孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  圧倒的な中国の存在感と脱中国の動き 住民利益につながる成長に向けて

2013-07-30 22:58:15 | ミャンマー

(ミャンマーのベンガル湾沿岸と中国雲南省を結ぶパイプライン “flickr”より By nancy http://www.flickr.com/photos/10039214@N07/7314389254/in/photolist-c9ma6y-aNAjEr-dYSm9z-eK18P4-c6TbvE-dnjvJp-aNAjMr-aNAkmZ-aNAjXn-aNAkii-aNAk7x-aNAkq2-aNAju2-aNAkoF-aNAjHa-d1W29U-9ZH2X2-aNAkv2-aNAjJx-aNAk66-aNAjx8-aNAkA6-aNAkse-aNAkt8-aNAjBt-aNAkxR-aNAkgt-aNAkdV-aNAjRi-aNAk14-aNAk2e-aNAjvn-aNAkwp-aNAjNK-aNAjSt-aNAjYH-aNAkDB-aNAkfc-aNAkaD-aNAjyn-aNAjL4-aNAjTZ-aNAkbR-aNAjCB-aNAjVt-aNAk9e-aNAjPT-aNAkk2-aNAkCn-aNAjA8-d3L6zG)

ミャンマーから中国へ、パイプラインで天然ガス
民主化を進めるミャンマーに対して、欧米・日本は経済制裁を緩和するなどで経済進出を急いでいますが、国際的に孤立していたミャンマー軍事政権を支えた中国のミャンマーにおける存在は、今も圧倒的なものがあります。
市場や店のショーウインドーに並ぶ電化製品などの多くが中国製です。

そんなミャンマーのベンガル湾沿岸と中国雲南省を結ぶパイプラインの一部区間で28日、中国向けの天然ガスの供給が始まりました。

****中国向けガス供給開始=ミャンマーからパイプラインで*****
ミャンマーからガスパイプラインを通じた中国向けの天然ガス供給がこのほど始まった。ミャンマー国営メディアが30日伝えた。

この事業は中国石油天然ガス集団(CNPC)、ミャンマー石油ガス公社、韓国の大宇インターナショナルなどの合弁。ミャンマー西部ラカイン州沖のシュエ海洋ガス田で採掘された天然ガスを同州チャウピューと中国雲南省を結ぶパイプラインで輸送する。

パイプラインは2010年に建設が始まり、約3年かけて完成。28日にミャンマー第2の都市マンダレーでニャン・トゥン副大統領ら関係者が出席して式典が開かれ、中国への天然ガス輸送がスタートした。国営メディアによると、中国向けに日量約1100万立方メートル、ミャンマー国内向けに同約280万立方メートルの天然ガスを供給する計画という。【7月30日 時事】 
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天然ガスのパイプラインに並行する原油パイプラインも近く完成する見通しで、中東原油などを中国に送りこむルートになる予定です。

中国は、パキスタンとも連携してインド洋に通じるルートを確保しようとしています。

****中パ経済回廊で合同委 グワダル港を開発特区に****
パキスタン首相府などによると、中国を訪れたパキスタンのシャリフ首相は5日、北京で李克強首相と会談し、中国北西部からパキスタン南西部グワダル港までの中パ経済回廊を整備し周辺地域を開発するため、合同委員会を発足させることで合意した。

シャリフ氏はこの日、グワダル港を開発特区に指定する方針も表明した。港の運営権は中国国有企業に委ねられており、合意は中国海軍艦艇が将来、同港に派遣されることを警戒するインドを一層刺激しそうだ。

経済回廊は中国カシュガルからグワダル港までの2千キロ。長期計画と位置づけ、総延長200キロのトンネルを建設し、整備には180億ドル(約1兆8千億円)を見込む。李氏は回廊を「中国の戦略的利益」とし、作業グループを近く、パキスタンに派遣する。

計画には、光ファイバー・ケーブル敷設やカラコルム・ハイウエーの改良が盛り込まれ、グワダル工業地帯の建設で両国企業が協力する。

シャリフ氏は特区となる見通しのグワダル港は香港を見本とし、国際空港の整備も目指すとした。中国はインド洋周辺での港湾建設で各国を支援し、インドが警戒している。【7月6日 産経】
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中国との共同事業ではいつも不利な立場に置かれてきた
しかし、中国との関係強化に関しては、地元住民の利益につながらないことや、利益を独占する中国側への反発から厳しい目が向けられつつあります。
2012年11月には、ミャンマー中部モンユワで国軍関連企業が中国と進める銅山開発を巡り、ミャンマーの治安当局が土地収用などに抗議していた住民や僧侶らを強制排除し、数十人が負傷する事件が起きています。

****脱中国を目指すミャンマーの道****
・・・・それでも、今のミャンマーで中国の存在感はずばぬけている。
停電が起きるたびに、ミャンマー人はそれを痛感させられる。エネルギー資源が豊富なのに、停電は日常茶飯事だ。どこにいっても、ブンブンと鳴る自家発電機の音が聞こえてくる。

その原因の1つは、孤立した軍事政権が中国に自国の自然の富を売り払ってしまったことにある。ミャンマー国内のダムで発電した電力は、およそ9割が中国に送られている。だから国民は、中国からビルマロード経由で運ばれてきた効率の悪い自家発電機に頼らざるを得ない。
天然ガスと中東産の原油を中国に送る2本のパイプラインも完成に近づいている。

マンダレーから約60キロの山腹に住む農民ティンーマーの家には電気が来ていない。イェイワーダムにできた790メガワットの発電所までは10キロほどの距離ながら、彼女の暮らす小さな村落には送電線を引いてもらえないのだ。

イェイワ・ダムの建設は、中国の国有企業が中心となった。完成後に発電した電力の大半は、マンダレーを素通りして中国の雲南省に送られている。
工事の大部分を完成させ、その後ダムの管理を続けているのも中国人労働者だ。

地元住民の一部は発電所関連の単純労働にありつけたが、代わりに多くの人が上地を失った。
ミャンマーでは住む場所や農地の公的な所有権を持たない人が多いため、政府が一方的に土地を収用してしまった
のだ。

ティンーマーの持っていたバナナ園も、発電所を運営する中国人たちの専用ゴルフ場を造るために取り上げられた。彼女は今、残された狭い土地で細々とニワトリを育てている。
ダムからの送電線は、彼女の家の上を通っている。それでも彼女はろうそくと薪ストーブで暮らすしかない。

今ではミャンマーの軍事政権も、中国との共同事業ではいつも不利な立場に置かれてきたことに気付き始めた。遅ればせながら民主主義への転換に乗り出したのも、欧米諸国を味方に付けることによって中国を牽制し、中国資本に対抗したいがためだ。(後略)【7月23日号 Newsweek日本版】
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上記記事にもあるように、ミャンマー政府も過度の中国依存を警戒し、民主化を進めることで欧米、特にアメリカとの関係強化を図ることでバランスを取ろうとしています。
ミャンマー国民の視線もアメリカなど欧米に向けれています。

潤ったのは上(政治家と政府)だけ。庶民は貧乏のまま
ただ、中国との関係強化が住民利益にならなかったのは、中国側の問題だけでなく、中国資本と結託して利益を得ようとするミャンマー内の勢力の、土地収用などにおける住民無視の姿勢によるところも大きいように思えます。
その点が改善されない限り、相手が中国だろうがアメリカだろうが、開発の利益が一部に独占され、住民が取り残される問題は変わりません。

****外資で発展する「ヤンゴン」 変わる街並み…庶民に恩恵は届かず****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンでは、経済改革に伴う海外からの投資が街並みを変えつつある。通信事情も良くなった。

ただ、インフラ整備が徐々に進む一方で、「改革の恩恵」はまだ、庶民の暮らしにまで届いてはいないと、多くの市民が口にする。地方の住民からは、都市との経済、生活格差が拡大することを懸念する声が聞かれる。

 ◆外資による整備進む
ヤンゴン市内の中心部、インヤー湖公園の近くにある広大な敷地から、大型クレーンが伸びていた。オフィスビルやアパート、高級ホテル、ショッピングセンターから成る大型複合施設の建設現場だ。ベトナムの投資によるもので、投資総額は4億ドル(約400億円)を超える。2016年までの完成を目指している。

ひと頃に比べ自動車はめっきり増え、主要道路では渋滞に出くわす。4月に完成した高架道路が目新しい。建設中の高架道路もあり、太いコンクリートの柱が突き出ている。
街には、しゃれたショッピングセンターやレストラン、カフェが増えた。オープンを間近に控えたショッピングセンターもある。
1年ほど前までは、つながらなかったり、断続的に切れたりしていた国際電話やインターネットも、かなり安定した。(中略)

 ◆地方は格差拡大懸念
政府によると、12年1月から今年3月までの投資は32カ国、561案件、総額約421億ドル(約4兆2千億円)。投資は着実に増えている。だが、政府関係者は「執行待ちの案件が多いうえ、権限が中央政府に集中し州にないことや、汚職により改革が遅れている」と打ち明ける。

「『潤ったのは上(政治家と政府)だけ。庶民は貧乏のまま』とよく言われる。これはジョークにしてジョークじゃない」
そう苦笑するのは、外国人が持ち込む傷んだ古い米ドル札を、ピン札に交換し手数料を稼ぐ“換札屋”の男性店主だ。政府の指示で、ホテルなどでは傷んだドル札を受け付けず、それでこの商売も成り立っている。

「停電が少なくなり電話も良くなったが暮らしぶりは前と変わらない。中間層や下層に改革の影響が及ぶまで、まだ時間がかかる。待つしかない」
「売り上げと収入? 庶民の生活が良くなっているわけじゃないから、前と同じさ。逆に物価が高くなっているからねぇ」とは、衣類店の主人だ。

ヤンゴンから西部ラカイン州の州都シットウェへ行くと、風景が一変する。貧しげな街並みと人々の暮らし…。教師の女性は言う。
「ここは貧しい。ヤンゴンとネピドー(首都)だけにカネが回って、ここにはこない。どんどん格差が広がるでしょう。それが住民たちの共通した思いです」【7月20日 産経】
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高齢化が進展する間に生活水準を引き上げる必要
ただ、難しいことに、人口構成の面からはミャンマーに与えられた時間的余裕はあまり有利ではなく、開発の勢いを鈍らせることもできない事情もあります。
ミャンマーと“高齢化”はイメージ的にあまり結びつきませんが、ミャンマーは東南アジアの他の国より早く高齢化に直面するそうです。

****ミャンマー、高齢化に直面 ****
経済協力開発機構(OECD)は18日発表した報告で、2017年に重要な人口の転換点を迎える前に、経済の総点検を急ぎ、疲弊した経済を急速に拡大させる必要があるとの見解を示した。

長年にわたる孤立した軍事政権の影響がまだ残っているミャンマーの人口は約6000万。人口は今後数十年間増え続けるが、OECD報告によると、ラオスやカンボジアなどの近隣諸国に比べて早い段階で高齢化が始まり、ミャンマーへの投資を増やしている外国投資家・企業にとっての相対的な有利性が低下すると予想される。

報告は「喫緊の問題だ」とし、「開発の勢いを今つかんでおかないと、国民の所得と生活水準が大幅に改善する前に、高齢化のリスクを抱えることになる」と警告した。

報告が引用した国連のデータによると、ミャンマーでは10―64歳の層の比率は17年に低下し始める。ベトナムやインドネシアなど、東南アジア地域でさらに開発が進んでいる、ミャンマーより経済規模の大きい国ではこうした変化はもっと遅く、ベトナムでは20年、インドネシアでは21年になると予想されている。

同様の変化は中国がここ数年経験しているもので、同国はゆっくりとした人口の高齢化に直面しており、繁栄してきた製造業部門の成長が鈍る恐れがある。(後略)【7月22日 WSJ】
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開発の勢いを保ちつつ、住民の利益につながる形で成長を実現するためには、土地収用などの強権的手法の是正、腐敗と非効率の温床となっている旧体制から引きずっている官僚主義的構造の改善、中小企業経営者が容易に資本調達できるようなシステムの構築などが求められています。
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