孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  庶民派ジョコ氏、大統領候補に正式決定  インドネシアの改革は?

2014-03-15 22:28:57 | 東南アジア


(2012年6月17日 洪水被災地を訪れたジョコ氏 “flickr”より By Johan Tallo http://www.flickr.com/photos/80258330@N03/7385811104/in/photolist-cfEdjL-j3tFDn-ex5ziY-ex2o7P-ex2kPM-jev5RE-dkEAFB-ex2wpk-ex5JmN-ex5q4s-ex5ELy-d4Rhi3-dr4LpX-dqU7j6-dqUho3-dr4EvM-9JHywh-dr4Mwi-dqUhMu-dr4L4k-dr4FKn-dr4FhK-k3VUJ1-k3U2Mn-haMhJp-haLnVt-haLGEn-haPexP-haM28q-haLhut-haMHRC-dcs1mE-iuSyRo-haLeh7-haN4BR-haMbWk-haLF4C-haNod7-haMhFh-haL8UJ-haNJ86-haMBqw-haMMv3-haMTG9-c2PBMU-agHpqS-emtrQL-haLiJ3-e99vaT-kweJDp)

汚職まみれの政治家 政党はよい人材でなく金を持っている人を候補に選んでいる
ブラジル・ロシア・インド・中国という新興国BRICs(あるいは南アフリカを加えたBRICS)に次ぐグループとしていつも名前があがるのがインドネシア。

1998年のスハルト政権崩壊後の民主化の進展と経済成長の実績がその背景にありますが、この国の抱える大きな問題は政治の腐敗・汚職体質の改善が進まないこと、それによって経済・社会の改革も十分に進まないということにあります。

****インドネシア、進まぬ脱汚職 前党首・憲法裁長官…逮捕相次ぐ****
インドネシアで汚職が減らない。1998年のスハルト体制崩壊後の民主化に伴い、汚職撲滅に国を挙げて取り組んできたはずなのに、最近でも与党の前党首、州知事、警察幹部、そして憲法裁判所長と汚職容疑の逮捕者が相次ぐ。国民に怒りと失望が渦巻く。

ユドヨノ大統領が党首を務める民主党のアナス前党首が1月10日、捜査機関の反汚職委員会(KPK)に逮捕された。容疑は西ジャワ州ボゴールの運動施設建設事業に絡み建設業者から約22億ルピア(約1900万円)の賄賂を受け取ったというもの。

この事業を巡っては多額の事業費が民主党に流れて2010年の党首選の資金として使われた疑惑がもたれている。アナス氏は汚職のうわさが出始めた昨年2月、自ら党首を辞めた。

2期10年の任期を終えて今年退任するユドヨノ大統領は汚職撲滅を重要政策に掲げてきた。それだけに民主党への国民の失望は大きい。世論調査で党支持率は1ケタ台に落ち込んでいる。

憲法裁判所のアキル・モフタル長官=昨年11月に解任=がKPKに自宅で現行犯逮捕されたのは10月2日。アキル長官は中部カリマンタン州グヌンマス県知事選の結果の是非をめぐる裁判の審理を担当。知事側に有利な判決を出す見返りに賄賂を受け取ったとされる。自宅からシンガポールドルと米ドルで約2570万円相当が押収された。

アキル長官はバンテン州ルバック県知事選結果をめぐる裁判でも、落選候補側から賄賂を受けた疑いがもたれている。自宅から現金と有価証券が計47億ルピア(約4090万円)分見つかり、マネーロンダリングに関与していた疑惑も浮上した。さらに執務室からマリフアナとエクスタシーと呼ばれる薬物も押収され、国家麻薬審議会が捜査している。

憲法裁は03年に発足した。最高裁判所とは別機関で、大統領の罷免(ひめん)権、違憲審査権、選挙結果の是非をめぐる判断などを担う。裁判文書をウェブで公開するなど、改革姿勢が国民に支持されてきた。

半面、政府、国会、最高裁からの推薦に基づいて選ばれる判事に政党出身者が含まれているなど、独立性が疑問視されてもいた。

アキル長官も、民主党と連立を組むゴルカル党所属の元国会議員。09年に憲法裁判事に選ばれ13年4月に長官に就任した。以前から地方選の結果をめぐる裁判で賄賂を受けた疑惑が取りざたされていた。

 ■分権、腐敗も地方へ拡散
「開発独裁」のスハルト体制下では、インドネシア語の頭文字からKKN(カー・カー・エヌ)と呼ばれる汚職、癒着、縁故主義がはびこった。

スハルト氏は忠誠心と引き換えに部下にビジネスチャンスを与えた。側近を縁故で固めて富を蓄積した。ただ、中央集権化していたため、投資家や企業家は誰にいくら「追加料金」を払えばいいかが予測しやすかったといわれる。受け取る側も組織ごとに金をプールするなど多くがシステム化されていたという。

スハルト体制崩壊後、汚職追放は国家的課題となった。憲法裁と同じ03年に発足したKPKは政治家や警察幹部、大物実業家を次々と摘発してきた。これまで手がけた事件で有罪が確定したのは約230件。だが市民からの情報提供は毎年6千~7千件あり、一向に減る気配はない。

地元紙の編集幹部は「レフォルマシ(改革)とともに汚職も『分権化』された」と指摘する。地方分権が進み多くの許認可権が自治体へ移された。地方独自の法規もできた。その結果、様々なレベルの行政官や議員が「追加料金」や「手数料」を要求できる機会が増えたという構図だ。

汚職・癒着・縁故主義の地方への拡散の代表例といえるのが、アキル長官の汚職容疑の舞台の一つとなっているバンテン州だ。

アトゥット知事は04年の初の直接地方選で知事に選ばれて以来、州内の8自治体のうち4首長を親族ら身内から当選させ「王朝」を作り上げたといわれる。

民間の汚職監視団体は、同州は11年に中央政府から補助金と社会福祉費を計3900億ルピア(約32億円)交付されたが、うち1割が知事一族が関与する社会団体に不正流用されたと指摘する。アトゥット知事はアキル長官に約10億ルピア(約840万円)の賄賂を贈った疑いで昨年12月に逮捕された。

 ■追及阻む政治家/軽い刑罰 汚職監視組織の倫理委員長
地元のNGO、インドネシア汚職監視組織(ICW)のテテン・マスドゥキ倫理委員長に問題点と課題を聞いた。
     ◇
国会はKPKの力を弱めるために様々な手を使ってきた。これまで6万件の汚職の通報があるがKPKが着手したのは400件だけ。増員を国会が支持しないからだ。刑が軽いのも問題だ。劇的な事件を立件しても抑止効果がない。

政治家がKPKを支援しないのは自分たちが汚職まみれだから。政党は資金集めに苦労し、知事候補や市長候補、国会議員候補からの上納金をあてにする。よい人材でなく金を持っている人を候補に選んでいる。

警察も国会と並んで汚職が多い。ユドヨノ大統領はそこに手がつけられなかった。警察の汚職を摘発するための特別捜査隊を警察内部に作るべきだ。

ただ、スハルト時代よりは確実に前進している。メディアと監視団体が汚職を厳しく追及している。ジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド知事のような清廉で民衆に近い指導者が各地の自治体で誕生し始めていることも好材料だ。ジョコ氏が大衆の期待通り大統領選に立候補して選出されれば汚職撲滅も進むだろう。(ジャカルタ=翁長忠雄)

 ◆キーワード
 <インドネシアの民主化> 
1998年のスハルト政権崩壊後、政治犯の釈放、言論・結社の自由化、選挙制度改革、地方分権、国軍改革などが進んだ。スハルト体制下で政党は3党に制限されていたが、99年の総選挙では48党が参加した。2004年の大統領選は国民の直接投票が初めて実施された。

旧政権の汚職体質からの脱却も民主化過程の重要課題となり、03年に反汚職委員会(KPK)が発足した。職員、捜査員は約1千人。汚職を捜査し、訴追する権限を持つ。盗聴することもできる。【2月5日 朝日】
******************

清廉な庶民派ジョコ氏、大統領選挙へ出馬決定
不満を募らせる国民の期待を担う形で注目されているのが、上記記事の最後に名前があがっているジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド知事です。

貧困家庭出身、気さくな庶民派の人柄、ソロ市長やジャカルタ特別州知事としての実務手腕などから、国政経験がないながらも、今年行われる大統領選挙に向けて圧倒的な国民支持を得ており、選挙に出れば当選は確実と1月段階で早くも“当確”がうたれています。

****ジョコ・ジャカルタ州知事「国と州、仕事は同じ」 インドネシア大統領選、最有力視****
・・・・立候補の可否は所属する国政最大野党・闘争民主党のメガワティ党首(元大統領)が決めるが、ジョコ氏は「国でも州でも運営の手法は同じ」と述べ、擁立された場合の自信をにじませた。

ジョコ氏は国政経験はないが、現場で住民の声を聞いて問題解決に当たる姿勢や行政改革の取り組みが評価されている。

行政のあり方について「会社でも市でも州でも規模の違いだけで運営方法は同じだ。国も同じ。ジャカルタの人口は1千万だが国全体では20倍というだけだ」と語った。

大統領選立候補の可能性については「メガワティ党首が決めること。私は今(知事の)仕事に集中している」とも述べた。

ジョコ氏は中部ジャワのスラカルタ市出身。父は大工だった。家は貧しく何度も引っ越しをした。子どもの頃の夢は起業して成功すること。ガジャマダ大卒業後、家具輸出業などを経て2005年に同市長に転身。2期目途中の12年にジャカルタ知事選に出て現職を破り当選した。

低所得者向けの医療無料化や教育費援助など市民の目に見える改革で支持を拡大。渋滞解消のために露天商を粘り強く説得して撤去にこぎ着けた。

インフラについても、計画から20年以上宙に浮いていた都市高速鉄道事業を着工させ、中断していたモノレール建設も再開させた。ジョコ氏は「事業計画は以前からあったが事業決定と実行がなかった。なぜできなかったのかは知らない。私が着手した洪水問題などは7、8年で解決する」と語った。中央政府や周辺自治体との連携についても「以前は意思疎通がよくできていなかった。今は取れている」と述べた。

インドネシアは1998年の民主化後も横行する汚職の追放が国家的課題だ。ジョコ氏は汚職対策について「法の執行も大切だが予防のシステムが特に重要だ。ジャカルタではオンラインシステムを駆使し、予算がどこに必要か何に使われているかを検証できる。透明性は高い」とした。
 
 ■「庶民派」に高い支持
ヘビーメタルが大好きで、公用車は大衆車。屋台でご飯を食べ、気が向けばバジャイ(3輪タクシー)にも乗る。そんな「庶民派」のジョコ氏の行動をメディアが連日追い、人気がさらに高まるという構図ができあがっている。

知事就任1年を迎えた昨年10月の民間の世論調査で87%が知事の実績に「満足している」と答えた。有力紙コンパスの2012年12月の世論調査で大統領選候補としての支持率で17・7%とトップに躍り出ると、その後も支持率を高めていった。他の機関の調査でも軒並みトップだ。(中略)

 ■インドネシア大統領選をめぐる支持率(1月8日付・コンパス紙から)
ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事 43.5%
プラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官    11.1%
アブリザル・バクリ・ゴルカル党党首    9.2%
ウィラント元国軍司令官          6.3%
メガワティ元大統領            6.1%
ユスフ・カラ元副大統領          3.1%
【1月29日 朝日】
********************

ジョコ氏は最大野党・闘争民主党に属しますが、その党首はスカルノ元大統領と第一夫人の長女でもあるメガワティ前大統領。(ちなみに、デヴィ夫人はスカルノ元大統領の第3夫人)
メガワティ氏はワヒド元大統領弾劾によって副大統領から昇格しましたが、04年と09年の大統領選でいずれもユドヨノ氏に敗れています。

ジョコ氏人気の高まりを受けて、党のベテラン議員を中心に“メガワティ氏を大統領、ジョコ氏を副大統領候補”の組み合わせなら勝てるかも・・・という動きが出て、メガワティ氏も乗り気なような感もありました。

ただ、ジョコ氏を大統領候補として立てないと総選挙が危ないという若手や地方議員を中心とする党内の声によって、メガワティ氏もジョコ氏の大統領候補を受け入れました。

****ジョコ・ウィドド氏、インドネシア大統領選候補に決定****
インドネシアの最大野党・闘争民主党は14日、7月に実施される大統領選の候補に、ジャカルタ州知事のジョコ・ウィドド氏(52)を指名すると発表した。各種の世論調査で大統領候補としてトップを独走しており、当選が有力視される。

ジョコ氏は同日、「メガワティ党首から大統領候補になるように指示された。準備はできている」と報道陣に語った。
(中略)
ジョコ氏が大統領候補に決定したことで、16日に本格的な選挙戦が始まる総選挙で闘争民主党の得票を押し上げるとみられる。総選挙で得票率を伸ばすほど大統領選を有利に進めることができる。

大統領選にはほかに、ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首やプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官らが立候補を表明している。【3月14日 朝日】
********************

イタリアでも国政経験のないレンツィ氏が国民の期待を集める形で、イタリア史上最年少首相に就任しましたが、レッタ前首相を力ずくで引きずり降ろした強引な政治手法に対する批判もありました。

ジョコ氏の場合は、少なくと表向きは「(大統領選挙出馬は)メガワティ党首が決めること。私は今(知事の)仕事に集中している」と、党内の混乱から距離を置く慎重な姿勢を続けていました。

そのかいあっての大統領選挙候補決定となりましたが、7月本番までに大きなトラブルがなければ“当確”の勢いです。

ジョコ新大統領のもとで改革が実行できれば、インドネシアはいよいよ本格的新興国としてテイクオフすることもできますが、既得権益層の抵抗、社会全体の意識改革、国軍の協力を得られるか・・・など、課題も多いことは言うまでもないところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする