(カスピ海に面した橙色に塗られた国がアゼルバイジャン その南の大きな国がイラン イラク・シリア・ヨルダンをはさんで地中海に面したイスラエルとはかなり距離があります。)
【“核のアヒル”】
ここのところは北朝鮮の「衛星」疑惑でややかすんではいますが、イランの核兵器開発疑惑を巡る、イラン核施設攻撃やホルムズ海峡封鎖といった緊張は相変わらずです。
****イラン:ハメネイ師「攻撃あれば報復」*****
イランの最高指導者ハメネイ師は、イラン暦の新年初日に当たる20日、イスラム教シーア派の聖地マシャドで演説し、「米国やイスラエルによるいかなる攻撃に対しても、国を守るために同じ程度で報復する」と語った。
国営放送によるとハメネイ師は、疑惑が指摘される核兵器開発に関し「我々は一切所有していないし、今後作るつもりもない」と改めて主張。さらに「米欧諸国は、イランが核兵器を作る気がないことをよく知りながらイランに敵意を向けている。それは、我々の石油を狙っているからだ」と語った。【3月21日 毎日】
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いつも思うのですが、宗教的権威であるハメネイ師が「我々は一切所有していないし、今後作るつもりもない」と言い切るのは、どういうことなのでしょうか?
国益のためなら嘘をついてもいいということなのか、ひょっとして核開発の実態を知らされていないということがあり得るのか・・・・。
イスラエルのネタニヤフ首相は、アメリカの親イスラエル系ロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」が5日に米ワシントンD.C.で開いた会合で、イランの核開発は原子力の民生利用ではなく核兵器開発だというイスラエルや欧米側の見解に疑問を抱く人々を嘲笑し、「アヒルのように見え、アヒルのように歩き、アヒルのように鳴いているのだとしたら、その動物は何か。そう、それはアヒルに決まっている。だが、このアヒルは核のアヒルなのだ!」とスピーチしています。
ただ、軍事的には難しいとされているイラン核施設攻撃をイスラエルが本気で考えているのか、欧米諸国によるイラン制裁を推し進めるための“脅し”なのか・・・、これもよくわかりません。
3月6日ブログ“イラン核開発問題 イスラエルのネタニヤフ首相「独自の決定をする主権がある」「これ以上は待てない」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120306)参照
【双方がスパイを送り込む“戦場”】
そんなイスラエルとイランが、アゼルバイジャンを舞台に激しい綱引きをしているという、面白い記事がありました。
****アゼルバイジャン:イスラエルが急接近 焦る隣国イラン*****
核開発を進めるイランとイスラエルの緊張が高まる中、カスピ海沿岸の小国アゼルバイジャンを巡って両国が激しい綱引きを繰り広げている。イランの北隣にあるアゼルバイジャンをイラン攻撃に備えた拠点にしたいイスラエルと、それを阻みたいイランが対立しているのだ。双方がスパイを送り込む“戦場”となったアゼルバイジャンは、自国の立ち位置に苦悩している。
アゼルバイジャンは旧ソ連から91年に独立した。人口約900万人の7割がイスラム教シーア派で、シーア派宗教国家・イランとの関係が深い。
しかし、イランへの敵対姿勢を強めるイスラエルがアゼルバイジャンに急接近している。AP通信によると、イスラエルは2月末、アゼルバイジャンとの間で約16億ドル(約1300億円)の武器取引の契約を締結した。
イスラエルはイラン核施設への空爆を計画しているとされるが、両国は1500キロ以上離れ、給油などで近隣国の協力が不可欠だ。イランは「イスラエルがアゼルバイジャンを攻撃拠点とするのでは」と警戒している。アゼルバイジャンは、イスラエルの情報機関モサドとイラン革命防衛隊員が暗躍する「スパイの巣窟」になっているといわれる。
3国の関係に影を落としているのが、今年1月、テヘランでイラン人核物理学者が殺害された爆弾テロ事件だ。イラン政府は「モサドが支援、計画した犯行」(最高指導者ハメネイ師)と断定してイスラエル非難を強め、同時に「犯人の逃走を助けた」としてアゼルバイジャンに抗議した。
イスラエルのアゼルバイジャン「侵食」にイランは焦りの色を見せている。イラン国営放送によると、イランは3月12日、アゼルバイジャンのアビエフ国防相をテヘランに呼び、「自国領土をイラン攻撃拠点に使わせない」との言質を引き出した。会談したアフマディネジャド大統領は「我々は兄弟同士で何の問題もない」と語り、蜜月ぶりを演出した。
一方、アゼルバイジャン当局は1月下旬以降、イスラエル要人を狙ったテロ計画に関与した疑いで不審人物を相次いで逮捕した。3月中旬にはスパイ容疑で22人を拘束した。いずれのケースにもイラン革命防衛隊の関与が指摘されている。
これに対して、イラン外務省は17日、「イスラエル側のたくらみに乗せられている」と反論、アゼルバイジャン引き留めに必死だ。
イラン、イスラエル両国の板挟みになっているアゼルバイジャンだが、戦争になればイランからの難民の流入も予想され、難しい対応を迫られている。【3月26日 毎日】
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アゼルバイジャンはカスピ海沿岸、イランと接し、バクー油田を抱える小国です。
国際面の話題としては、ナゴルノ・カラバフ自治州の分離独立を巡るアルメニアとの対立、欧州の進めるガスパイプライン「ナブッコ」計画における天然ガス供給国として登場します。
イスラエルとしては、イランと接するアゼルバイジャンを攻撃拠点に使えれば好都合でしょうが、アゼルバイジャンとしては、隣の大国「イラン」を敵に回すという、リスクが極めて大きい選択です。
イスラエルの攻撃が行われたとしても、対象は核施設であり、イランという国はそのまま残ります。
常識的には、そんな危ない選択をアゼルバイジャンがするとは思えませんが・・・。
“板挟み”と言うよりは、イラン・イスラエルを両天秤にかけて甘い汁を吸おうという思惑でしょうか。
それも、大火傷しかねない危ない試みです。