(3月21日、ニューヨークのユニオン・スクエアで行われた、(被害者少年が“怪しい”とされた)フードをかぶって事件に抗議する“Million Hoodies March” なお、今回事件の加害者はヒスパニックであり、「白人対黒人」という典型的人種問題ではないとの指摘があります。 “flickr”より By david_shankbone http://www.flickr.com/photos/shankbone/6858748392/ )
【「黒人男性が白人の少年を射殺したら、間違いなく逮捕された」】
2月26日、アメリカ・フロリダ州中部のサンフォードで発生した、住宅地の自警ボランティアによる黒人少年の射殺事件で、加害者の「正当防衛」が認められ逮捕されずに釈放されたことへの批判が高まっています。
****黒人少年射殺の白人自警団長、釈放が波紋 米で抗議デモ*****
米フロリダ州で黒人の少年が「自警団長」の白人男性に射殺された事件が、全米で注目を集めている。男性は正当防衛が認められ、逮捕もされなかったが、少年が武器を持っていなかったことや、男性から攻撃した可能性が明らかになった。抗議行動が広がり、司法省や連邦捜査局(FBI)も捜査に乗り出した。
事件は2月26日、オーランド近郊のサンフォードで起きた。コンビニで買い物して帰る途中だったトレイボン・マーティンさん(17)が、自警団長でヒスパニック系白人のジョージ・ジマーマンさん(28)に射殺された。ジマーマンさんは警察に一度拘束されたが、「マーティンさんから攻撃され、正当防衛で発砲した」との主張が認められ、逮捕されずに釈放された。
しかし、事件の詳細が明らかになるに連れ、警察の判断に疑問が投げかけられている。ジマーマンさんは事件の直前、車から「フードをかぶった怪しい人物が町中を歩いている」と警察に通報していたが、この時に黒人に対する差別的表現と受け取れる言葉を使い、「あいつらは、いつも逃げるんだ」と発言していた。通報を受けた担当者は、車に残るよう求めたが、ジマーマンさんはこれを聞かずにマーティンさんを追っていた。一方、マーティンさんは武器を持っていなかったうえ、撃たれる直前には交際中の彼女に「男性につけ回されている」と相談していたことも明らかになっている。
「黒人男性が白人の少年を射殺したら、間違いなく逮捕された」という批判が高まっている。フロリダ州知事も、必要があれば「正当防衛」を幅広く認めるフロリダ州の法律の見直しを検討する、と述べた。
21、22日にはフロリダ州やニューヨークで、ジマーマンさんの逮捕を求めるデモがあり、数千人が参加。ニューヨークのデモにはマーティンさんの両親も参加、「息子が理由もなく殺害された」と訴えた。
オバマ大統領も23日の会見で事件について「悲劇だ」と言及。捜査についてのコメントはしなかったが、「もし、私に息子がいたとしたら、トレイボンのような顔をしていたはずだ。私たちは全員、アメリカ人としてこの事件にふさわしい真剣さで向き合う」と語った。【3月25日 朝日】
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【「この事件では、人種間の不平等の根深い問題が露呈した」】
人種的差別を禁じたアメリカ社会において、人々の心に差別の意識が根深く存在することは周知のところで、今回事件も被害者が黒人だったことから「人種差別的措置だ」として、起訴を求めるネット上での署名やデモなど、抗議運動が激化しています。
****フロリダ黒人少年射殺事件、起訴を求めてデモ****
米フロリダ州で前月末に起きた黒人少年が射殺された事件をめぐり、同州サンフォードで26日、約8000人が参加する抗議デモが開かれた。
デモ隊は、トレイボン・マーティンさん(当時17)を射殺した自警団のジョージ・ジマーマンさんの起訴を求め、200万人以上が署名した請願書を携えてサンフォードの街中を行進、「トレイボンに正義を」と声を挙げた。
デモを先導したのはマーティンさんの両親、トレーシー・マーティンさんとシブリナ・フルトンさん、そして市民権活動家のアル・シャープトンさんとジェシー・ジャクソンさんもこれに加わった。
ジャクソンさんは、「この事件では、人種間の不平等の根深い問題が露呈した――これは少年の問題に留まらず、国内の人種観をも示している」と述べた。また、司法制度、警察当局、そして銀行などにおける人種差別についても触れ、「(このようなことが)長く続きすぎている」とした。
今回の件についてシャープトンさんは、「司法のひどい茶番」と一蹴した。
請願書は、ジマーマンさんの捜査および起訴を求めており、活動家グループの「Change.org」によりオンラインで集められたもの。26日は、同市の月例市議会が予定されており、これに出席する市長と市当局へと提出されることになっていた。
前月26日に起きた「ゲートコミュニティー(自衛居住区)」での事件について、ジマーマンさんは、少年との間で口論となり、「正当防衛」のために射殺したと主張している。
地元紙オーランド・センチネルは26日、ジマーマンさんが警察当局に対し、先にマーティンさんに暴力を振るわれたと話していたことを伝えている。報じられたところによると、マーティンさんはジマーマンさんの顔を殴ったあと馬乗りになり、ジマーマンさんの頭部を何度も地面に叩きつけたという。【3月27日 AFP】
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【加害者は白人ではなくヒスパニック 論議を呼ぶ「正当防衛」】
冒頭朝日記事の見出しは“白人自警団長”となっていますが、加害者の男性は父が白人、母が南米出身ということで、単純な「黒人対白人」という図式ではないようです。
下記のNewsweek記事で、冷泉氏は、今回事件の特徴は「加害者が白人でなくヒスパニックである」ということにあると指摘しています。
もうひとつ問題となっているのが、「正当防衛」を幅広く認めるフロリダ州の法律です。
この法律においては、危険が迫ったことの客観的な証拠がなくても、自分が危険を感じたのであれば、銃器の使用が「正当防衛」として認められています。
****フロリダの悲劇で大問題に発展した「正当防衛法」とは?****
2月にフロリダ州中部のサンフォードで発生した、住宅地の自警ボランティアによる黒人少年の射殺事件ですが、その後、このジョージ・ジマーマンという28歳の行為に関しては、全米を揺るがす論争に発展しています。
この問題ですが、白人が黒人を撃ってしまい、保守派は正当防衛を主張、一方でリベラルは有罪を要求するというような「典型的な」議論とは相当に異なっています。
問題を複雑にしているのは、2つの要素です。それは、ジマーマンという男性が白人でなくヒスパニックであること、もう1つはフロリダ州など南部に多い「正当防衛法(スタンド・オン・ユア・グラウンド・ロー)」が絡んでいるという点です。
やや大雑把な言い方になりますが、仮に今回の事件が「白人が撃った」ケースであれば、これほどの騒ぎにはならなかったと思われます。今回のような相当に一方的な射殺ということでもそうです。というのは、現在の大統領は黒人のオバマであり、しかも今年は彼が再選を狙う大統領選の年だからです。
仮に、民主党のリベラルが「これは黒人に対するヘイトクライムだ」という告発に燃え、全国的な問題にしたとします。そうすれば、白人の保守派は「そんな言いがかりが通るとしたら、それは黒人のオバマが大統領だからだ」と猛然と反発するでしょう。「チェンジの正体は白人敵視だった」というキャンペーンが盛り上がれば、もしかすると選挙戦の情勢が変わるかもしれません。
選挙戦への影響はともかく、そうなれば、国論を大きく2つに引き裂くことになるわけで、左右の両勢力ともに、そうした泥仕合は望むことはないと思われるのです。
ところが、今回の「加害者」はヒスパニックであり、白人ではないのです。そこで、全米のリベラル的な世論は「黒人被害者の正義」に乗っかることに余り抵抗がないということになります。
では、ヒスパニックを叩いてしまうと、今は巨大となったヒスパニック票が逃げるではないか、というとどうもその懸念は薄いのです。
ヒスパニックの人達というのは、多くのグループに分かれている一方で、その世論を束ねるリーダーも不在なのです。また、前回の選挙ではオバマを支持したように、この国の人種問題というのは要するに白人の意識の問題だという理解が強いので、一気に共和党支持に動くとは思えないわけです。今年の候補はロムニーになりそうだということもあります。
もう1つは「正当防衛法」の問題です。トラブル回避の努力をしたとか、危険が迫ったことの客観的な証拠があるといった「認定要件」なしで撃ってしまっても大丈夫で、起訴どころか逮捕もされないという南部を中心とした地域独特の法律があるのですが、今回の初動ではこの法律が適用されていることが問題になっています。
リベラルの方としては、この「正当防衛法」そのものが問題だという動きになってきています。ということは銃社会イデオロギーに対する反対を堂々と展開できる一方で、国論を二分する銃規制そのものには踏み込まずに政治的な勝負ができるという格好です。
では、この問題には落としどころがあるのでしょうか?
私はあると思います。それは、このジマーマンという男性に、正当防衛法の適用をせず、殺人罪または傷害致死で起訴に持ってゆくという方法です。そうなれば、少年の犠牲に対してある種の名誉回復はできますし、保守派も「この事件は適用外だった」ということで正当防衛法そのものの合憲性論議は避けられるという、「両得」になるからです。
その場合は、このジマーマンという男性については、仕方がないと思いますが、ヒスパニックの人々にはスッキリしないものを残すのではと思います。また、黒人の若者の挙動がヒスパニックにはどう誤解されたのか、ヒスパニックの側の殺気をどうして黒人の若者が感じなかったのかという異文化コミュニケーションの問題も中立的な解明は望み薄とも思います。
何よりも、「そこに銃があったから」という銃そのものが問題だという論議については、アメリカ社会は今回も分裂を恐れてスルーすることになるでしょう。オバマが大統領であるがゆえのパラドックスと言っても良いかもしれません。【3月28日 冷泉 彰彦 Newsweek】(http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2012/03/post-417.php)
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「白人対黒人」という典型的人種差別問題ではないため、人種差別論議が引き起こす混乱を避けて抗議運動が可能で、また、「正当防衛法」に焦点をあてることで、これまた論議を呼ぶ「銃規制」という根本的問題を避けて通ることができる・・・という指摘です。
なんだか根本的問題をスルーする形で、すっきりしないものが残りますが、いたずらに社会的混乱を煽るよりは賢明なのでしょう。
【人種差別的な投稿で禁固56日の実刑判決】
人種差別に関しては、イギリスで、ツイッターで人種差別的な投稿をした大学生に禁錮56日の実刑判決が科されたことが話題となっています。
****ツイッターで人種差別発言 英国の学生に禁錮56日****
試合中に心停止で倒れたサッカーのイングランド・ボルトンのMFムアンバ選手についてツイッターで人種差別的な投稿をしたとして、英西部ウェールズの裁判所が27日、大学生(21)に禁錮56日の実刑判決を言い渡した。
判決によると、大学生はムアンバ選手が倒れた直後に「ムアンバの野郎が死んだ」と投稿。他のツイッター利用者からの抗議の投稿に対し、人種差別的な内容の反論を繰り返した。
大学生は投稿した翌日に人種憎悪をあおった容疑で逮捕された。公判では弁護側が「投稿時は酒に酔っていた。反省もしている」として猶予刑を求めたが、判事は「ネット上の発言は法の規制外と考える人への警告」「アルコールへの対処法について教訓を学ぶべきだ」と実刑を言い渡した。
ムアンバ選手はコンゴ(旧ザイール)出身。17日の試合中に倒れて重体になったが、その後は快方に向かっている。ツイッターでは判決を歓迎する投稿が広がったが、「実刑は厳しすぎる。奉仕活動命令で十分だったのでは」といった意見もある。【3月30日 朝日】
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“人種差別的な投稿”の内容はよくわかりませんが、実刑判決に相当しそうな発言は日本でも2チャンネルなどに溢れています。