孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  金融危機・資源価格低迷で落ち込む経済 北方領土問題に変化は?

2008-12-11 19:22:58 | 国際情勢

(ロシア経済成長の象徴 建設が進むモスクワの超高層ビジネスセンター街「モスクワ・シチー」 ここにも金融危機の大波が・・・ “flickr” By Sasha Nilov
http://www.flickr.com/photos/nilov/2640430116/)

【「ロシアタワー」建設中止】
ロシアの話題というと、“プーチン首相がいつ、どのような形で大統領に復帰するのか”ということ。
それ以外では、アメリカの裏庭・中南米での外交攻勢、64年ぶりのロシア軍艦のパナマ運河通過、あるいはアメリカのミサイル防衛(MD)宇宙配備に備えた新型ミサイル開発、MD配置に対抗してポーランドに隣接する飛び地にミサイルを配備する計画等々、相変わらず“強気”の姿勢が目立ちます。

ただ、経済的に見ると、グルジア紛争以降の資本流出に世界的金融危機の影響がかぶさり、この8年間、記録的原油高を追い風に平均7%の高度成長を続けてきたさしものロシア経済も転換点を迎えています。
金融危機発生当時の10月6日には1日で19%の下げ、5月水準に比べると4分の1に暴落という状態でした。
銀行預金の凍結や通貨ルーブル急落も危惧されていました。

モスクワの超高層ビジネスセンター街「モスクワ・シチー」で、最も高いビル「ロシアタワー」(118階建て、612メートル)の建設も凍結されることになりました。
投資者が15億ドルの拠出を拒否したとかで、「石油景気に沸くロシアを象徴するプロジェクトであったが、金融危機の荒波をもろに受ける形となった」と報じられていました。【11月22日 朝日】
その後も、頼みの資源価格が下げ止まらず、ロシア経済に大きな影響を与えています。

【需要減少・価格低迷でつまづく資源外交】
NYの原油先物相場は、今日は1バレル=44ドル前後。
上げのピッチも早かったのですが、下げはそれ以上、7月につけた史上最高値の1バレル=147.27ドルから7割ほど値下がりしています。
ロシアの原油採掘の採算ベースが70ドルあたりという数字を以前何かで見た記憶があります。
そうすると、昨今の40ドル台はかなりきつい数字です。
世界的景気後退で石油の需要が世界的に減少し、在庫も積み増している状態です。
原油市場からは「経済環境は最悪で、しばらくは弱気相場が続くだろう」(米投資顧問会社)との声が聞かれています。

天然ガスは石油のようなオープンな市場がないのでよくわかりませんが、おそらく事情は似たようなものではないでしょうか。
原油・天然ガスの市場動向はロシア経済だけでなく、ロシア資源に依存するEU諸国との関係にも影響します。

****露パイプライン不要論*****
欧州連合(EU・27カ国)は先月13日、欧州の天然ガス需要予測を修正し、2020年のガス需要予測を昨年3月発表より約20%、減じた。そこで焦点になるのは、EUのガス輸入量の約4割を担うロシア。エネルギー問題専門家の一部には、次のような見方が浮上している。

「今回の修正予測を勘案すると、ロシアの対欧州輸出量は2020年で1400億~1600億立方メートルにとどまり、現在の輸出量と変わらない。そうであるならば、膨大な建設費用がかかるロシア・ドイツ間の『ノルド・ストリーム』とロシアからバルカン地域・欧州を結ぶ『サウス・ストリーム』の2本のガスパイプライン建設はいらなくなる」
プーチン露首相は最近、「ノルド・ストリーム」建設撤回も辞さないと強硬発言をぶちまけた。その背景には、EUのガス需要予測が大幅に外れて、ガスパイプライン不要論が生まれている現実へのいら立ちが作用している。「強気」は空威張りでしかない。(中略)
クレムリンがオバマ新政権下の米国との関係改善に期待する真意は、ロシア経済の屋台骨である石油・ガス輸出の顧客を、欧州以外にも拡大しておきたいからだ。期待というより、むしろ「あせり」と言ってもいい。これまでのロシアの資源外交の攻勢は、明らかに色あせ始めた。原油価格低迷が続けば、ロシアは予想外の大不況に陥る恐れがある。【12月9日 毎日 欧州総局長・町田幸彦】
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つい先日まで「サウス・ストリーム」だ「ナブッコ」だと、パイプライン建設をめぐって各国がしのぎを削っていましたが、様変わりです。

プーチン首相は今月4日、国民からの質問に答えるテレビ番組(“国父・強いプーチン”を国民にアピールする政治ショーとも言われていますが)に出演し「米国との関係改善を望んでおり、前向きなシグナルを受け取っている」と語っています。
プーチン首相は8月のグルジア紛争以来、対米強硬発言を続けていましたが、来年1月に誕生するオバマ次期政権に期待感を示した発言と評されています。
上記【毎日】にあるような“石油・ガス輸出の顧客を、欧州以外にも拡大しておきたい”との意向の表れなのでしょうか?

【麻生総理 起死回生の・・・】
そうなると、現実的な話としては一足飛びにアメリカというよりは、日本あたりがターゲットになるのではないでしょうか?

一方、支持率暴落で断末魔の麻生政権ですが、ロシアとの北方領土交渉に意欲を見せています。

****麻生首相:露大統領府長官と会談 領土問題解決に意欲****
麻生太郎首相は9日、訪日したロシアのナルイシキン大統領府長官と首相官邸で会談し、領土問題の解決と平和条約締結問題について「来年のプーチン首相の訪日の際、また次回以降のメドベージェフ大統領との首脳会談で具体化していきたい」と述べ、早期打開に強い意欲を示した。長官は「双方が受け入れ可能な解決策を探ることが重要だ」と述べ、歩み寄りが必要との考えを示した。
長官はプーチン首相の側近の一人とされ、今回の会談は「来年初め」で調整しているプーチン首相来日の地ならしの意味がある。これを踏まえ、麻生首相は「今後は日露関係全体を統括してほしい」と求め、長官もこれを了承した。【12月9日 毎日】
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麻生首相は先月22日、リマ市内でロシアのメドベージェフ大統領と初めて会談していますが、北方領土問題について大統領は「この問題の解決を次世代に委ねることは考えていない」と述べ、解決への強い意欲を表明したと報じられています。

“麻生首相は会談の冒頭で「我々隣国の関係が、国境線の問題も含めてきちっと確定していないところが不安定な要素になっている」と、領土問題を取り上げた。日本側の説明では、麻生首相は「大統領の決意が必ずしも事務レベルの交渉に反映されていない」とロシア側の姿勢への不満を伝えた。
これに対しメドベージェフ氏は「どこの国でも官僚の抵抗は存在するが、首脳の善意と意思があれば解決できる」と政治決断の重要性を強調した。一方で「並々ならぬ考えが必要だが、そのような考えは既存の文書から引き出されなければならない」と、過去の交渉の積み重ねを尊重する姿勢も示した。” 【11月23日 朝日】

読売はこの会談について“北方領土問題の解決が必要との立場を確認したが、ロシアは経済関係を軸とする対日関係の急拡大を歓迎しているものの、当面、領土問題で日本に歩み寄る気配はない。”【11月25日 読売】と否定的に報じています。

これまでの経緯を思えば、ロシアが急に譲歩するとも思われませんが、先述のようなロシア経済情勢を背景に、麻生首相がロシア側に秋波を送るのは何かあってのことでしょうか。
北朝鮮関係は行き詰っていますので、麻生首相が起死回生のカードを切れるとしたら、この北方領土問題ぐらいしか残っていません。どうでしょうか・・・。
コメント
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