孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ロウハニ師圧勝でイランは変わるか?

2013-06-22 21:48:48 | イラン

(6月15日 テヘラン 保守穏健派ロウハニ師勝利を街頭で喜ぶ若者ら この喜びが失望に変わることがないように願うばかりです。 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/9069677466/in/photolist-ePst8q-eN8KsB-eN8Kjg-ePE5k9-eM5f4H-eHLXnc)

最高指導者ハメネイ師も強硬路線の軌道修正に舵を切ったのではないか?】
周知のように、14日投票のイラン大統領選で保守穏健派のハサン・ロウハニ元最高安全保障委員会事務局長(64)が“想定外”の形で勝利しました。

“想定外”のひとつは、当初30%台とも低調が予想された投票率が72.7%に達したことです。
“想定外”のもうひとつは、改革派の支持を集めた保守穏健派のロウハニ師が、最高指導者ハメネイ師に近いとされる保守強硬派の候補に大差をつけて、1回目の投票で過半数を獲得したことです。

“ロウハニ師は約1861万票を獲得、得票率は50.7%と過半数に達した。暫定集計では、強硬保守派のガリバフ・テヘラン市長(51)が得票率約16%、強硬保守派のジャリリ最高安全保障委員会事務局長(47)と、穏健保守派のレザイ元革命防衛隊司令官(58)が約11%などとなっている。投票率は約72%だった”【6月16日 産経】

ロウハニ師については、選挙戦終盤になって、出馬を阻まれた保守穏健派重鎮ラフサンジャニ元大統領や改革派のトップとも言えるハタミ前大統領らが進めた穏健派・改革派一本化工作によって相当の善戦は予測はされていましたが、大方は“いずれにしても決選投票になるだろう・・・”との見方でした。

制裁で疲弊する経済に苦しむ市民、改革を希望する若者らが大挙して改革にも理解を示す保守穏健派のロウハニ師に投票したために、このような“想定外”の結果になったと思われます。

****ロハニ新大統領が誕生した4つの理由****
(1)経済制裁によるイラン経済の停滞と国民生活の困窮が原動力となった。
イランは核開発問題で経済制裁を受けてきたが、とりわけ原油の輸出制限が経済を疲弊させた。外貨収入の8割を占めてきた原油輸出を止められて外貨価値が3倍を超えて急上昇。輸入品がインフレを招いて低所得者の生活を直撃した。それでも現大統領は「制裁の影響はない」と強がって民衆の怒りと反発を強めた。

(2)アメリカ、イスラエルからの武力攻撃が現実味を増し、「戦争の恐怖」が多くの民衆に行動を促した。
イラン国民は、アメリカ、イスラエルが有言実行の国であることを知っている。それどころか、ときには不言実行の挙に出る国であると信じている。

イスラエルは既にイランの核兵器保有を阻止するために核施設を空爆することを予告している。核保有まで1年とすれば、1年以内に戦争が始まることになる。「イスラエルは世界地図から消される」と広言してきた現大統領の強硬路線では戦争は避けられない。(中略)

(3)今回の選挙では、女性有権者が積極的に投票所に足を運んだと言われる。
戦争を防ぎ、生活苦を逃れ、子どもたちに明るい将来をと願って、ついに女性パワーが全開したのだろう。
メディアのインタビューでも「戦争になると思った」と話す女性の切実な声が聞かれた。
また、ロハニ師が、女性の社会進出に理解を示し、地位の向上にも前向きであったことも大きかった。

(4)最高指導者ハメネイ師も強硬路線の軌道修正に舵を切ったのではないか?
ハメネイ師はロハニ師当選後「選ばれた大統領は全国民の大統領だ。すべての人々は新大統領が偉大な大義を達成できるよう助け、誠実に協力しなければならない」と声明を発した。ロハニ師も「選挙は最高指導者が求めたものとなった」と語り、過激主義への2人の協調した対決も印象づけている。(後略)【6月20日 DIAMOND online】******************

興味深いのは、4点目に挙げられている最高指導者ハメネイ師の対応です。
保守強硬派に近いとされるハメネイ師ですが、選挙戦の段階でも、投票への呼びかけは行っていますが、保守強硬派候補者への目立った支援は行っていません。

“「この体制を認めない人もいるだろうが、イランという国のことを考えて投票に行ってほしい」
イラン大統領選の投票を2日後に控えた12日、イスラム体制の頂点に立つ最高指導者ハメネイ師は数千人を前に演説し、現体制に批判的な改革派にも投票を呼びかける異例の発言をした。演説は国営テレビでも伝えられた。
ハメネイ師はさらに、「国民は投票に最大限参加してイスラム体制との強固な結びつきを示し、敵(欧米など)を失望させる」と強調した。投票率を高めることで、イランの民主主義が機能していることを示そうとしたとみられる。”【6月18日 朝日】

また、個人的関係では、ハメネイ師とロウハニ師の関係はさほど悪くないとも報じられています。
最高指導者ハメネイ師も、このまま制裁が続く状況では国民の不満が高まり、結果的に体制の危機にもつながる・・・という懸念があって、あえてロウハニ師封じ込めには動かなかった・・・ということでしょうか。

国民は固唾(かたず)をのんで見守っている
ただ、両者の考え方には大きな差もありますので、最高指導者ハメネイ師がどこまでロウハニ師の政策を許容するかは不透明です。
結局は保守強硬派の路線を変えることは困難なのでは・・・という見方もあります。

****想定外が続いた大統領選後のイランは****
・・・・ただ聖職者であるロウハニが保守強硬派の宗教指導者らの言いなりにならないとは限らない。
アハマディネジャド大統領はここ数年、政治から宗教色を排そうと独裁的な最高指導者ハメネイ師と対立。政府から宗教関連機関への資金も削減したが、その力をそぐことはできなかった。

米ランド研究所のアリーナダー上級研究員は、「現在の強硬路線を変えるのは難しいだろう」と言う。「結局はハメネイに逆らえないからだ」。アハマディネジヤドにできなかったことが、ダークホースのロウハニにできるとは思えない。【6月25日号 Newsweek日本版】
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選挙中にロウハニ師は「すべての政治犯の釈放に努力する」と約束しました。さしあたっては、前回選挙で敗れ、その後の反政府行動の先頭にたったことから自宅軟禁状態に置かれているムサビ元首相とキャルビ元国会議長の処遇が注目されます。

保守強硬派の抵抗で、改革の試みが実現できないということになれば、ロウハニ師に集まった熱い期待は一気に冷めていくことも考えられます。

****すべての政治犯釈放へ努力」ロハニ師公約、実現するか****
 ■体制維持の中枢
ロハニ師は15日夜、国営テレビで「公約の実現に全力を尽くす」と述べた。だが、ムサビ氏とキャルビ師の解放を実現できなければ、改革派を失望させることになる。

ロハニ師は最高安全保障委員会事務局長として体制維持の中枢を担い、ハメネイ師にも忠実だ。今後、自身を大統領に押し上げた民意を背に、ハメネイ師とどう向き合うのか。ハメネイ師はどう応えるのか。

「ミールホセイン(ムサビ氏)、あなたの票を取り戻した!」。改革派のウェブサイトによると、ロハニ師の当選に歓喜した若者たちがムサビ氏の自宅周辺に集まって叫んだ。「歓声はムサビ氏の耳にも届いた」とサイトは伝えている。【6月18日 朝日】
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メディア規制についても、この選挙中、ややこれまでとは異なる流れがあったようです。
“強硬路線の軌道修正”でしょうか?
ただ、これも今後どのように推移するかは不透明です。

****崩れゆくメディア規制 大統領選で改革派を報道****
「ムサビ元首相とキャルビ元国会議長の自宅軟禁が解かれれば、有権者は大挙して投票に行く」
政府系イラン学生通信のある編集者は、部下がそう書いた原稿を「削除しないでそのまま使おう」と腹をくくった。5月5日、アフマディネジャド政権が弾圧した2人の改革派指導者に言及した、「タブー」を破る記事が配信された。

編集者は、国民の間に現政権への不満が募っているのを肌で感じていた、と振り返る。2009年の大統領選で開票の不正を疑った改革派の支持者は、大規模なデモに打って出たが、アフマディネジャド政権はメディア規制をさらに強化。選挙で敗北したムサビ氏とキャルビ師に関する報道は一切禁じるとメディア各社に通告していた。

「うちは半国営メディア。他社と違って罰を受けても更迭くらいで済む。それならば、国民のためにタブーを破ろうと思った」。配信後、上司からの叱責(しっせき)は一切なかった。

記事を読んだ他社の記者は一様に驚き、勇気づけられた。5月末に大統領選の選挙運動が始まると、改革派の動きを伝えるメディアが出はじめた。最後まで無視していた保守系ケイハン紙も、ロハニ師の当選を機に方針転換せざるを得なくなった。

「メディアがそろって規制を無視し、上司も黙認した。前代未聞だ」。地元通信社の政治記者は興奮気味に話す。ただ、最高指導者ハメネイ師やイスラム体制への批判は「越えてはならない一線」。限界を知りつつも、記者たちは「新政権ではもう少し自由になるはず」と期待する。

メディア規制の別の例として、衛星放送がある。イランでは外国の衛星放送を見ることは違法だ。英BBCや米VOAなどが流す、イランへの「批判的」な報道から国民を遮断する狙いがあるのは間違いない。
警察当局は建物の屋上などに取り付けてある衛星アンテナの没収を強めた時期もあったが、数が多すぎて追いつかない。窮余の策か、最近は妨害電波を絶え間なく発信しつづける。

社会の自由化を掲げたハタミ前政権の改革路線は、体制維持を第一とする保守派の抵抗で頓挫した。
「国民の自由を取り戻す」と訴えて当選したロハニ師の判断を、国民は固唾(かたず)をのんで見守っている。【6月21日 朝日】
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制裁が続けば国民生活の急速な立て直しは難しく、国民の高い支持はそのまま逆風へと変わりかねない
核開発に関してはロウハニ師を含むすべての候補者がこれを是認しており、また決定権は最高指導者ハメネイ師にありますので、大きな変化はないと見られています。

ただ、欧米諸国による制裁緩和に向けた柔軟な対応がロウハニ師には期待されています。
選挙中も、「核問題を解決するため、まずこちらが信頼関係を強める」と、ボールをイラン側から欧米諸国に投げることにも言及しています。

****ロハニ師「イランの核は完全に国際法の枠内に****
イラン大統領選で当選したハッサン・ロハニ元核交渉責任者は17日、テヘランで当選後初の記者会見を開き、「世界との建設的で双方向のやりとりを模索する」と述べ、アフマディネジャド現政権の対外強硬路線とは一線を画し、対話外交を展開する考えを示した。

ロハニ師は、イランのウラン濃縮活動について「完全に国際法の枠内にある」とし、核開発を継続する姿勢を明確にした。
そのうえで、「透明性を高め、国際社会との相互信頼を築いていく」との方針を示し、米欧との妥協点を探り、経済制裁が緩和されることに期待感を表明した。

米国との関係については、「双方が未来志向になる必要がある。更なる緊張は望んでいない」と説明。〈1〉米国がイランの内政に干渉しない〈2〉イランの核の権利を認める〈3〉米国が単独行動主義を改める――の三つを直接対話の条件に挙げた。

シリア情勢については、「シリア国民が解決すべき問題だ」として、米欧など他国の干渉を非難。アサド政権を支持するイランの原則を繰り返した。政策の優先順位は、制裁であえぐ「経済問題」だと強調した。【6月17日 読売】
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核開発問題の交渉はこれからの話ですが、以下のような報道がなされているなかで、シリアにどのように関与するのかも気になります。
“英インディペンデント紙(電子版)の16日の報道によると、イランはシリアのアサド政権を支援するため、精鋭部隊である革命防衛隊の兵士4000人をシリアに派遣することを決めた。”【6月16日 毎日】

限られた権限しかないロウハニ師による軌道修正は難しいであろうというのは、大方の見方です。
ただ、先述のような最高指導者ハメネイ師自身の軟化があれば、なんらかの道も・・・とも期待されます。
今回選挙のロウハニ師“圧勝”に込められた国民の期待と不満は、ハメネイ師も当然感じているところでしょうから。

****イラン次期大統領 裁量限られジレンマ****
首都テヘランでは15日夜、数万人規模の市民らが街頭でロウハニ師を祝福。ロウハニ師は、「過激主義に対する知性と穏健、発展の勝利だ」と強調した。最高指導者ハメネイ師も同日、「すべての国民が次期大統領を支えるように」などと述べた。

ロウハニ師が抱える大きな課題は、国民生活の向上と、核開発疑惑で米欧と折り合いを付けられるか-の2点で、これらを同時に実現するのは極めて難しい。

イラン国民は経済低迷に伴い苦しい生活を強いられており、これを改善するには米欧などが科す制裁を緩和できるかが重要な鍵となる。そのためには、米欧が問題視するウラン濃縮など核開発で実質的に譲歩することが必要だ。

しかし、核開発はハメネイ師が最終決定権を持つ最重要政策と位置づけられている。大統領のこの問題への裁量は限られているのが実情だ。

これとは逆に、核開発で妥協せずに制裁が続けば国民生活の急速な立て直しは難しく、国民の高い支持はそのまま逆風へと変わりかねない。その場合、国際社会から出ている期待論も一気に厳しいものになることが予想される。

シリア情勢も米欧との関係改善を阻みそうだ。シリアのアサド大統領は16日、ロウハニ師に祝電を送り、「国家主権を侵害する陰謀と対決」するよう協力を呼びかけた。

同盟関係にあるアサド政権が米欧の支援を受ける反体制派に倒されれば、イランの周辺地域への影響力低下は必至で、立場の変化は考えにくい。【6月17日 産経】
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アフマディネジャド大統領、11月に尋問
もうひとつ、アフマディネジャド大統領に関する気になる記事が。

****イラン:大統領を尋問へ…ハメネイ師との確執影響か****
イランのメディアは18日、アフマディネジャド大統領が退任後の11月に刑事裁判に出廷し、尋問を受けると一斉に報じた。

大統領は政権運営などを巡り最高指導者ハメネイ師との確執が伝えられ、大統領選挙でもハメネイ師とは別に独自候補を擁立した。権力の座から退くタイミングを見て、最高指導者の影響下にある司法当局が尋問を決めた可能性もある。

報道によると、出廷を求める召喚状は、ハメネイ師に近いラリジャニ国会議長らの告発を受け、テヘランの裁判所が5月28日に発付。大統領選の当選発表(今月15日)後の17日に送達された。

告発内容は召喚状に記されておらず、何罪で尋問を受けるか不明だ。
アフマディネジャド大統領は8月初旬に退任予定で、尋問は11月26日に行われる。

大統領選では、側近らを独自に擁立した大統領に対し、地位を利用して支援を訴えたなどとして国会議員約170人が5月13日に告発したが、今回の尋問との関係は不明だ。

一方、アフマディネジャド大統領は18日、次期大統領のロウハニ師と会談し、「国際政治の改善と国民の要望の実現に向け、さらに国が一体となることを望む」と祝意を述べた。【6月18日 毎日】
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