(2月16日 ベンガジ 反カダフィ蜂起から1年を迎えたリビアでは、暫定統治する国民評議会(NTC)は多くの市民が犠牲になったことを悼み、国家としての公式行事は行いませんでしたが、反体制派が最初に蜂起した東部ベンガジを中心に国内各都市や村々では、住民らが花火や旗を掲げて自発的に蜂起1周年が祝われました。
“flickr”より By andycarvin http://www.flickr.com/photos/andycarvin/6891677417/ )
【「東部の人々の権利を守るのが私の使命だ」】
カダフィ政権が打倒されたリビアでは、首都トリポリを中心とする西部地域と、反カダフィ闘争の中心となったベンガジなど東部地域の間で反目があり、今後の国家建設の重大な支障になっていることは、以前から言われていました。それぞれの勢力の民兵組織もまだ解体されていません。
その東部地域が「キレナイカ暫定評議会」を発足させ、中央政府に対し自治を要求するとのことで、いよいよ地域対立が表面化しています。
****リビア東部が自治を宣言****
去年、カダフィ政権が崩壊した北アフリカのリビアで、東部の部族の指導者らが独自の議会や治安機関を設置して自治を進めると宣言し、今後予定されている議会選挙や憲法の制定など国づくりの行方にも影響を与えそうです。
リビアでは、40年余りにわたって独裁的な支配を続けたカダフィ政権が去年崩壊し、首都トリポリを中心に暫定政府による国づくりが進められています。
こうしたなか、東部の都市ベンガジで6日、部族や民兵組織の指導者らおよそ3000人が集会を開き、中部のシルトから東のエジプト国境までの地域で自治を進めると宣言しました。
宣言では、外交や軍事は中央政府に委ねるものの、独自の議会や治安機関、それに裁判所を設置するとしています。
東部地域は、リビアの主な収入源である油田が集中する一方で、カダフィ政権下では開発が遅れ、西部のトリポリを首都とする政府に対しては歴史的に根強い不信感があります。
自治を行う暫定評議会のトップに選ばれたズバイル氏は「東部の人々の権利を守るのが私の使命だ」と訴えました。
一方、暫定政府は、「国を分断するものだ」として、東部での動きに強く反対しています。
リビアでは、ことし6月に議会選挙が行われたあと、憲法の制定作業が行われる予定ですが、暫定政府と東部地域の対立が深まれば国づくりの行方にも影響を与えそうです。【3月7日 NHK】
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【「リビアは連邦制を必要としない」】
東部暫定評議会の名前となっているキレナイカとは、トリポリタニア、フェザーンと共にリビアの歴史的な3地域のひとつで、リビア東部を指しますが、遡ると、紀元前630年頃に、サントリーニ島のギリシャ人がリビア東部沿岸部に入植したのが起源だそうです。
一方、トリポリなどリビア西部沿岸地域はトリポリタニアと呼ばれていますが、こちらは同じ紀元前7世紀頃フェニキア人によって入植・開発が進み、フェニキア本国滅亡後はカルタゴの支配下に入っています。
時代を現代に引き寄せると、“1949年、サヌーシー家のイドリース1世がキレナイカの独立を宣言、1951年にはトリポリタニアやフェザーンとの連合王国・リビア王国が誕生した。中心都市ベンガジはトリポリとともに首都となった。カダフィ大佐によるクーデターで王国が倒された後はキレナイカは抑圧され、キレナイカの部族は冷遇されているが、なお旧王政支持者や反カダフィ勢力は強く、ベンガジは1990年代にはイスラム学生運動の中心となってきた。キレナイカの石油資源はリビアの埋蔵量の多くを占めるがキレナイカへの投資は少ない”【ウィキペディア】とのことです。
「キレナイカ暫定評議会」は外交や国防の面では中央政府に従うということで、リビア国民評議会のメンバーでもある「キレナイカ暫定評議会」の指導者のズバイル氏は、リビア国民評議会をリビアの合法的な代表政府として認めた上で、連邦制度のもとで「リビアは分裂することなく、一つの国である」と強調しています。
しかし、アブドルラヒム・キーブ暫定首相は5日、「東部地域は自治を行わないよう願っている。リビアは連邦制を必要としない」との考えを表明しています。【3月7日 CRIonlineより】
また、暫定大統領にあたる国民評議会のアブドルジャリル議長(東部出身)は、「リビアの革命をほかの国に広げたくないアラブ圏の陰謀」と猛反発しています。
両地域間には前出のような歴史的背景もありますが、カダフィ時代に冷遇され西部への反発が強いこと、最後までカダフィ支配下にあったトリポリに対し、東部地域が今回のカダフィ政権打倒の中核として機能したことを踏まえ、新国家における石油利益の分配、人事などで独自性を求める動きでしょう。
国民評議会としては、唯一の国家財産である石油利益を東部で管理されては新国家建設も難しくなりますので、おいそれと東部の自治を認めることはないでしょう。
最悪の場合、両地域の民兵同士の抗争・・・という事態も懸念されます。
【残存する親カダフィ勢力】
親カダフィ勢力もまだ残存しています。
1月末には、首都トリポリ南東約150キロのバニワリードで、武装住民が国民評議会系部隊を排除、双方に12人の死者が出る衝突が起きています。
バニワリードは親カダフィ派の拠点で、昨年8月のトリポリ陥落後、最高指導者だったカダフィ大佐が昨年10月、反体制派に殺害される直前まで抵抗を続けた都市でもありますが、この衝突で、有力部族幹部による「自治委員会」が結成され事実上の自治を宣言、ジュワリ国防相もこれを受け入れたと報じられています。
カダフィ大佐の三男で国際手配中のサーディ容疑者(38)は2月10日、中東の衛星放送アルアラビーヤで「評議会への国民の不満は高まっており、反乱が起きる」と警告しています。
国民評議会は2月8日、新選挙法案を発表していますが、当面の目標である移行国民議会選挙と、その後1年をかけた憲法制定作業の具体的日程は明らかにされていません。
エジプトのイスラム同胞団のような、新体制の中核となる組織もなく、そもそも、カダフィ独裁のもとで民主主義的基盤が存在していません。
今回の東部地域の自治要求は、リビアの新国家建設の道のりが険しいものであることを改めて印象付けています。