(香港行政長官選挙を争う“親中派”2候補 左が大きくリードしている梁振英氏 右が過去の不倫問題や自宅地下室の違法建築などスキャンダルが続出して失速した唐英年氏 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/7005925703/ )
【初めての“親中派”同士の争い】
香港は「一国二制度」により、中国の主権下にありますが、防衛・外交以外は「高度な自治」が保障されていることになっています。
現実には香港経済は中国経済に依存しており、近年、愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まったとされる香港ですが、住民の中国に対する意識には微妙なものがあることは、1月24日ブログ“香港と中国本土 地下鉄内騒動から感情的対立が過熱 「香港の人たちは犬だ」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120124)でも取り上げたところです。
その香港の行政長官を選ぶ選挙が現在行われており、明日25日が投票日となっています。
ただ、選挙とは言っても、行政長官選は政財界や業界団体などから選ばれた「選挙委員会」の委員1200人が投票権を持つ間接選挙で、委員の割り当ては中国政府と関係の深い団体に手厚いとされており、委員の多くはいわゆる“親中派”と見られています。
立候補者は、“親中派”である政府ナンバー2の政務官を務めた唐英年氏(59)、中国人民政治協商会議委員の梁振英氏(57)、「民主派」最大政党・民主党の何俊仁主席(60)の3氏です。
実質的には“親中派”2候補が争う展開となっており、本命とされてきた唐氏に、過去の不倫問題や自宅地下室の違法建築などスキャンダルが続出し、同じ“親中派”の梁氏が大きくリードする形となっています。
香港大学の世論調査(2月25~27日)での各候補の支持率は、唐氏16.8%、梁氏53.7%、何氏12.3%と報じられています。
当初最有力とされてきた唐氏は、妻名義の邸宅に違法な地下室を造っていたことが発覚、立候補辞退も取りざたされ、和風の風呂やジム、映写室にワインセラーまである「地下宮殿」などとの報道がなされました。
違法建築はともかく、「地下宮殿」云々はいささか大げさな言い様に思えますが・・・。
ただ、唐氏も対応がよくありません。
この騒動に、“唐氏は同日夜、妻と共に会見して謝罪したものの、「建築は妻の意向。違法と知っていたが、夫婦仲が悪く、私は関わらなかった」と責任を押しつけた。昨秋に唐氏が不倫を認めた際には妻が寛容な態度を示した経緯もあり、「唐氏には責任感も根性もないのか」との批判が相次いだ。”【2月21日 朝日】”とのことです。
【「報道の自由を抑圧する行為を強く非難する」とは言うものの・・・・】
“親中派”2候補は、それぞれ中国共産党とのつながりがあり、代理戦争の様相もあるようです。
****香港行政長官選:親中派2氏、泥沼の戦い****
25日投開票の香港特別行政区政府トップを決める行政長官選は、政府ナンバー2の政務官を務めた唐英年氏(59)と中国人民政治協商会議委員で実業家の梁振英氏(57)の親中派同士による一騎打ちとなっている。両陣営が展開する激しい選挙戦は、秋の中国共産党大会を前にした中国の権力闘争の影響を受けているとの見方は大きい。
唐氏は、江蘇省を同郷とする江沢民前国家主席や共産党幹部の子弟・太子党との関係を深めてきた大本命だった。だが、過去の不倫問題などで、梁氏に支持率で引き離された。
梁氏は「共産党の地下党員」「胡錦濤国家主席の出身母体・共産主義青年団(共青団)の支持を得た」とうわさされ、選挙戦は「江氏・太子党」対「共青団」の様相を呈した。だが、梁氏も行政長官の諮問機関・行政会議招集人を務めた時の不動産業者との癒着が指摘されるなど唐氏陣営からの攻撃が強まっている。【3月20日 毎日】
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中国とパイプを持つ“親中派”同士の争いということで、中国の組織的な関与は当初は表面化していませんでしたが、ここにきて、過半数を獲得する候補がいない場合の再選挙という混乱を嫌う中国が、梁振英氏への“肩入れ”を強めているとも報じられています。
****香港行政長官選、中国政府が肩入れ 委員に投票促す****
25日投開票の香港行政長官選挙を巡り、中国政府が親中派候補の一人に票がまとまるよう選挙委員らに促していることが分かった。複数の選挙委員が21日、朝日新聞の取材に答えた。香港政界からは「香港の自治を妨げる」と反発の声があがっている。(中略)
複数の選挙委員によると、中国政府の香港出先機関である中央駐香港連絡弁公室から今週に入って電話があり「民衆が受け入れやすい人物が長官にはいいのでは」と、暗に梁氏への投票を求められたという。
また、香港の各メディアによると、劉延東・国務委員(副首相級)が19日から香港に隣接する深セン(センは土へんに川)市内のホテルに滞在し、香港の選挙委員や政財界の要人と会見、梁氏への支援を要請しているという。滞在先とされるホテルは朝日新聞の取材に「重要な接待が行われている」と答えた。
票が割れた場合、5月に再選挙となる可能性があり、中国政府は香港の政情不安定化を懸念しているとみられる。過去3回の選挙でも親中派候補への支持を選挙委員らに働きかけていたが、今回は親中派同士が初めて対決するということもあり、直前まで特定候補への支持が表面化していなかった。【3月21日 朝日】
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唐氏のスキャンダルに加え、こうした中国の“肩入れ”もあって、梁振英氏の独走態勢ということのようです。
中国の“肩入れ”については、香港に保障されている「高度な自治」を侵害するものという批判があります。
****香港の中国政府代表部、香港紙に「圧力」 行政長官選報道巡り****
香港の中国政府代表部、中国駐香港特別行政区連絡弁公室(中連弁)の幹部が、25日投票の行政長官選挙の報道を巡り、香港の有力経済紙、信報に圧力をかけていた可能性があることが分かった。香港は「一国二制度」により中国の主権下にあるが、防衛・外交以外は「高度な自治」が保障されており、報道の自由はその中核。香港記者協会は「報道の自由を抑圧する行為を強く非難する」との声明を出した。
23日付の信報などによると、中連弁のカク鉄川・宣伝文体部長が信報のオーナーである李沢楷(リチャード・リー)氏に対し、行政長官選の候補者である梁振英(C・Y・リョン)前行政会議招集人についてマイナスとなる報道をしたことを批判。カク氏は李氏に直接電話をかけ、不在だったため秘書に「よくもこんな報道をしたな」などと伝えたという。
カク氏は23日、日本経済新聞の問い合わせに対し「私にはよく分からない。何もコメントしない」と述べた。一方、信報は陳景祥・編集長の話として「取材方針は編集部で決定している。編集部は李沢楷氏から何の指示も受けていないし、中連弁からの電話も受けていない」と伝えている。
中国政府は25日の選挙で梁氏支持に向け工作活動を続けているとされる。一方、李氏の父親で香港一の大富豪である李嘉誠氏は、対立候補の唐英年(ヘンリー・タン)前政務官への支持を明言している。【3月24日 日経】
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確かに、中央駐香港連絡弁公室による“暗に梁氏への投票を求める電話”とか、上記日経記事のような圧力は、「高度な自治」を侵害するものでしょう。しかし、中国の主権下にある香港の立場を考えると、現実問題としては、この程度の干渉は仕方ないのでは・・・といった感がします。むしろ、中国がよくこの程度で抑えているものだと思うのですが。
この程度の干渉も許せないのなら、中国の主権を否定する道を選択するべきでしょう。