孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  進む経済情勢悪化 懸念される社会不安増大

2008-12-07 11:42:02 | 国際情勢

(中国・南京での就職フェア 就活が厳しいのは日本も中国も同じですが、中国は膨大な新卒者、農村の潜在的労働力を抱え、一定のスピードで成長しないと求職者を吸収しきれません。写真は2年前の様子ですが、最近は成長鈍化を受けて格段に厳しさ増しています。 “flickr”より By evadedave
http://www.flickr.com/photos/evadedave/308752203/)

【ドバイ、そして中国】
金融危機、世界不況の波は中東をも巻き込み、11月30日にはアラブ首長国連邦・ドバイの政府系不動産開発大手、ナキールが金融危機を理由に従業員の15%に当たる500人を解雇したことを発表しました。
ナキールは、ドバイ沖の巨大な椰子の木型の人工島「パーム・ジュメイラ」プロジェクトを手がけたUAE最大手の開発業者で、10月には高さ1000メートルの高層ビルの建設計画を発表したばかりでした。【12月1日 AFP】
また、先月20には「パーム・ジュメイラ」プロジェクトの一環である超大型複合リゾート施設「アトランティス・ザ・パーム」の正式オープンを、北京五輪をしのぐ打ち上げ花火で祝ったばかりですが、ホテルのスイートルーム1泊が2万5000ドル(約240万円)だとか・・・。
ドバイは外国人が人口の約7割に達するところですので、この不況で一番のしわ寄せを受けるのは外国人労働者でしょう。

一方、中国からはこんな威勢のいい話も。

***高さ632メートル・中国一高い「上海タワー」、29日に建設開始****
中国・上海の浦東地区で11月29日から、高さ632メートルの高層ビル「上海タワー」の建設が始まる。完成すれば中国一の高層ビルとなるこのビルについて、27日行われた記者発表の席で、地元当局者は「金融危機時代の希望の象徴」と呼んだ。(中略)関係者は、「金融危機で傷ついた中国人民の自信回復の一助となる」と期待を寄せる。【11月28日 AFP】
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オリンピック後の北京では、不動産市況が高騰した時期に着工したビルが次々に完成したもののオフィス需要が冷え込み、空室が増え始めていると伝えられていますが、上海はまだ元気なのでしょうか?
多分、そんなことはないでしょう。

【危機感を強める中国経済】
世界経済の先頭を疾走してきた中国経済も急速に悪化しています。

****2009年中国経済が減速、成長率7.5%に 世銀予測****
世界銀行は25日、2009年の中国経済の成長率が7.5%と、19年ぶりの低水準になるとの見通しを発表した。
今年6月の報告では9.8%としていたが、しぼむことがないかに見えた輸出が世界的な金融危機の影響で伸び悩むと予測し、下方修正した。07年の成長率は11.9%で、2ケタ台の減速を中国経済が見せたのは2002年以来。
中国経済が前回、同様の減速を経験したのは天安門事件によって国際社会から孤立した1990年代で、当時の成長率はわずか3.8%だった。世銀のLouis Kuijsシニア・エコノミストは、中国国内での最大の減速要因は住宅部門だと述べた。【11月25日 AFP】
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****中国経済、悪化ピッチが加速=国家発展改革委****
中国国家発展改革委員会(NDRC)の張平主任は27日、中国経済は11月になって悪化のピッチが加速している、との認識を示した。記者会見で語った。
張主任は「世界の金融危機はまだ底を打っていない。その影響は世界的に広がっており、中国では深刻化している。一部の国内指標は、11月になって鈍化ペースが加速していることを示している」と述べた。(後略)【11月27日 トムソンロイター】
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****「中国経済、競争力が低下」胡総書記が危機感****
30日付の中国各紙によると、中国共産党の胡錦濤総書記は29日、北京で開かれた党政治局の学習会で演説、「(国際市場での)競争における我が国の伝統的な優位が次第に弱まってきている」と述べ、中国経済の競争力が低下しつつあるとの極めて厳しい認識を示した。
現在、金融危機による「外需の明らかな減少」(胡氏)のほか、人民元レートや労働コストの上昇、食の安全などを巡る問題の続発などによって、中国経済の発展を支えてきた輸出の伸びが急速に鈍化している。成長率も鈍り、社会的な不安定要因が増している。
胡氏は、国際競争力を「全面的に高める」よう指示しながら、成長維持の必要性を強調。「(競争力低下などの)圧力を動力に変え、安定してかなり速い発展を保てるかどうかは、我が党の執政能力を問うものとなる」と訴えた。【11月30日 読売】
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【雇用状況悪化】
このような経済不況を反映した社会不安も増大しています。

11月25日、広東省東莞のおもちゃ工場が216人の雇用契約を終了しようとしたころ、出稼ぎ労働者が解雇補償金の金額が少なすぎるとしてデモを起こし、警官隊と衝突。
国営新華社通信によると、労働者が警察車両と小型パトカーの計5台をひっくり返し、事務所を襲い、パソコンなどの機器を破壊。デモは最大約2千人に達し、警察との衝突で6人がけがをしたそうです。【11月26日 朝日】

雇用情勢も深刻化しています。

****潮流:「大卒余り」就職氷河期=中国総局長・堀信一郎****
 米国発の金融危機の影響が、中国の大学生にも忍び寄っている。中国はすでに高学歴化が進み、「大学生余り」現象が起きており、学生が「卒業と同時に失業者」と自嘲(じちょう)するほどの就職難だ。そこに今回の金融危機で、企業は新卒採用をさらに控え始めた。就職氷河期をやり過ごすため、大学院に進学する大学生もいる。大学生受難の時代は、当分続きそうだ。(後略)【11月25日 毎日】
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****就職フェア会場に入れないほどの人殺到、中国****
中国経済が11月も一層減速するなか、河南省鄭州では就職フェアに求職者が殺到し、入れない人たちが押し合う騒ぎとなった。中国では毎年2400万人が職を求め、現在のところその半数の需要しか満たせていない。【12月6日 AFP】
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【当局の強権的対応】
中国当局の社会問題に対する対応については、オリンピック期間中は国際世論も考慮して強権的手法は控えていましたが、オリンピック後はその復活も伝えられています。

****中国当局、人権活動家の自宅をブルドーザーで破壊****
中国当局に身柄を拘束されている人権活動家、倪玉蘭氏の北京の自宅が21日、当局に取り壊された。
当局は市内中心部にある倪氏の自宅を200人あまりの警察官で包囲し、自宅前の道路を封鎖して、身分証の提示のない者の通行を禁止。倪氏の夫の薫継勤氏(56)の目の前で、ブルドーザーで住居を完全に破壊した。(中略)
生家を破壊された衝撃に身を震わせながら、薫氏は「家よりももっと重要なことは、妻の釈放だ」とAFP記者の取材に涙ながらに訴えた。薫氏によると、倪氏は不法に逮捕されたうえ、殴るなどの暴行を受けて強制的に自宅取り壊しに同意させられたという。【11月24日 AFP】
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拘束されている妻の倪玉蘭さんは、各地でおきる開発に伴う立ち退き問題で抗議活動を展開してきた人物です。

****100人以上の陳情者拘束 北京、土地強制収用抗議で****
北京市中心部にある中国国営の中央テレビ前で4日、各地で相次ぐ不当な土地強制収用や公安当局者らによる市民への暴行などに抗議するため、地方から集まった100人以上の陳情者が拘束され、バスに強制的に乗せられて連行された。4日は、中国で法治徹底を図るため制定された「法制宣伝日」だが、逆に北京五輪後もデモ行為に対する厳しい規制が続く現状が浮き彫りになった。【12月4日 共同】
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“広東省深セン市で民主活動家グループが「国家改革建議書」と題する民主化要求の文書を街頭で市民に配った活動に対し、当局は配布を妨害せず、事実上黙認した”とか“「ウィキペディア」の「六四天安門事件」のページが12月1日までに、北京で閲覧可能となった。”といった“軟化”を示すような対応も一部にあるようですが、強権手法の基本線はまだ変わってはいないのでしょう。
経済の失速がさらに強まると、社会不安の増大、それを強権的に抑えようとする当局、それに対する国民の反発・・・と、社会が不安定化することも考えられます。

【自由貿易堅持】
****米中、保護貿易主義と戦う決意を表明=戦略経済対話が閉幕****
北京の釣魚台迎賓館で開かれていた米中戦略経済対話は5日、2日目の協議を終え、閉幕した。両国は、世界的な金融危機の中で保護貿易主義と戦う決意を表明した。(中略)
2日間の協議では、低迷する世界の経済成長を押し上げるため貿易を自由化することが主要議題の一つになった。中国側議長の王岐山副首相は記者団に対し、「金融危機によってもたらされ難局に直面し、あらゆる形の保護貿易主義に全面的に反対しなければならないと双方とも確信している」と語った。
王副首相はさらに、「繁栄ならびに世界経済の成長と貿易を促進するため、われわれは世界の他の諸国と積極的に協力して世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の早期再開を推進する用意がある」と述べた。
ポールソン財務長官は会見で、世界的な景気減速の中で通商を拡大するため、米国と中国は貿易金融で200億ドル(約1兆8400億円)を活用できるようにすると語った。〔AFP=時事〕 【12月5日 時事】
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いまや世界経済の枠組みの中にある中国経済ですから、成長鈍化、それに伴う社会不安増大を避けるためには、なんとしても自由貿易体制を堅持することが必要との中国当局の認識でしょう。
WTOなどの国際交渉の場でそのように中国が認識してくれることは、世界経済のためには望ましいことではあるでしょう。

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