(警官が赤いドレスの女性に催涙ガスを噴射した瞬間をとらえたロイター通信の写真 警察側の暴力を示すものとして、ソーシャルメディアを通じて広まりました。 “flickr”より By Céline Royale http://www.flickr.com/photos/95417653@N05/8975438333/in/photolist-eF8t7M-dBTE76-b2fbPp-dv4EaQ-eNDG2K-eDXCEg-8obH1w-8CxSok-bkKL7h-8bdDwP-amwGPx-eKbTgG-cLM8mE-dvQpSD-8WgHvs-8bfx3i-8ai1Yj-9ToYVX-dBeMkJ-eCXnwK-8wMPpY-8Nu2fL-9Ndk7f-8yVXVe-cLMa3S-cLM9mQ-dqoLK9-aUaMWB-7Pfib2-dWebjn-dWEvEh-ecDwrU-bqnfT4-a1gEmy-aLeRdz-cKRxLN-aXgRki-du97g3-cnf7Vh-cnJYgA-dibrRz-auqTLq-cLM8Lh-7RnLgF-8hrJPh-azcvAt-8WiP1M-8VgSmL-81tANV)
【「われわれの民主主義は再び挑戦を受け、勝利を果たした」】
トルコの最大都市イスタンブール中心部のゲジ公園で始まった市民の抗議行動は、当初の公園再開発問題からエルドアン首相の強権姿勢・イスラム化政策に対する抗議へと拡大しましたが、政府側と抗議市民側の対立は解けず、警察による催涙ガスや放水車を使った強制排除に至っています。
エルドアン首相は、これを“勝利”と表現し、今後についても抗議行動には厳しく対応していくことを明らかにしています。
*****デモへの勝利を宣言=「今後容認せず」と警告―トルコ首相****
トルコのエルドアン首相は18日、与党公正発展党(AKP)の会合で、イスタンブール中心部で反政府デモ隊を強制排除したことなどを踏まえ、「われわれの民主主義は再び挑戦を受け、勝利を果たした」と宣言した。AFP通信が伝えた。
首相は、デモは国家に対する裏切り者や、それを支える外国勢力によって起こされたと改めて強調。「今後、暴力行為に手を染める者や組織を容認する余地は全くない」と述べ、激しい抗議デモが行われた場合、厳しい対応を取ると警告した。【6月18日 時事】
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市民の抗議行動を力で排除することを“勝利”と認識すること自体に、エルドアン首相の進めてきたトルコ型イスラム民主主義のほころび、エルドアン首相の強権体質を感じます。
なお、市民の抵抗運動は収束したわけではなく、無言で立ちつくす「無言の抵抗」「沈黙のデモ」も行われています。
****「脅しに屈しない」=無言の抵抗、再び数百人に―トルコ****
トルコのエルドアン首相の強権体質に反発する数百人が18日夜から19日未明にかけ、イスタンブール中心部のタクシム広場で黙って立つ「無言の抵抗」に参加した。首相はデモ隊が治安部隊に抵抗すれば厳しい措置を取ると明言しているが、参加者は「脅しには屈しない。表現の自由を守る」と誓っていた。
無言の抵抗は17日夜に男性1人が始めたのがきっかけで、18日未明には数百人規模に達した。治安部隊に妨害されるなどしながらも続けられ、18日夕ごろから職場や学校から帰宅する途中の人々が次々と加わり、再び規模を拡大させた。【6月19日 時事】
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「無言の抵抗」はツイッターなどを通じて参加者が増え、市民ら数千人が参加したとも報じられています。
公園の周辺には多数の警官が展開し、参加者らを遠巻きにして警戒にあたっており、ギュレル内相は「公共の秩序を乱さない限り介入しない」と述べ、静観する構えを示しています。【6月19日 読売より】
【「魂を売り渡した」主要メディア ソーシャルメディアで広がる“赤いドレスの女”】
トルコではエルドアン首相・与党AKPのイスラム主義と世俗主義勢力の間に根深い対立があることは、これまでも注視されていたことで目新しいことではありません。
また、今回の反首相抗議行動を行っている市民勢力が必ずしもトルコ全体を代表している訳でもありません。
ただ、今回の騒動によって、イスラム民主主義のモデルとして国際的にも高く評価されてきた、エルドアン首相の進める“民主主義”にメディア統制という大きな問題があることが顕在化しています。
****トルコ、デモ報道に圧力 外国人拘束・FB監視****
トルコのデモ隊を強制排除したエルドアン政権が、攻撃の矛先をメディアに向けている。デモを伝えた外国メディアの記者や、ソーシャルメディアの利用者を相次いで拘束。一方、「自主規制」をしてきた地元の主要テレビは民衆の信頼を失った。
「BBC、CNN、ロイター通信はうそをでっちあげてばかりだ」
エルドアン首相は16日夕、イスタンブールで支持者を前にメディア批判を繰り返し、「挑発的なソーシャルメディアのやりとりと報道を調査する」と宣言した。
外国メディアの記者の拘束も相次いでいる。12日にはデモの拠点タクシム広場でバリケード撤去の様子を撮影中のカナダ放送協会の記者2人が、14日にも広場で警察車両を撮影していたロシア人記者がそれぞれ拘束された。このロシア人記者は「警官に足と股間を蹴られた」と訴えている。
ゲジ公園で強制排除があった15日夜、朝日新聞記者も警察に阻まれ、公園周辺でずっとサーチライトを当てられた。外国テレビのカメラマンは「取材させてくれない。こんな国はない」と悔しさをにじませた。
ソーシャルメディアの監視も強まっている。地元メディアによると、ツイッターやフェイスブック(FB)でデモを扇動したとして、西部イズミルで35人、南部アダナで13人が逮捕。政権は、首相が「害悪」と名指しするツイッターに対し、課税や法的規制なども検討している模様だ。
トルコ当局は12日、「若者の精神の発展を阻害した」として、デモを報じた反政権系テレビ局4社にそれぞれ1万1千リラ(約56万円)の罰金を科した。
■地元局は自主規制
一方、地元の主要メディアは当初、デモや衝突の様子をほとんど報じなかった。
先月31日のデモ隊と警察の最初の大規模衝突を、主要各局はごく短くしか扱わず、今月1日夜には、米CNNインターナショナルが現場から生中継したが、地元資本のCNNトルコ語版はペンギンのドキュメンタリー番組を放映した。民放大手のNTVも2日夜、ヒトラーのドキュメンタリーを放送した。
怒ったデモ隊は、拠点のタクシム広場でNTVの車両を破壊。「魂を売り渡した」とNTV本社前で連呼した。NTVの親会社や系列銀行の株価は急落し、銀行では約20億円分の口座と、1500人分のクレジットカードが解約された。
デモに参加していた弁護士エルジン・アイベックさん(32)は「BBCを見ないと何が起きているか全くわからなかった」と憤る。
デモ隊側の頼みの綱はソーシャルメディアだ。外国メディアの報道や集合時刻を伝えるのに活用した。
警官が赤いドレスの女性に催涙ガスを噴射した瞬間をとらえたロイター通信の写真は、その成功例の一つだ。会社員セマ・カラサムさん(26)は「警察は信用できない」というメッセージを添えて「あらゆる方法で転送した」。過剰な暴力の証拠として爆発的に広がり、デモ拡大を後押しした。
■自由度低く、葛藤も
かつて政権批判も辞さなかったメディアを飼いならしたのは、首相だった。
2008年ごろ、トルコ最大のメディアグループ「ドアン」が、寄付金横領事件に首相の親族が関与した疑惑を報じると、首相はドアンへのネガティブキャンペーンを展開。ドアンは不正経理を理由に総資産の8割を超す31億ドル(約3千億円)の罰金が科され、記者らの逮捕も相次いだ。
サバンジ大のアルシン・カライジュオル教授(政治学)は「首相がメディアを政敵とみなして追い詰めたことで、自主規制するようになった。今や首相の言いなりだ」と指摘する。国際NGO・国境なき記者団が今年まとめた報道の自由度ランキングで、トルコは179カ国中154位という。
■現場では葛藤も続く
NTV関係者は「クルーは毎日公園で取材に当たっており、現場では不満がたまっていた」と明かす。
親会社のジェム・アイデン最高経営責任者は4日、数百人の従業員を前に「今から報じるべきことを報道していく」と約束したが、信頼の失墜は著しい。
英BBCは14日、NTVがデモについてのBBC制作番組を放映しなかったとして「いかなる介入も容認できない」と批判し、提携関係の即時停止を発表。16日の首相の演説は、すべての主要地元テレビが約2時間、コマーシャルなしで生中継した。【5月18日 朝日】
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【「ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。」】
エルドアン首相は、大手メディアと違って権力の意のままにならないソーシャルメディアが腹に据えかねるようで、2日には「今、ツイッターと呼ばれる脅威が登場している。そこでは、嘘というものの最たる例を見ることができる。私にすれば、ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。」と、最大級の非難を行っています。
今回の騒動にあっても、「ツイッターで暴動を呼びかけた」として多くの若者らが拘束されていますが、政権側は更にツイッター規制を強化する方針のようです。
****トルコ:政権、ツイッター規制も検討****
トルコで続く反政権デモで、内務省などは17日、今回の反政権デモ拡大の一因とされるツイッターなどの規制に関する検討を始めた。地元メディアが18日、報じた。実施されれば、ソーシャルメディアでの発言の自由の抑圧として非難を浴びる可能性もある。(中略)
地元紙によると、内務省や司法省は、ツイッター上などでの「インターネット犯罪」対策のための法案の策定を開始。司法省はすでに、第3の都市イズミルなどで、「デモを刺激する書き込み」をツイッター上にしたことなどを理由にデモ参加者らを拘束している。エルドアン首相は2日に開いた記者会見で、ツイッターを虚偽の情報が多数含まれた「トラブルメーカー」と呼び、批判していた。(後略)【6月19日 毎日】
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【EUで深まるトルコの「表現・集会の自由」への疑念】
こうしたトルコの混乱に、国連事務総長も憂慮を表明しています。
****国連事務総長:トルコ情勢に憂慮 初の声明****
潘基文(バン・キムン)国連事務総長は18日、反政権デモ隊と治安当局との衝突が続くトルコ情勢について「憂慮している」との声明を報道官を通じて発表した。トルコの反政権デモを巡り事務総長が声明を出すのは初めてで、国際社会に懸念が広がっていることを示した。
事務総長は、エルドアン政権とデモ隊の双方に「最大限の自制と建設的な対話」を要請する一方、「平和的な集会を開く権利と表現の自由が完全に尊重されるときに、(社会の)安定は保障される」と主張し、政権側のデモ取り締まりに注文を付けた。【6月19日 毎日】
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オリンピック招致への影響も取りざたされていますが、そうした話や国連事務総長の憂慮以上にトルコにとって影響があるのは、EU諸国のトルコを見る目でしょう。
EU加盟を求めてきたトルコに対し、EU諸国の中には“イスラム国家トルコ”への抵抗感が強く、なかなか交渉が進展していません。
EU側の慎重姿勢にトルコ側は苛立ちを募らせてきましたが、今回の騒動で見せたエルドアン政権の強権的姿勢はそうしたトルコに対する違和感を更に強めることも推測されます。
****トルコ、EU加盟交渉に影響 デモ鎮圧に懸念相次ぐ****
反政府デモへの強硬姿勢を続けるトルコ政府に欧州諸国が懸念を深めている。欧州連合(EU)加盟候補国であるトルコをめぐっては最近、停滞中の加盟交渉を再び活性化させようとの動きが出ていた。だが、EUの要請にもかかわらず事態沈静化の気配はみえず、こうした機運にも水を差す形になりかねない。
EUのアシュトン外交安全保障上級代表は9日、トルコ政府の対応を「警察による過剰な実力行使」と批判し、対話による解決を求める声明を発表。EU加盟に必要な「人権、基本的自由」の保障には、「表現・集会の自由が含まれている」とも警告した。
トルコはEUの前身、欧州共同体(EC)に加盟申請後、2005年に加盟交渉を開始した。だが、人権問題や対立するキプロスの国家承認問題などが壁となり、交渉対象の35政策分野中、交渉入りしたのは13分野、合意到達は1分野にとどまっており、10年半ば以降、交渉は滞っている。
ただ、トルコの加盟に反対だったサルコジ氏が大統領を退いたフランスが今年、さらに1分野で交渉を始める用意を示し、加盟に慎重なドイツのメルケル首相も同様の態度をみせるなど、域内では軟化の兆しも出ている。EUは追加分野の交渉を7月にも開始すると伝えられている。
トルコの加盟実現は容易ではないが、中東で影響力を高めるトルコを引きつけておきたいとの意向がEU側にあるとみられる。
しかし、反政府デモへの対応を受け、ルパンタン仏欧州問題担当相は「行動は一方的であってはならない」と述べ、トルコ政府がデモ鎮圧をやめない場合の交渉開始への影響を示唆。EU拡大担当のフューレ欧州委員も、「加盟交渉の再活性化と基本的権利に対する支持は表裏一体だ」と批判を強めている。【6月12日 産経】
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【「必要なら軍を投入する」】
国内的な影響としては、軍との関係がどうなるのか・・・ということがあります。
従来、軍部は世俗主義の守護神としてエルドアン首相らのイスラム主義にはクーデターを含めた強い抵抗を示してきましたが、最近はエルドアン首相側が軍部を抑え込み、有利な立場に立っているとも見られています。
今回騒動では軍部は沈黙を守っていますが、エルドアン首相は、秩序維持のため軍投入の可能性にも言及しています。
****トルコデモ 活動家ら一斉捜査 沈黙軍部、集まる関心****
■AKP、左派勢力弱体化狙いか
トルコのメディアによると、同国の警察当局は18日、反政府デモに関与した左派系活動家らの一斉捜査に着手し、首都アンカラや最大都市イスタンブールで100人以上の身柄を拘束した。
デモの完全鎮圧に向けた動きが加速する中、エルドアン政権側は17日、秩序維持のため軍投入の可能性に言及。「世俗主義の守護者」としてしばしば政治介入してきた軍部の動向に関心が集まっている。
当局は「捜査はデモ扇動者が対象」としている。政権やイスラム系与党・公正発展党(AKP)には、この機に対立する世俗的な左派勢力をさらに弱体化させる狙いもあるとみられる。
エルドアン首相は18日、「民主主義の勝利だ」と宣言。大規模デモ後もAKP優位の構図が揺るがない中、国民が少なからず注目するのが、世俗主義勢力の“牙城”とされる軍部だ。
1920年代、建国の父ムスタファ・ケマル(アタチュルク)に率いられ共和制樹立の礎となった軍部は、厳格な政教分離に基づくアタチュルク主義を信奉。政治が不安定化した60年と80年にクーデターで全権を握ったほか、97年には、同国で初めてイスラム系政党が主導したエルバカン政権を退陣させるなど、政治性が強いことで知られる。
2003年に発足したAKPのエルドアン政権も、軍部と強い緊張関係にあるとされる。しかし、政権側はこれまでに、政権転覆計画に関与したなどとして軍元高官ら数百人を起訴、軍部の切り崩しを進めてきた。
今回のデモで軍部は沈黙を守っているものの、アルンチ副首相は17日、「必要なら軍を投入する」と言明。政権側のブラフ(脅し)だとの見方が強い一方、軍部掌握を進めるAKPの自信の表れと見ることもできる。
デモには軍部と対立する極左組織も多く参加していることから、デモ鎮圧に関しては軍部の理解を得られるとの計算が働いている可能性もある。
軍部が今後、デモに同調する可能性は低いが、インターネット上では、AKP支持者からも「軍をこの問題に引き込むのは(政権にとり)もろ刃の剣だ」との意見も目立っている。【6月19日 産経】
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イスラム主義のエルドアン首相の指示で、世俗主義勢力の抵抗運動を軍が鎮圧・・・というのは、一昔前には考えられないことです。
もし、そういう事態になれば、いくら軍部を抑え込んでいるとは言っても、相当に激しい反発が軍部の中に起きることも推測されます。
軍は牙を失ってしまったのか、文民統治が確立したのか・・・試されることにもなります。