孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東メディアの雄「アルジャジーラ」の変質  政変のエジプトで批判を浴びる

2013-07-10 22:27:42 | 北アフリカ

(エジプトの首都カイロのタハリール広場に面したビルに掲げられたアルジャジーラを批判する垂れ幕。「アルジャジーラはうそつき。市民の命を奪った」などと書かれている=2013年7月5日午後2時半、秋山信一撮影【7月8日 毎日】)

イラク戦争報道で世界をくぎ付け ムスリム同胞団への偏向
アラブの衛星メディア「アルジャジーラ」は、イラク戦争の際、欧米の既存メディアとは異なる視線の中東発のメディアとしてその存在を世界に強く印象付けました。

「アルジャジーラ」が出現するまでは、アラブのTVとは政府・独裁者が占有するプロパガンダのための道具であり、“王様の持ち物として、(王様がラクダレースを観戦したといった類の)伝える価値のないニュースは大きく伝え、本当のニュースはひたすら隠して報道しない”存在で、人々からも信頼されていませんでした。

****地に墜ちた「アルジャジーラ」 今や中東騒乱の「諸悪の根源」に****
・・・・無風状態だったアラブの衛星メディア界に同局が彗星の如く現れたのは、一九九六年の秋。英BBCのアラビア語サービス出身者を中心とする実力派ジャーナリスト集団が、衛星通信業界に吹いた追い風を背景にアラブ初のニュース専門チャンネルの立ち上げを計画した。頓挫しかけたこの計画をカタールの首長が買い取ったのだ。

古臭い情報統制を好んだ父親を追放して玉座に就いた新首長の目論見は明白だった。
自由報道に徹し、アラブの情報を支配できるニュース局を生み出すことである。そのため経営側は、金は出すが口出しはしなかった。

一騎当千の有力ジャーナリストは何の制約を受けず自由に活躍できる環境で最新機材を使用して放送する。そこにはジャーナリズムを志す者であれば誰もが羨む一種のユートピアが現出し、その結果同局は数年にして世界の主要チャンネルのひとつに数えられるまでに成長した。

それだけではない。アラビア語による良質な情報が衛星から降ってくる世界の出現は、まさに情報革命の名にふさわしい展開であった。それまでは、ラクダレースのことしかやっていなかったのだから。首長の目論見は見事に当たり、世界はアルジャジーラに釘付けとなった。もしイラク戦争における同局の活躍がなかったら、米国はこの戦争ではるかに甘い汁を吸うことができたであろうし、その結果、現代の世界の政治地図は大きく変わっていたに違いない。

この一点をもってしても、アルジャジーラが現代史に与えた影響の大きさを知ることができる。そして米国が、英国が、仏、露、イランが、と相次いでアラビア語ニュース専門チャンネルを設立したのはまさにこの点に理由があった。

また、元来疑い深いアラブ人がテレビを信頼できる情報源と認識するようになったのも、はじめにアルジャジーラの自由で客観的な報道があればこそ、ということであった。

同胞団に支配された「煽動報道」
しかし、その後アルジャジーラは変容していく。有力な設立メンバーや人気キャスターがひとり、またひとりと辞めていき、報道内容の客観性と中立性が失われていった。
それは、ついに強い影響力を持つに至った同局を政治・外交の道具に利用しようと首長家が介入したからであった。首長はイスラム主義の救世主を気取り、局内ではムスリム同胞団と関係の深い者だけが重用された。

「アラブの春」の反乱が中東全域に野火のように広がったのは、アルジャジーラなど地元メディアが恣意的な挑発、煽動に電波を使い、「市民」を「その気」にさせたからだ。

例えばリビアでは、カダフィに対する反乱を針小棒大に報じ、国軍将兵の「寝返り」ビデオを紹介しては、あたかも政府軍のほとんどが寝返ったかのような印象をリビア国内と世界に与えた。独自のメディアに全く力のなかったカダフィは、この情報戦に敗れたと言ってよい。(後略)【選択 7月号】
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中東混乱を助長
アルジャジーラは、リビアと同様に、シリアでも反体制派に偏った報道を行っていることが指摘されています。

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アルジャジーラは、大量のビデオ撮影機能付き携帯電話や、衛星電話を反体制派組織(ムスリム同胞団)にばらまいた。

これは、イラク戦争の際、数台の中継車と数多くの小型ビデオカメラをばらまいて、あちこちで米兵襲撃の生映像を撮影したのと同じ手法だ。
時代が経過し、小型ビデオは携帯電話に収まるまでに小さくなり、中継車で飛ばさなくても、衛星携帯電話で送ることができるようになっていた。こうすれば、画像は粗くとも、反政府デモの状況、政府軍の暴虐ぶりを直接世界に届けることができる、というわけだ。こうして、同局のニュースはデモを伝える画像の粗いアマチュアビデオで埋めつくされ、反体制運動(=ムスリム同胞団・スンニ派武装集団)に決起と戦闘継続を呼びかける煽動報道一色となった。【同上】
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シリアの現在の混乱を生み出した責任の一端はアルジャジーラの煽動報道にあるという指摘です。

記者席から「追い出せ」の声
事実上のクーデターで混乱するエジプトにおいても、カタール首長家とムスリム同胞団の意向に沿った報道を行ってきたと言われており、事実上のクーデター後の軍主導の新体制からは、支局長に逮捕状が出されるなど、その責任が問われています。
一方で、そうした新体制の姿勢については、「報道の自由の侵害」という批判もあります。

****エジプト:アルジャジーラ支局長が出頭、即日保釈****
エジプトの検察当局は7日までに、報道によって治安を脅かした容疑で、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラ・カイロ支局長のアブデルファタハ・ファイエド氏の逮捕状を出した。

ファイエド氏は7日に出頭し、1万エジプトポンド(約14万4000円)の保釈金を納付して即日保釈された。アルジャジーラはモルシ前政権寄りの報道をしていると批判されてきたが、メディア規制を強める当局に対し「報道の自由の侵害」と批判する声もある。

 ◇報道で治安に脅威容疑
ファイエド氏は毎日新聞の電話取材に、容疑には無許可取材も含まれていたと明かし、「証拠は何もないし、当然容疑も否認した。取材許可も得ている」と話した。

中東で最も視聴率が高いテレビ局の一つであるアルジャジーラは、一連のエジプト騒乱で、モルシ前大統領の出身母体・穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団のデモを中心に放映し、「同胞団寄りの報道をしている」と批判された。同胞団を支援するカタール政府の意向を受けていたとも言われる。

モルシ前大統領が3日、軍に解任された後には、治安部隊がアルジャジーラのエジプト専門放送局を制圧し、放送が一時休止。反モルシ派の主要なデモ会場であるカイロのタハリール広場には「アルジャジーラはうそつき」と書かれた大きな垂れ幕が掲げられた。

アルジャジーラはクーデター後も、同胞団の集会の中継を続けている。だが時々、「タハリール広場などから中継する努力もしていますが、実現できずに申し訳ありません」という字幕を出すなど批判にも配慮している。

カイロ大学のバラカット・アブドルアジズ教授(メディア論)は「アルジャジーラが反モルシ派に対して攻撃的だったのは確かで、メディアは自主倫理を持たなければならない。しかし報道の自由は民主社会の原則で、守られるべきだ」と指摘している。【7月8日 毎日】
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反モルシ前大統領・反ムスリム同胞団勢力が前面に出てきているエジプトメディア界でも、アルジャジーラは厳しい指弾を受けています。
軍・内務省治安部隊と、モルシ前大統領支持派の対立により少なくとも51人が死亡した発砲事件に関して行われた内務省・軍の会見において、記者たちの批判でアルジャジーラ支局長が退席させられる場面もあったようです。

“会見前には、モルシ派寄りと見られているカタールの衛星テレビ局アルジャジーラ・カイロ支局長が退出させられる一幕もあった。国営中東通信の記者が立ち上がり、「アルジャジーラを追放しないと会見は始まらない。記者の総意だ」と叫ぶと、記者席から「追い出せ」の声が次々にあがり、支局長は退場した。”【7月9日 毎日】

立場の違いを理由に報道を制約することの問題はありますが、「イスラム世界やアラブの視点」からの報道で世界のメディアに大きな影響を与えたアルジャジーラが、今や、カタールやムスリム同胞団に偏向した報道で中東混乱を助長していると批判を浴びる存在となっています。

カタールの方針変更
なお、カタールはハマド首長から次男のタミーム新首長に交代し、ムスリム同胞団とも距離を置くようになっています。
そうした事情で、今回のエジプト政変に関しては、これまでのモルシ政権・ムスリム同胞団支持の姿勢から、軍主導の新体制を支持する方向に姿勢を転換させています。
おそらく、アルジャジーラの報道姿勢にも変化が出るのではないでしょうか。

また、アルジャジーラはアメリカ進出も報じられています。
****アルジャジーラ、米に本格進出 TV局買収し年内放送****
中東の衛星テレビ、アルジャジーラ(本社カタール・ドーハ)は2日、米国のニュース専門テレビ局「カレントTV」を買収したと発表した。カレントTVの衛星やケーブルのチャンネルを使い、ニュース専門放送を年内に開始、米国に本格進出する。

アルジャジーラは、イラク戦争などで欧米メディアが報じない「イスラム世界やアラブの視点」を売りにアラブ諸国で絶大な人気を誇っており、米国民に受け入れられるか注目される。
米国内外のニュースを提供する「アルジャジーラ・アメリカ」を新設し、本部はニューヨークに置く。【1月3日 共同】
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