(国境なき医師団に抗議するラカイン州仏教徒 【2月28日 アルジャジーラ】http://america.aljazeera.com/articles/2014/2/28/doctors-without-borderskickedoutofwesternmyanmar.html)
【「根拠のない情報を広めることで意図的に地域社会の緊張をあおっている」】
ミャンマー西部のラカイン州では、かねてよりバングラデシュからの不法侵入者と見なされミャンマー市民権が付与されていないイスラム教徒ロヒンギャと多数派仏教徒の対立が続いています。
国際的には支援の必要性が求められているロヒンギャですが、支援活動に当たる国際支援団体に対する現地仏教徒側および政府の反感が強く存在します。
主要な国際支援団体である国境なき医師団(MSF)は、ミャンマー政府が否定するロヒンギャ殺害事件の負傷者とみられる22人を手当てしたと主張したことでミャンマー政府の不興を買い、ミャンマー国内での活動停止を命じられました。
(3月1日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ・イスラム教徒を巡る“民主化の壁” 困難なスー・チー大統領への道」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140301)
****国境なき医師団が活動停止に、他団体にも波及か ミャンマー****
・・・・同州(ラカイン州)では昨年後半から国際支援団体への反感が強まっていた。これを受けて一時撤退を決めた団体もある。MSF(国境なき医師団)は、複数の負傷者が出た現場でロヒンギャ族だけを病院へ運んだなどと批判されていた。
また、今年1月に治安部隊員らがロヒンギャ族40人以上を殺害したとされる事件で、負傷者22人を手当てしたと発表。大統領報道官から「根拠のない情報を広めることで意図的に地域社会の緊張をあおっている」と非難された。【3月5日 CNN】
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その後、MSFとミャンマー政府との協議の結果、カチン、シャン両州とヤンゴン地域で医療活動を再開することになりましたが、問題のラカイン州での活動は停止されたままです。
“MSFは「人道・医療危機に直面しているラカイン州の数万人の弱者の行く末を引き続き大変懸念している」と表明した。”【3月2日 時事】
人権状況を調べるためミャンマーを訪問していた国連のキンタナ特別報告者は2月19日、西部ラカイン州で少数派イスラム教徒のロヒンギャ族40人以上が殺害されたとの疑惑について、国連人権理事会がミャンマー政府の協力を得て「信頼できる調査」を行うよう求める考えを表明していました。【2月20日 時事より】
この国連要請との関連はよくわかりませんが、ミャンマー政府はロヒンギャ殺害事件などはなかった・・・との調査結果を発表しています。
****ロヒンギャ族殺害を否定=ミャンマー調査委****
ミャンマー西部ラカイン州の村で1月に少数派イスラム教徒ロヒンギャ族40人以上が殺害されたとの疑惑を調べていた政府の調査委員会は11日、殺害を否定する調査結果を発表した。
12日付の国営紙「ミャンマーの新しい灯」などが伝えた。調査委は村民175人から聞き取り調査などを実施したが、ロヒンギャ族の殺害を裏付ける証拠は見つからなかったと結論付けた。【3月12日 時事】
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【国際援助団体襲撃に威嚇射撃、流れ弾で少女死亡】
その真偽については何とも言い様がありませんが、ラカイン州の現状は好転していないようです。
****ミャンマー、ロヒンギャ族の地域が封鎖 ****
ミャンマーのイスラム教徒ロヒンギャ族数千人は、屋根のない刑務所で暮らしていると言われています。
プレスTVによりますと、ミャンマー西部ラカイン州のロヒンギャ族およそ4000人が、警察の検問所と仏教徒の居住地によって閉じ込められています。
この地域に住むイスラム教徒は、「警察の検問所は、もともと仏教徒の襲撃を阻止するために設置されたものだ」と述べていますが、一部の報道によれば、過激派仏教徒は簡単にこの町に侵入していることが明らかになっています。
この地域に住むイスラム教徒のロヒンギャ族は、医療・衛生サービスを受けることができません。
過激派仏教徒はさらに、ミャンマー政府に、ラカイン州のイスラム教徒およそ80万人を支援する国境なき医師団の活動を停止させようとしています。
ミャンマー政府は、1982年の市民法の承認から現在まで、ロヒンギャ族に市民権を与えておらず、彼らを「違法な移民」と呼んでいます。
ミャンマー西部の緊張は、ここ数ヶ月、過激派仏教徒のグループの指導者らがロヒンギャ族すべてのこの地域からの追放を支持した後に拡大しました。ロヒンギャ族はラカイン州の人口の9割を占めています。
過激派仏教徒の攻撃により、現在まで数百人が死亡、14万人が難民となっています。【3月8日 Iran Japanese Radio】
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なお、“ロヒンギャ族はラカイン州の人口の9割を占めています”とありますが、おそらく総人口の3分の1から4分の1ぐらいではないでしょうか。
****ミャンマー国連施設に暴徒、治安部隊の発砲で11歳少女死亡****
国際援助団体に対する仏教徒住民の風当たりが強まっているミャンマー西部ラカイン州シットウェで27日、国連世界食糧計画(WFP)の倉庫を襲撃した暴徒に治安部隊が威嚇射撃を行い、近隣に住む少女(11)が流れ弾に当たって死亡した。ミャンマー警察軍が28日、明らかにした。
AFPの電話取材に応じたミン・アウン中佐によると、少女は州都シットウェのWFP倉庫近くにある自宅にいたところ、流れ弾に当たった。当時、倉庫は暴徒の襲撃を受けており、殺到した群衆を解散させるため、治安部隊が威嚇射撃を行ったという。
シットウェには夜間外出禁止令が出され、事態は沈静化したと同中佐は述べた。他に負傷者は出ていないという。
シットウェでは26日夜、ドイツを拠点とする医療支援NGO(非政府組織)「マルティーザ・インターナショナル」の米国人活動家が仏教旗を冒とく的に取り扱ったと非難する数百人の仏教徒が、同NGOの事務所を包囲。これがきっかけで暴動が起きていた。
■少数派ロヒンギャ人を「NGOがえこひいき」
今回の暴動発生後、外国人30人を含む人道支援活動家70人以上が警察に保護された。ミャンマー国営メディアによると、国連(UN)の人道支援事務所も襲撃を受けたという。
ラカイン州では多数派の仏教徒と少数派のイスラム教徒ロヒンギャ人との深刻な対立が続き、2012年には衝突の激化で数十人が死亡、約14万人が自宅を追われた。
こうした事態を受け、同州ではさまざまな国際NGOが人道支援活動を行っているが、ミャンマーの仏教ナショナリストらは、活動家らがロヒンギャ人に同情的で偏向していると非難してNGOへの圧力を高めている。
ミャンマーは3月末に1983年以来となる国勢調査の実施を控えており、シットウェではイスラム教徒に抗議する目的で仏教旗が市内各地に掲げられている。【3月28日 AFP】
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国勢調査ではロヒンギャはどのような扱いになるのでしょうか?
イスラム国では、外国人がコーランなどの扱いでイスラム教を侮辱したとして暴動がしばしば起きていますが、そうしたことはイスラムの専売特許ではなく、仏教でも同様のようです。
ロヒンギャの問題では、「彼ら(イスラム教徒)は人口を増やして経済力をつけ、国家を乗っ取るつもりだ」といった仏教徒のイスラムに対する反発・不信感に加え、「そもそもロヒンギャはミャンマー人ではない」という差別意識が根底にありますので、解決が難しい状況にあります。
民主化への取り組みが国際的に評価されているミャンマー政府やスー・チー氏など野党勢力も、こうした一般国民の感情に抗することは難しいようです。
【「停戦合意なしに(軍の機能低下につながる)改正はできない」】
一方、民主化問題については、憲法を改正してスー・チー氏の大統領への道を開くことを軍部が許容するかどうかが焦点となっています。
****ミャンマー:国軍記念日 式典で民主化後押しの姿勢示す*****
ミャンマーの首都ネピドーで27日、国軍記念日の式典があった。ミンアウンフライン国軍司令官は演説で「国軍は民主国家の建設に国民や政府とともに参加すべきだ」と述べ、民主化を後押しする姿勢を改めて示した。
今回は故アウンサン将軍の抗日蜂起から69年に当たる。昨年初めて招待された野党指導者で将軍の娘アウンサンスーチー氏は今年も、他の政党幹部らとともに出席した。
ミャンマーでは独立(1948年)以来、国軍と少数民族の各武装組織との内戦が続き、政府は今も「全国的な停戦合意」に向け交渉を続けている。
司令官は「国家の安定のためには停戦が最優先する」と指摘。「真の民主国家」に向け、軍優位を規定した憲法の改正論議が国会で進んでいることを念頭に「状況に応じ憲法は改正されるべきだが、現状では(本格的な)内戦が再発する可能性がある。停戦合意なしに(軍の機能低下につながる)改正はできない」とも述べ、国家の「安全装置」としての軍の責務を強調して改正論議をけん制した。【3月27日 毎日】
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で、どうするんだ・・・という結論はわかりません。
テイン・セイン大統領の任期は16年3月までです。
大統領は議会で選出されますが、2015年には総選挙が予定されていますので、その総選挙後に新大統領を選出することになります。
それまでに、大統領資格に関する規定や、議会における軍人枠などの憲法改正が行われるのかどうかですが、厳しい情勢ではあります。