(ERT閉鎖に抗議して集まった市民 警官隊と衝突・・・といった雰囲気ではないようです カメラ・アングルにもよりますが。“flickr”より By linmtheu http://www.flickr.com/photos/26040773@N07/9041833376/in/photolist-eLZL3U-eLNgKF-eLZD1Y-eLN1jB-eLNpn4-eLNkqp-eLN8Mp-eLN4P2-eLMZkg-eLZqZY-eLMYhg-eLN2og-eLNi3v-eLNqBP-eLZQ1S-eLZRcy-eLZVBL-eLMW8t-eLZkxo-eLZLYs-eLZK6o-eLZToS-eLZUs3-eLNjdP-eLZSqw-dJ2g7w)
【若者3人に2人が失業 「飢え」で授業中に気を失う子ども】
ギリシャでは、深刻な経済低迷が続いています。
****3月ギリシャ失業率は26.8%に上昇、06年公表開始以降で最悪***
ギリシャ統計当局(ELSTAT)が6日発表した3月の失業率は26.8%で、2月の26.7%(改定値)から上昇した。
ELSTATがデータを公表し始めた2006年以降で最悪となった。4月のユーロ圏失業率12.2%の2倍以上の高水準となっている。【6月6日 ロイター】
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特に若者の失業率が高く、若者の3人に2人が失業している状況です。
“悪化の一途をたどる失業率は、欧州の「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」である25歳以下の若者にとって、不況脱出の見込みがほとんどないことを示している”【6月1日 AFP】
このような経済状態では社会の安定などは望むべくもありません。
ギリシャ支援を行っているIMFも、ギリシャの経済立て直しが思うように進んでいないことを認めています。
****ギリシャ支援「楽観的過ぎた」=IMF、当初計画の誤り認める****
国際通貨基金(IMF)は5日、財政危機に陥ったギリシャに対し、2010年5月~12年3月に実施した第1次支援策についての検証報告を発表、「経済見通しが楽観的過ぎたと批判されても仕方がない」として対応の誤りを認めた。
IMFは同国経済が予想以上に悪化したことから、欧州連合(EU)などとともに12年3月、より長期の融資に切り替えるなどした第2次支援策をスタートさせている。【6月6日 時事】
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失業ということは収入がない訳ですから、どうやって生活するのだろうか?と不思議に感じます。
当然ながら“食べていけない”人々も多数出てきているようです。
****授業中、気失う子続々…緊縮財政で「飢え」深刻****
緊縮財政下のギリシャで「飢え」が問題になっている。
授業中に空腹で倒れる学童が出る事態に、民間ボランティアが救済に乗り出した。
アテネ郊外の住宅街にある民間活動団体(NGO)「アルトス・ドラッシ」は、賞味期限が迫った食材などを地元の協力で集め、毎日約120人分の料理や食品を無料で配っている。昼近くになると、大きな手提げ袋を持った人が次々と訪れる。
「毎週、新しい人が来るの。1年前と比べたら2・5倍に増えたわ」と、ボランティアのカリオピさん(66)が話す。17年前、クルド難民を支援するために始まった活動は、今や訪れる人々の大半がギリシャ人になったという。
市内に住むレフテリスさん(51)は週に1度、バスで1時間かけてやって来る。大型船の船員だったが3年前に失業。工事現場の短期労働などで13歳の息子とおばを養う。「職探しがあるから毎日は来られない。息子の学校では親の失業で食事を十分にとれず、授業中に気を失う子どもが増えている」と表情を曇らせた。【6月30日 読売】
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空腹で動けない・・・というのはよく見聞きしますが、気を失うというのはあまり聞きません。栄養失調とかのせいでしょうか?
いずれにしても、現代欧州で「飢え」の問題が現実のものになっているようです。
【「予想外に政権運営は順調だ」】
マクロ的に見ると、ひところ懸念された「ユーロ離脱」といったギリシャ経済の壊滅的破局は一応回避された状況で、小康を保っている状況です。改善にまでは至っていませんが。
****「ギリシャ危機」遠のく=くすぶる政局混乱の火種―政権発足1年****
ギリシャのサマラス政権が21日、発足1年を迎える。財政危機に陥り、世界が「ユーロ圏離脱」に身構えたが、構造改革への取り組みで金融市場は落ち着きを取り戻した。
だが国営テレビ局閉鎖をめぐる政治混乱は、深刻な不景気から抜け出すための政治安定には依然、課題が残ることを改めて浮き彫りにした。
サマラス首相の支持率は、政権発足前の2012年5月には25%と、野党・急進左派連合(SYRIZA)のツィプラス党首を下回っていた。だが欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)などからの支援取り付けに成功し、政権樹立後はツィプラス党首を逆転して、40%台を維持している。
1年前は信用不安から30%程度まで跳ね上がっていた国債利回りは約10%に低下。反緊縮デモも激減し、アテネの銀行員(57)は「予想外に政権運営は順調だ」と評価する。首相は「ギリシャの欧州、世界での基盤は固まった」と改革進展に胸を張る。
一方で、若者の約6割が失業するなど景気悪化は深刻だ。ある大学教授は「多くの学生がギリシャを離れている」と証言する。一般市民は給与、年金の削減や増税にあえぐ。
長引く不景気は極右勢力の台頭を許している。「景気後退は今年で終わり」(ハジダキス開発・競争相)との期待は国民の中ではほとんど共有されていない。【6月20日 時事】
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【公共テレビ・ラジオ放送局ERT閉鎖問題で連立政権弱体化】
上記記事にある“国営テレビ局閉鎖をめぐる政治混乱”とは、財政再建を至上命題とする政府が、「無駄遣い天国」になっているとして公共テレビ・ラジオ放送局ERTを突然閉鎖して職員を解雇した問題です。
****ギリシャ:公共テレビを閉鎖 政府「無駄遣い天国」*****
財政緊縮策を進めるギリシャ政府は11日、「無駄遣い天国」になっているとして公共テレビ・ラジオ放送局ERTを閉鎖した。首都アテネからの報道によると、突然の閉鎖に国民はショックを受けているという。
ERTの女性司会者は11日の番組で「今日は6月11日。つらい日です」と切り出し、「最後となるニュース番組をプロ意識をもってお届けします」と視聴者に語った。放映は深夜で終わり、画面は黒くなった。
政府報道官によると、ERTは年間3億ユーロ(約385億円)かかる「無駄遣いの典型」。報道官は公共テレビで「国民が犠牲を耐え忍んでいる時、もはや聖域はない」との声明を発表した。
ERTは1938年に事業を開始した放送局で、現在、テレビ3チャンネル、ラジオ4局を持つ。政府報道官によると、今後、スリム化された独立公共放送局に再編される予定。現在のERT職員約2600人はいったん解雇される。
アテネのERT本社前では11日夜、数千人が「ERTは閉鎖させない」などと書かれた横断幕を掲げて政府の決定に抗議した。アテネのジャーナリスト労組は組合員に48時間ストの実施を指令した。
緊縮策に反対する野党は「国民に対するクーデターだ」と反発。連立与党の間からも「事前に相談がなかった」として政府への不満が噴き出している。【6月13日 毎日】
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この問題は結局、二大労組が24時間ストを呼びかけたものの、大きな混乱にはなりませんでした。
それなりに社会が落ち着いてきたということでしょうか?
“縁故採用などがはびこっていたERTに対する市民の共感は乏しい”という側面が指摘されていますが、国民の多くが自分の生活で手いっぱいで、もはや怒る元気もない・・・といった面もあるのではないでしょうか。
****ギリシャ抗議スト、低調=参加者は限定的、乏しい市民の共感****
財政難のギリシャで13日、政府が国営放送局の一時閉鎖を決定したことに抗議し、二大労組の呼び掛けで24時間ストが行われた。しかし、首都アテネ中心部で国営郵便局が業務を続けるなど、ストは低調だった。
ギリシャ政府は国営放送局ERTの一時閉鎖・従業員約2700人の解雇を決定した。公務員が加入する労組、公務員連合(ADEDY)のスト方針に民間の労働総同盟(GSEE)も同調し、この二大労組がストを呼び掛けた。
アテネ市内では鉄道の一部路線が運休したほか、公立病院、税務署、アテネ国際空港の航空管制なども業務をストップした。地元メディアによると、ERT本部前には約1万人が集まり、政府による突然のERT閉鎖に抗議するデモも実施された。
しかし、大半の省庁やアテネ市役所などのスト参加者は限定的。危機が深刻化していた昨年と比べると、盛り上がりに欠けた。縁故採用などがはびこっていたERTに対する市民の共感は乏しく、多くの業種は通常通りの営業が続けられた。【6月14日 時事】
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この問題は、改組された新組織が出来るまでの間、放送継続を認めるという「国家評議会」の判断がなされています。
****ギリシャ国営放送の再開を命令…国家評議会****
ギリシャ政府が国営放送ERTを緊縮策の一環として閉鎖した問題で、行政訴訟の最上級審「国家評議会」は17日、放送を直ちに再開するよう命じた。
ロイター通信などによると、閉鎖発表の翌12日、ERTの労組が不服を申し立てていた。同評議会は、閉鎖決定を政府の裁量内とした上で、改組された同放送の新組織が出来るまでの間、放送継続を認めた。
ERTを閉鎖したサマラス首相に、連立を組む全ギリシャ社会主義運動(PASOK)、民主左派の両党は放送の即時再開を求め、連立政権内の対立が一時深刻化したが、判決は三者の面目を保った形だ。これに先立つ17日、首相と両党党首が会談し、内閣改造でも合意した。【6月18日 読売】
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“内閣改造でも合意した”とのことですが、連立与党の一角を占めていた左派政党・民主左派がERT閉鎖に抗議して連立を離脱、サマラス政権の基盤は更に弱体化しています。
****ギリシャ:民主左派、連立離脱 緊縮策履行困難に****
財政再建下のギリシャでサマラス連立政権の一角を占める左派政党・民主左派が21日、緊縮策の一環として公共テレビ・ラジオ放送局ERTを閉鎖した政府の措置に抗議して連立離脱を決めた。
これにより、1年前に発足したサマラス政権の3党連立の枠組みは崩壊した。与党はかろうじて過半数を維持するが、政権基盤の弱体化により、緊縮策履行が困難になる可能性がある。
ERTは公務員数削減のため11日に閉鎖された。最高行政裁判所である国務院が17日、閉鎖を差し止め、放送再開を促す仮処分命令を出したが、放送は止まったままだ。
ギリシャからの報道によると、サマラス首相率いる中道右派・新民主主義党と全ギリシャ社会主義運動、民主左派の連立3党は19、20の両日、放送再開について交渉したが、決裂した。
サマラス首相は交渉で、解雇されたERT職員約2600人のうち約2000人を再編後の新放送局で再雇用する妥協案を提示し、全ギリシャは受け入れたという。
だが、民主左派のクベリス党首は拒否、21日の党内協議で連立離脱を提案し、所属議員の支持を取り付けた。
ギリシャ国会(300議席)で14議席を持つ民主左派の連立離脱により、新民主と全ギリシャの連立与党勢力は153議席となる。
サマラス首相は20日、「残りの任期3年をまっとうする」と述べ、早期選挙を回避する考えを強調した。
だが、ギリシャ政治の停滞を招いた連立2党に対する国民の反感は強く、反緊縮派野党が勢いを増すのは必至だ。財政危機に陥ったギリシャは欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から金融支援を受ける条件として緊縮策を進めており、サマラス政権は2015年までに公務員約1万5000人を削減する必要に迫られている。【6月21日 毎日】
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なお、これまで閣外協力にとどまっていた中道左派、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首が外相兼副首相として入閣し、与党2党間の関係は強まったようです。
“解雇されたERT職員約2600人のうち約2000人を再編後の新放送局で再雇用する”ということは、実質的に削減されるのは600人になります。
解雇した後の受け皿がない経済状態では、“2015年までに公務員約1万5000人を削減する”というのは極めて困難な課題ですし、強行すれば政権がもたないでしょう。
今回ERT問題への一般市民の共感が少なかったように、日本でも世論に見られる“反公務員感情”に訴えるという方法もありますが、社会の分断を招く険しい道でもあります。