孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  増加するEU域内の労働者移動

2013-06-15 23:45:13 | 欧州情勢

(スペインで失業の登録をするために並ぶ人々 【6月14日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/jp_eurocrisis/idJPTYE95D04T20130614)

欧州の経済状況は相変わらずですが、特に若者の失業率が高く、社会を不安定化させる要因ともなっています。

****4月のユーロ圏失業率、12.2%で最悪水準を更新 若年層を直撃*****
欧州連合(EU)統計局が発表した4月のユーロ圏失業率は12.2%となり、24か月連続で過去最悪水準を更新した。

仕事のない若者の窮状は深刻化し、経済専門家らは金利引き下げを求める声を一層強めている。
悪化の一途をたどる失業率は、欧州の「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」である25歳以下の若者にとって、不況脱出の見込みがほとんどないことを示している。

EU統計局によると、ユーロ圏17か国の4月の失業者数は前月比9万5000人増の1930万人に上った。4月までの過去12か月間で、ユーロ圏では20万人近くが失業手当受給者に加わった。若年総失業者数はEU全体で560万人(23.5%)、ユーロ圏では360万人(24.4%)だった。

ギリシャでは4月時点で3人に2人の若者が失業している。スペインでは2人に1人、イタリアとポルトガルでは5人に2人の若者が失業中だ。【6月1日 AFP】
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3人に2人、あるいは、2人に1人が失業という状態で、どうやって生活しているのか不思議なぐらいですが、そうした経済危機にある国では国内での就職をあきらめ、国外に仕事を求める流れが強まっています。

そうした移住先としては、欧州にあっては比較的経済状態が良いドイツ(3月の失業率は5.4%)がまずあげられます。

****ドイツへの移住、経済危機国から急増 昨年****
スペインやギリシャなど経済危機に苦しむ南欧諸国からドイツへの移民が増えている。仕事を求めての移住が多いと見られ、危機が長引く中で、経済好調なドイツに人も流れている実態が改めて明らかになった。

ドイツ連邦統計庁が7日発表した2012年の移住統計(暫定値)によると、外国からドイツへの移住者数は11年より12万3千人多い約108万1千人だった。

このうち、スペインからは前年比45%増の約3万人、ギリシャからは43%増の約3万4千人、ポルトガルからは同じく43%増の約1万2千人、イタリアからは40%増の約4万2千人と、南欧諸国からの増加が目立った。また、スロベニアやハンガリーなど東欧諸国からも増えた。【5月11日 朝日】
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ドイツへの移民が増加する以前は、イギリスがEU加盟国内での移住先として多く選ばれていました。
移民の増加は、移民先の低所得層との仕事の奪い合い、労働条件の悪化という経済的摩擦のほか、文化的摩擦、治安の悪化など大きな社会問題を惹起しますので、移民受け入れ国での移民排斥のような動きを刺激することにもなります。

イギリスにおいて高まっているEU離脱論、地方選挙での「英国独立党」の躍進の背景にも、そうした移民増加への不満があります。

****英国:EU離脱の是非、議会で激論****
欧州連合(EU)からの離脱の是非を巡る英国議会の議論が白熱化している。

15日には、与党・保守党の反EU派議員92人が今国会のエリザベス女王の施政方針演説に対し、「離脱の是非を問う国民投票に言及がなかったのは遺憾」として異例の修正動議を提出。否決されたものの与党内で採決が割れる事態になった。閣内にもEU離脱に公然と賛成する意見も出ており、キャメロン首相の求心力低下が目立っている。

同日夜に行われた採決では、305人の保守党議員のうち116人が賛成したが、連立与党の自民党、野党・労働党が反対し否決された。反EU派議員は、月内にも国民投票法案を議員立法で提出する方針で、対立はさらに続く見込みだ。

英国では、低賃金労働者の流入や規制を押し付けられることへの不満から反EU感情が根強く、ユーロ圏で債務危機が深刻化した2011年以降は世論調査で「EU離脱」の回答が「残留」を上回っている。
今年行われた地方選挙では、EU離脱と移民規制を掲げる「英国独立党」が大きく躍進。支持層が重なる保守党内の危機感が一気に高まった。

キャメロン首相は今年1月、「15年の次期総選挙で保守党が勝利すれば17年末までに国民投票を行う」と表明したが、反EU派は「口約束だけでは国民に真剣さが伝わらない」と法制化を強く求めていた。

12日には、ゴーブ教育相とハモンド国防相の2閣僚が「いま国民投票が行われれば離脱に投票する」と発言。ローソン元財務相ら党重鎮からも離脱を支持する意見が相次いでおり、党内には「総選挙前に国民投票を実施すべきだ」との声まで出始めている。

EU離脱に対しては、保守党の連立相手の自民党や、企業活動への影響を懸念する経済界の反対意見が強い。キャメロン首相は賛否双方への配慮から「国民投票の前に、まずEUの改革を目指す」として明確な態度表明を避けているが、労働党は「首相はもはや党のコントロールを失っている」と攻勢を強めており、首相にとって頭の痛い状況が続いている。【5月16日 毎日】
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特に、域外のイスラム圏や紛争国などからの移民は摩擦も大きく、5月末にはこれまで移民に比較的寛容だったスウェーデンでも連日の暴動がおきるなど欧州各国で問題化しており、各地で排外的極右勢力の台頭などを招いています。
EU域内の労働者移動においても、基本的には同じ問題を抱えています。

こうした話はこれまでの幾度も取り上げてきた移民の負の側面ですが、共同体としては労働力の移動は当然のことであり、また、労働力の移動によって域内経済状態の平準化・安定化、ひいては共同体全体の活性化も期待できます。

****労働者の「圏内大移動」が欧州を救う****
ヨーロッパで起こっている歴史的な移民現象は経済悪化の兆しではなく景気回復への最後の希望だ

為替レートが国の実力に応じて変動しないユーロ圏では、経済破綻した国だからといって通貨が安くなり、それによって外から投資や仕事を呼び寄せられるということがない。だとすれば、人のほうから動くしかない。実際、それが今ヨーロッパで起こっていることだ。

スペインの王立エルカノ研究所の調査によると、30才未満の若者のうち約7割が国外へ移住することを考えていると言う。ポルトガルに至っては、過去2年間ですでに人口の2%が移住している。自国を捨て国外に出る人の数は2008年から倍増しているのだ。

極めつけはアイルランドかもしれない。毎月3000人以上が国外移住するという記録的な大移動が起こっているのだ。これほどの移民が出るのは、19世紀にアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」以来。移住する人の中にはポーランドから来ていた出稼ぎ労働者が自国に戻っている数も含まれているが、多くはアイルランド人だ。

こうした移民の行き先はというと、お察しの通り経済が比較的好調なドイツが人気だ。ドイツの連邦統計局によると、昨年、約100万人もの移民がドイツへ押し寄せており、これは一昨年から13%の増加だ。特にスペイン、ギリシャ、ポルトガルそしてイタリアからの移民は12年と比較して5割近く増えているという。  
だが、他の移民たちは職にありつくために、かつて先祖たちが移り住んで行った「伝統的な移民先」にも向かっているようだ。アイルランド人ならイギリスへ、スペイン人は南米へ、そしてイタリア人はアメリカへ、といった具合だ。

こんな社会現象の話を聞くと、欧州経済はますます悪くなっていると思うかもしれない。だが、EUの高官は「圏内移民」こそ、欧州が経済危機から脱却するカギになると言う。アメリカと比べて労働者の圏内移動が少ないことは、彼にとって黙って見過ごせない深刻な問題なのだ。

もちろん、そんなに手っ取り早く都合のいい政策などそうありはしない。たとえばポルトガル人が急にフィンランド語を話せるようになるわけもない。

だが、EUという単一の労働市場をもっとアピールするためにできることはある。例えば資格や、移住後も年金が移管される仕組みを整えるといったことが挙げられるだろう。
圏内移民には、為替変動による資本移動ほどの調整力はない。だが、しばしば制御不能になる為替相場と違い、政治的な努力は実りやすい。【6月13日 Newsweek】
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ただ、熟練労働者、専門的技術者の移動は、出身国にとっては長期的影響をもたらす「頭脳流失」という側面もあり、OECDでは警戒しています。【6月13日 ロイターより】

圏内移民が“政治的な努力は実りやすい”かどいうかはともかく、政治的に厄介な問題を引き起こしがちなことはイギリスなどの例を見ればわかるとおりで、為替変動や資本移動以上に難しい対応が要求されます。
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