孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ASEAN  タイ混乱で首脳会議開催延期  “新生”ASEAN、スタートでつまずく

2008-12-06 15:40:18 | 国際情勢

(タイ首相府を占拠していたPADの炊き出し風景 手前の緑のものは葉っぱでつくったお椀でしょうか?
まあ、これがミャンマーなら銃弾が飛び交い、あたりは血の海になりますので、その意味では、この混乱は“民主主義のもとでの国民の権利行使”であり、軍・警察もそれを尊重したということでしょうか・・・・
“flickr”より By euke_1974
http://www.flickr.com/photos/8560588@N04/2910358724/)

【場所変更、そして延期 噴出す不満】
タイ・ソムチャイ政権は、当初首都バンコクで12月15日から開催が予定されていたASEAN首脳会議及びそれに伴う一連の国際会議について、バンコクにおける反政府団体PADの首相府・空港占拠という混乱を避けて、与党支持者の多い北部チェンマイへ開催地を変更するなどの対応で乗り切ろうとしていましたが、結局、憲法裁判所による解党命令に伴うソムチャイ政権自体の崩壊という状況で、今月の開催そのものが不可能となり、来年3月に延期する方向で調整しています。

この延期は、東南アジアにおける“地域大国”としてのタイの威信・信用を大きく傷つけるところとなっています。
マレーシアのライス外相は「タイがASEAN加盟国に首脳会議の開催を確約できるかどうかを見極めるため待たなければならない」「タイの次期政権あるいは次期当局が首脳会議を開催できるよう願うばかりだ」と述べています。

シンガポールは「世界的な金融危機の影響についての協議を緊急に必要としていることを考えれば、できるだけ速やかに、できれば1月に開催するのが望ましい」「ジャカルタのASEAN事務局で首脳会議を開催するのも可能だろう」と開催国変更を求めています。【12月3日 時事】

また、かつて民主党(現在はタイの最大野党)主導の連立政権下でタイ外相を務めたピッスワンASEAN事務局長は5日、「金融危機を受けて首脳たちが討議すべき問題が山積している」「タイ政府は議長国として確実に開催できるよう、最大限の努力をすべきだ」と述べ、3月以前の早期開催実現への努力をタイ政府に求めています。

プミポン国王の訓話取りやめ、与党内での新首相選びの難航、そして昨夜(5日)には海外に逃亡中だったタクシン元首相の元夫人(偽装離婚とも言われています)が空路帰国したとか、タイ国内情勢は現在進行形でいろいろありますが、今回はパスしてASEANの話です。

【ついに憲章発効・・・】
関係国・関係者が開催延期に苛立つのは、今回のASEAN首脳会議がASEANにとっては、2015年の共同体創設に向けた基本法となるASEAN憲章発効とEU同様の「法人格」を持つ地域機構しての“新生”ASEANを世界に宣言する重要な会議であるという事情があります。
ASEANは昨年1月、“当初目的より5年前倒しし、2015年に「政治・安全保障」「社会・文化」での連携を深める、ASEAN安全保障共同体、ASEAN経済共同体、ASEAN社会・文化共同体の3つからなるASEAN共同体の設立を目指す”【ウィキペディア】ことを採択し、11月には最高規範となるASEAN憲章を制定しました。

この憲章の発効には全加盟国で批准される事が条件とされています。
ミャンマー軍事政権による人権侵害を理由にフィリピン上院が一時、批准に難色を示し、発効が危ぶまれたこともありましたが、今年10月21日、インドネシア国会がASEAN憲章の批准を全会一致で承認し、加盟10カ国すべての批准手続きが完了、12月14日には発効します。
当初予定では15日からの首脳会議で憲章発効を祝う運びとなっていました。

ASEAN憲章の内容等については、
昨年11月21日ブログ「ASEAN “憲章”で合意、そしてミャンマーは?」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071121
今年7月20日ブログ「ASEAN マレーシアの不法移民強制退去問題など」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080720
でも取り上げたところです。

憲章では加盟国が順守すべき基本原則として民主主義や人権の保護、法の支配などを列挙していますが、ASEAN加盟国の中には、軍事政権ミャンマーをはじめ、共産党一党独裁のベトナムなど、民主化の態様にかなりの幅があります。

そのため、憲章案作成段階で検討された“安全保障や外交政策のようなセンシティブな分野以外については、全会一致が得られない場合は投票によって多数決で決定することや、重大な違反や不履行に対しては除名を含む権利・特権の停止などの措置をとるといった罰則規定を設ける”という考え方は結局退けられ、内政不干渉を前提にした全会一致方式は基本的には変っていません。

【人権機構は強制力なし】
今回改革の目玉として、新たに人権機構が設置されることがあります。
ただ、これについても、加盟国の人権問題に対し強制力を持たない諮問機関とする方針であることが報じられています。

****ASEAN 「人権機構」強制力なし 枠組み草案 監視の実効性不透明 ****
東南アジア諸国連合(ASEAN)が来年末の新設を目指す「ASEAN人権機構」について、加盟国の人権問題に対し強制力を持たない諮問機関とする方針であることが21日、ASEANの内部文書で明らかになった。
共同通信が入手した人権機構の枠組みに関する草案は、内政不干渉の原則をあらためて強調、人権侵害への具体的な対応策にも踏み込まない内容となっている。

軍事政権による人権弾圧が続くミャンマーや、1党独裁のベトナムなどを抱えるASEANの現状を反映。12月にタイで開く首脳会議に合わせて「民主・人権」を掲げる最高規範「ASEAN憲章」も発効するが、機構新設が域内の人権状況改善に直ちに結び付く可能性は低そうだ。
人権機構の枠組み草案は加盟国代表でつくる準備委員会が作成。人権尊重を機構の目的とするが「国や地域の特性に留意する」と明記。人権保護の責務は一義的には加盟国にあるとしている。
人権機構の役割も啓発や提言、関係機関との協力に重点を置く。人権状況の訪問調査をするとしたが、加盟国の同意が前提で、実効的な監視ができるかどうかは不透明。
別の内部資料によると、「人権問題について加盟国に勧告できるが、法的拘束力は持たない」との位置付けでほぼ合意。草案は12月の首脳会議に先立つ外相会議に提出されるが、市民団体などから見直しを求める声も出そうだ。
【11月22日 西日本】
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加盟国ミャンマーは最近、野党NLDの関係者、昨年9月の反政府デモを主導した元学生運動家や僧侶、今年5月のサイクロンの被災者に無許可で救援活動をしたとされる人たちを中心とした160人ほどに、家族の傍聴や弁護人の立ち会いも許されない「秘密法廷」で、禁固65年など殆ど終身刑と変わらない長期刑を含む禁固刑を言い渡すなど、やりたい放題の状態です。【11月25日 朝日】

人権機構がこうした現実にどの程歯止めをかけられるのかが注目されるところですが、なかなか難しいようです。
ただ、中身はともかく、スタートすることに一定に意義がある・・・と言えば言えなくもないでしょう。
改善は今後の課題です。
インドネシアのハッサン外相は憲章批准後、記者団に「民主主義と人権保護をうたった憲章は、各国に対する拘束力を持つ。憲章が発効すれば、ミャンマーに民主化を促す基盤になる」と語っています。

【「チェンマイ・イニシアチブ」強化、】
一方、世界的金融危機のなかで、経済面での取り組みとしては、ASEANを中心とした対応に一定の存在感があったと評価する声もあります。

****ASEANプラス3:通貨融通を強化へ 金融危機対応で合意****
東南アジア諸国連合と日本、中国、韓国(ASEANプラス3)の13カ国は24日午前、北京の人民大会堂で非公式首脳会議を開いた。米国発の金融危機の影響がアジアにも及び始めたことを受け、域内への危機波及時の対応策などが話し合われた。同行筋によると、急速な資金流出に見舞われた域内国に外貨を融通し合う通貨交換協定の枠組み「チェンマイ・イニシアチブ」(00年5月合意)を強化する必要性で一致。日本は必要に応じて国際通貨基金(IMF)へ追加資金拠出を行う方針を表明した。

同会議は、ASEAN議長国・タイの呼び掛けを受け、アジア欧州会議(ASEM)首脳会議に先立って開催された。麻生太郎首相は会議で、日本の追加経済対策について説明したうえで、危機対応で資金需要が高まるIMFへの追加資金拠出を表明した。

チェンマイ・イニシアチブは、1997年のアジア通貨危機を受けて構築された。今年5月の財務相会合で、2国間の通貨交換協定の集合体にとどまっている枠組みを多国間で一元的に運用するため、各国の外貨準備から総額で800億ドル(約7兆8000億円)以上を集めることで合意している。
こうした枠組みを強化するため、この日の会議では年内に13カ国の財務相・中央銀行総裁による会議を開催する方向で調整を進めることでも一致した。【10月24日 毎日】
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こちらの経済面も、金融危機から実体経済の減速・不況に事態が進行するなかで、その意義・効果が試されることになります。

【タイとフィリピン 政治的成熟度】こうした緊急の問題が山積するなかで“新生”ASEANをアピールしようとしていた折の開催延期。
残念なことです。
最近、タイの反政府団体による首相府や国際空港の占拠をめぐり、「ピープルパワー」など市民の街頭行動では先輩格のフィリピンが「タイ国民に政治的成熟度が欠如しているため大混乱が起きている」と批判、タイとフィリピンの間で「どちらの国民が政治的に成熟しているか」について言い争っているという報道がありました。
まあ、考えようによっては、抗議行動はタイ国民が民主主義のもとで政治的な権利を自由に行使していることを示すものであり、これを軍・警察が実力排除しなかったというのも人権尊重のあらわれ・・・でしょうか。
前途多難なASEANです。

コメント
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