(アフガニスタン・ヘラート BRACの運営する学校 ユニセフも支援しています。 “flickr”より By United Nations Assistance Mission in Afghanistan http://www.flickr.com/photos/unama/4856566798/ )
【カルザイ大統領、治安権限移譲前倒しを要求】
アフガニスタンで米兵が民家3軒に押し入り、非武装の住民に向けて銃を乱射、子供9人を含む16人が死亡したほか、負傷者も出た事件については、3月12日ブログ「アフガニスタン 駐留米軍兵士が子供を含む住民16名を射殺 繰り返される戦場の狂気」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120312)で取り上げたところです。
事件は、ただでさえ苦しいアメリカのアフガニスタン戦略を、より困難なものにしています。
アフガニスタン国内の反発を受けて、カルザイ大統領は治安権限移譲の前倒しを要求。アメリカのパネッタ米国防長官がアフガニスタンに出向き、一応、2014年末までに国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン政府に治安権限を完全移譲する現行計画を確認しました。
しかし、会談後にカルザイ大統領が、治安権限の移譲を1年前倒しして2013年までに完了し、ISAFを都市部以外の村落から撤収させるよう改めて要求するなど、不協和音が出ていました。
権限移譲については、カルザイ、オバマ両大統領の電話会談で、14年末までに移譲を終えるという方針が確認されていますが、「米部隊を村落部から撤退させる」というアフガニスタン側の要求については継続協議となっているようです。
****アフガン指揮権移行、来年から 米大統領が電話首脳会談****
オバマ米大統領は16日、アフガニスタンのカルザイ大統領と電話会談し、アフガン国内での戦闘任務の指揮権を来年からアフガン側に移行していく方針を確認した。米兵による民間人射殺事件を受け「米部隊を村落部から撤退させる」というカルザイ氏の要請に関しては、さらに協議を続ける。
米ホワイトハウスの発表によると、両首脳は2014年末までに米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン政府への治安権限移譲を終えるという撤退計画を確認。ISAFは戦闘任務も来年中に終え、活動の比重を支援に移すことになる。
アフガンでは、イスラム教の聖典コーランの焼却事件や、2等軍曹が住民16人を射殺したとされる事件の後、反米デモが激化。米軍など外国部隊の早期撤退を求める声も強まっている。
オバマ政権は9万1千人のアフガン駐留米兵を、今年9月には6万8千人に減らす方針。その後の撤退計画は決まっておらず、今後の世論の動向にも左右されるとみられる。
カルザイ氏は5月に米シカゴで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で訪米、治安権限移譲の細部をオバマ氏らと話し合う見通しだ。【3月19日 朝日】
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【タリバン、和平交渉協議中断】
一方、タリバンとの和平協議に向けた動きは、タリバン側の反発で“中断”となっています。
****タリバン、米国との対話を中断****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは15日、ウェブサイトに声明を掲載し、米国との間で行ってきた対話を中断すると発表した。
タリバンがカタールで米国側と行っていた捕虜交換などについての対話によって、米軍のアフガニスタン撤退前に政治的な解決が実現するのではないかとの期待がもたれていた。
タリバンは米国側の「一定しない姿勢」を対話中断の理由に挙げているが、ジェイ・カーニー米大統領報道官は、米国は一貫してタリバンが戦闘をやめること、国際テロ組織アルカイダとの関係を絶つこと、アフガニスタンの憲法に従うことという条件を示していたと反論した。(後略)【3月16日 AFP】
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上記記事では“期待がもたれていた”とされているタリバンとの交渉は、非常に困難と見られていましたので、“中断”の実質的意味合いがどの程度かという問題はありますが、現状よりハードルが高くなったことは間違いないでしょう。
【尾を引きそうな容疑者への判決】
住民殺害事件を起こしたロバート・ベールズ2等軍曹は、米カンザス州の米軍基地にある収容施設に移され、訴追手続きが始まる見通しですが、アフガニスタン世論を踏まえて、法ではなく政治の力で極刑を言い渡される可能性もあるとされています。
一方で、著名弁護士が弁護にあたることになっており、容疑者がこれまで3回派遣されたイラクで計3年を過ごし、数々の勲章を授与されたという経歴もあって、個人の犯罪ではなく戦争そのものの責任という主張もなされると思われます。
アメリカ国内には、個人の犯罪とすることに抵抗があるのではないでしょうか。オバマ政権としては国内大統領選挙を考えると、政治の力で極刑とは逆の選択もありうるのでは。
極刑になればアメリカ国内で、ならなければアフガニスタンで、また揉めそうな感があります。
【「勉強を続けて医者になりたい」】
そんなアフガニスタンに関して、女性教育・少額融資(マイクロファイナンス)のリポートがありました。
****途上国NGO、海外支援〈アジアンパワー〉****
■バングラデシュ発
積もった雪と泥が混じった坂道を上がり、周囲の家々と変わらない一軒家に入ると、小さな教室で少女たちが並んで迎えてくれた。クラスは一つだけだが、身長も年齢もまちまちだ。
アフガニスタンの首都カブール西郊の丘陵地。貧しい家族が多く暮らす住宅地にバングラデシュのNGO「BRAC(ブラック)」が運営する小学校がある。近くに通える小学校がないなどの理由で、入学機会を逸した10歳から18歳までの女子25人が通う。
マスマさん(18)は女子教育を禁じたタリバーン政権が2001年に崩壊した頃に就学年齢になったが、家から歩いて30分かかる小学校に通うのは危ないとの理由で両親が入学させず、代わりにじゅうたん織りの内職を手伝っていた。だが、3年前にNGOが女子学校をつくると友達から聞きつけ、親を説得。年下の子に交じって学んできた。
BRACの学校では、夏休みや冬休みなど長期休暇がなく、3年間で5年生までの課程を一気に教える。アフガンの教育省と連携し、卒業後は能力と年齢に応じて公立学校の6年生以上に編入できる。マスマさんは「勉強を続けて医者になりたい」と夢を語った。
BRACはアフガンでこうした小規模の小学校を約2300校運営し、少女を中心に約7万人が通う。
BRACはバングラデシュが内戦を経てパキスタンから独立した翌年の1972年に設立された。貧困の削減を目的に活動し、現在、バングラデシュ国内だけでスタッフが10万人、全国に事務所があり、国民の75%に当たる1億1千万人をカバーする。年間の支出は4億9500万ドル(約411億円)で、銀行や大学も経営する世界最大規模のNGOだとされる。
BRACが初の海外支援先として、アフガンでの活動を始めたのは02年。事務局長のマハブブ・ホサインさん(66)は「戦乱後の復興という部分は私たちの歴史と似通っていた。自分たちの経験を役立てようと考えた」と説明する。
実際、アフガンでの活動はバングラデシュで培った手法を主に使っている。小規模の学校は85年に始めた活動。教師を1人とすることでコストを抑え、きめ細かな指導ができるよう生徒を30人程度に絞る。こうした学校はバングラデシュ国内に約3万校ある。
バングラデシュ方式が奏功しているもう一つの活動が貧困層向けの少額融資(マイクロファイナンス)だ。女性を対象に5千~5万アフガニ(約8500~8万5千円)を貸し出し、起業によって自立を促す。
カブールに住むトルピカイさん(43)は3年前、1万アフガニを借り、市場から布を買って婦人服の仕立てを始めた。近所の人や市場で売れるようになり、借り入れと返済を重ねて、月7千アフガニ程度の収入が入るようになった。BRACの少額融資は14万6千人が利用し、融資総額は計3400万ドルに達する。
このほか、アフガンでは公立診療所の委託運営、農業支援なども行っており、職員の数はバングラデシュ人が139人、アフガン人約3千人に上る。アフガン代表のアリフル・イスラムさん(52)は「私たちは途上国のNGO。何でもできるわけではないが、能力に基づいて貧困を解消していきたい」と話す。
アフガンを皮切りに、BRACはいまアジア、アフリカ、カリブ地域の計9カ国に活動を広げた。年内には新たにフィリピン南部ミンダナオ島で学校の活動を始める予定だ。(後略)【3月19日 朝日】
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今後アフガニスタンの治安が悪化し、最終的にタリバンが復権するということになれば、こうした女性教育や女性向け起業融資なども頓挫することになるでしょう。
その意味で、先日の米兵による住民殺害事件による情勢流動化が懸念されます。
【インド:マイクロファイナンスで自殺者続発】
なお、マイクロファイナンスについては、バングラデシュのグラミン銀行が著名で、その総裁だったユヌス氏はノーベル平和賞も受賞しています。
マイクロファイナンスの話題は、これまでも11年3月3日ブログ「バングラデシュ ユヌス氏をグラミン銀行総裁から解任 厚い既存政治の壁」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110303)など、何回かブログで取り上げましたが、マイクロファイナンスには「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」(バングラデシュのハシナ首相)との批判もあります。
下記は、インドにおける、そうしたマイクロファイナンスの問題を指摘したものです。
****存亡の淵「マイクロファイナンス」*****
ノーベル平和賞の「小口金融」に自殺続出。高金利と追い貸しでインド版サブプライムか。
貧困撲滅と収益を両立させるマイクロファイナンス(貧困層向け小口無担保融資)が存亡の危機にある。発祥の地バングラデシュのグラミン銀行では、06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス総裁が3月2日、中央銀行に解任された。隣国インドでも、投資家ジョージ・ソロス氏の支援も得て昨年8月にマイクロファイナンス機関(MFI)初の上場を遂げたSKSマイクロファイナンスが、わずか9カ月で株価が発行価格の3分の1に落ち込んだ。
ユヌス解任は現政権との政治的確執が原因とされているが「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」(シェイク・ハシナ首相)とのMFI批判にも一理ある。現にMFIが盛んなインドのアンドラプラデシュ(AP)州では、利用者の自殺が相次ぎ、MFIのリスクが顕在化している。
年率150%の急成長
AP州にはSKSのほかに、シェア・マイクロフィン、アスミサ・マイクロフィン、スパンダナ・スフルティーなど大手が拠点を構え、インドのMFIの約4分の1が集中している。融資件数は村落と都市部を合わせて960万件(うち村落が650万件)、貸出残高の合計は723億8千万ルピー(約1300億円)に上る。09年時点でインド全体のMFIの推定貸出残高が1600億~1750億ルピーだったから、いかにAP州に集中しているかわかるだろう。
「家計が苦しくて借りましたが、金利があまりにも高く、毎週の返済のやりくりがつかず、取り立て業者から何度も返済を迫られました」。AP州第二の都市ヴィシャーカパトナムでは10月、MFIの融資を受けていた女性の留守中に、10歳の娘が取り立て業者と自助組織の会員たちに誘拐される事件が起きた。少女は無事、警察に保護されたが、彼女が追いこまれた状況は典型的だ。
インドのMF業界には約300社が参入しているが、貸出残高の合計の約74%は上位10社で占められている。インドではMFIが短期間で主要ビジネスとして急成長し、創業者たちは巨富を得た。06年度にインド国内5州で融資件数が20万2千件だったSKSは、4年後の10年度には19州で融資件数は約670万件へ、支店数は80店から2千店強、貸出残高も294億ルピーへと年間伸び率147.7%を記録している。(中略)
しかし急成長の裏には、多くのMFI各社が50%という高金利で融資し、追い貸しで回収率を引き上げてきた実態があった。インドでは融資事業は州政府が管轄しているため、AP州政府は10年10月に「2010年MFI法」を制定して強引な取り立てを封じこめようとした。細かい条項違反に重い罰金刑を科し、当局の許可なしでの追い貸しを禁止、回収も週1回でなく月1回(窓口は村落集会パンチャーヤト)にするなど、あまりにも厳しい内容で、MFIの存続を危うくした。
この結果、AP州では半年前には回収率98%を記録していたのが、自助組織に所属する60万人が債務不履行に陥った。州政府はMFIを機能不全に追い込みながら代替措置を打ち出さず、「病気より体に毒な治療」と非難された。
MFIのミソは小さな自助組織に貸し付けて、こまめに返済させるところにあるが、JRGセキュリティーズのアナンド・タンドン最高経営責任者(CEO)は「毎日のように余った金を集めなければ、この商売は成立しない。そうしないと、利用者が全額使い果たす」と言う。
MFIが崩壊して高利貸しが跋扈する時代へ逆戻りするのか。中央銀行のインド準備銀行(RBI)は昨年10月15日、小委員会を発足させ、MFI崩壊に対処するため調査に乗り出した。
今年1月に発表した小委報告によれば、利用者が借入資金のうち収益につながる事業活動に充てた割合は25.4%にとどまり、過去の借入金の返済に充てた(追い貸し)割合は20.4%。MFIが拡大を急ぐ余り、利用者の過去の債務歴や融資目的、返済能力を何も調べずに貸し付けた実態も確認できた。
自助組織にどれほどの返済能力があるかにかかわらず、取り立て業者が毎週、強引に返済を迫っていた事実もつかんだ。利用者が返済に行き詰まると、返済資金に追い貸しを迫り、借金を雪だるま式に膨らませていながら、銀行には何食わぬ顔で100%の回収率を提示していた。
また、強引な取り立てが原因とみられる自殺も51件あり、小委報告は「貧しい人々を貧困から救うはずのMFIは、融資を受けた人々の利益を奪うばかりか、尊厳や命まで奪った」と厳しく非難している。そのうえで、 MFIの貸出金利の上限を24%に設定、 金利のマージン(貸出金利と調達金利の差)は10~12%、 MFIを州政府の管轄から外し、借入額・金利・融資条件の明確な枠組みを設けた新タイプの金融機関として位置付ける――などを提案した。
中央銀行元総裁が警鐘
中央政府は小委提案を受けて、MF事業を規制する政府法案を作成する二人制パネルを任命した。法案は6月にも開かれる次回議会で提案される予定で、通過すればMFIは州政府の法令の影響を受けなくなる。
「規制の枠組みが一元化されるなら安心だ」とMFI業界の期待も高まっている。銀行も融資資金の証券化を再開し始めた。3月末に2行と融資資金の証券化取引を成立させたSKSのディリ・ラジ最高財務責任者(CFO)も「流動性ポジションを強化できる」と安堵している。銀行側は、このほかに、MFI5社の企業債務再編にも乗り出した。
しかし、安定した返済能力のない利用者に融資をしながら、銀行に対しては十分な回収能力があることを示して流動性を確保しなければならない――というジレンマに変わりはない。強力な自助組織と、事業を継続させるためにも法外な高金利融資の廃止という「2点を守れば、MFは今後もインドの優良事業分野として展開できる」(専門家)。
RBIも5月3日の声明で小委の提案を概ね受け入れるとともに、4月1日以降のMFIに対する銀行融資は、社会責任として銀行に融資を義務付ける「優先分野貸付」に分類して返済期限を延長、MFIの貸出金利の上限や融資条件の一部を小委提案より緩める考えを示した。
しかし、MFIに野放図に融資を広げさせるなとする意見がある。リーマン・ショックでインドの金融秩序を守ったY・V・レディ元RBI総裁は「MFはまるでインド版サブプライムローン。証券化やデリバティブ(金融派生商品)など米国の金融機関と同じ考え方だ。そして今度は優先分野貸付だ」と発言し、MFIの将来に警鐘を鳴らした。【11年6月8日 FACTA】
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マイクロファイナンスを単なる収益目的の金融業として運営すれば、生活苦の貧困者の多重債務・追い貸しを惹起し、「自殺者続出」という結果は目に見えています。
借りる側に資金の使途を明確にさせ、その起業をサポートする態勢が必要となります。
マイクロファイナンスが有意義な結果を生み出せるかは、運営する主体の理念にかかっています。