(2月22日 ホムス 政府軍の戦車などの激しい砲撃から逃げる反政府派 “flickr”より By FreedomHouse http://www.flickr.com/photos/syriafreedom/6809808692/in/photostream )
【「武器と弾薬が不足し、市民を守るため、戦術的に撤退する」】
シリアの離反兵士で作る「自由シリア軍」など反体制派の武装組織は1日、シリア中部ホムスのバーブ・アムロ地区から撤退しました。ホムスはシリア第3の都市で、レバノン国境に近く、物資を密輸入しやすい位置にあったことから、バーブ・アムロ地区が反体制派の拠点になっていました。
反体制派は「武器と弾薬が不足し、地区の根絶を宣言したアサド政権から市民を守るため、戦術的に撤退する」と語っています。【3月2日 毎日より】
7日、ホムスを訪れたエイモス国連事務次長(人道問題担当)は、「街は完全に破壊され、廃虚のようだった。住民を見ることはほとんどなかった」と語っています。
エイモス氏と会談したシリアのムアレム外相は、「不当な国際制裁にもかかわらず政府は食料や医薬品を国民に供給している」と主張しています。
国連によると4、5の両日だけで少なくとも2000人の難民が新たにレバノンに脱出したとされています。【3月8日 毎日より】
アサド政権に抵抗を続ける「自由シリア軍」の実態はよくわかりませんが、人員的にはおよそ2万人程度ではないかと推定されますが、戦闘経験や装備などで政府軍とは差があります。
****反体制派「自由シリア軍」とは?その成り立ちと今後****
27日間にわたって政府軍による激しい砲撃に抵抗した末、中部ホムスのババアムル地区から「戦略的撤退」をした反体制派の自由シリア軍(FSA)。
政府軍を離反したリヤド・アサド大佐によって率られたFSAは、数千人規模の戦闘員を抱えるものの、いまだに統率は乱れ、政府軍の地上部隊による猛攻に対抗するだけの火力は有していなかった。
■離反兵士らで結成、戦闘員2~4万?経験は浅い
前年7月、アサド大佐はシリア政府による反体制デモ弾圧に抗議して、軍からの離反を発表。同大佐率いるFSAは、トルコ国境に近い北西部イドリブ地区や中部ホムス、南部ダルアーなどで政府軍との戦闘を開始した。
8月末には、シリア軍で初めて政府に抗議して離反兵士となったフセイン・ハルムシュ大佐率いる自由将校旅団と合流した。ハルムシュ大佐の下には多くの離反兵士が集まっていたが、同大佐はその後政府側に拘束され、現在は生死不明だ。
FSAの正確な構成人数は特定困難だが、アサド大佐が前年11月にAFPの取材に語ったところでは、およそ2万人。4万人の戦闘員がいると主張する離反将校もいる。ただし多くは戦闘経験が浅く、率いるアサド大佐本人もまた、かつては軍のIT部門に所属していて戦闘経験はなかった。
対する政府軍は、シリア政権に忠誠を誓う14万~16万の熟練兵士を有し、強力な迫撃砲や戦車、ヘリコプターを配備している。
■外国から間もなく武器供与か
FSAは、シリア全土に散った部隊を統率する困難さに加え、政府軍の戦車に対抗できる重火器も不足している。だがシリア国内でAFPの取材に応じた一部のFSA戦闘員らは、間もなく地対空ミサイルと対戦車ミサイルが外国から届くと語り、この動きを阻止するため政府軍がバハアムルを制圧し、レバノンとの国境を封鎖したのだとの見方を示している。
反体制勢力の全国組織「シリア国民評議会(SNC)」は先に、反体制派戦闘員に武器を供給するための「軍事事務所」の設立を発表。既にカタールなど複数の国が武器供与に前向きな姿勢を表明しており、クウェート議会はシリア反体制派の武装化を求める決議を採択した。
今年2月には、離反兵として過去最高位のムスタファ・シェイク大将が新組織「高等革命評議会」を設立。SNCによると、FSAとともに新設される「軍事事務所」の監督下に入るという。【3月5日 AFP】
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【「非致死性の物資」】
シリア反体制派への武器供与については、サウジアラビアなど湾岸諸国が近く提供すると約束したと、FSAスポークスマンは語っていますが、アメリカは武器供与・軍事介入への慎重姿勢を崩していません。
****米、シリアへの軍事介入に消極姿勢 化学兵器を大量保有****
米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は7日、オバマ大統領の指示で、対シリア軍事行動に向けた情勢分析を実施したことを明らかにした。ただ、シリアが大量の化学兵器を保有し、軍事攻撃に関する国際的な合意もないことから、米主導の軍事介入には消極的な姿勢を見せた。
米上院軍事委員会の公聴会で、パネッタ国防長官とともに証言した。同委員会のマケイン上院議員(共和党)は、シリアのアサド政権の弾圧で約7500人が犠牲になっていることから、虐殺阻止に向けて米軍がシリアの空爆に踏み切るよう求めている。
これに対しパネッタ氏らは証言で、カダフィ政権下のリビアに比べて、シリアが保有する化学兵器が100倍にのぼり、防空システムも5倍の規模があるといった点を指摘。軍事介入の難しさを強調した。
また、アラブ連盟などが求める反体制派への武器供与を含む軍事支援についても、反体制派が100以上のグループに分かれているうえ、指導層もはっきりしないため困難だと指摘。パネッタ氏は「この問題に簡単で手っ取り早い解決策はない」とし、オバマ政権が当面、外交的な解決策を探る方針だと説明した。【3月8日 朝日】
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反体制派に国際テロ組織アルカイダが潜入している可能性があることも、アメリカの武器供与に対する慎重姿勢の理由のひとつとされています。
なお、パネッタ米国防長官は7日、シリアの反体制派に無線機など「非致死性の物資」を届けることを検討していると述べています。アメリカ政府がシリア反体制派への直接支援を示唆したのはこれが初めてです。【3月8日 AFPより】
圧倒的な軍事力の差があり、アメリカなどの軍事介入も見込めない状況で、反体制派の苦戦は続きそうです。
【世論調査:シリア国民の55%はアサドを支持】
国際的には「悪者」「弾圧者」のイメージが定着しているアサド政権ですが、かねてより都市部のダマスカスなどでは政府支持も強いことが報じられています。
現在の対立が、シーア派の一派とされるアラウィ派のアサド政権に対する国内多数派のスンニ派の抵抗という宗派対立の側面があり、世俗的なアサド政権が崩壊して宗教的に保守的なスンニ派主体の政権となった場合、少数派のアラウィ派やキリスト教徒への報復・迫害も懸念されているためです。
昨年末に行われたシリア国内で行われた世論調査では、55%はアサド大統領を支持しているとの結果が出ているそうです。
もとより、今の混乱状態でどれほど統計的に正確な調査が可能だったのか、地域的にサンプルはどのように分布しているのか・・・という点はありますが、「悪者」「弾圧者」という国際的イメージとは異なる一面を示唆する調査ではあります。
****メディアが伝えないシリア人の本音****
続く反アサド派の蜂起はどの程度民意を反映しているのか
アラブ諸国の民主化運動が一段落した現在でも、唯一シリアの混乱は収まっていない。国連によれば、アサド大統領による反体制派への弾圧で、これまで7500人以上が死んだ。だがシリアで続く反体制派蜂起は、どれだけ民意を反映しているのだろうか。
アメリカをはじめとする国際社会はアサド政権に対して非難を強めている。先月初め、国連安全保障理事会はアサドに退陣を求める決議案の採決を行った。しかし、この決議案はシリアと歴史的に関係の深いロシアと中国の拒否権行使で否決される結果となった。
拒否権を行使したロシアのラブロフ外相は、アサド政権が崩壊すればシリアは内戦に陥ると主張する。自国の人権問題も非難されているロシアだが、この主張はあながち間違いではないかもしれない。
今年1月、昨年末にシリア国民など1000人を対象に実施された世論調査の結果が公表された。この調査の実施主体の背後には、シリアに対して厳しい態度を取るカタール政府がいた。
だが、その結果は意外なものだった。シリア国民の55%はアサドを支持していることが分かったのだ。
しかもアラブ諸国のほとんどはアサドが退陣すべきだと考えているのに対して、シリア国民の多くはアサドに対して退陣を求めていなかった。理由は、アサド政権が崩壊して国内が内戦状態に陥ることを危惧しているからだという。
一方で、アサドが権力の座に残ることを望む人たちは、披に公正な選挙を実施することも求めていた。
サンプル数が少ないとの批判もあるが、この調査結果はシリア国内でくすぶる懸念を反映している。シリアは、イスラム教シーア派の一派とされ国民の12%ほどを占めるアラウィ派のアサドが統治する国だ。他方で、反政府デモを引っ張るスンニ派が国民の70%を占める。
そんなシリア国内で、例えば国民の10%を占め、過去40年以上アサド家に守られてきたキリスト教徒たちは、アサド政権が崩壊してスンニ派からの迫害が始まることを恐れている。アラウィ派の大半ももちろん同じ思いだ。
シリアでは、欧米メディアが自由に入国して取材できない状況が続き、ジャーナリストが死亡する事件も相次いでいる。外国メディアは欧米政府やシリア国外で活動する反体制派、人権団体が発信する情報に頼らざるを得ない。だが、それが国全体の現実をどこまで反映しているかは分からない。
レバノンに逃れた反体制派の中には、政府軍とデモ隊の衝突で巻き添えになった市民の残酷な写真や映像を集めて外国メディアに提供する組織も存在する。それを報じるメディアも、信憑性は分からないと前置きをした上でこうした情報を報道する。
その結果、アサド政権の残忍なイメージが広く世界に伝わっている面もある。
多くの国民が政府部隊との衝突で命を落としているのは間違いない。ただそれが、必ずしもシリア全体の民意を反映しているとは限らない。【3月14日号 Newsweek日本版】
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もし、記事にある調査がある程度シリア国民の声を表しているなら、アサド政権はイメージ戦略で大きな失敗を犯していることにもなります。
かつて、セルビアが“民族浄化”“収容所”などのイメージ戦略で一方的に「悪者」にされ、NATO空爆で徹底的に叩かれた事例もあります。