孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核開発問題 イスラエルのネタニヤフ首相「独自の決定をする主権がある」「これ以上は待てない」

2012-03-06 23:10:02 | イラン

(一応にこやかなオバマ大統領とネタニヤフ首相ですが・・・・ “flickr”より By israelconsulatela http://www.flickr.com/photos/57839495@N05/6810289554/ )

加速するイランのウラン濃縮
イランの核開発問題に関して、その現状とリスクを簡単にまとめると、以下のようになります。

****ゼロから読み解くイラン核開発の野望****
■脅威はどのくらい深刻?
今日明日にイランが核保有国になることはないだろう。
イランと並んで核開発が問題視される北朝鮮は、核爆弾6~8個分のプルトニウムの抽出に成功している。核兵器に転用できる状態にあり、既に2度の核実験も実施している。
イランの核開発はそこまで進んでいない。それでも、欧米諸国とIAEAによれば核兵器の製造には着実に近づいている。

イランは、中部ナタンズにある1つ目のウラン濃縮施設で濃縮度約20%のウラン製造を大規模に進めている。09年に存在が明らかになった中部フォルドウの第2のウラン濃縮施設でも最近、濃縮度約20%のウラン製造を始めた。
核兵器の製造には90%の濃縮が必要であり、米政府はイランがまだ核兵器製造を決定していないとの見解を発表しているしかし20%の濃縮に成功していれば、技術的にはいずれ90%濃縮も可能になる。

■どんなリスクがある?
イランが核兵器を保有することになれば、敵対するサウジアラビアなど大量の石油が埋蔵されているアラブ諸国で核開発競争が起きる危険性がある。イランと親しいシリアやイラク、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなどイスラム武装勢力の手に核が渡る可能性もある。(後略)【2月29日号 Newsweek日本版】
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国際原子力機関(IAEA)は、イランの濃縮ウランの生産能力が急速に拡大しており、現在の施設がすべて稼働すれば、核爆弾1個を作るのに十分な量の20%濃縮ウランが約半年ごとに製造できる計算となると報告しています。【2月25日 読売より】

反大統領派圧勝で薄れる協調姿勢の可能性
一方、イラン国内においては、核開発は平和利用であり、その推進はイランの権利であるというのが、保守派・改革派とおして共通のコンセンサスになっていますが、厳しい経済制裁が科される中での対外的な対応については、立場によって差異はあります。

2日に投票が行われたイラン国会(定数290)議員選は、アフマディネジャド大統領を支持する勢力と、同じ保守派内でも最高指導者ハメネイ師に近い反大統領派の保守派間の争いとなりましたが、反大統領派が議席の4分の3以上を制する形で圧勝する結果になっています。

アフマディネジャド大統領派はこれまで、水面下で米欧諸国との核協議再開に向けた調整を進めてきたとみられていますが、大統領派の衰退によって宗教界の影響力が強まり、イランが強硬姿勢を加速させ、米欧への協調姿勢に転じる可能性は遠のいたと見られています。

最後のチャンス
アメリカ・オバマ大統領は、就任以来イランとの対話路線を重視してきましたが、イラン国内での民主化運動弾圧、中部フォルドウの核施設発覚ということで対応を硬化させ、最近はイラン中央銀行と取引のある外国金融機関への制裁を科すことで、イランの資金源であるイラン原油取引を抑え込む姿勢を見せています。

ただ、中東情勢を一変させ、世界の原油取引にパニックを起こしかねないイラン核施設への軍事攻撃については、「いかなる選択肢も排除しない。(選択肢には)軍事的要素も含まれる」(3月2日 オバマ大統領)とは言いつつも、現実問題としては慎重を期すものと見られています。

そうしたアメリカの対応に苛立ちを見せているのが、イランの核武装を安全保障上の重大な問題と認識しているイスラエルです。かねてより、イスラエルのイラン核施設攻撃が取り沙汰されています。

****イラン核危機 綱渡りの舞台裏****
イスラエルが焦る理由
いま何よりも重要な問題は、交渉による解決を探る時間がどのくらい残っているかだ。アメリカはイランが核技術を兵器化するぎりぎりまで待てると思っているようだ。いざとなれば圧倒的な軍事力でイランの核開発計画を無効化できるからだ。

だがイスラエルにはそこまでの軍事力がない。だからもっと早い段階で攻撃を開始する必要がある。あるイスラエルの元政府高官は、エフド・バラク国防相から直接こうした説明を開いたという。「(イランを攻撃する)最後のチャンスを逃せば、イスラエルはアメリカに頼るしかない。そのときアメリカが(イランを)攻撃しないと決めたら、イスラエルの前に核武装したイランが現れる」(後略)【2月29日号 Newsweek日本版】
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協議は平行線
こうした状況で、オバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の会談が行われました。
もともとこの両者は、イランへの姿勢の他、昨年5月にオバマ大統領が、中東和平は67年の第3次中東戦争直前の休戦ラインを基準にすべきと発言したことなどで、そりが合わないと言われてきました。

今回会談については、オバマ大統領がイランの核開発問題を外交的に解決したい意向を伝えたのに対し、ネタニヤフ首相は「安全保障に関しては自決権がある」と述べ、独自の判断で武力行使に踏み切る可能性を否定しなかったということで、やはり“ズレ”があったことが報じられています。

****イスラエル首相:対イラン自衛権強調 米と首脳会談****
オバマ米大統領は5日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。イランの核開発問題でオバマ大統領が外交的解決を優先させたいと訴えたのに対し、ネタニヤフ首相は「イスラエルは自衛権を保持せねばならない」と強調し、イラン核関連施設への軍事攻撃の可能性を取り下げようとしなかった。

冒頭のみ報道陣に公開された。オバマ大統領は「まだ外交的解決の余地はある」と言い、「首相も私も外交的に解決することを望んでいる。我々は軍事行動の代償を理解している」と語った。一方で「イランの核兵器獲得を防ぐためには、すべての選択肢が机上にある」とも言い、武力行使の可能性にも含みを残した。

これに対しネタニヤフ首相は、オバマ大統領が4日、イスラエル系ロビー団体の会合での演説で「イスラエルは脅威に対し自衛能力を持ち」「安全保障で独自の決定をする主権がある」と述べたことを指摘。イランに対する「自衛権」を改めて強調し、「首相としての最大の責務は、イスラエルが自らの運命を決められるよう保証することだ」と語った。ただし、軍事攻撃という言葉は使わなかった。

会談はこの後、非公開になり、約2時間続いたとされる。オバマ大統領は軍事攻撃を自制するよう求めたとみられるが、協議は平行線に終わったとの見方が強い。

イスラエルはイランが核兵器製造の方針を固めたとみて、軍事攻撃を含む強硬措置で実際の製造を阻止したい考えだ。
一方、米国はイランがまだ核兵器製造の正式決定に至っていないと分析し、軍事攻撃は中東のさらなる混乱を招くと強く懸念している。

会談ではほかに、停滞しているイスラエルとパレスチナの中東和平協議の今後の進め方や、混乱するシリア情勢への対応なども話し合われたとみられる。両者の会談は昨年9月以来。【3月6日 毎日】
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ネタニヤフ首相は、会談後のイスラエル系ロビー団体の会合で、「これ以上は待てない」とも語っています。
****イスラエル首相:イラン核武装に対し「これ以上待てない*****
イスラエルのネタニヤフ首相は5日夜、ワシントンで開会中のイスラエル系ロビー団体「アメリカ・イスラエル広報委員会(AIPAC)」の会合で演説し、イランの核武装化について「イスラエルは根気よく国際社会による外交的解決を待っていたが、これ以上は待てない」と語った。

首相は「イスラエルが何をするかは絶対に言わない」と前置きしたうえで、「国際社会は過去10年間、外交を試み、過去6年間、制裁を試みたが、効果はなかった」と述べた。さらに「オバマ米大統領による最近の制裁強化にもかかわらず、イランの核計画は引き続き進展している」と懸念を表し、独自の軍事攻撃の可能性をほのめかした。

ネタニヤフ首相は事前に行われた5日のオバマ大統領との会談内容については語らず、米国の同盟関係に感謝しつつ、「イスラエルは常に自衛権を保持せねばならない」「イランの核武装化を止めねばならない」と繰り返した。

米国で屈指のロビー団体であるAIPACの年次会合には大勢の米上下院議員も出席、会場は約1万3000人のユダヤ系米国人らで埋まった。【3月6日 毎日】
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軍事的には困難
イラン核施設攻撃をしきりに主張するイスラエルですが、実際に行動を起こすとなると、軍事的に見て、なかなか難しい面もあると指摘されています。

****ゼロから読み解くイラン核開発の野望****
■イスラエルの攻撃はある?
イランのマフムード・アハマ
ディネジャド大統領から「地図から抹消されるべきだ」と名指しされているイスラエルは、イランやシリアなど敵対する国々の核保有は絶対に阻止するという立場を崩していない。
実際、イスラエルは81年にイラクのオシラク原子炉を、07年にはシリアの核施設を空爆。イラン国内で起きた、核開発に携わる科学者の暗殺にも関与していると言われている。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相はイランの脅威をあおって首相に返り咲いただけに、対イラン強硬路線は今後も変わらないだろう。

しかしイスラエルがイランを空爆するのは容易ではない。イランは攻撃される可能性のあるナタンズなどの核施設の防空体制をしっかりと整えている。重要施設は分散され、さらに地下に造られている。イスラエルがアメリカ製のバンカーバスター(地中貫通爆弾)を使っても、せいぜい核開発を1、2年遅らせるだけ。核開発計画すべてを破壊することはできない。

さらにイラン攻撃に踏み切れば、シリアやイラク、レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどの一斉報復も考えられる。(後略)【2月29日号 Newsweek日本版】
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イスラエルが本気でイラン核施設を攻撃する気があるのか、アメリカに経済制裁を強化させるためのパフォーマンスか、国内保守派向けのポーズか・・・そのあたりはよくわかりません。
おそらく、ネタニヤフ首相本人の心中でもいろんな思いがあるのではないでしょうか。
ただ、「やるぞ、やるぞ」という姿勢を見せていると、ちょっとした契機で実際に行動に出ざるを得ない結果になってしまう・・・というのは、よくあるパターンです。

イランに譲歩の動き
アメリカとイスラエルの首脳会談を受けて、イランにも動きが見られます。
これまでイランに2回にわたって派遣されたIAEA調査団は、核兵器開発関連の実験が行われた疑いのあるテヘラン郊外のパルチン軍事施設への立ち入りを認められず、IAEA天野之弥事務局長は5日の理事会でイラン側の非協力的対応を非難、「イランの核開発計画に軍事的側面の疑いがある」として「深刻な懸念」を表明していました。
イランが、そのパルチン軍事施設への立ち入りを認めたそうです。

****イラン、IAEA査察を許可 テヘラン郊外の軍事施設****
イランの国際原子力機関(IAEA)代表部は6日、核兵器開発との関連が指摘されたテヘラン郊外のパルチン軍事施設に、IAEAの立ち入りを認めると表明した。イランへの武力行使が論じられた米国とイスラエルの首脳会談を受け、一転して譲歩の動きに出た。

イラン代表部は声明で「必要な手続きが済み次第、立ち入りを許可する」としている。最高指導者ハメネイ師や軍部も同意したとみられ、IAEAと具体的な日程を詰めたうえで実現するとみられる。

IAEAは昨年11月の報告書で、核兵器の開発に必要な高性能爆薬の実験がパルチン軍事施設で行われた可能性を指摘。今年1月と2月に調査団を派遣したが、イランは立ち入りを拒んだ。IAEAの天野之弥(ゆきや)事務局長は5日から始まった理事会でイランの非協力的な姿勢を非難した。

IAEAは2005年、パルチン軍事施設を査察したが、認められたのは一部の区画だけだった。また、実験が行われたとされる建物は「すでに取り壊された」(地元記者)とも言われ、イラン側は立ち入りを認めても問題はないと判断したようだ。
さらにイランには、中断している国連安全保障理事会常任理事国など関係国との核協議を再開させるためにも、IAEAの疑惑に答えた方が得策との思惑もあるようだ。【3月6日 朝日】
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