
(北海道・稚内の天然ガス試掘だそうです。 詳細はわかりません。 稚内郊外には大正時代に石油の試掘をしていたら天然ガスとともに温泉が噴出したという豊富温泉がありますから、ガス・石油の類は埋蔵されているのでしょう。 “flickr”より By shinyai
http://www.flickr.com/photos/shinyai/335202644/)
【「最後の1ルーブルまで」】
ガスに特段の関心がある訳ではありませんが、昨日のウクライナ・ロシアの天然ガス騒動に続き、たまたま今日も天然ガスの話題です。
なお、ウクライナの件について付け加えると、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領はテレビ局の年末インタビューで、金融危機に直面しているウクライナに対し、ガス債務を「最後の1ルーブルまで」全額支払わなければウクライナは制裁措置に直面するだろうと語ったそうです。【12月25日 AFP】
怖い人の借金の取立てみたいで、凄みがあります。
多重債務者のようなウクライナは身包みはがされることになるのでしょうか。
【ガス版OPEC】
さて、本題に戻すと、ロシア主導で天然ガス版「OPEC」のような組織が作られるそうです。
****15カ国でガス版OPEC発足 埋蔵量は世界の7割*****
主な天然ガス生産国が参加する「ガス輸出国フォーラム」が23日、モスクワで開かれ、新機構を創設する規約を採択した。インタファクス通信によると15カ国が加盟し、本部はカタールのドーハに置く。加盟国で世界のガス埋蔵量の7割、産出量の4割を占め、石油輸出国機構(OPEC)のガス版ともいえる。生産量や価格の調整が主眼ではないとしているが、ガスを輸入に頼る西欧などは警戒している。
同通信などによると、フォーラムには天然ガス埋蔵量が世界1、2、3位のロシア、イラン、カタールなどのエネルギー相らが参加。会議後の会見でロシアのシマトコ・エネルギー相は新機構について「生産調整はしない」とし、ガス田開発の投資計画の調整や技術協力を進めるとした。
また、ロシアのプーチン首相も会議の冒頭で「安いガスの時代は終わろうとしている。ガス田開発に必要な費用は増えている」と述べ、常設機構による協力の必要性を強調した。
同フォーラムは01年に情報交換を主眼に結成され、このうち「ガス・ビッグ3」ともいわれるロシア、イラン、カタールが10月21日にガス市場で緊密に協力していくことで合意し、新機構の創設をめざしていた。
「ガス版OPEC」を巡っては、「ガス外交」を展開するロシアや反米のイランが積極的に進める一方、ロシアやアルジェリアに天然ガスの約3分の1を頼る西欧諸国をはじめ、米国などが警戒。加盟国の中にも、新機構が政治的に利用されることへの懸念が出ている。【12月24日 朝日】
*****************************
「天然ガス版OPEC」の創設は07年にイランが提唱しましたが、天然ガスは世界市場が形成されておらず、価格が2国間の長期契約で決められることが多いことから、OPECのような価格カルテルは実現困難との見方が強くありました。
その後プーチン首相が関心を示し、今年9月にはメドベージェフ大統領が「ガス版OPEC構想は立ち消えになったわけではない」と発言、記事にあるように10月21日に、イランのノーザリ石油相、ロシア政府系天然ガス企業「ガスプロム」のミレル社長、カタールのアティーヤ・エネルギー産業相が会談し、「天然ガス輸出国機構」の創設に向けた取り組みの開始で合意しました。
埋蔵量で言うと、ロシアが全世界の25.2%、イランが15.7%、カタールが14.4%と3カ国で55%を占め、これに続く第4位はアラブ首長国連邦の3.4%ですから、文字通りの「ガス・ビッグ3」です。
しかし、上述のような価格カルテルは困難な事情もあって、生産調整はせず、ガス田開発の投資計画の調整や技術協力を中心とするとされています。
【OPEC加盟国のロシア批判】
今回のプーチン首相が議長を務めた「ガス輸出国フォーラム」では、参加国からロシアに対する厳しい意見が出されたようです。
************
一方フォーラムではロシアに対し、石油輸出国機構(OPEC)の減産に同国が協力していないとの批判が向けられた。(中略)
参加国は、OPECの減産を支持するというメドベージェフ大統領の公約を踏まえ、ロシアは生産を一部犠牲にするべきだったと批判。
リビア代表の閣僚は「ガス市場の状況を是正すると同時に石油市場の状況を是正する必要があった」と述べ、「(石油)市場を支援するためだけでなく、天然ガス市場も支援するために、ロシア連邦による(石油)生産削減の決定を待っている」と述べた。
OPECのヘリル議長はロイターに対して、ロシアは痛みを分かち合うことなくOPECの減産の利益を享受している、と述べた。(後略)【12月24日 ロイター】
******************
ロシアはサウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国ですが、OPECには加入していません。
最近急速に進む原油価格下落に歯止めをかけるべく、OPECは17日、アルジェリアのオランで臨時総会を開き、過去最大幅の日量220万バレル減産することで合意しました。生産調整は来年1月1日から開始します。
この会議にはロシアもオブザーバー参加しましたが、会議に先立ってメドベージェフ大統領は11日、OPECとの協調減産に応じる用意とともに、OPEC加盟の可能性も排除しない考えを表明しています。
ロシアはこれまでOPECとの協調減産には慎重でしたが、世界的な金融危機の影響で原油価格が低迷、来年にも同国が財政赤字に転落する恐れが出てきたことから、方針を転換したとみられています。【12月12日 時事】
「ガス輸出国フォーラム」参加の産油国からの厳しい意見は、本当にロシアは原油生産調整に協力するのかという疑念の表れです。
シベリアなどのパイプラインは厳冬期に一旦閉めると再開に時間を要するという技術的問題もあるようですが、国際社会におけるロシアの信用の問題でもあります。
OPEC会議後に減産協力の約束を翻すような何かがあったのでしょうか。
【大幅減産決定、価格は40ドル割れ】
一方、原油のほうはOPECの臨時総会で日量220万バレルの大幅減産を決め、9月と10月に実施した計日量200万バレルの減産をあわせると、累計の減産量は420万バレルとなっています。
また、17日の閣僚会議前には、非OPEC加盟国のロシアとアゼルバイジャンが日量30万バレル規模の協調減産に応じる用意があると発表しています。
しかしOPECが大幅減産の決定した17日のNY原油先物相場は続落、一時2004年7月以来の1バレル=40ドルを割り込みました。
その後も下げ基調が続き、24日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は9営業日続落。
指標である米国産標準油種(WTI)の2月渡しは35.35ドルに下落しました。
7月につけた最高値(147.27ドル)からの下落幅は約76%と4分の1までに下落しています。
【薄れるOPECの価格支配力】
OPECは1973年の第四次中東戦争の折、イスラエルを支持する先進諸国を標的に、石油輸出国機構は原油価格を約4倍にする値上げを断行してオイルショックを起こしました。
そのときの強烈なイメージがありますが、その後は先進諸国の石油備蓄の拡大、代替エネルギーへの促進、北海油田やアラスカ・メキシコなどの非石油輸出国機構の産油量の増大などの外的要因や、生産調整、原油価格設定をめぐる足並みが乱れるなど内部対立も表面化してきており【ウィキペディア】、その価格支配力は急速に薄れているとも言われてきました。
実際、原油価格の動向はOPECの意思決定に反して動くことが多く、オイルショックのような価格決定を動かしたように見える場面でも、その後の他の生産品の価格動向を勘案して長期的に見ると、必ずしも実質的価格を決定したとは言いにくいこともあるようです。
特に、今年の原油価格高騰は投機マネーに翻弄されているようでした。
また、最近の続落傾向において大幅な減産で合意しても、加盟国が順守するかどうかはっきりしません。
独立系の調査会社によると、これまでに合意した減産への加盟国の順守状況は11月は50%をわずかに上回る水準にとどまっているそうです。【12月17日 ロイター】
これは価格支配力を持った寡占者のイメージよりは、需要減退による価格下落に追随して行動を決めるしかない完全競争下の生産者のイメージがあります。