孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウガンダ  大統領が「アフリカ人はもっと働け」 エイズ感染率再上昇にみる問題

2008-12-16 18:54:04 | 世相

(昼寝を楽しむウガンダのゴリラ あくせく働くことがいいのか・・・いろいろあるところです。
昼寝をしているだけで暮らせるのであれば、それはいいかもしれませんが。
もっとも、昼寝ばかりしていると、たまには忙しく働く刺激が恋しくなるかも。 忙しく働くことが、いやなことを考えたり、解決できないことに頭を悩まさずにすむ、人生最良の途・・・・かも。
“flickr”より By withrow
http://www.flickr.com/photos/86953562@N00/822630564/)

【「アフリカ人はもっと働け」】
“貧困”“内戦”“疫病”などのネガティブなイメージが付きまとうことが多いアフリカ。
そうした事象の原因・背景には、植民地としての負の遺産や現在の厳しい政治・社会的環境などがあるのかもしれません。
どのような要因を重視するかは、人によって異なるところかも。
ただ、外的な理由を声高に叫ぶだけで、地道な自助努力を怠るとしたら、それでは事態は解決しません。
(努力不足のせいだけにして、外的な要因を無視するつもりもありませんが)
東アフリカのウガンダで、ムセベニ大統領が「もっと働け」と自国民を叱咤したそうです。

****「先進国支配逃れるにはアフリカ人はもっと働け」、ウガンダ大統領*****
アフリカ東部の国、ウガンダのヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領が声明で「貧困のまん延するアフリカ大陸を、先進国にこれ以上支配させないよう、アフリカ人はもっと働かなければならない」との考えを述べた。
大統領府が13日に発表した声明で同大統領は「われわれアフリカ人は、われわれを地球上からほんの一瞬で消し去ることのできる強力な武器を持った先進国たちのなすがままだ。
しかし、こうした技術的ギャップを埋めるためにもっと働くどころか、何もせずに座っているだけだ」と同胞のアフリカ人について批判した。

毎年恒例の議会の休日パーティーでも、ムセベニ大統領はアフリカ人は休日を取りすぎると批判し、富裕国の労働者が休日を取るのはいいかもしれないが、発展途上にあり貧困の克服が最優先のアフリカ諸国にとってはご法度だとも力説した。
ムセベニ大統領は「不必要な休暇を取り、貴重な時間を無駄にしている」と、自国ウガンダの国民を特に非難した。
1986年からウガンダを統治しているムセベニ大統領はこの演説の後、今年最もよく働いた議会スタッフに賞を与えた。【12月14日 AFP】
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ときに“働き蜂”とも揶揄されることがあった日本人からすると、途上国の人々の仕事ぶり・生活スタイルは、ややもすると非効率・ルーズで怠惰なものにも見えることがあります。
もちろん、日本的価値観が“正しい”とか言うつもりもありませんが、また、ムゼベニ大統領自身の普段の仕事ぶりも知りませんが、途上国の人々が「もっと働こう!」と奮起してくれることは良いことかと思います。

【LARとの交渉決裂】
日本とは馴染みが薄いウガンダが国際的に話題になるのは、神の抵抗軍(LRA)の問題とエイズ対策でしょうか。
(昔はアミン大統領の奇行が話題になったりもしましたが。)
ジョセフ・コニー率いる反政府勢力LRAについては、少年兵などの児童虐待が非難されており、当ブログでも
3月30日「ウガンダ “子供による、子供に対する戦争” “夜の通勤者”」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080330
7月13日「国際刑事裁判所の逮捕状 スーダン、ウガンダそしてアメリカ」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080713
などで取り上げたところです。

国連主導で和平交渉が進められて和解まで今一歩のところまで漕ぎ着けましたが、指導者コニーへの国際刑事裁判所ICCの告訴を取り下げるか否かで交渉がストップ、今年6月には交渉決裂、武力での決着方針が伝えられています。
スーダン大統領もダルフールでの「人道に対する罪」などによってICCから訴追されていますが、こうした法的措置は“白か黒か”を決め付けるものですから、弾力的な和解交渉にとっては足枷となる側面があります。
和解しても逮捕されるというのでは、誰も交渉のテーブルにつきません。

【感染率再上昇 「コンドームより禁欲教育」】
もうひとつの話、エイズ対策。
ウガンダは90年代、サハラ砂漠以南のアフリカでエイズ対策に最も成功した国でした。
92年に人口の18・5%だった感染者は02年に6%に減少。
鍵はHIV対策の基本である「禁欲、貞節、コンドーム利用」でした。
しかし、今、長く減少傾向にあったHIV感染率は増加へと転じ始めています。【11月30日 毎日】

*****エイズと向き合う:ウガンダ報告 「禁欲」裏目、増える感染*****
ウガンダはブッシュ米大統領主導の「エイズ救済緊急計画」による支援を受け始めている。05年は年約1億4800万ドル(約160億円)にのぼった。予防活動向け資金の3割以上を禁欲教育に割くなど制約が課せられ、コンドーム利用は推進されていない。背景には、米宗教団体がブッシュ政権の支持母体になっている事情がある。
国際家族計画連盟に加盟し、HIV対策に取り組むウガンダ家族計画協会のエリー・ムグムヤ代表(49)は「支援を得るには売春婦を対象にしない誓約が必要だ。感染者の65%以上が性欲の強い若者なのに、コンドームに積極的でないのは非現実的だ」と批判する。
ウガンダ国家エイズ対策委員会の担当者は重い口を開いた。「計画からの援助はHIV関連予算の約85%を占める。国家財政を考えれば制約にノーとは言えない」【11月30日 毎日】
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【進まないARV薬治療 「延命策に過ぎな」】
HIV感染者も現在では抗レトロウイルス(ARV)薬を服用することで、エイズ発症を遅らせ、コントロールも可能な病気になっています。
こうした先進国では標準的な治療も、ウガンダなどでは現実問題としてうまく機能していません。
ARV薬治療は停滞しており、国連機関などの報告では、サハラ砂漠以南のアフリカで感染者の約3分の1がARV薬治療を2年以内で中断したそうです。
ウガンダでは投薬が必要で受けていない人が最大20万人にのぼっています。【11月30日 毎日】

*****エイズと向き合う:ウガンダ報告 停滞する投薬治療*****
背景には、ARV薬治療の経済的負担や複雑さがある。治療では3種の錠剤の同時服用を一生継続する必要があり、不規則な服用は薬の効果を弱める。薬は強く栄養不足での服用は逆に副作用をもたらす。食糧難とエイズ禍が重なる地域での定着も難しい。そして価格は依然、高い。

今年10月、カンパラ郊外でムセベニ大統領らが出席し、アフリカ初のARV薬製造工場の完成記念式典が行われた。大統領は「ARV薬をこの工場から購入し病院に供給する」と宣言した。アフリカ諸国ではARV薬が効果を上げることがわかっていながら供給態勢の確立が遅れ「感染者が見殺しにされた」との批判が根強い。
先進諸国が「延命策に過ぎな」いと援助を渋る事情もある。
困難を克服する手段が、自国でのARV薬生産だ。ウガンダでは来年初めにも月約15ドルと比較的安価にARV薬を販売、周辺国への輸出も期待される。国際家族計画連盟のジル・グリア事務局長は「アフリカ人のためにアフリカ製の薬が供給される。新たな突破口だ」と話す。【カンパラで高尾具成】
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【製薬特許権とコピー薬】
薬剤の価格については、開発した製薬会社と安価なコピー薬をつくりたい途上国の間で、特許権侵害をめぐる争いが時々起こります。
“命より利益が大切なのか!”と言ってしまえばそれまでですが、製薬会社としても投下した膨大なコストの回収が保障されないのであれば今後新たな薬剤の開発に乗り出す会社はなく、特許権を無視した安価なコピー薬生産で“現在の命”を救うことが“(研究開発が順調に進められたならば)本来なら救われたであろう将来の大勢の命”を犠牲にすることになる・・・そういう問題でもありえます。
何とか、両方の立場を両立させるバランス感覚が要求されます。

【命の重さ】
それはともかく、上記記事の“先進諸国が「延命策に過ぎない」と援助を渋る事情もある。”というのが引っかかります。
日本をでは膨大な費用をかけて“延命治療”が行われています。
ときには、意識もないまま、機械的に“生かされている”ケースもあるかと思います。
家族の立場からは“1分1秒でも長く・・・”という思いはあると思いますが、私自身としては不自然な延命は少なくとも今は希望していないこともあって、延命治療のあり方については釈然としないものも感じます。

いずれにせよ、自国内ではそうした寝たきり状態での延命治療を認めておきながら、アフリカでの若い命を生き長らえさせるARV薬製造について「延命策に過ぎない」と切り捨てる・・・随分と命には軽重があるものだと感じてしまいます。
先の事例の“コンドームより禁欲教育”というのも資金提供側の価値観の押し付けであり、どちらのケースでも“本当に現地の人の命の重さが考えられているのだろうか?”という思いがします。

コメント
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