孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  民政移管の総決算である大統領選挙に向けて、注目されるムスリム同胞団の動向

2012-03-27 21:00:47 | 北アフリカ

(昨年2月6日 カイロのタハリール広場でムバラク独裁に反対する人々 このとき組織力を有する穏健イスラム主義のムスリム同胞団は、形勢がはっきりするまで政権批判を避けていました。 
ムバラク政権崩壊を主導した若者中心の民主化勢力の一部は今も軍政批判を続けていますが、社会の安定化を願う一般市民から支持を失っているとも言われます。 
変わってエジプト社会の中心的存在となっているのがムスリム同胞団です。大統領選挙への直接関与を避ける同胞団は、長年の政権側の弾圧を耐えてきただけに、過度の突出を避けながら、実権を握ろうとするしたたかな戦略です。 写真は“flickr”より By pinkturtle2 http://www.flickr.com/photos/effarania/5422178048/ )

独自候補を擁立しない同胞団
「アラブの春」を受けて5月23,24日に行われるエジプト大統領選挙の立候補受け付けが、3月10日から4月8日までのスケジュールで行われています。大きな権限を持つ大統領を選ぶ選挙は、エジプト政治の行方を左右します。
暫定統治する軍最高評議会は、今回の大統領選挙を区切りに民政移管を完了させる方針です。

エジプト初の民主的な大統領選とあって、候補者も乱立気味だそうですが、立候補には3万名以上の署名をあつめることが必要とされていますので、相当に絞られてくると思われます。

なお、立候補の意欲を見せていたノーベル平和賞受賞者で元国際原子力機関(IAEA)事務局長のエルバラダイ氏は1月に不出馬を表明しています。
“「本物の民主主義が根付く前に大統領選に立候補するのは私の良心が許さない」としている。同氏は、国際的な知名度こそ高いものの、昨年1~2月の反ムバラク政権デモ中もほとんど街頭行動に出ず国内で支持が広がらなかったこともあり、撤退を決めたとみられる”【1月15日 朝日】

有力候補としては、ムバラク氏側近から反ムバラクに転じたムーサ元外相(75)、軍部の権益を代表するとも言われているシャフィーク元空軍司令官(70)、ムスリム同胞団の方針に反して立候補を表明して除名されたアブルフトゥーハ氏(60)、ムスリム同胞団より厳格で復古的なイスラム解釈を主張するアブイスマイル氏(50)などが挙げられています。

****カギ握るイスラム勢力 エジプト大統領選 4氏が軸****
エジプト大統領選の立候補受け付けが10日に始まり、選挙戦が事実上、火ぶたを切る。宗教と政治の関係など、国のあり方そのものが争点になる見通しだ。すでに10人近くが立候補を表明。最大勢力のイスラム政党、自由公正党は独自候補を擁立しない予定で、その動向が選挙戦を左右しそうだ。

「エジプトを軌道に乗せる政策を100日以内に実行する」「これまでの外交条約は順守する」
アムル・ムーサ元外相(75)は地元メディアに何度も登場し、大統領選への意欲を示している。
アラブ連盟事務局長だった昨年1月、反ムバラク政権デモへの支持を表明。10年間外相を務めて知名度が高く、早くから「本命」視されてきた。半面、長年ムバラク氏の側近だったことから「変わり身が早すぎる」と反発も強い。

軍部の権益を代表する候補になりそうなのが、アフマド・シャフィーク氏(70)だ。元空軍司令官。ムバラク政権下で民間航空相となり、反政権デモが起きた昨年1月末、首相に。「有能で清潔」と国民的人気があり、ムバラク氏が「切り札」として頼った。
政権崩壊後に全権を握った軍最高評議会は昨秋、「軍事予算の非公開」など特権の維持を盛り込んだ「新憲法の原則」を発表、各層の強い反発を招いた。シャフィーク氏は軍とのつながりを否定しているが、軍や軍需産業の支援がないと苦しい選挙戦を強いられる。

上下院選で系列の自由公正党を最大勢力に押し上げたムスリム同胞団は「大統領は国民各層を代表する人物であるべきだ」とし、支持候補も表明していない。
だが、幹部のアブドルメナム・アブルフトゥーハ氏(60)が昨年5月、立候補を表明。同胞団から除名された。キリスト教徒や女性の権利の擁護など進歩的な主張で知られる。保守的な中高年層が力を握る同胞団の現状に反発して脱退した青年グループが同氏を支える動きを見せている。
同胞団は、新憲法で大統領の権限を大幅に削り、議院内閣制に近い形にする構想を持っている。民政移管後に自派中心の内閣を発足させ実権を握る構えだ。一方で「隠し球候補がいるのでは」との臆測も絶えず、内閣と軍評議会の顧問役を務めるマンスール・ハサン元情報相を推すのではとの観測もある。

弁護士のハーゼム・アブイスマイル氏(50)は「イスラム法に基づいた政治を行うべきだ」などと主張。同胞団より厳格で復古的なイスラム解釈を基盤とし、議会選で第2党となった光の党などが支持すれば「台風の目」となりえる。

このほか「女性の政治参加を促す」とするテレビ司会者ブサイナ・カーメル氏(49)らが立候補の意向を示している。オマル・スレイマン前副大統領(75)を推す動きもある。【3月10日 朝日】
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上記記事見出しにもあるように、カギを握るのは、議会選挙で圧倒的な力を見せて第1党になったものの、今回大統領選挙では独自候補者を立てていないイスラム勢力のムスリム同胞団の動きです。
過度に突出することを避け、“民政移管後に自派中心の内閣を発足させ実権を握る構え”ですが、ムスリム同胞団内部でも、同胞団としての候補者を立てるか、支持する候補者を決めるべきだとの要求が高まっており、同胞団指導部は難しい判断を迫られているとの指摘もあります。

世俗主義勢力からはイスラム勢力主導に警戒感
今後の国政の中心的位置を占めそうなムスリム同胞団に対しては、世俗主義勢力からの反発があります。
****エジプト新憲法、早くも暗礁 イスラム勢力主導に反発強まる****
5月にムバラク前政権崩壊後で初の大統領選を控えるエジプトの上下両院総会は24日、新憲法の起草にあたる制憲委員会のメンバーを選出した。ただ総会では、議会の多数派であるイスラム勢力が主導権を握ることに反発する世俗主義勢力が協議をボイコットし、火種も残す格好となった。
制憲委メンバー100人の半数は議員で、残りは憲法専門家や文学者らで構成される。

軍部による暫定統治から民政移行後の大統領と議会との権限配分や、停止中の現憲法で「主な法源の一つ」と規定されるイスラム法(シャリーア)の位置づけ、軍の地位などについて協議し、まとめられた草案は国民投票にかけられる。

同日の総会では、投票で議会選出分のうち38人を、第一党であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の「自由公正党」などイスラム政党に割り振った。
これに対し、世俗主義会派「エジプト連合」などが「イスラム勢力が憲法制定を独占しようとしている」と反発し退席、議会周辺では同会派の支持者らがデモを行うなど混乱も起きた。

軍部は大統領選前の新憲法制定を目指しているが、制憲委での議論は紛糾が予想され、制定は選挙後にずれ込む可能性が高い。【3月26日 産経】
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軍部との主導権争いの兆しも
一方、過激な若者中心の民主化勢力を牽制する立場から、比較的良好な関係を持ってきた軍部とムスリム同胞団ですが、今後の主導権を巡って対立の兆しが見えています。

****軍部と同胞団が非難合戦 エジプト“蜜月”亀裂****
エジプトの暫定統治を担う軍最高評議会と、同国最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が非難合戦を繰り広げている。同胞団がガンズーリ暫定内閣とその後ろ盾である軍部への批判を強めているのに対し、軍部は25日夜、異例の反論声明を発表、昨年2月にムバラク前政権が崩壊した政変以降、良好だった両者の関係にひびが入りつつある。

究極的には「イスラム国家化」を志向しているとされる同胞団は、前政権下で非合法組織として監視下に置かれ、軍にも「脅威」とみなされてきた。
しかし、政変で全権を握った軍部は、同胞団との関係を改善した。そこには、昨年の反政府デモで大きな動員力を見せ、軍批判をも展開する若者中心の民主化勢力に同胞団を対抗させる狙いがあったとみられる。

軍部との良好な関係を背景に、同胞団傘下の政党「自由公正党」は昨年11月から今年2月の上下両院選で第一党に躍進。国政への自信を深める中、今月24日には、経済運営に失敗しているなどとしてガンズーリ内閣の辞職を要求し、同内閣を擁護する軍部にも批判の矛先を向けた。

これに対し、軍部は25日の声明で「非常に強い憤り」を表明、地元紙によると、軍部は同胞団幹部に、議会を解散させる可能性もあると警告している。軍部としては、同胞団が勢いづきすぎないようくぎを刺した格好だ。エジプトは5月に政変後初の大統領選を控えており、関係がこのままこじれれば、再び政治の混乱を招く可能性もある。【3月27日 産経】
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実権を把握したいムスリム同胞団、権限を維持したい軍部、若者中心の民主化勢力、ムスリム同胞団より厳格なイスラム主義を主張する勢力・・・こうした勢力の思惑が絡んでの今後の展開となります。

気になるコプト教徒の動向
なお、エジプトには約1割のコプト教徒(キリスト教の一派)が存在します。
今後のイスラム主義の動向によっては、宗教対立が激化して社会の不安定要素にもなりかねません。
今月17日、コプト正教会総主教のシェヌーダ3世が死去したことも、今後に影響しそうです。

****エジプト・コプト教指導者が死去…前政権を支持****
キリスト教の一派、コプト正教会総主教のシェヌーダ3世が17日、肝臓疾患などのため、エジプトの首都カイロで死去した。88歳だった。
同国南部アシュート県出身。コプト教修道士などを経て1971年11月、エジプト国民の約1割を占めるコプト教徒の指導者である正教会総主教に就任した。

サダト元大統領時代に、キリスト教徒を攻撃するイスラム過激派への対応が不十分などと政権を批判し、80年代には一時幽閉されたが、過激派を厳しく取り締まった後継のムバラク前大統領時代には政権との関係を回復、多数派のイスラム教徒との融和に尽力した。

ただ、昨年2月に民衆デモで辞任に追い込まれたムバラク氏を最後まで支持する姿勢を示したことで、一部コプト教徒からは批判を受けていた。【3月18日 読売】
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