孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・新疆ウイグル自治区  ウルムチの大規模暴動から4年、高まる緊張、力で抑え込む習近平指導部

2013-07-05 22:52:55 | 中国

(6月26日のトルファン近郊の事件で焼き討ちにあった警察のパトカー “flickr”より Once upon a time http://www.flickr.com/photos/88925006@N00/9147353568/in/photolist-eWjzwy-eXAaSt-8erXy4-epMc9v)

トルファン、そしてホータンでも
中国の新疆ウイグル自治区では、民族衝突で197人(当局発表)が死亡した09年7月5日のウルムチ騒乱から4年を迎え、域内のトルファンやホータンで民族問題によると思われる事件が続発し、緊張が高まっています。
この事態に習近平指導部は中心都市ウルムチに大量の治安部隊を投入するなど、力で抑え込もうという姿勢を強めています。

最初の事件は国際観光都市トルファン近郊で起きています。
死亡者数については、下記記事では27人とありますが、その後の報道では“ウイグル族16人、警官2人を含む24人が犠牲になったほか、警官がその場で射殺した「暴徒」の数は11人となった”【6月28日 朝日】と、合計35人と報じられています。

****中国:新疆で暴動 27人死亡*****
中国国営新華社通信(英語版)は26日、新疆ウイグル自治区トルファン地区※善県で26日朝、暴動が発生し、27人が死亡したと伝えた。ナイフを持った暴徒が警察署や地元政府、建設現場を襲撃し、9人の警察官と8人の市民が死亡した。警察官によって暴徒10人が射殺された。

地元当局は暴徒3人を拘束し、逃走者の行方を追っている。襲撃で3人が負傷し、地元の病院で手当てを受けている。

香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」は同日、ウイグル族が派出所に仲間の釈放を求めたところ、当局者が拳銃を撃ち衝突を引き起こしたとの見方を伝えた。

新疆ウイグル自治区では2009年7月にウイグル族による大規模暴動が発生し、来月5日で4周年となることから、各地で当局が警戒を強めている。

地元のホテル関係者によると、1週間前に当局関係者がホテル関係者を集め、不審者に注意するよう呼び掛けた。この関係者は毎日新聞に「現在は当局が警戒を強め、現場付近は市民が近づけない」と話した。
 ※は善の右におおざと 【6月26日 毎日】
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この6月26日のトルファンに続いて、28日には、トルファン同様かつてのシルクロードに栄えたオアシス都市でもあるホータンで事件が起きています。

“ホータンはウイグル族が人口の90%以上を占める。漢族の男性経営者は28日、朝日新聞に対し、「周辺の店は全て閉店させられ、当局から外出が禁止された。街は厳戒態勢が敷かれ、警察車両が行き来している」と語った”【6月29日 朝日】という緊張状態のなか、当局側の報道規制もあってその詳細はよくわかりませんが、米政府系の自由アジア放送は次のように伝えています。

****デモ隊に発砲、10人以上死亡か=中国新疆―米政府系放送****
米政府系の自由アジア放送(RFA)は3日までに、中国新疆ウイグル自治区ホータンで6月28日に群衆による騒動が起きた際に、警察が発砲するなどしてウイグル族10~15人が死亡、50人以上が負傷したと報じた。200人以上が拘束されたという。

ホータンの村幹部によると、当局がモスク(イスラム寺院)を閉鎖し、若いイスラム教指導者を含むウイグル族数人を逮捕したことが騒動のきっかけ。ウイグル族数百人が抗議デモを行い、警官らは逃走するデモ隊に向けて発砲した。【7月3日 時事】
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中国西部最大の都市ウルムチ(市区人口は135万人、都市圏人口は183万人)には、カシュガルへの旅行途中にパスポートや現金・カードを置き引きされるという苦い思い出があるのですが、シルクロードの要衝トルファンは、シルクロード観光のハイライトのひとつでもあり、個人的には、遺跡・自然・文化など世界有数の観光資源を持った都市だと思っています。また、2回の旅行で多くの思い出もある街です。

当然ながら、普段は事件とは無縁の穏やかな街です。昨年4月に21年ぶりに再訪したトルファン中心部は、発展著しい中国の他都市同様に、かつての砂漠のオアシス都市の雰囲気を色濃く残した街から近代都市へと変貌をとげていました。

行きずりの観光客には定かではありませんが、民族対立の緊張が緩まない現実から判断すれば、目覚ましい経済発展の恩恵の多くが政治・経済の主導権を握る漢族の手に渡る一方で、多くのウイグル族住民が取り残されているのではないか・・・と思われます。

“(ウルムチの)バザールの南にある新疆大学の前にも武装警官約10人が待機。多くの学生が「(最近の事件の)話はしたくない」と口を閉ざした。法律を専攻するウイグル族の女子学生(23)は「先月下旬、ウルムチでもウイグル族が警察官に発砲された事件があったと聞いた。ウイグル族の生活は漢族と比べ経済的に苦しく、ここには問題がたくさんある」と語った”【7月3日 毎日】

“ウルムチで建設の仕事をしているウイグル族男性(28)は「自治区に移り住んでくる漢族は、羊の串焼きを好むという程度にしかウイグル族のことを理解していない」と不満を募らせる。就職活動の際に、複数の会社からウイグル族と知られた途端に面接を拒まれた。”【7月4日 朝日】

力づくの安定
習近平指導部は、4年前の暴動を再現させないように神経をとがらせています。

****新疆:暴力事件相次ぎ、習主席が事態収拾を指令****
中国紙、新疆日報(電子版)は29日、暴力事件が相次いでいる新疆ウイグル自治区に対し、習近平国家主席が早期の事態収拾と地域の安定を図るよう命じたと報じた。

漢族ら約200人が死亡した2009年7月5日の区都ウルムチでの大規模暴動から4年となるのを前に、各地で厳戒態勢を敷くとみられる。

同自治区トップの張春賢共産党委員会書記は28日の会議で「テロ分子は新疆全ての民族にとって共通の敵だ」と述べ、治安対策を強化するよう関係部門に指示した。ウイグル族ら少数民族に対する取り締まりが強化されそうだ。【6月29日 毎日】
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****中国・ウイグル自治区で「刀狩り」…密告も要求****
中国新疆ウイグル自治区公安庁は2日、自治区内で襲撃・暴力事件が相次いでいることを受け、15センチを超える短剣や爆発物、テロ活動を扇動する書籍などの自主的な提出を求める通告を出した。
10日以内に提出しなければ重く処罰するとし、所持している者を公安機関に通報することも要求している。

1日には、テロ犯罪を防ぐ情報を寄せた者に5万~10万元(80万~160万円)の懸賞金を出すとも通告。暴動を防ぐため、当局は、なりふり構わない対策を取り始めた模様だ。【7月2日 読売】
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“最近の事件を受け、習主席は事態収拾を指示。28日夜に中国共産党の重大な意思決定権を持つ政治局常務委員会会議を招集し、新疆社会の安定を求めた。29日には全国政治協商会議主席で党序列4位の兪正声氏が自らウルムチ入りし、テロの取り締まり強化を指示した。”【7月4日 朝日】

“6月29日、ウルムチでは道路が封鎖され、装甲車などによる大規模な軍事演習が行われた。ウイグル族の30代男性会社員は「当局は自分たちがこれだけ実力があると見せつけたかったんだろう。不安な気持ちにさせられた」と語った。”【同上】

住民の経済的・文化的・政治的不満を力で押さえつけようとする習近平指導部ですが、長期的にはそうした威圧的な対応は民族間の溝を一層深くし、問題の解決をより困難にします。
また、新疆を漢族のフロンティアとみなすような施策からは融和は生まれません。

新疆ウイグルにしても、チベットにしても、漢・唐の時代の漢族支配を当然のこととし、それを「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」として誇示するような中華思想からは、解決の糸口は見いだせません。

国内に憎みあうような対立を抱えるよりは、望むなら独立もかまわないというぐらいの高度の自治権を付与して良好な関係を構築する方が、中国にとっても身軽になって得策のように思うのですが。
確かに新疆は資源に恵まれた地域ですが、経済の発展にとって、国内における資源の有無は、それほど決定的な要素ではありません。日本の経済成長は国内資源の制約から解放されたことで達成されたとも言えます。

もっとも、国家・領土となると思考が停止し、一歩たりとも譲ってはならないものという硬直した考えにとらわれるのは、別に中国に限った話ではありません。
コメント
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