(バイクにまたがる美女はティモシェンコ現ウクライナ首相 以前の選挙前キャンペーンポスターだそうです。 “オレンジ革命のジャンヌダルク”とも、“ガスの王女”とも呼ばれたこともあります。“flickr”より By the waving cat
http://www.flickr.com/photos/thewavingcat/122497369/)
【20億ドル未払い】
毎度お騒がせのロシア対ウクライナの天然ガス問題。
また、「代金払わないなら止めるぞ!」と揉めているようです。
*****債務支払わなければガス供給を停止=ロシアがウクライナに警告*****
ロシアのガス最大手ガスプロムは18日、ウクライナが債務を支払わなければ、来年1月から同国にガスを供給する義務はないと警告した。同社の警告は、ウクライナ経由でガス供給を受ける欧州諸国にも削減が広がるのではないかとの不安を引き起こしている。
ガスプロム広報担当のセルゲイ・クプリヤノフ氏は「もし来年1月1日までに債務が返済されず、他に解決策が見つからなければ、新契約を結ぶことはできないし、ウクライナの消費者にガスを供給するという法的な根拠もなくなる」と語った。同氏はガスプロムがウクライナへのガス供給を停止すると明言はしなかったものの、同氏の発言は、債務を支払わなかった場合の結果に対するはっきりした警告と言っていい。
インタファクス通信によると、ウクライナのユーシェンコ大統領はキエフで、17日にガスプロムに8億ドルの債務を支払ったと述べるとともに、近い将来、さらに2億ドルを支払うと約束した。
クプリヤノフ氏はウクライナがガスプロムに8億ドルを支払ったことを確認したが、ウクライナの債務はまだ20億ドル残っているとしている。【12月19日 時事】
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ウクライナ向けの天然ガス価格は、従来からの経緯があって欧州向けの正規料金より格安に設定されていましたが、その後のウクライナのロシア離れ・欧米接近を受けて、ロシア側は価格改定を求め、また、その圧力でウクライナを牽制してきました。
ウクライナのティモシェンコ首相とロシアのプーチン首相は今年10月、ガス供給価格を09年から3年間で段階的に値上げし、最終的に欧州向けの価格水準まで引き上げることで基本合意し、詳細はガスプロムとウクライナ国営石油ガス会社との交渉で確定することになっていいました。
【連立解消、再連立・・・混迷するウクライナ政局】
ただ、ウクライナでは、オレンジ革命をともに戦い(紆余曲折はあったものの)連立を組んでいたユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の対立が夏頃から再燃して、ついに連立解消にまで至り、ティモシェンコ首相は従来の親欧米路線から転換して親ロシア勢力に接近するなど、政局は著しく混迷しています。
両者の対立の背景には、来年末に予定されている大統領選挙に、ユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相がともに出馬の予定であることからの確執があると言われています。
その後、ティモシェンコ首相はまた方針を変えたようで、12月16日、大統領派「我がウクライナ・国民自衛」と首相派「チモシェンコ連合」、更に中立派「リトビン連合」が親欧米連立与党復活で合意したそうです。
しかし、「我がウクライナ」の反首相派はユーシェンコ大統領とともに連立復活に反対しており、不安定な政局が続いています。
また議会解散・繰上げ総選挙についても、実施を求める大統領と反対する首相の対立が続いています。
こうした政局が混迷はガス価格問題にも影響し、ユーシェンコ大統領は11月21日、ロシアへの未払い問題はティモシェンコ首相の責任だと非難。これに対し、首相は同日、訪問先のストックホルムで「(ロシアとのガス供給にかかる)契約には間もなく署名できる」と反論・・・という具合で、問題解決が遅れています。【11月23日 毎日】
金融危機を受けて、10月末に165億ドル(約1兆5400億円)の融資を受けることでIMFと暫定合意したウクライナ経済には、20億ドルの支払いは負担が重いようにも思えます。
【迷惑する川下の欧州各国】
06年1月の同様の問題のとき、ロシアがウクライナ向けのガス供給を一時停止しましたが、欧州各国へのガス供給も減少して混乱は欧州全体に広がりました。
ロシアからのガスに依存することの危険性が欧州で改めて意識されましたが、ロシアはウクライナが欧州向けのガスから抜き取ったために起きたことだとウクライナを非難しています。
いずれにせよ、ロシアから欧州各国へのガス供給の80%がウクライナを経由しており、一番迷惑するのは欧州各国です。
大統領就任以前はガスプロム会長でもあったメドベージェフ大統領は先月20日、ガスプロムに「強制的な手段を行使しても」徴収するよう命じたそうです。【11月23日 毎日】
一方、ロシア・ガスプロムによると、“(ウクライナは10月分までの8億ドルは支払ったが)年内はこれ以上は支払わないと通知してきた”【12月22日 朝日】とも報じられています。
ロシアの資源を政治に利用したやり方がよく云々され、実際そういう側面がありますが、このウクライナのガス問題に関してはウクライナ側も、金は払わない、ガスは抜き取る・・・と、相当にしたたかです。
いつも触れるように、ティモシェンコ首相自身が01年には文書偽造・ロシア産天然ガスの密輸入の容疑で逮捕されたことがあり、また、04年には天然ガス輸入を手掛けていた際にロシア国防省高官に賄賂を贈ったなどとして、ロシア検察当局に指名手配されています。(本人は不当な嫌疑だと主張していますが。)
この指名手配中に1回目の首相に就任しましたが、ロシアは首相在任中は訪ロしても逮捕しないとしていました。首相解任後の05年12月にはロシアが起訴を取り下げています。
親ロシア勢力と組んだり、離れたり・・・したたかという点ではティモシェンコ首相も相当なものです。
【プーチン名指し批判も】
一方のロシア。
12月11日ブログ「ロシア 金融危機・資源価格低迷で落ち込む経済 北方領土問題に変化は?」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081211)
でも取り上げたように、ロシア経済も景気後退・資源価格下落の影響を強く受けていますが、最近ではウラジオストクでの日本車輸入関税引き上げをめぐる住民の反対運動と、その強硬な鎮圧が伝えられています。
****自動車輸入関税引き上げ、賛否で混迷 ロシア国内*****
ロシア政府が来年1月から導入する自動車の輸入関税引き上げをめぐり、ロシア国内は賛否を二分する騒ぎになっている。日本の中古車の輸入に依存する極東では抗議デモが相次ぎ、治安部隊まで投入される一方、ロシア車の生産都市では政府支持の集会が開かれる。金融危機を受けた自国経済の防衛策が、むしろ国内の混迷を深めている。
プーチン首相が今月署名した政令では、たとえば製造5年以内の車の場合、関税が現在の25%から5~10%引き上げられる。ロシア国内の自動車メーカーや、トヨタなど外国メーカーのロシア現地生産にとっては有利になる。
しかし、輸入業者にとっては大きな痛手だ。多くの住民が中古車輸入に携わる極東のウラジオストクでは、関税引き上げの影響で来年2月には約8万人が失業するとの予測も。今月14日には数千人が抗議行動に参加し、一部は空港への道路を封鎖。高い支持率を誇るプーチン首相の辞任まで要求する異例の動きも出た。「北方領土と一緒にウラジオを日本に渡せ」といったスローガンまで掲げられた。
21日には治安部隊が抗議集会を強制排除。NHKのロシア人カメラマンらが市民とともに一時拘束され、けが人が出る事態になった。抗議行動はシベリアやモスクワでも相次いでいる。
一方、ロシア大衆車生産の拠点である沿ボルガ地域のトリヤッチなどでは18日、関税引き上げを歓迎する集会が開かれた。コメルサント紙によると、自動車大手アフトバズでは約500人が集まり、「政府の決定こそ公平だ」と訴えた。
極東などで高まった抗議行動にプーチン首相やメドベージェフ大統領は表だった反応を見せていない。ただ、デモを取り締まる強硬姿勢だけは鮮明にしている。その背景には、関税引き上げが国内的には総じて支持される、との読みがあるようだ。
プーチン首相が動いたのは19日。カマス自動車工場のあるロシア南西部タタールスタン共和国を訪れ、減産を迫られている国内自動車メーカーへの追加支援を表明、極東への国産車の鉄道輸送無料化なども提案した。ロシアで現地生産している外国メーカーについても「国家支援を期待する権利がある」と述べ、関税引き上げの正当性を強調した。【12月22日 朝日】
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ロシアではソ連崩壊後外車が増え続け、国産メーカーの販売シェアは3割以下だそうです。
極東部やシベリア東部では「安価で高性能」と日本製中古車が主流になっています。
2000年のプーチン政権発足以後、こうした「草の根」の抗議集会は、年金生活者らを対象にした社会保障制度の改革に抗議する全国規模の抗議行動が起きた05年以来とか。【12月19日 毎日】
ロシア当局のモスクワから治安部隊を動員した強権的な抗議行動排除については特に驚きませんが、“高い支持率を誇るプーチン首相の辞任まで要求する異例の動きも出た。「北方領土と一緒にウラジオを日本に渡せ」といったスローガンまで掲げられた。”は意外な感があります。
景気悪化のなかで追い詰められつつある人々の焦燥感が背景にあるのでしょう。
磐石のようなプーチン支配に見えますが、今後景気後退がこれ以上に進行していくと、国民からの批判が表に噴出すこともあるのかもしれません。