孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パプア・ニューギニア  頻発する「魔女狩り」 近年強まる魔術信仰

2013-06-07 22:34:11 | 世相

(パプアニューギニア・ラバウルのマーケット 「魔女狩り」を行うのは、観光パフォーマンスで目にするような鼻に骨を刺して腰みの・羽根飾りを着けた人々ではなく、こうした普通の暮らしをしている人々です。 “flickr”より By Rita Willaert )

貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっているとの指摘も
呪術・魔術といったものに頼ることが多いのは、別に科学知識のなかった過去の社会、あるいは現在の未開社会だけの話ではなく、日本を含めた世界に共通する現象です。
科学技術の進んだ現代社会にあっても、世の中の出来事の多くは人の努力だけではどうにもならない部分があり、人々が人知を超えたものに願いを託すというのは人類共通の文化人類学的事象でしょう。

そうは言っても、生命にかかわる話となると放置はできず、厳しい対応が必要になります。
このブログでも何回かとりあげたことがあるのは、アフリカ南部・中部でアルビノ(先天性白皮症)の人々の体の一部を使った魔術が横行し、そのためにアルビノの人々が襲われ、その体が売買されるという風潮です。

****選挙間近、当選祈願で狙われるアルビノ住民 政府に保護要請****
今年後半に総選挙が予定されているアフリカ南東部スワジランドで、アルビノ(先天性白皮症)の人々が、体の一部を当選祈願の呪術の「護符」に使われる恐れがあるとして政府に保護を求めている。

スワジランドを始めとする一部のアフリカ諸国では、伝統薬や魔術を駆使する呪術師が「万能」の存在とみなされている。こうした呪術ではアルビノの手足や体の一部が魔よけとして使われるため、アルビノ襲撃事件が後を絶たない。

南部ンランガーノのアルビノ・コミュニティーのリーダー、Skhumbuzo Mndvoti氏は、AFPの取材に「当局はわれわれの安全を保障しなければならない」と訴えた。「アルビノの人々や、アルビノの子を持つ親たちは、くれぐれも注意する必要がある」

ンランガーノでは、2010年にアルビノの人たちが相次いで殺害され遺体の一部を切り取られる事件が起きている。特に子供2人が首を切り落とされて殺された事件では、地元住民らがパニックに陥った。

シフォ・ドラミニさん(28)は、アルビノ殺害は常態化しているにもかかわらず、これまではアルビノ住民の慣習と関連付けて実態がごまかされてきたと指摘する。「昔から、アルビノの人たちは死期を悟ると誰にも見つからない遠いところへ行って死ぬのだと言い伝えられてきた。でも、本当は彼らは殺されていたんだと思う」

Mndvoti氏は呪術医たちが、アルビノの人体の部位を護符にすれば選挙で勝利したり仕事がうまく行くなどという迷信を人々に植え付けたと非難。アルビノの人々は選挙期間中、「子ども達は集団で登下校し、1人で自宅にいることがないようにするべきだ。大人も、夜間は出歩くのを避けるほうがいい。アルビノ襲撃事件は外が暗くなってから多発している」と警告している。

ンランガーノのアルビノ住民たちは、政府が特別な安全対策を取らない場合は投票をボイコットすると主張している。【5月24日 AFP】
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アフリカ以外で、魔術絡みの殺人を最近よく聞くのが、南太平洋のパプア・ニューギニアです。
TV番組「奥様は魔女」を観て育った世代のため、魔女と言うと何か可愛げなものをイメージしたりもしますが、現実世界の「魔女狩り」は残酷です。

****魔女狩り:20歳女性が焼き殺される パプアニューギニア****
 ◇現場で警官も制止できず
南太平洋・パプアニューギニア西部の山岳部にあるマウントハーゲンで6日、他人の子供を魔術で殺したとして20歳の女性が群衆に焼き殺された。
同国は魔術を違法としているが、魔術を信じる風潮が残り「魔女狩り」が後を絶たない。

国連人権高等弁務官事務所は同国政府に「このような犯罪を止め、加害者を裁き、国際法に従って迅速かつ公平な調査を実施する」よう求めた。

AP通信などによると、きっかけは5日に病院で病死した男児(6)の親族が、ケパリ・レニアータさん(20)という女性の魔術で殺されたと主張したこと。レニアータさんは翌朝、子供を含む多数の住民環視の中、服をはぎ取られ、焼きごてを当てられた。縛られたままガソリンをかけられ、ごみやタイヤの山の上で火を付けられ焼死した。

警察官がいたが、制止できず、誰も逮捕できていない。レニアータさんの夫も容疑者に含まれているとされるが、男児の親族との関係は不明。レニアータさんが殺害を認めたとの情報もある。

約800の部族から成るパプアでは精霊信仰が残る。政府は71年に法律で魔術を禁じたが、人口の8割は今も信じているとされる。マウントハーゲンでは09年にも若い女性が火あぶりにされた。一方、貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっているとの指摘もある。【2月11日 毎日】
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上記事件が起きたマウントハーゲンでは、その前週に8歳の女児が性的暴行を受けて殺害された事件があり、魔術で女児を殺した疑いがかけられた高齢女性2人が拷問され、火あぶりにされかけたところを2月11日に警察によって救助されたとも報じられています。【2月19日 AFPより】
“こうしたパプアニューギニアに残る「魔女狩り」の風習については、国連や米国、オーストラリアが非難を表明。パプアニューギニアのピーター・オニール首相も「野蛮」な慣習と強く批判している。パプアニューギニアでは魔術が広く信じられており、不幸や人の死を自然なこととして受け止められない人が多いなか、警察は国民に対し、自らの手で物事を裁く慣習をやめるよう繰り返し呼びかけている。”【2月19日 AFP】

しかし、この種の「魔女狩り」事件は後を絶たないようです。

****パプアニューギニアでまた「魔女狩り」、女性2人が首はねられる****
南太平洋のパプアニューギニアの村で先週、高齢女性2人が魔術を使ったとして、3日間にわたる拷問の末に首をはねられて公開処刑された。地元紙が8日、報じた。

地元紙ポストクーリエによると、現場には警察官が駆け付けたが、感情的になった多数の群衆を前に処刑を止められなかったという。ブーゲンビル州の警察当局者は、同紙に対し「警察は無力だった。なす術がなかった」と語った。駆け付けた警察官らが2人を解放するよう交渉したが、逆に命の危険を感じる状況だったという。

この当局者によれば女性らは、最近死亡した元教師を魔術で殺したと疑われ、遺族らに2日に身柄を拘束された。2人は縛られてこの元教師の出身地であるLopele村に連れていかれ、3日間にわたってナイフや斧で傷つけられた後、公開処刑で首を切り落とされたという。

パプアニューギニアでは数日前にも、魔術を使ったと疑われた女性6人が、熱いアイロンを押し付けられて虐待される事件が起きたばかり。また3月には、20歳の女性が魔術を使ったとして火あぶりの刑で公開処刑されている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、同国における魔術をめぐる暴力を止めるよう訴えている。【4月8日 AFP】
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魔術の使用を禁じる「魔術法」を廃止
パプアニューギニアでは、こうした「魔女狩り」殺人のほか、今年4月だけでも、オーストラリア人男性が射殺され、一緒にいた女性が集団レイプされる事件、夫、地元ガイドが縛られ、アメリカ人の女性研究者が集団レイプされる事件などの暴力事件が起きています。

政府はこうした暴力事件の横行に対し、死刑復活を含めた厳罰化、「魔術法」廃止を決めています。
これまで魔術の使用を禁じる「魔術法」が存在し、これが「魔女狩り」に悪用されることが多かったようです。

****パプアニューギニア、死刑復活へ 「魔術法」は廃止****
南太平洋パプアニューギニアのピーター・オニール首相は1日、暴力犯罪の撲滅には厳罰が必要だとして、死刑の復活や強姦(ごうかん)罪への終身刑の適用など、現行法を改正する方針を閣議決定したと発表した。
また、物議を醸していた魔術の使用を禁じる「魔術法」を廃止するほか、麻薬やアルコール絡みの犯罪を厳罰化するという。

今回の法改正の焦点は、これまで国家反逆罪、海賊行為、故意の殺人に限られていた死刑の適用範囲を拡大することだ。パプアニューギニアでは1954年以降、死刑は執行されていない。改正後の死刑の方法としては、「薬物注入や電気椅子より人道的で安価だ」として、銃殺刑を検討しているという。

また、「魔術法」廃止に伴い、今後は魔術を行ったことを理由にした「処刑」行為は、通常の殺人と同様に裁かれることになる。1974年に制定された「魔術法」は、敵を陥れるために悪用されているとして国際社会が撤廃を求めていた。

パプアニューギニアでは今年に入ってから、魔術で殺人を行ったとして20歳の女性が火あぶりにされたり、高齢女性が斬首される事件が発生。外国人女性を標的とした集団レイプが相次ぐなど、女性が犠牲となる事件が頻発している。世界各地の人権団体などから改善を求めて100を超える請願書がパプアニューギニア政府に寄せられている。 

法改正は5月末の議会での承認を経て発効する見込み。【5月2日 AFP】
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強まる魔術信仰 魔術によって何らかの経済的な利益を得る人々がいることが原因
“不幸や人の死を自然なこととして受け止められない”ことからの「魔女狩り」とか、“貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっている”といったことは、ある程度想像もできますが、“人々が魔術を使ったと非難されることを恐れて事業などで成功したがらないため、これが経済発展の妨げになっている”というほど事態は深刻なようです。
こうした事態は、近年むしろ強まっているようです。

****南太平洋の国々で魔術信仰が増加、研究者らが懸念****
魔術を使って息子を殺したと疑われた女性が火あぶりで殺害される事件があったパプアニューギニアなど南太平洋の島国で、魔術や魔力を信じる傾向が高まっていると、専門家らが警告している。
ソロモン諸島国立博物館の元館長、ローレンス・フォアナオタ氏は、オーストラリアの首都キャンベラで開かれる魔術信仰の問題点を協議する会議を前にAFPの取材に応じ、ソロモン諸島で魔術を信じる傾向が高まっていることへの危惧を示した。魔術によって何らかの経済的な利益を得る人々がいることが原因だという。

こうした傾向について、特に若者の間で早い段階で手を打たなければ、パプアニューギニアのようにソロモン諸島でも実際に殺人に走る人々が出てくると同氏は懸念する。パプアニューギニアでは今年2月、魔術を使って6歳の息子を殺した疑いをかけられた20歳の女性が、服をはぎとられて縛られた上、見物人の前で火をつけられて殺害された。その後も4月に、黒魔術を使ったとして高齢の女性が公開処刑で首をはねられる事件が起きている。2月の事件を受けてパプアニューギニア政府は、暴力犯罪の撲滅には厳罰が必要だとして現行法を改定し、死刑を復活させる方針を打ち出しているが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや国連はこれを批判している。

文化研究機関、メラネシアン研究所のジャック・ウラメ牧師は、パプアニューギニアに広がる魔術信仰を一掃するために、キリスト教団体はもっと大きな役割と果たせるはずだと語る。「世代間の断絶が原因で、キリスト教の価値観が次世代に引き継がれていない。それで人々は病気や死の理由付けとして伝統的な魔術信仰に回帰している」またキャンベラで共同議長を務めたオーストラリア国立大学のミランダ・フォーサイス氏は、パプアニューギニアやソロモン諸島、バヌアツなどでは、人々が魔術を使ったと非難されることを恐れて事業などで成功したがらないため、これが経済発展の妨げになっていると指摘した。【6月7日 AFP】
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