孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  明日30日でモルシ大統領就任1年 反大統領派・支持派の対立で一触即発の情勢

2013-06-29 22:21:30 | 北アフリカ

(昨日ぐらいの反大統領派の抗議集会のようです “flickr” より By Mahmoud Gamal El-Din http://www.flickr.com/photos/64726814@N04/9161041651/in/photolist-eXwJvZ-eXJkxN-eXJ3ww-eXwCsa-eXwH54-eXwSZX-eXwb9n-eXHtCm-eXJdYL-eXJ2vs-eXwNCp-eXJ3PS-eXJhbL-eXJnXy-eXwcKP)

【「選挙で示された民意」か、「革命を乗っ取った」のか?】
ムバラク政権を倒した「アラブの春」で民主化を手にしたかのように見えたエジプトですが、ムスリム同胞団を支持基盤とするイスラム主義のモルシ大統領と、これに反発するリベラル・世俗派などの勢力の対立が収まらず、低迷する経済情勢への不満もあって、きわめて不安定な政治情勢が続いています。

明日30日で就任から1年を迎えるモルシ大統領ですが、大統領に反発する勢力と大統領を支持する勢力の双方が大規模なデモ・集会を予定しており、衝突の懸念が高まっています。

****エジプト:モルシ大統領就任1年 デモや集会 緊張高まる****
エジプトのモルシ大統領の就任から1年を迎える30日、政権に反発する市民団体や野党が大規模な抗議デモを計画している。一方、これに反発する政権支持派も集会を開くなどしており、緊張が高まっている。

ロイター通信によると28日にはエジプト第2の都市、アレクサンドリアで両勢力の衝突に巻き込まれ米国人男性ら2人が死亡する事態も発生した。さらに衝突が激化すれば、経済の混乱にも拍車がかかるのは必至だ。

「間違いも犯した。達成できなかった約束もある」。26日夜、テレビ演説したモルシ大統領は1年をこう振り返り、野党が不満を抱く新憲法の修正協議を提案するなど柔軟姿勢をアピール。一方で「選挙で示された民意を無視しようとする勢力がいる」と政権打倒運動をけん制した。

主要野党勢力「国民救済連合」は27日に声明を発表し、「大統領は過ちの深刻さを認識していない」と批判。予定通り、30日のデモに加わると発表した。

26日以降、各地で反政権デモが散発的に起きている。事態を受けて米国務省は28日、エジプトへの渡航を自粛するよう米国民に勧告した。

反政権運動を盛り上げる契機になったのは、「反乱」と称してカイロ在住のジャーナリストらが始めた反政権署名活動だった。発案団体によると、署名数は延べ2000万人分に達する勢いだ。

民間調査機関によると、大統領の支持率は昨年8月の72%から今月には25%に低下。タハリール広場には28日、反政権派の市民約1000人が集まり、「政権を去れ」と気勢を上げた。
30日は広場や大統領宮殿前などでデモを計画。反政権派は穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が政権を動かしているとみており、同胞団の事務所などが襲われる恐れもある。

これに対して、同胞団などイスラム勢力は28日、カイロ近郊で集会を開き、数千人以上が参加した。「神のために」というシュプレヒコールが響く中、会社員のマフムード・サイードさん(39)は「俺たちが大統領の手足となって支えていく」とまくし立てた。

こうした中、混乱を警戒する市民は、日用品やガソリンの買いだめに走っている。【6月29日 毎日】
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反大統領派:モルシ政権擁護とアメリカを批判
上記記事にもあるように、30日を前に、すでに各地で衝突が発生しており、アレクサンドリアでのアメリカ人などの死傷者が出ています。

****デモ隊衝突で米国人ら3人死亡、エジプト北部****
イスラム主義組織出身のムハンマド・モルシ氏が大統領に当選してから1年を迎えたエジプトで28日、北部にある同国第2の都市アレクサンドリアなどで、同大統領の支持派と反対派のデモ隊が衝突し、米国人1人を含む3人が死亡した。

テレビ局が撮影した映像では、同市のシディ・ガベル地区で銃声が聞こえた後、デモ参加者が四方八方に逃げ去る様子が映し出された。 医療関係筋によると、死亡した米国人は21歳で、散弾銃の傷で病院に運ばれたという。

当局によると、アレクサンドリアのアメリカ文化センターの職員で、デモ隊の写真を撮っていた際に死亡した。首都カイロ(Cairo)にある米大使館の職員はAFPの取材に対し、「米国人1人死亡との報道を聞いた。確認を行っている最中だ」と語った。アレクサンドリアではこの他に1人が死亡している。

治安当局者や目撃証言によると、北部ポートサイドでは、正体不明の集団が反モルシ派のデモ隊に小型爆弾を投げつけ、エジプト人ジャーナリスト1人が死亡、数人が負傷した。
治安当局によると、衝突はナイルデルタのダカリヤ県とブハイラ県でも発生し、全国で少なくとも130人が負傷した。
アレクサンドリア市とダカリヤ県アガでは、モルシ大統領がかつて所属していたイスラム主義組織「ムスリム同胞団」が結成した与党・自由公正党の事務所が放火され、ブハイラ県でも同党の事務所が襲撃されたという。

一連のデモでは、反モルシ派が「革命を乗っ取った」として同大統領を非難する一方で、支持派は最後まで同大統領の正当性を擁護すると誓っている。
28日に起きた衝突は、モルシ大統領就任1周年を迎える30日に反対派が計画している大規模な抗議行動の前触れとみられている。ナイルデルタ地域では26日から27日にかけても衝突が起き、少なくとも4人が死亡した。【6月29日 AFP】
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今週初め、アメリカのアン・パターソン在エジプト大使とムスリム同胞団最高指導者代理であるカイラート・アルシャタル氏が会談を行っており、そのことはアメリカ・オバマ政権がモルシ政権を支持しているとして反大統領勢力の怒りを買っています。
抗議集会には、アメリカ大使やオバマ大統領を批判する写真・プラカードが多くみられる状況で、今回アメリカ人が攻撃対象となったのも偶然ではないように思えます。

あふれる敵意と武器
「革命を乗っ取った」としてモルシ大統領・ムスリム同胞団への批判を強める反大統領派と、イスラム主義を支持しモルシ政権を守ろうとする大統領派の間の“敵意”が沸点に達しそうな状況です。

*****リベラル派に地獄を」=イスラム主義者、敵意むき出し―エジプト****
エジプトの首都カイロで21日に行われたイスラム主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ大統領を支持する数万人規模の集会は、日が傾くにつれ熱気を帯びた。
参加者は円陣を組み「エジプトにイスラム法を。リベラル派に地獄を」と連呼。敵対する世俗・リベラル派への敵対心をむき出しにし、大統領支持を誓っていた。

集会が開かれたカイロ・ナセルシティ地区のモスク(イスラム礼拝所)一帯は幹線道路を含め人がひしめき合い、身動きできない。人々はモルシ大統領の肖像写真を掲げ、思い思いに支持を訴えた。日が落ちると花火も上がり、陶酔感はさらに高まった。

ハンディ・スレイマンさん(59)は、北部アレクサンドリアから仲間と共にバスで駆け付けた。「モルシ大統領への忠誠心を示すために来た」と語る。モルシ大統領に対しては、世俗・リベラル派から、野党の意見に耳を傾けず、独裁色を強めていると批判されている。しかし、スレイマンさんは「公正な選挙で選ばれた大統領が独裁者のはずがない」と切り捨てた。【6月22日 時事】 
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多くの武器が集会などに持ち込まれているため、衝突が制御できない暴動化することが懸念されます。

****衝突で米国人ら2人死亡=デモ会場にあふれる武器―エジプト****
・・・・エジプトでは28日、アレクサンドリアや首都カイロなど各地で反大統領派、大統領支持派が抗議行動を展開。デモ会場には銃やナイフなどが大量に持ち込まれており、反大統領派が集結したカイロ中心部のタハリール広場では、銃の暴発で男性が足を負傷し、ほかの参加者に担ぎ出される光景も見られた。(後略)【6月29日 時事】
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“敵意”と武器がそろい、まさに一触即発の情勢です。
政治混乱が経済の低迷を招き、経済の低迷は国民の不満を強めて政治的混乱を助長する・・・という悪循環に陥っているエジプトですが、明日30日はそうした混乱のなかでのひとつのピークになりそうです。

軍:介入を辞さない姿勢をみせるも、今後の動きは不透明
混乱が現実のものとなったとき、軍の出動が命じられる事態も想定されますが、そのとき軍がモルシ政権支持で動くのか、ムバラク前大統領を見捨てたようにモルシ大統領も用済みとして処理するのか・・・不透明です。

****エジプトは「破綻国家」となるか 新たな「革命劇」への不穏な胎動*****
・・・・前述のとおり、イスラエルの安全保障を最優先課題に掲げる米国は、和平を維持するためにエジプトを援助漬けにした。

その間の政権は空軍司令官出身のムバラク大統領に率いられた軍とは一体の政権であり、民生支援も、軍事援助も全ては言わばエジプト軍にプレゼントされたようなものであった。この間、軍エスタブリッシュメントは「国家中の国家」と呼ばれる特権社会を構築した。

2011年の「革命」で、お飾りであった政権部分(ムバラク一家とその取り巻き)は切り捨てたが、軍組織の本体は無傷のまま残っている。軍が革命青年に対し常に中立的に振る舞い、後にムスリム同胞団による統治を許したのも、既に時代遅れとなりかつ綻びの見え始めたムバラク支配と心中する愚を犯すことなく、舞台裏から新たな政治体制の構築に影響力を行使する方が得策との、米国のアドバイスに従ったものであっただろう。

結果として、軍はムスリム同胞団との同居(言わば院政)を選択し、米国はその識見を尊重して現在は静観している、ということになる。このことは、次のこともまた起こり得るということだ。
即ち、早晩ムルシ政権の政治は国民の期待に応えていない、ということが明らかになり、民衆と反政府勢力の怒りが頂点に達したとき、社会不安が発生するが、ムルシ大統領がいざ、「軍の治安出動を命ず」となったときに、不服従(クーデター)を決めるのである。

それは、別の形、即ち、反政府勢力側の政権打倒に向けた結集力が弱く、いつまでたっても同胞団政権の打倒が起こりそうになく、他方で経済と治安が悪化の一途を辿っているというときには、軍最高評議会の名で戒厳令を発すれば、国民の多数は軍に拍手喝采を浴びせるであろう。肝心なことは、いずれの場合にも米国は軍部を100%支持する、ということである(後略)【選択 5月号】
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6月23日、アッ=スィースィー国防相は「エジプト国民の意志こそがわれわれを統治するものであり、われわれは名誉と高潔さを持ってこれを守る」と述べ、30日までに諸勢力が合意に至らない場合、軍の介入も辞さないことを発表しています。

****エジプト:アッ=スィースィー国防相が警告「諸勢力が1週間以内に和解しなければ軍の介入も辞さない****
2013年6月24日『アル=ハヤート』
エジプトのアブドゥルファッターフ・アッ=スィースィー国防相は、昨日(23日)晩に行われたムハンマド・ムルスィー大統領との会談前に、諸政治勢力に対し、1週間以内、すなわち今週日曜日(30日)に実施が決定されている反体制派の大統領退陣要求デモの前に合意に至らなければ「軍の介入」も辞さないと警告した。

これはアル=ファイユーム県、アル=ガルビーヤ県、カフル・アッ=シャイフ県で発生した大統領支持者と反対派の衝突で数十人の死傷者が出たことを受け、政府と反体制派の対立の激化から内戦が勃発することを危惧したものである。

アッ=スィースィー国防相は、昨日(23日)軍が開催したセミナーでの声明のなかで「正当性」に関する言及を避けた。ムルスィー大統領支持者は、この「正統性」の擁護をスローガンとして掲げて結集としている。

同大臣は「エジプト国民の意志こそがわれわれを統治するものであり、われわれは名誉と高潔さを持ってこれを守る。われわれは国民の意志を守る全責任を負い、これを侵害することを許さない。相互理解と合意の形を作り出すためにわれわれに与えられた時間は1週間である」と述べた。また同大臣は「エジプト国民を恐怖に陥れる行為を前にして黙っていることは勇敢ではない。軍が存在するなか、われわれにとって死とは、エジプト国民の一人として触れるもののなかで最も尊いものである」と述べた。

これはムルスィー大統領の支持者が先週金曜(21日)に行ったデモにおいて、反対派が大統領退陣の要求に暴力を行使した場合に「反対派を壊滅させる」と警告した脅迫に対する反応とみられる。(後略)【6月24日 「日本語で読む中東メディア」】
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この国防省の発言がクーデターを示唆したものかどうかは、エジプト国内での受け止め方においても判然としないようです。いざとういうときにどちらにも動けるように、ことさらに曖昧な発言をしているとも言えます。
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