孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  デモ参加者批判でイスラム主義支持勢力を糾合するエルドアン首相の思惑

2013-06-28 22:56:44 | 中東情勢

(公園で開かれる夜の討論集会 “flickr”より By murat germen http://www.flickr.com/photos/62258112@N00/9139389826/in/photolist-eVBLbE-eVqnYB-eVqnDi-eVqotg-eVqkHt-eUFH6W-eUFRkj-eUFMJ9-eUG15A-eUFP4Y-eUuRTB-eUv3ri-eUuUcK-eUuCvc-eUFJMq-eUv1Si-eUuadK-eUFXMj-eUv5Rc-eUuWsR-eUGqiE-eUFybu-eUuQ5a-eUv7qv-eUuThR-eQeVay-eQeUZd-eQ3u4z-eQeM3m-eQeRsm-eTwWPZ-eTJkXw-eTwVh8-eTJkDd-eTJjd7-eTJkL7-eNZUzs-eQ3nWH-eQ3mxD-eQ3xcn-eQeWBL-eQ3wj6-eQeMN5-eQ3nxn-eQeWqj-eQeVnN-eQ3p7D-eQePiS-eQ3nbp-eQeRJf-eQeSNC)

市民による小規模な集会の輪
小さな公園の立木伐採への抗議から始まったトルコの抗議行動は専制的なエルドアン首相への反発を強めながら拡大、15日には警官隊による強制排除が行われました。
その後も、抗議行動は黙って立つだけの「無言の抵抗」などとして続けられ、22日には再びデモ隊数千人が集まり、これを警官隊が強制排除する大きな衝突が起きています。
26日未明にも1000人以上が参加する抗議運動が行われるなど抗議行動は現在も続けられており、開始からすでに1か月が経過しています。

****トルコ、広がる小集会 40カ所以上、夜の政治討論 「デモ、一過性で終わらせない****
警官隊によってデモ隊が強制排除されたトルコのイスタンブールで、市民による小規模な集会の輪が広がっている。「地方の村で交流会をしよう」「新政党を立ち上げるべきだ」――住宅地にある40カ所以上の公園で、政治を考える夜の討論集会が遅くまで続く。

中心部に近いベシクタシュ地区のアッバスアガ公園。夜9時ごろ公園の円形劇場に1千人ほどが座って見守る。観客の中から前に出てマイクを持って意見発表をする。

若い男性が「私たちには組織も指導者もない」と話し始めた。「しかし、ゲジ公園のデモを一過性で終わらせてはならない。この集まりを広げて市民議会をつくったらどうだろう」
別の若者は「私たちは新たな政党を組織するか、街頭でデモを続けて警察とやり合うか、選択しなければならない」と述べた。
若い女性が立ち、「テレビや政府の発表は、私たちが暴徒であるかのようなイメージを広げている。町や村に出かけて行き、地域の人々との交流集会を開いたらどうか」と提案した。

イスタンブールのデモは5月下旬、中心部のゲジ公園で、公園の開発に反対する運動から始まった。今月15日に警官隊が強制排除に乗り出した。
住宅地での小集会はその2日後、ベシクタシュ地区で始まった。口コミで広がり、いまでは40カ所以上で開かれ、強権的な政府のやり方に対する対抗策を話し合う。

組織化や地域間のネットワーク化も日々進む。集会の公園は住宅地にあるため拍手は禁止され、意見に賛成の場合は両手を上げ、反対は腕を交差させる、などのルールができた。

ベシクタシュ地区の集会に参加するアマル・アタコルさん(30)は「私は集会から新しい組織が生まれることを期待している。ただし、組織化には反対の声もある。市民が自主的に集まって意見を述べる場ができたことは重要だ」と語った。【6月28日 朝日】
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理想化される抗議行動の一方で、破壊行為やハラスメントも
夜な夜な公園で行われる市民の集会・・・・民主主義の原点を見るような感もありますが、こうした集会に参加する市民の思いとは別に、また、警官隊の過剰暴力的な鎮圧行動とは別に、抗議行動に伴う広範な破壊活動も行われました。

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6月2日の政府発表によれば、次のような物的被害がデモに付随して発生している。パトカー89台、市営・民営路線バス・一般車両22台、公用車15台(その中には放火されて黒こげになったものもある)、会社や店舗など94カ所、住宅1カ所、警察署1カ所,政党ビル4カ所、その他、無数のバス停、信号、道路標識、街頭監視カメラ、銀行ATM、縁石やトンネル内タイルなどが放火や破壊の被害にあった。

6月19日の発表によれば、救急車41台の被害の追加など、さらに車両関係の被害が大幅に拡大したほか、政党ビルへの襲撃も累計14件(AKP13、CHP1)へと増えている。(ネット上で閲覧できるビデオをみると、実際には、タクスィム広場やゲズィ公園周辺でもパトカーやバスが放火されたり破壊されたものが記念碑的に放置され、バリケードが築かれており、平和的デモというよりは暴動に類する現象がここでも短時間であれ起きていたことが分かる。)アンカラに住む友人は、市内中心部ではバス停はほとんど焼け焦げ、まるで戦争があったみたいだと話した。【6月25日 澤江史子 中東マガジン】
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更に、イスラム主義を強制しようとしているとしてエルドアン首相を批判する者の中には、イスラムの象徴として目立つスカーフ着用女性に対するハラスメントも見られるそうです。

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街ゆくスカーフ着用女性も同種のハラスメントの対象とされた。また、通り過ぎるときにバイクのクラクションを鳴らされたとか、中には直接的にスカーフを引きはがされそうになったとか、さらにひどい場合には、蹴られたというケースも一部、報道されている。【同上】
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6月19日ブログ「トルコ 反首相抗議運動で明らかになったエルドアン政権のメディア統制」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130619)では、首相側にによるメディア統制、自主規制して抗議行動を報じないマディアの姿勢を取り上げましたが、こうしたメディアの姿勢が批判に曝された結果、メディアは政府や警察の横暴を批判するトーンを強め、デモ側を理想化する報道を行っているとの指摘もあります。

“こうしたメディアにおいて、タクスィムのデモは、絶望的な政府の態度と対比される希望という位置づけを与えられ、治安部隊の排除活動の暴力性と、対照的に理想的な市民的抗議行動がデモ報道のほぼ全てとなった。”【同上】

反首相側によるスカーフ着用女性を標的にしたハラスメントにしても、こうした抗議行動を理想化したメディアでは十分に取り上げられていないとのことです。

支持基盤糾合を図るエルドアン首相
一方、エルドアン首相は政権支持勢力が暴発しないように一定に抑制しながらも、デモ参加者を反イスラム的な破壊行動を行う集団との批判を強めています。

****変わらぬ政権支持とエルドアン首相のデモ非難の背景****
・・・・・デモが長引くほどに、首相の演説の中では、嫌イスラムの世俗派vsイスラム派の構図でイスラム派の支持を糾合しようと、宗教的要素を強調する発言が目立つようになる。例えば、6月7日に北アフリカ外遊から戻った直後に空港で行った演説では、支持者に対して喧嘩や破壊は自分たちのとるべき態度ではないと支持者をなだめる一方、神への祈願の形式で支持者の連帯を幾度となく呼びかけた。さらに、デモ参加者がモスクに土足で上がり、酒を飲んだと非難した。(後略)【6月25日 澤江史子 中東マガジン】
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理想化された抗議行動の一方で、公園の外にいる多くの住民は破壊活動に憤り、多くの女性がハラスメントに怯える・・・という状況で、結局抗議行動への支持は広まっておらず、デモに伴うネガティブな面をイスラム主義的な立場から批判する首相率いる与党AKPの支持率も低下していないとのことです。【同上より】

ただ、与党支持率低下を示す世論調査もあるようで、このあたりは定かではありません。

****トルコ:デモ発生から1カ月 事態収束のめど立たず*****
エルドアン首相率いるAKPは穏健なイスラム主義と民主主義を掲げ、2002年から3期連続の単独政権を実現している。だが、デモ後に行われた世論調査の中には、支持率の低下を示すものもある。

これについてアダイルマス氏は、デモの中心的な役割を果たした若者を「利用した勢力がある」と指摘。野党関係者や従来の反政府勢力が後発的に便乗し、火炎瓶や石を投げて店や公的施設を破壊したため、「デモにネガティブな印象を抱いている人は多い」と反論した。一方、デモ参加者の一部が地方選挙に候補者擁立の動きを見せていることについては「破壊行為をするよりよほど建設的だ。選挙で争い、民意を問いたい」と歓迎した。【6月27日 毎日】
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公園の中では“日頃のイデオロギー的な激しい対立を超えて民主主義のために連帯する、(旧来のイスラム主義vs世俗主義といった対立や、多様な民族主義・宗教文化グループ間の対立を超えた)新しいトルコの市民のあり方”が模索されたとしても、公園の外では従来からの“世俗派vsイスラム派”の対立という構図に終始すれば、結果としてはエルドアン首相の思惑に沿うところとなるでしょう。

なお、エルドアン首相は次期大統領を目指しており、その準備として首相の権限を弱め、自分が就任する予定の大統領権限を強める方向で改憲準備を進めているとも言われています。

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今回のデモ拡大の背景には、エルドアン氏が14年の大統領選に出馬し、勝利してさらに権力の集中が進むのではないかとの強い懸念がある。軍部が1982年に制定した現在の憲法について、AKPを中心に議会で新憲法の制定準備が進められているが、「大統領の権限を大幅に拡大する内容」だ。エルドアン氏の「就任に向けた下準備」との批判もある。

これについてアダイルマス氏は、「現行憲法は、首相に大きな権力を与えている。新憲法は、こうした権限を大統領や議会に分散し、より力のバランスの取れたシステムを作るのが狙いだ」と強調。トルコの民主化には欠かせない法整備だとの見解を示した。【6月27日 毎日】
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