孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  「衛星」打ち上げの発表にアメリカは戸惑いも 中国は慎重姿勢

2012-03-18 22:08:08 | 東アジア

(北朝鮮・江西郡の学校の壁絵 飢えに苦しむ子供も多いようですが・・・ “flickr”より By (stephan) http://www.flickr.com/photos/fljckr/3438624457/

【「不意を突かれなかった国はないだろう」】
北朝鮮は16日、4月に人工衛星を搭載したロケットを打ち上げると発表しました。現地メディア報道によれば、故・金日成国家主席の生誕100年に合わせ、4月12~16日の間に打ち上げを行う予定とのことです。

北朝鮮側は、「衛星」発射準備の一環として、国際民間航空機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)などの国際機関に必要資料を送ったとしており、国際的な手続きを踏むことで「宇宙の平和利用目的」であることを強調しています。また、現場に外国の宇宙科学専門家と記者を招き、発射施設や打ち上げ状況を公開するとも発表しています。【3月17日 毎日より】

しかし、今回打ち上げが、98年から09年までの3回のミサイル発射実験と同様、核弾頭を小型化、軽量化して、アメリカ領土にも届く弾道ミサイルの配備への準備であることは衆目の一致するところです。

北朝鮮は2月末のアメリカとの協議で、24万トンの食糧支援と引き換えに、寧辺でのウラン濃縮活動、核実験、長距離ミサイル発射を一時停止し、ウラン濃縮施設を含む寧辺の核施設に国際原子力機関(IAEA)要員を受け入れると明らかにしたばかりです。

当然ながら、アメリカは「ミサイル発射なら合意破棄」と警告していますが、合意直後の突然の発表に困惑を隠せないようです。

***米「ミサイル発射なら合意破棄」 北、比東方沖に落下と予告****
米国務省のヌランド報道官は16日の記者会見で、北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイル発射を実施すれば、米朝合意の「破棄につながる」と警告し、食糧支援も「困難になる」との認識を示した。
また、デービース北朝鮮担当特別代表は、6カ国協議メンバーの日中韓露の政府高官と別々に電話会談し、ミサイル実験中止と米朝合意履行を迫るため、各国が取り組みを強化することで一致した。

ヌランド報道官は、米朝合意から16日後という北朝鮮の予告発表に「不意を突かれなかった国はないだろう」と述べた。オバマ政権は、今後の進展を「慎重ではあるが、楽観している」(国務省高官)としていただけに、突然の変節に戸惑いを隠せない。

北朝鮮は発表の数時間前、ニューヨークの国連代表部を通じて電話で「衛星打ち上げ」を通告。米国は米朝合意の交渉過程で「衛星」の発射も合意違反に当たると説明しており、北朝鮮側も承知の上での発表だったとみられる。

また、同報道官は、24万トンの栄養補助食品の提供で基本合意している食糧支援の実施には、北が合意内容を履行する「再保証が必要になった」と強調。ウラン濃縮施設への国際原子力機関(IAEA)監視員の派遣も「意味をなすようには見えない」と実現に否定的な見方を示した。(中略)

日本政府関係者は17日、ロケットの1段目は韓国の西方沖、2段目は発射地点から約3千キロ南方のフィリピン東方沖に落下すると予告してきたと明らかにした。【3月18日 産経】
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指導部内部に不一致?選挙を控えた米韓揺さぶり?】
北朝鮮の豹変ぶりについては、政権内部の意見の不一致や分裂を反映したものとの見方もあります。ただ、何を考えているかわからないとも、したたかな戦略で動いているとも言われる北朝鮮ですので、本当のところはよくわかりません。

****北のミサイル予告 核弾頭配備が目的 米専門家****
・・・・北朝鮮は今回も前回の実験と同様に、衛星打ち上げを目的にあげているが、同氏(米国議会調査局で長年、朝鮮半島情勢を専門に研究してきたラリー・ニクシュ氏)は、北はつい2週間ほど前に米国との間で成立させた「ミサイル発射の一時停止」合意に違反することは承知していると語った。

同氏は「米朝合意への違反となる行動をこれほど早く発表した点が最も意外だ」と述べ、「この不整合はいまの北朝鮮の集団的指導部に政策方向をめぐる意見の不一致や分裂があることを示唆しているとも受け取れる」と論評した。
同氏はまた「北朝鮮の軍部の強硬意見が強くなったともみられるが、指導部内でのこの種の意見の不一致をおさめられるほどには金正恩氏の力はまだ強くはない」と述べ、この不一致が今後さらに大きな不安定を招く可能性をも指摘した。

同氏はさらに「北朝鮮指導部内では2009年春ごろから軍部の力が一段と強くなり、核兵器開発への動きが強まり、6カ国協議への復帰にも強い反対が表明されたようだ」と述べ、米国としては今後中国を含む関係各国に呼びかけ、とくに核弾頭用のミサイル発射の実験をやめるよう訴えていくだろうと、語った。【3月18日 産経】
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この時期の“衛星”発射については、選挙を控えるアメリカ・韓国への揺さぶりとの指摘もあります。

****選挙控える米韓に揺さぶり ****
北朝鮮が16日に表明した「実験衛星」の打ち上げは、まだ20代の金正恩(キム・ジョンウン)氏による体制になって、初めてとなる大きな決断だった。新体制の確立を急ぐとされる北朝鮮だが、米韓などが抱える事情を十分に踏まえ大胆な仕掛けに出てきた。(中略)

韓国外交通商省の報道官は16日の談話で「地域の平和と安全を脅かす重大な挑発行為」と非難し、即刻中止を求めた。だが、「発表したからには必ずやるだろう」(大統領府関係者)との見方が支配的だ。

父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の急死で、指導者の地位を受け継いだ金正恩氏だが、対外的な政策は生前に父が敷いたレールを踏襲してきた。最重視する米国との間で先月末、核・ミサイル問題と食糧支援を取引する形で合意したことも、北朝鮮にまず非核化措置を求める韓国の李明博政権とは本格的な対話に応じないことも、従来方針の通りだ。

そんな金正恩体制が初めて繰り出した手が「衛星打ち上げ」だった。北朝鮮は今後、大統領選を控えて身動きしにくい米国の足元を見据えつつ、中国やロシアを巻き込んで国連決議や制裁強化をかわす考えだろう。これまで以上に丁寧に宇宙開発の意思を説明するのは、中ロに向けたメッセージともとれる。

北朝鮮が故金日成(キム・イルソン)主席の生誕100年に合わせるように表明した4月12~16日の打ち上げ時期は、韓国の政権・与党をも強く牽制(けんせい)している。4月11日は与野党が大接戦を繰り広げ、年末の大統領選にまで影響を与えかねない総選挙の投開票日。
与党セヌリ党関係者は「ミサイル発射のカウントダウンの中で総選挙を迎えるようなものだ。有権者の危機感をあおって、揺さぶろうとしているのではないか」といぶかる。【3月18日 朝日】
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中国:北朝鮮を極度に刺激しないよう腐心
日米韓は長距離弾道ミサイルの発射と見なし、国連安保理決議や先の米朝合意に違反するとして非難していますが、北朝鮮側は「われわれの平和的な宇宙利用権利を否定し、自主権を侵害する卑劣な行為だ」と反論しています。

ロシア外務省も声明を出し、弾道ミサイルの発射を禁じた国連安全保障理事会の決議違反になると指摘して「深刻な懸念」を表明しています。

微妙なのは、北朝鮮の後ろ盾であると同時に、6カ国協議の議長国でもある中国の対応です。
「重大な関心と憂慮」を表明してはいますが、“北朝鮮を強く批判することは避け、自国に不利な事態を招かぬよう慎重に立ち回っている”【下記記事】とも。

****北のミサイル予告 中国、苦肉の「憂慮*****
北朝鮮による事実上の長距離弾道ミサイル発射実験の予告について、中国政府は17日までに「重大な関心と憂慮」を表明した。北朝鮮の核問題を協議する6カ国協議の議長国として、他の関係国に同調する姿勢を見せつつも、北朝鮮を強く批判することは避け、自国に不利な事態を招かぬよう慎重に立ち回っている。

国営新華社通信によると、中国の張志軍外務次官は16日、北朝鮮の池在竜駐中国大使と会談し、「憂慮」を伝えた。表面上は衛星打ち上げとの認識を崩さず、「朝鮮半島と東北アジアの平和と安定は関係国の共同責任だ。関係国が冷静に自制を保ち、事態を拡大させて情勢を複雑にしないよう望む」と従来の主張を繰り返した。

新華社は17日も、国際社会が北朝鮮の“衛星計画”に関心を寄せていることを伝えたが、中国は発射の是非に言及せず、北朝鮮だけ非難することを控えている。

“衛星”の発射場所とみられる平安北道鉄山郡の東倉里ミサイル発射施設は、中朝国境を流れる鴨緑江の河口から直線距離で約80キロしか離れていない。中国は、米韓による同施設への強硬措置を抑止するための“防波堤”に使われている側面も否めない。

中国にとって北朝鮮は在韓米軍との緩衝地帯であり、難民流入は自国の経済にも悪影響を及ぼす。何より、今秋の指導部交代に向け、国内の安定を最優先している胡錦濤政権としては、北朝鮮が引き起こす非常事態に巻き込まれるわけにはいかない。
中国がすでに食糧などの無償援助を始めたとの情報も流れる中、北朝鮮を極度に刺激しないよう腐心している様子がうかがえる。

6カ国協議再開につながると期待された2月の米朝高官協議での合意も中国は自国の外交成果と位置づけてきた。しかし、“衛星”発射はこのプロセスに悪影響を及ぼしかねない。17日に北朝鮮の6カ国協議首席代表、李容浩外務次官が北京入り。中国側は協議再開に向けた動きを後退させないよう求めるとみられる。【3月18日 産経】
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【“衛星”発射の一方で、外資導入を図る
北朝鮮は、国際的非難を浴びる“衛星”発射の発表の一方で、経済特区への外資導入も図っており、いよいよ“何を考えているのか”といった感もあります。

****北朝鮮:経済特区関連法を公表、積極的に外資導入狙う****
北朝鮮の朝鮮中央通信は17日、中朝国境地帯で開発を進める経済特区の関連法全文をウェブサイト上で公表した。韓国を含む各国からの投資を積極的に呼び込む内容。国際社会の要求に背を向けて、長距離弾道ミサイルと同じ技術を用いる「実用衛星の打ち上げ」を発表する一方、外資導入を図ろうとする北朝鮮の対外政策の矛盾が浮き彫りになっている格好だ。

サイトに全文が掲載された関連法は、最高人民会議常任委員会で昨年12月3日に採択された「黄金坪島(ファングムピョンド)・威化島(ウィファド)経済地帯法」と、修正・補充した「羅先(ラソン)経済貿易地帯法」。
 北朝鮮は、中朝国境に近い羅先特別市と平安北道(ピョンアンプクド)の中州、黄金坪島・威化島に経済特区を設け、昨年6月には中朝両国で共同開発に合意した。ただ、合意後も新規進出した企業はほとんどなく、開発は順調に進んでいない。

関連法はこうした事情を踏まえて、投資保護の仕組みを詳しく規定した。「経済地帯には世界各国の法人や個人、経済組織が投資できる。我が国の領域外に居住する朝鮮同胞も、この法律により経済貿易地帯に投資することができる」と明記している。
「領域外に居住する朝鮮同胞」は主に韓国人を指すとみられ、南北協力により大きな成果が出ている開城(ケソン)工業団地を念頭に、韓国企業による投資に期待を寄せている模様だ。

また、経済特区の開発と管理・運営について、北朝鮮が主導的な役割を果たすことを明確にしている。中朝両国による共同開発においても、経済力で圧倒的に勝る中国側に主導権を握られないようにする狙いとみられる。

北朝鮮が経済発展するには、羅先や黄金坪島などに国外の資本と技術を呼び込み、部分的にでも経済開放を進めるほかない。その際、隣接する経済大国・中国だけに頼るよりも、韓国や日本、欧州企業の投資も呼び込みたいというのが、北朝鮮の経済担当者らの本音だ。今回、公開された関連法には、こうした考えが反映されているとみられる。【3月18日 毎日】
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尋常ならざる国を隣人に持つ日本としては、はなはだ困ったことですが、自国民を窮乏にさらしても核・ミサイル開発に邁進する国とは常識的な対話も困難です。

北朝鮮の行動に一番影響力を持つのは中国ですが、その中国も北朝鮮には手を焼いているとも言われます。ただ、食糧やエネルギーなど、中国との関係なしに北朝鮮がやっていけるとも思えませんので、中国が本気で対応すれば北朝鮮を動かすことは可能でしょう。

その中国を動かせるのはアメリカですが、対中包囲網的な「対抗」だけの力関係では、中国にそうした決断をさせるのは無理でしょう。中国を取り込むような新たな枠組みが必要でしょう。
そうしたとき、日本は東アジアでどのような位置づけになるのか・・・という問題もあります。

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