(襲撃された大統領府 “flickr”より By DTN http://www.flickr.com/photos/54892559@N06/9136193238/in/photolist-eVknX5-eV8BK7-eVEq9c-eVEq6p-eVRQ9E-eVRQf3-eVCFLB-eVQ5RE-eVQ5WJ-eVCG52-eVQ6gE-eVQ6Py-eVCFWi-eVQ669-eVCFmZ-eVag55-eUXVwZ-eVagef-eVCFAT-eVCGet-eVQ6Kj-eVagR5-eVkpov-eVNM3j-eViJc9-eVq398-eVkGZB-eVkxeN-eVLhPD-eVbFP5-eUXVHe-eVeEgq)
【「まさか大統領府を狙った攻撃を仕掛けるとは思わなかった」】
アフガニスタンの反政府勢力タリバンがカタールのドーハに事務所を開設し、アメリカなどとの和平交渉に入る姿勢をみせているという話は、6月18日ブログ「アフガニスタン 全土での治安権限委譲 外交攻勢とテロで政権を揺さぶるタリバン」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130618)の最後に付記しましたが、交渉が後述のように入り口でもめている間に、タリバンによるアフガニスタン大統領府襲撃事件が起きています。
*****アフガン:武装集団と交戦、大統領府の警備員3人死亡****
アフガニスタンの首都カブールの大統領府近くで25日、武装集団が車を自爆させ、治安部隊と約1時間半にわたって交戦した。
内務省によると、大統領府の警備員3人が死亡、1人が負傷した。治安部隊は武装勢力3人全員を射殺した。旧支配勢力タリバンが「大統領府、国防省、米中央情報局(CIA)の拠点アリアナ・ホテルを襲撃した」との犯行声明を出した。
内務省によると、武装集団は、偽造した北大西洋条約機構(NATO)軍の身分証を提示して、大統領府や米国大使館へ向かう第1検問所を通過し、第2検問所で交戦となった。カルザイ氏が家族と暮らす大統領府まで数百メートルの地点だった。
第2検問所では、カルザイ氏の記者会見に向かう地元の記者約30人が所持品などの検査を受けていた。その場にいたアフガン人記者(27)は「軍の制服を着た男たちが車から降りて銃を乱射し、車が爆発した。タリバンは先週、和平交渉へ向けてカタールに事務所を開いたばかり。まさか大統領府を狙った攻撃を仕掛けるとは思わなかった」と語った。
タリバンとの交渉で米側代表を務めるドビンス米国務省特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)は24日にカブールでカルザイ大統領と会談し、25日に大統領府で記者会見する予定だったが、攻撃当時は大統領府にはいなかった模様だ。【6月25日 毎日】
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襲撃の様子については、“午前6時半ごろ、大統領府東側の検問所に国際部隊の車両を装った2台が乗り付けた。1台は通過したものの、2台目は入構許可証が偽物だと見破られ、そのまま積んでいた爆弾を爆発させた。1台目に乗っていた数人と治安部隊の間で銃撃戦となり、1時間半後、犯人5人全員の死亡が確認された。アフガン人警備員3人も死亡した。”【6月26日 朝日】と報じられています。
犯行グループについては、“アフガン当局者はロイター通信に、タリバン強硬派のハッカニ・ネットワークの仕業とみられると述べた。”【6月26日 産経】とも報じられています。
【頭越しにカルザイ大統領激怒 交渉に着かないタリバン】
難航が予想されているタリバンとの交渉は、スタートと言うか、厳密にはスタートする前からもめています。
14年末までに戦闘部隊をアフガニスタンから撤退させることとしているアメリカとしては、撤退後の枠組みを確立するために早期の交渉を希望しています。
タリバンが「アフガンの国土を使って外国の脅威になることを許さない」と言明して、アルカイダとの“絶縁”を示唆していることも、9.11を引き起こしたアルカイダをかくまっているタリバン政権を潰すという、アメリカがアフガニスタンに侵攻した目的に沿うものであり、アメリカにとっては好都合です。
一方、カルザイ大統領はカタールへアフガニスタン政府の交渉団を派遣することを表明していましたが、カルザイ政権の頭越しにアメリカ政府が「タリバーンと数日中に交渉する」としたため、直接交渉にこだわるカルザイ大統領は強く反発、「和平交渉がアフガン人の手によって行われないならば交渉には参加しない」「米国が伝えていた内容と全く異なる」と、交渉参加を見合わせることを表明しました。
“反発の背景には、タリバーンがこれまで、カルザイ政権を「米国の操り人形」と決めつけ、直接交渉を拒否してきた事情がある。直接交渉を後回しにされることは、政権の威信に関わる問題だった。”【6月20日 朝日】
また、タリバン側が事務所を開設した際、タリバン政権時代の旗を立て、当時自称した「アフガニスタン・イスラム首長国」を名乗ったことも、カルザイ大統領を怒らせたようです。
カルザイ大統領の激怒によって交渉の日程は遅れ、アメリカがカルザイ大統領をなだめるという展開となりました。
タリバンもカタール政府の要請を受けて、不満を表明しながらも「アフガニスタン・イスラム首長国」の表示や旗を22日までに撤去しました。
“ケリー米国務長官は19日、カルザイ大統領に電話で善処を約束。米国務省のサキ報道官によると「イスラム首長国」の看板はホスト国のカタール当局が撤去したという。
ケリー国務長官は22、23日にドーハを訪問するが、AP通信によると、ケリー氏はこの際にタリバン代表と面会する見通しという。その前後に米・タリバンの交渉が始まる観測が出ている。”【6月20日 毎日】
しかし、ケリー国務長官がドーハに到着した後も、タリバンは交渉に出てきていません。
****和平交渉「タリバン次第」=事務所閉鎖も―米国務長官****
カタールを訪問中のケリー米国務長官は22日、首都ドーハでの記者会見で、延期されているアフガニスタンの反政府勢力タリバンとの和平協議に関し、「米政府やアフガン政府は交渉のテーブルに着く準備が整っている」と述べ、タリバンの姿勢次第で協議再開の是非が決まると明らかにした。
ケリー国務長官はドビンズ米特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)が既にドーハに到着したとしつつも、協議が再開できるかどうかは「分からない」と発言。「他の関係者は自らに課せられた義務を果たした。後はタリバンが義務を果たすかどうかにかかっている」と述べた。【6月23日 時事】
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【交渉への揺さぶり?】
そんなこんなでもめていた最中の、大統領府襲撃でした。
当然のように、カルザイ大統領はこの事件を強く非難しています。
****タリバーン襲撃、アフガン和平に暗雲 政府、強く非難****
アフガニスタンの首都カブールで25日、大統領府前の検問所を反政府武装勢力タリバーンが襲撃する事件が起きた。カルザイ大統領は声明で「彼らは和平交渉をすると言う一方で、無実のアフガン人を殺している。その責任を問われる日が来るだろう」と強く非難した。交渉の行方はさらに不透明になった。(後略)【6月26日 朝日】
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アメリカは、テロを非難しつつも、早期の交渉開始を呼びかけています。
“カニングハム駐アフガン米大使は、25日のテロを非難し、タリバンに協議のテーブルにつくよう重ねて呼びかけた。”【6月26日 産経】
オバマ大統領とカルザイ大統領が和平交渉の推進を支持するとの立場を25日に確認したとの報道もありますが、大統領襲撃事件に触れられておらず、事件との時間的前後関係はよくわかりません。
****タリバンとの和平推進=米・アフガン首脳が確認****
オバマ米大統領は25日、アフガニスタンのカルザイ大統領とテレビ電話を通じて会談し、両首脳はこの中で、アフガン政府と反政府勢力タリバンの和平交渉の推進を支持するとの立場を確認した。
タリバンは18日、交渉の窓口となる対外連絡事務所をカタールの首都ドーハに開設した。しかし、米政府が個別にタリバンと協議しようとしたことや、連絡事務所にタリバン統治時代の旧アフガン国名の表札と国旗が掲げられたことにカルザイ大統領が強く反発。第1回交渉の開催は先送りされている。【26日 時事】
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今回の事件はについては、タリバン側が交渉を有利に運ぶため“揺さぶり”をかけているとも報じられています。
ただ、“揺さぶり”にしては、交渉開始直前の大統領府襲撃というのは刺激が強すぎる感もあります。
オマル師の生存が不明なタリバンは組織的な統一をかいている状況にあり、アメリカなどとの交渉が組織内で意思統一されていない可能性もあるのでは?
組織内に交渉に反発するグループが存在し、そうした勢力による犯行とも考えられます。
【「西側諸国や(イスラム圏の世俗国家)トルコの『女性の権利』は認められない」】
なお、タリバン側の交渉にあたっての考え方については、下記のような報道もあります。
一部タリバン支配地域で女子教育が認められており、タリバンの考え方も変わったのではないか・・・といった話もありましたが、下記インタビューでは「西側諸国や(イスラム圏の世俗国家)トルコの『女性の権利』は認められない」とのことで、相変わらずのようです。
そうなると、交渉に入れたとしても、何を目指して交渉するのか難しいところです。
****タリバン:「アフガン和平に期待」…元司令官インタビュー****
米政府とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンが和平へ向けた交渉を中東・カタールの首都ドーハで開始する。交渉でタリバン側代表を務めるタイブ・アガ氏のいとこで、タリバンの内部事情に詳しいアクバル・アガ元タリバン司令官が21日、カブールで毎日新聞の取材に応じた。
「過去10年以上にわたる戦禍の苦しみは我慢の限度を超えている」と話し、米政府・カルザイ政権双方との「和平」実現に期待を示した。
交渉の議題について、「タリバンが参加する『暫定政権』の発足と、暫定政権下での大統領選や議会選挙の実施」を挙げ、政治復帰を目標としていることを明らかにした。大統領選は来年予定されているが、カルザイ大統領は、現政権を否定する「暫定政権」の提案は受け入れないとみられる。
また、交渉に先立ち、米政府が求めている「女性の権利保障」については、「西側諸国や(イスラム圏の世俗国家)トルコの『女性の権利』は認められない」と述べた。タリバン政権は女子教育を否定し、女性の体を隠すブルカ着用を義務付けたが、これらを維持する考えを示した。
ドーハ事務所開設時、タリバンが旧政権時代の旗を掲げたことがカルザイ氏を激怒させたが、「ささいな問題だ。カルザイ氏は気に入らないことがあるたびにへそを曲げる。これでは交渉は進まない」と、懸念を示した。(後略)
【6月24日 毎日】
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