(写真は、後述のイラン忍者スクールとは別物で、軍か警察の女性隊員の訓練風景です。黒のスカーフですから、こちらもまるで忍者のようですが、ずっと本格派です。逆らうと殺されます。 “flickr”より By Majd Selbi http://www.flickr.com/photos/35445333@N08/5430659866/ )
【「喚問を試みた者はそれほど賢くもなさそうだ」】
イランでは、保守派内部でアフマディネジャド大統領と最高指導者ハメネイ師に近い反大統領派の権力闘争が激しくなっており、2日に投票が行われたイラン国会議員選挙では、議席の4分の3以上を制する形で反大統領派が圧勝、大統領派は惨敗しました。
反大統領派は選挙勝利の勢い乗って、14日、33年前のイスラム革命以降初めて、大統領を議会に喚問しています。
議会側は、この大統領喚問で、アフマディネジャド大統領の経済政策が失敗し、10年12月の政府補助金削減後に激しい物価高を招いているとしたほか、大統領が去年4月、最高指導者ハメネイ師に逆らって11日間閣議を欠席し公務を行わなかったとして責任を追及しました。
****大統領の責任を追及 経済問題など、イラン国会****
イラン国会は14日、アフマディネジャド大統領を呼び、経済問題などについて集中的に質問した。大統領に対する事実上の「喚問」で、イラン史上初めてとされる。反大統領派が優勢な国会で、インフレや失業率を抑制できない大統領の責任を問う声が相次いだ。
これに対し、大統領は「前政権ができなかった経済改革を進めた。できることはすべて実行し、経済は発展している」と一般論でかわし、具体論には踏み込まなかった。
イスラム式の服装規定を守らない女性を警察が摘発することに、大統領が否定的な発言をしたことを質問されても、「人々に敬意を持って接しなさいということだ。警察力だけで文化的な問題は解決しない」と反論。答弁の最後には「喚問を試みた者はそれほど賢くもなさそうだ」と述べ、議員たちを怒らせた。
現国会の任期は4月末まで。今月2日の国会議員選では反大統領派が約6割から約7割に増えたため、5月に招集される新国会では大統領との対立がさらに激化しそうだ。【3月15日 朝日】
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【大統領の権力弱体化を印象づける狙い】
アフマディネジャド大統領は、議員の批判をかわしながらも、ハメネイ師に逆らう意図はないと弁明したうえで、「議会は私の喚問ではなく、国民のためにすべきことがほかにあるのではないか」と、議会を批判しました
今後に展開については、これ以上の弾劾などには至らないと見られています。
****イラン国会が大統領を喚問-弾劾の可能性は薄い****
・・・・喚問はハメネイ師支持派が要求していたもので、国営ラジオで生中継された。イランの法律では、喚問は大統領弾劾につながる重大な動き。しかしアハマディネジャド大統領は、質問には直接答えず、逆に議員に問い返すなど質問者を翻弄し、議員の多くが金を払って学位を所得したなどとして議員の信頼性に疑問を投げかけた。
国会は喚問を受け、大統領の回答を十分として受け入れさやを収めるか、大統領の不信任投票を発表し弾劾のプロセスに入るかのどちらかを選択することになる。
イラン問題専門家で米ボストンに拠点を置いているモハマド・タハボリ氏は、「弾劾はあり得ない。ハメネイ師は混乱を起こしたくないと思っているからだ。アハマディネジャド大統領との対立がさらに先鋭化すれば、大統領はイランの政治体制を崩壊させかねない」と述べる。
3月2日に行われた国会議員選挙で、大統領派は大敗し、ハメネイ派と無所属が過半数を占めた。
国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランとの間の同国の核問題をめぐる交渉は、今後2、3カ月以内に実現する見通しとなっている。一方で、米欧などによる対イラン制裁は強化の一途をたどっており、イラン経済は疲弊している。
アハマディネジャド大統領は6カ国との交渉に前向きになっているが、ハメネイ師は妥協を阻んでいる。アナリストによれば、大統領は国内外での自らの地位を強化するため西側諸国との関係正常化を図りたいとの思惑があるという。【3月 15日 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版】
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核兵器の開発疑惑を指摘されたイランは6日、国際原子力機関(IAEA)による軍事施設の査察に応じると表明しています。今年1月と2月にはIAEA調査団の立ち入りを拒んでおり、イラン側が「譲歩」を示した形となっています。
これを受け、国連安全保障理事会常任理事国など6カ国とイランとの核協議も再開が決まっています。イランは譲歩の姿勢を示すことで制裁緩和につなげたい思惑があるとみられています。
しかし、イラン側がウラン濃縮を放棄することは考えにくく、協議が進展する見通しはないとも指摘されています。【3月8日 朝日より】
反大統領派は、欧米諸国により強硬な姿勢をとるとされています。
今回の議会喚問は、国会で多数を占める反大統領派が大統領の権力弱体化を印象づける狙いがあるとされており、弾劾等には至らなくても、アフマディネジャド大統領の対イラン制裁緩和に向けた指導力発揮は更に難しくなりそうです。
【牛乳が欲しいからといって牛を買う必要はない】
ところで、冒頭記事に“イスラム式の服装規定を守らない女性を警察が摘発することに、大統領が否定的な発言をした”とあるように、宗教保守派に比べると、アフマディネジャド大統領は女性に寛容な姿勢を見せています。
ただ、他のイスラム国家同様に、イランでも女性の権利は、欧米価値観からすると大きく制約されています。
そんなイランにおける女性問題を示す記事がありました。
****イラン国会:「一時婚」登録制を拒否****
イラン国会は、正式な結婚とは別に、男女が契約を結べば一定期間だけ婚姻関係を持つことが許される「一時婚(シーゲ)」について、「役所への登録は不要」との結論を出した。一時婚はイスラム教シーア派独特の習慣。国内の女性からは「売春と同じだ」との批判があり、登録制にして一時婚の管理・抑制を求める声が強い。しかし、男性が大半を占める国会は「国民のプライバシーにかかわる問題だ」として登録制の動きを阻止した。
イスラム教では一般に男性は4人までの妻帯が可能。一時婚はこれとは別で、男女が互いにアラビア語で誓いをし、男性が女性に金を払えば、1時間から数十年間までの一定期間、関係を持てる。男性は既婚、未婚を問わないが、女性は未婚のみで、相続などの権利は一切ない。イスラム教スンニ派は一時婚を認めていない。
イランでは婚姻外の恋愛はご法度で、性的関係が発覚すれば男女とも石打ちによる死刑に処せられる可能性もある。だが、一時婚は貧しい女性を救済する意味もあり、金銭を介した男女関係として宗教上認められている。
イランの女性からは「男性ばかりに都合がいい制度」と評判が悪い。大半の男性は一時婚についてだれにも口外しない。一時婚で生まれた子供が父親に認知されず、福祉や義務教育の対象にならないなどの問題も多い。
このため、政府は女性団体などの意向を受け、一時婚を登録制にすることを盛り込んだ「家族保護法」の改正案を07年に国会に提案。長く議論を続けたが、多くの男性国会議員が強く反発。結局、今月5日に「女性が妊娠した場合や当事者が望む場合だけ例外的に登録する」と修正して可決した。
国会の決定について、テヘラン在住の女性人権活動家のバリモラドさんは「今後も男性に一時婚を奨励するような決定で、女性の人権を踏みにじるものだ。一時婚の後に子供ができたことがわかり、生活に苦しむ母子も多い。これでは家族保護法ではなく、家族破壊法だ」と話している。【3月15日 毎日】
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「一時婚」のイメージとしては、「地球人間模様」(http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/126.html)の下記リポートが参考になります。
****悪評高い「一時婚」制度 頻繁に利用する男性も****
・・・・ファルザネが批判する一時婚制度はイラン女性に概して評判が悪い。欧米諸国からも「売春を合法化している」との批判が上がる。同じイスラム教でもスンニ派は預言者ムハンマドの側近、第2代正統カリフが禁止したとして違法視している。
テヘラン南西部に住む主婦(37)は4年前に交通事故で夫を失った。社会保障は受けられず、6歳の娘と生きていくために近所の男性と3年前に初めて“1時間”の一時婚契約を結び、20米ドルの「結納金」を得て性交渉を持った。契約時間が終わると男性は結婚契約書を破り「これでおしまい」と言ったという。
その後、彼女は一時婚の手続きやあっせんをする聖職者のもとで登録。複数の男性と数時間から数日の一時婚契約を結び、月700〜1200米ドルを得ている。男性の多くが既婚者だという。
「自分が売春婦に思え、身体を焼いてしまいたいと思うこともある。生活のためだけど、娘には知られたくない。イスラム教で認められている制度ということだけがせめてもの救い」と話し、涙を流した。
一方、一時婚を頻繁に利用する建築会社勤務の男性(31)は悪びれずに話した。「25歳の時の初体験も一時婚だった。普通の結婚は金がかかるし面倒。牛乳が欲しいからといって牛を買う必要はない。コップ一杯の牛乳を買えばいいんだ」
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殆んど「売春」に近い制度のようですが、多くの制約のもとで女性の社会進出が難しいイランにあっては、他に収入を得られない女性の生活を支える方策にもなっているようです。
【伝統的な方法での伴侶探しは現実と乖離】
上記「地球人間模様」は、イランにおける結婚相談所を取り上げており、男女関係をめぐる現代イラン社会の一面として興味深いので、紹介します。
****困難な出会い、相談所頼み****
変わる女性の伴侶探し 伝統とのはざまで苦悩
イランの首都テヘラン西部のアパート4階にある結婚相談所「若者の希望の家」ではひっきりなしに電話が鳴っていた。「27歳女性、語学の学士号を持っています。高学歴で29〜32歳の男性を紹介してください。公務員だとなおいいです」
十数人の女性相談員が顧客の希望を用紙に書き込む。異性の会員のデータを検索して希望に沿う相手を探し、双方に紹介するのだ。
イスラム教の戒律を厳しく適用、結婚前の男女交際は好ましくないと見なされるイラン。結婚相手は親や親戚が決め、夫婦は結婚式当日に初めて顔を合わせるのが理想とされている。だが、都市人口が増え、生活様式や若者の考え方も変化。伝統的な方法での伴侶探しは現実と乖離(かいり)している。
同相談所には2200人以上が登録。最近は登録数が激増しており、3分の2が女性。大学で生物学を学ぶ29歳のザハラもその一人だ。
妹が結婚できない
テヘラン近郊の「信仰をほどほどに重んじる」家庭の8人きょうだいの4番目。すべての女性が頭髪を隠すことを義務付けられているイランだが、髪を1本も露出させずにスカーフでしっかりと包んだ保守的なスタイルは最近の若い女性には珍しい。
男性との交際経験がないザハラが結婚を急ぐのは年齢による焦りもあるが、自分が結婚しないうちは2人の妹も結婚できないという家庭内の暗黙の決まりのせいもある。
同結婚相談所では週に1度、男女の登録者40人ほどが集まり、お互いに顔を合わせる「会合」も行われる。自己紹介をして結婚観などの意見交換を行い、好印象を持った異性の番号を紙に書いて交換し合う。双方が合意すれば結婚を前提にした交際に発展する。
会合に参加していた女性は概して高学歴だった。対する男性は年配でブルーカラーが多い傾向がある。
「自分より学歴や収入が上の女性を避ける男性が多いし、男性の母親は夫に従順で家事が得意な嫁を好む」とザハラ。一方、大学進学率が男性を上回るほど高学歴化が進むイラン女性が最も重視するのは「経済力」。自分より収入の低い男性は「お断り」のようだ。
ザハラは数カ月前、相談所を通じて知り合った男性(34)を自宅に招待した。「収入も学歴も申し分なかった」。だが、ザハラの家にイスラム教の教典コーランの一節を書いた壁掛けがあったことを理由に、世俗的な生活を好む男性の母親に結婚を反対されたという。
相談所ではほかに3人の男性を紹介されたが、いずれも地方の実家で暮らしたいと言われ、家族のいるテヘラン近郊に住みたいザハラの希望と折り合わなかった。
婚前交渉も
ザハラの婚活の行方を気に掛ける妹の24歳のファルザネには、最近つきあい始めた男性(25)がいる。「私は情熱的。いつも一目ぼれで恋愛が始まるの」とファルザネ。公園でデートもする。イスラム社会でタブー視される婚前交渉も「最近はしている人が多い」。
だが、ファルザネは、結婚を前提とした真剣な交際を避けるイラン男性が多いと話す。イランの国教であるイスラム教シーア派で合法とされる「一時婚」という制度のせいだという。
一時婚は男女が期間と結納金の額を決めて婚姻契約を結ぶ制度。婚姻外の性交渉は姦通(かんつう)罪とされ、既婚者は石打ちによる死刑、未婚者はむち打ちの刑に値するイランだが、一時婚の関係なら問題ない。「一時婚で性的欲求を満たせればいいと考える男が多い。責任を取りたくないのよ」とファルザネは憤る。
テヘランでほぼ唯一の結婚相談所である「若者の希望の家」は婚前恋愛を奨励しているとも受け取られ、イラン当局からすれば限りなく違法に近い施設。責任者のヤズダニ・サイードは「需要が多いことを察してか、今のところは当局も見逃してくれている」と話す。「きちんとした身元の人を」と親に連れられて来る利用者もいる。
ザハラは数カ月たっても「成果」がなかったため、家族に相談所通いをやめるように言われた。でも、ほかに男性と知り合うあてもない。「親に内緒でもう少し通おうと思う」と打ち明けた。 「地球人間模様」(http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/126.html)より
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イラン男女交際事情ついでに、ネット恋愛に関する記事も。
****イラン:「ネット恋愛」を宗教指導者が容認****
イランのイスラム教シーア派最高権威(大アヤトラ)の宗教指導者、マカレム・シラジ師は28日までに、インターネット上で若い男女が知り合うことについて、容認するファトワ(宗教見解)を出した。結婚前の自由な男女交際や大勢のパーティーすら禁じられる同国で「ネット恋愛」にゴーサインが出るのは異例。
イラン学生通信などによると、同師はネット上の恋愛について「さまざまな人々がネット上で相手を探し、一部は成功しているようだ。イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」との見方を示した。
同国では高校まですべて男女が分離され、互いに知り合う場が少ない。反政府デモへの警戒からイラン当局は交流サイト「フェイスブック」などの閲覧を禁じているが、サイト上では多くの男女が交友関係を広げているのが実態だ。
家族の役割を重視するイスラム教国のイランでは早い結婚が奨励され、アフマディネジャド大統領は昨年11月、「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」と語った。しかし、女性の高学歴化や男性側の資金不足などで、現実には結婚平均年齢(女性24歳、男性26歳)は上がる一方。こうした現状に宗教界も頭を痛め、ネットを通じた恋愛が結婚を促すとして容認したとみられる。【11年6月29日 毎日】
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【手裏剣だって投げます】
イラン女性について、もうひとつ、こんな記事も。
****イラン女性に「忍術」が人気?華麗な技を披露****
イランの女性たちの間で近年、日本の忍術や武道が人気を呼んでおり、イラン武道連盟傘下の武道クラブで忍術を学ぶイラン女性は3000人に上るという。首都テヘラン西方のカライでは15日、忍術を学ぶイラン女性によるデモンストレーションが行われた。【3月16日 AFP】
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イラン「くの一」については、以前から話題になっており、You Tube動画 「Iranian Ninjas-Iran-01-29-2012」(http://www.youtube.com/watch?v=MJjpFYVvwBo&feature=player_embedded)が、百聞は一見に如かずです。ツッコミどころ満載で、とても面白い動画です。
「一時婚」「結婚相談所」「ネット恋愛」に「忍術」・・・・核兵器開発疑惑などの報道では見えてこないイラン社会の一断面です。