(ソチ冬季五輪会場の模型 メインスタジアム、ホッケー会場(2か所)、カーリング会場、スピードスケート会場、フィギュアスケート会場など “flickr”より By Ariane Colenbrander http://www.flickr.com/photos/11778646@N06/4352480520/in/photolist-7CBAPA-7CBB6o-7CxLED-7FY2fw-7FxLBu-7FEuYw-7Fvu2v-8HVgxs-7CMmww-7E3G2q-7FuDNj-cFB7Zh-7FtXHP-7DXkit-95R4x3-95R4xj-7FzphS-7DQj8L-7DQZr1-7DQZ1E-bxNmGB-bxNnkM-bjTshQ-bjTxLU-bjTvG5-bjTxRu-bjTxX1-bxNnxi-bxNnrZ-bjTuv3-bjTu73-bxNn2D-bjTtFA-7DQiRs-7DLCoK-7DLCv8-7DLuLZ-7DMb32-7DMbgT-7DMaRK-7DLC5r-7DQYUu-7DMaWR-7DLCdt-7DQjt7-7DSvGe-7Ee86p-7DiQfh-7GKuFX-7GPqZY-7GPqG5
プーチン大統領は2月6日に現地を視察した際、ロシア五輪委員会のビラロフ副会長が代表を務める企業が担当した競技施設の建設に当初予算の6倍以上の費用が掛かり、工期も守られていないことを厳しく批判、逆鱗に触れた同氏は翌日解任されました。)
【もはや「魔法の杖はない」】
ロシア経済の停滞が続いています。
2013年のGDP成長率予測は、3.6%から2.4%に下方修正されましたが、これはマイナス7.8%となった09年を除き、1999年以来で最低の数字です。
17日発表された第1・四半期の伸び率も前年同期比で1.6%で、四半期ベースでは09年以来最も低い成長率でした。
石油・天然ガス収入を再配分するだけの資源依存型のプーチン流経済モデルの限界が指摘されています。
****「自慢の経済」後ずさり ロシア プーチン流、限界 「大胆な改革」踏み切れず****
■成長率を下方修正/バラマキ原資なし
プーチン大統領の就任から1年余りが過ぎたロシアで、経済成長の鈍化が鮮明になっている。
今年1~3月期の国内総生産(GDP)は前年同期比でわずか1・2%の伸びにとどまり、経済発展省は通年の成長率予測を3・6%から2・4%に下方修正した。石油・天然ガス収入を再配分するだけのプーチン流経済モデルが、いよいよ限界を露呈してきた。
2008~09年の世界金融危機後、ロシアの経済成長率は10年に4・5%、11年に4・3%、12年に3・4%と漸減してきた。今年の予測成長率は、マイナス7・8%となった09年を除き、1999年以来で最低となる。
これは、プーチン氏が大統領復帰前に豪語していた「年6~7%の成長」からほど遠く、主要新興国の中でも見劣りする。ベロウソフ経済発展相は4月の政府会合で「今日の状況は相当な程度、世界経済でなく、国内要因に関係している」と率直に述べた。
2000年に1期目の大統領に就任したプーチン氏は、政治・経済の両面で国家統制を強化する一方、石油・天然ガス収入を公務員給与や年金の引き上げ、国策企業への資金投下などに振り向けた。就任時に1バレル=20ドルだった石油価格の急騰に助けられ、08年春までの前回大統領期には年平均約7%の成長を達成。
通算3期目には、強権統治と“バラマキ”というプーチン政権の性格がいっそう強まっている。医師や教員の給与増額、住宅供給、軍需産業支援といったプーチン氏の公約を全て実現すると、任期の6年間で4兆8千億ルーブル(約15兆3千億円)の支出増になると試算されている。
だが、経済減速が示すのは、従来の発展モデルが頭打ちになり、バラマキの原資を見いだすことも困難になっている現実だ。最大の問題は、国家予算に占める石油・天然ガス関連の収入が50%を超え、地下資源頼みの経済構造から脱却できていないことにある。
財政赤字の回避は不可能とみられており、国際資源価格の急落に見舞われた場合の影響は甚大だ。
政権のリベラル派は企業の税負担軽減や汚職対策、投資環境改善などによる産業育成を主張。だが、現実には治安・特務機関の出身者など国粋主義のシロビキ(武闘派)が影響力を増しており、政権が大胆な改革に踏み切る兆候はない。
「停滞の時代」と呼ばれる旧ソ連後半のブレジネフ政権期に、超長期化する「プーチン時代」をなぞらえる論調も目立ってきた。【5月31日 産経】
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資源依存構造からの脱却の必要性はプーチン大統領もかねてより主張いることで、22日までサンクトペテルブルクで開催されていた「国際経済フォーラム」においても、資源依存構造からの脱却を図るべく鉄道建設など大規模事業への資金投下を表明していますが、その実現性については疑問視されています。
****プーチン大統領「もう魔法の杖ない」 露フォーラムで資源頼み懸念****
ロシア経済の魅力をアピールするため、同国西部サンクトペテルブルクで開催されていた「国際経済フォーラム」が22日、閉幕した。プーチン大統領は演説で地下資源依存の経済構造から脱却する必要性を強調し、鉄道建設など大規模事業への資金投下を表明。
しかし今年1~5月の国内総生産(GDP)が前年同期比1・8%の伸びにとどまるなど経済の減速は明らかで、楽観視する見方は少ない。
同フォーラムは、ロシアが世界経済フォーラムの「ダボス会議」を意識したものとして2000年代半ばから注目されてきた。だが、ロシア経済に好材料がない中での今回の会合について、主要メディアは投資家の間の「沈鬱ムード」とともに伝えている。(中略)
プーチン氏は会期中の演説で、過去のロシア経済を支えてきた石油・天然ガス価格の高騰が今後は望めないとの認識を示し、もはや「魔法の杖はない」と発言。着実な成長のためには労働生産性の向上と投資、技術革新が不可欠だと強調した。
プーチン氏はまた、モスクワと西部カザンを結ぶ高速鉄道の建設やシベリア鉄道の近代化、モスクワ郊外の環状道路建設に4500億ルーブル(約1兆3400億円)を投じると表明した。
ただ、プーチン氏の掲げた「課題」に新味は全くなく、投資環境改善への方策も額面通りに受け取ることは難しい。
昨年のこのフォーラムでプーチン氏は、国営大企業の「民有化」推進を約束したが、実際は大手銀ズベルバンクの株式7%強が放出されたのみだ。汚職や過度の官僚主義といった劣悪な投資環境も相変わらずで、プーチン氏に任命された「事業家オンブズマン」の活動成果は、いまだ限定的なものにとどまっている。
石油・天然ガスの収入を国家主導の大規模事業に投下する「プーチン流経済モデル」の非効率も指摘されている。南部ソチで来年行われる冬季五輪の会場建設費は500億ドル(約4兆8900億円)と、「史上最高額」に膨張した。
役人や大企業の腐敗が深刻な上、各種インフラ事業の必要性や経済効果には疑問符がつけられている。【6月23日 産経】
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【「皇帝は善良。悪いのは取り巻き」】
やはり経済減速に悩むBRICsの一角、ブラジルでは「ワールドカップより教育、貧困対策を」との抗議行動が展開されていますが、コンフェデ杯のスタジアム建設費は約2千億円、W杯開催に向けた施設整備などにかかる費用については約1兆2千億円に達するもの見られています。
ソチ冬季五輪の約4兆8900億円はそれに比べても巨額です。
それでも、国民の不満が表面化しないところがロシアの社会・政治構造です。
もっとも、国民の間に経済停滞・官僚の腐敗などへの不満がないわけではなく、与党「統一ロシア」の支持率は20%台にまで低下しています。
そこで、プーチン大統領は失策への批判を与党「統一ロシア」と、「統一ロシア」を委ねたメドベージェフ首相に押し付ける形で、新たな権力基盤の整備を本格化させています。
****ロシア:プーチン氏の超党派組織が組織拡充****
ロシアのプーチン大統領が率いる超党派組織「全ロシア国民戦線」が12日、組織の拡大に向け、中央本部の共同議長や規約などを決める。
与党「統一ロシア」に対する国民の批判が強いことから、大統領は支持基盤を「国民戦線」へ移していくとみられ、任意団体だった「国民戦線」の本格的な組織作りに乗り出した格好だ。
「国民戦線」は11〜12日に創設大会を開き、プーチン氏を代表、正式名称を「全ロシア社会運動・ロシアのための国民戦線」とする見通し。
「国民戦線」は2011年にプーチン氏の提唱で設立され、昨年3月の大統領選でプーチン陣営を支援したが、体制作りが遅れていた。保守勢力が政党や団体の枠を超えてプーチン氏の下に集まる組織を目指す。
今後、正規の社会運動団体として登録し、次期の下院選(16年)や大統領選(18年)へ向け活動を広げていく。
統一ロシアは11年末の下院選で議席数を大幅に減らし、昨年にプーチン政権が誕生した後、党首職はプーチン氏からメドベージェフ首相へ引き継がれた。
今後は「国民戦線が組織として形を整える一方で、統一ロシアやメドベージェフ氏が損な役回りを背負わされていく」(高等経済大学院のペトロフ教授)との見方も出ている。【6月12日 毎日】
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「国民戦線」(All-Russia People's Front)は各地に住民の陳情所を設け、中央と地方の政府や議会、行政機関を監視して各種問題の解決を働きかけるとのことで、“政党や議会がいっそう形骸化し、「皇帝型」の統治に傾斜する可能性も指摘されている”【6月13日 産経】と指摘されています。
“プーチン氏はこのため、人民戦線(「国民戦線」)に軸足を置くことで「統一」などから距離をとり、各種の政治勢力や政府を超越した「国民の指導者」像を前面に打ち出していく見通しだ。これは、「皇帝は善良。悪いのは取り巻き」というロシアの伝統的な庶民感情に訴える統治手法でもある”【同上】
「皇帝」とか「人民戦線」とか、なにやら先祖返りのような雰囲気もあります。
【薄れるカリスマ】
プーチン大統領は地方の保守層を中心に今も60%前後の支持率を維持していると見られていますが、都市部を中心にひところのカリスマが薄れてきてもいます。
****「プーチン大統領は理想的統治者ではない」46%*****
ロシアの中立系世論調査機関「レバダ・センター」は10日までに、プーチン大統領が国家の統治者として理想的ではないと答えた国民が46%にのぼり、理想的だと答えた41%を上回ったとする調査結果を発表した。
調査は5月末、国内45の地域で1600人を対象に実施。専門家は社会福祉政策などの個別の問題へのプーチン大統領の対応となれば、「理想的」とする回答はさらに下がるだろうと指摘している。【6月11日 産経】
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こうした政治状況を打開するためにも、プーチン大統領としては経済再建が急務となっています。
その流れで、プーチン大統領が号令する極東開発の推進が重要であり、そのためには日本との資本・技術協力も必要となります。その先には北方領土問題の打開も・・・というのは、少し話を急ぎすぎでしょうか。