孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

緊張を増す印パ関係  渡航禁止 軍の移動 激昂する世論

2008-12-28 15:03:45 | 国際情勢

(毎日印パ国境で行われるflag off ceremony  関係が緊張している今も行われているのでしょうか? 止めるといろんな憶測を呼びますから続けているのではないでしょうか。 “flickr”より By radicaleye
http://www.flickr.com/photos/moviemaverick/88581751/)

金融危機・世界同時不況に襲われ混迷の世界への岐路に立たされた今年も残すところ数日となりましたが、国内では雇用不安が深刻化し、国外では印パ関係・パレスチナの状況悪化など、暗い新年を懸念させるような事態が続いています。

【パキスタンへの渡航禁止】
ムンバイの同時テロ事件に端を発する印パ関係悪化は、収まるどころか、ここに来てさらに不安定さを増しています。

インド政府は26日、国民に対し、パキスタンへの渡航を中止するよう呼びかけました。
24日にパキスタン・ラホールの大通りで女性1人が死亡、4人が負傷する爆発事件があり、パキスタンのメディアは匿名の情報として、爆発の発生直後にインド国籍の人物が拘束され、その後、事件に関与したとされるインド人数人が逮捕されたと報じています。
これを受けて、“インド人のパキスタン渡航が危険になった”とのインド政府の判断です。
パキスタン政府はこれまで、この報道について否定も肯定もしていませんが、インド外務省報道官は、インド人の逮捕報道は「法と文民統制を無視する(パキスタンの)機関」によって演出された反インドのプロパガンダであると非難しています。【11月27日 AFP】

【2万人の兵力を移動】
一方、パキスタンはアフガニスタン国境でイスラム過激派対策にあたっていた兵員をインド国境に移動させる動きをみせています。

****国境緊迫、凍える冬 パキスタン、抑えきかぬ軍…対テロ戦影響****
インド・ムンバイでの同時テロ容疑者引き渡しをめぐり、同国とパキスタン間に緊張が高まる中、パキスタンは、インドとの国境沿いに2万人の兵力を移動した。インド軍による急襲を念頭に置いた予防的配備とみられる。
だが、パキスタン内で軍強硬派が主導権を強めれば、事態は一触即発の状態になる恐れもある。米国主導のアフガニスタン国境付近でのテロ掃討作戦が手薄になるとの懸念も、現実味を増している。

インド側は、ムンバイ同時テロをめぐって、パキスタンのイスラム武装組織「ラシュカレトイバ」などの関与を指摘して、容疑者の引き渡しを求めている。だが、パキスタン側は、証拠がインド側から提示されればパキスタンの国内法に従って独自に事件を処理するとの姿勢を崩していない。
両国間には、犯罪人引き渡し条約が締結されておらず、「インド側の不満は高まるばかりで、パキスタン側も圧力回避に躍起となっている」(観測筋)との見方が有力だ。(中略)

今回の兵力移動の背景は、陸軍参謀長を兼任していたムシャラフ前大統領の時代とは異なる。「配置は文民のザルダリ大統領ではなく、陸軍主導で進められた可能性がある」(観測筋)からだ。
2002年には、インド国会議事堂襲撃事件をきっかけに、カシミール地方でインド側75万、パキスタン側25万の兵力が集結。当時は、ムシャラフ氏の指導力と米国の仲介のもと、緊張緩和が図られたが、今回は、ザルダリ大統領が軍を掌握できず、武力衝突するとの懸念もぬぐえない。
パキスタンの外交筋は、「パキスタン軍は、アフガン国境付近から兵士を移動しており、これ以上の移動は、テロとの戦いに支障をきたす可能性がある。移動は緊張緩和に向けて米国の積極的な関与を求めるメッセージの意味合いもある」と指摘している。【12月28日 産経】
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両国のエスカレートする緊張について【毎日】は次のように報じています。
“「これが最後通告だ」。インドのムカジー外相は24日、パキスタン政府が「全過激派の撲滅」に乗り出さなければ、軍事行動を辞さないとの構えを示した。地元メディアは25日、同国西部ラジャスタン州のパキスタン国境に、軍の戦闘部隊2部隊5万人が配備されたと報じた。
これに対しパキスタン軍幹部は、毎日新聞に「アフガニスタン国境で対テロ戦に当たる部隊約12万5000人の半数を、東側(インド国境側)に持っていく計画だ」と発言。AP通信によると27日、同国中部のインダス川西岸付近で、東へ向かって移動する軍部隊の長い車列が目撃された。部隊がどこへ向かうのかは不明だ。”【12月27日 毎日】

【強硬姿勢の国内事情】
上記記事は、インドの強硬姿勢の背景には、来春の総選挙を前にヒンズー民族主義の最大野党インド人民党が「ムンバイの事件は政府の対テロ策の失敗が原因」と非難し支持を急拡大していることがあり、シン首相と与党・国民会議派には、パキスタン関与を強調し非難の矛先をかわす狙いがあるとも報じています。

パキスタン側の事情ももっと深刻です。
ザルダリ政権下で経済や治安が極度に悪化。政権は失望する国民に「有事に強い政府」であることを示して、威信を回復したい意向があると報じられていますが、軍に基盤のないザルダリ大統領が軍をコントロールしているとは思われません。

【いつまで制御できるのか?】
核保有国である印パ両国の緊張が高まるなかで、米国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官は26日、パキスタン治安部隊の一部がインド国境に移動を開始したとの報道を受け、「緊迫しているこの時期、不必要な緊張を高める行為は避けるよう望む」と述べ、印パ両国に自制を求めています。
冒頭産経記事にもあるように、アフガニスタン国境でのイスラム過激派対策が手薄になることも懸念しています。

パキスタン・ザルダリ大統領は27日のTV演説で「インドに対して先に行動することはない」と先制攻撃を否定。
また、インド軍筋は27日地元テレビ局に対し、今回のパキスタン軍の移動は、「パキスタンの国内世論を抑えるのが目的であり、過大な心配はしていない」と述べています。
今のところ、お互いまだ冷静さを保っているような発言をしています。

国内の失政、経済悪化、国民の不満増大等を、国民の目を国外に向けさせることでそらそうとするのは為政者の常ですが、一旦動き出した国民世論は為政者の当初の思惑を超えて更なる行動を求めはじめます。
今日のTV番組では、「パキスタンを叩き潰せ!」と叫びながらデモを行うインドの民衆の様子が放映されていました。
パキスタンでも同様でしょう。軍事的に劣勢な立場にあり、いつもテロを自分達にせいにされているという不信感・苛立ちがあるだけに、インドへの批判はより強硬な形で噴出しやすいかと思われます。

【わずかばかりの想像力を】
それにしても、「パキスタンを叩き潰せ!」とか「インドに屈するな!」といった類の偏狭なナショナリズムは、印パ両国だけでなく、国外・国内どこでも見られるものですが、個人的には、こうした感情にはどうしても馴染めません。
“諸悪の根源”の大きなひとつに思えます。

国家間の利害が反すること、意見をことにすること、あるいは相容れない価値観を持つこと・・・そのようなことはごく普通にあることです。
それは国家間に限らず、社会で暮らす個人の間でも同様です。
しかし、だからと言って一方的に「あいつは許せない、叩き潰せ!」と叫んでしまっては、社会関係は崩壊します。
互いに譲れるところは譲り、我慢できるところは我慢して、何とか折り合いをつけて暮らしているのではないでしょうか。そうした関係を保つなかで、次第にお互いに相手のことも理解できるようになっていくものでは。

ところが、国際的な問題となると、“民族の誇り”とか“愛国”とかいったもののもとで、隣国・相手国を感情のままに罵ることが許される傾向があります。
それが“正論”としてもてはやされることもあります。
しかし互いに罵りあう関係からは何物もうまれません。
激昂する世論と、それに取り入ろうとする為政者がつながるとき、そこに待つのは破局だけです。
必要なのは、相手の立場であれば・・・と考える、わずかばかりの想像力です。

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