亀裂・対立が深まっています。

****ウクライナ:最高会議繰り上げ選は来年に 混迷長期化へ****
ウクライナで12月に予定されていた最高会議(国会)の繰り上げ選挙が来年に延期されることになった。ユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の対立に端を発した政治混迷はさらなる長期化が予想され、北大西洋条約機構(NATO)への加盟問題も当面、棚上げになりそうだ。(中略)
大統領と首相は04年の民主化運動「オレンジ革命」で政権を握った親欧米・民主派の同志だったが、来年末に予定される大統領選で最大のライバルと目されるようになり、今夏から対立が決定的になった。このため大統領派と首相派の連立政権は9月に崩壊し、大統領は10月、議会解散と12月7日の繰り上げ選挙実施を命令。これに対し、首相が選挙費用拠出のための予算審議を拒否するなど選挙の阻止に動き、大統領は投票日をいったん同14日に延期する考えを示していたが、結局、年内実施は見送られた。
ユーシェンコ大統領は8月のロシアとグルジアの軍事衝突でグルジアを全面支援し、12月のNATO外相会議でウクライナのNATO加盟候補国入りを目指していた。しかし、テーラー駐ウクライナ米大使が今月初め、地元紙に「(決定は)来年4月のNATO首脳会議でウクライナの政治的安定を見極めてから」と表明するなど、政治混乱の影響でNATO加盟問題も棚上げになる公算が強まっている。 【11月13日 毎日】
*********************

また、ウクライナは“例によって”ロシアと天然ガス問題で揉めています。
反ロ姿勢をとるユーシェンコ政権へのロシア側の圧力ともとられています。

****ウクライナにガス供給めぐり圧力 ロシア****
ロシアのメドベージェフ大統領は20日、政府系天然ガス独占企業「ガスプロム」のミレル社長と会談し、ウクライナからの支払いが滞っているガス代金24億ドル(約2300億円)の回収を指示した。また同社長は、来年からウクライナへのガス供給料金を大幅に引き上げると明言した。 (中略)
ウクライナが希望する北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を話し合うNATOの会議が12月上旬に近づいてきたほか、ユーシェンコ大統領がソ連時代に起きた「ウクライナ大飢饉(ききん)」の責任問題でソ連継承国ロシアへの批判を強めていることなどから、ロシア側が牽制(けんせい)姿勢を強めているようだ。
経済危機の深刻化や原油価格の下落が進んでいることから、ロシアは資金回収を急ぎ、収入増を狙っているとの見方も出ている。 【11月21日 朝日】
*************************

【EU 「警戒しつつも関係を修復せざるを得ない」】
グルジア、ウクライナともに、かつての“民主化”を推進した勢力が分裂して争う形になっていること、また、反ロ・親西欧路線をとる現政権に対し、国内には親ロ勢力も強いことなど、共通した状況にあって、ともに国内政治が不安定化しています。

一方、EUは、8月のグルジア紛争が原因で中断したEU・ロシア間の包括的な新協定の協議を再開する方向で、ロシアとの関係修復に動いています。

****EUとロシア、協議再開で合意 新安保の枠組み作りへ****
欧州連合(EU)議長国フランスのサルコジ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は14日、当地で会談し、8月のグルジア紛争が原因で中断したEU・ロシア間の包括的な新協定の協議を再開することで合意した。
 新協定の柱である安全保障について、サルコジ氏は会見で「欧州にどんなミサイル防衛を持ち込んでも無益だ」と述べ、メドベージェフ氏も賛意を示した。両者は北大西洋条約機構(NATO)や欧州安保協力機構(OSCE)を踏まえた新たな欧州の安全保障の枠組み協議に、来年半ばから入ることで一致した。
新協定では、貿易・投資の拡大や天然ガスなどロシアからのエネルギーの安定的供給なども定める。(後略)【11月14日 朝日】
*******************

域外貿易に占めるロシアの割合は輸出入とも大幅に伸び、石油や天然ガスのロシア依存度も高まっているEUとしては、「警戒しつつも関係を修復せざるを得ない」との判断に傾いたとのことです。
ただ、EU内でも旧ソ連支配にあった国には対ロ警戒感・反発が根強く、また、イギリスも慎重な立場です。

【勢いづくロシア】
ロシアはこうしたEUの軟化、ウクライナ・グルジアのNATO加盟問題先送りで、鼻息が荒くなってきているようです。

****NATO政治家の視界は「犬同然にモノクロ」、ロシア大使が批判****
ロシアのドミトリー・ロゴジン北大西洋条約機構(NATO)大使は11月30日、英国放送協会(BBC)で、NATO加盟国の政治家の多くは世界を「犬のように」白か黒のどちらかでしか見ていないと発言した。
BBCが公開した発言の記録によると、ロゴジン大使は「申し訳ないが、NATO加盟国の政治家たちの世界観は、犬同然だ。犬の目は白と黒しか色彩が捉えられない。ロシアの加盟に道を閉ざし続けるNATOは、われわれにとってはよそ者の政治機構だ。今後もロシアに加盟が呼びかけられることはないだろう」「よそ者の政治機構がロシア国境に近づくことは、非常に危険だ」などと述べた。
また、ウクライナがNATOに加盟すれば、「国内が分裂する深刻な危機を招く」と警告した。【12月1日 AFP】
************************

「よそ者の政治機構がロシア国境に近づくことは、非常に危険だ」・・・まるで、フルシチョフかブレジネフ時代のような言い様です。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする