孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

4年目を迎えたシリア内戦  犠牲者を増やし続けるだけの現状を変えうる現実的対応は?

2014-03-19 23:16:26 | 中東情勢

(政権側のプロパガンダ画像ではありますが、3月12日 ダマスカス郊外の難民施設を訪問したアサド大統領 “flickr”より By Devyatka Site http://www.flickr.com/photos/120468246@N06/13192949284/in/photolist-m6PjbQ-m4JQ4N-m4Luuo-m4LcRd-m4JiZv-m4L5UN-m4KnFX-m4JZ8P-m4KHwN-m4HvWi-m4HbFe-m65xM4-m4Lkhq-m4PqWz-m4JFDT-m54CW9-m4Js9A-m4HCvt-m4HVz9-m4Pomg-m4H5Eg-m4LSfY-m4N1qc-m4T3eU-m4Si2a-m4TbWJ-m4TcUA-m4Qy86-m4SWyL-m4S6W5-m4K83N-m4QAKR-m4S5kR-m4SbCE-m4RaUC-m4LQ2i-m4PSEZ-m4JR6h-m36Gkw-m35fga-m36H8y-mbkJjg-m4LEux-m4KVkZ-m4LzwN-m4TqC1-m4Kivm-m6zTfK-m4SGen-m7sxSc-m2uTkt)

軍事的優位を強める政権側
シリア内戦は2011年3月15日に始まってから3年が過ぎ、4年目に入っています。
この内戦ではこれまでに14万人以上の命が奪われた上、人口の半数近くが家を追われ、今ではその多くが難民生活を余儀なくされています。(UNHCRによると、難民は約250万人、国内避難民は650万人以上、合計900万人を超え、全人口2190万人の4割以上になっています。)

内戦終結に向けた交渉は道筋を見いだせないまま停滞しており、市民の犠牲者が増え続ける状況となっています。
(3月5日ブログ「シリア 人道決議案は採択されたものの、日ごとに増す人々の飢えと苦しみ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140305

軍事的には、かねてよりアサド政権側の攻勢が伝えられていましたが、3月16日に政府軍側が反体制派の重要拠点ヤブルードを制圧したことで、政権側優位の流れが更に加速しそうです。

****シリア:反体制派拠点、陥落 政府軍が補給路断つ****
シリア内戦で、政府軍は16日、レバノン国境に近い西部山岳地帯にある反体制派の主要拠点ヤブルードを制圧した。国営シリア・アラブ通信が報じた。

政府軍は首都ダマスカス北方の山岳地帯をほぼ確保し、中部ホムスや地中海沿岸地方に至るルートを掌握した。反体制派はレバノンからの補給路を断たれた格好で、ダマスカス郊外やホムスでの戦闘が政府軍優位に傾く可能性もある。(中略)

政府軍は昨年春以降、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの支援を受けて、西部山岳地帯で攻勢を強めた。6月にクサイル、12月にナブクと要衝を次々と制圧し、ヤブルードにも空爆などで激しい攻撃を続けていた。

反体制派によると、政権側にはヒズボラのほか、イラクのシーア派民兵も加わっていたという。【3月17日 毎日】
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国際関係面においても、ウクライナ・クリミアを巡るロシアと欧米の対立が先鋭化する流れは、シリア和平交渉を一層難しくすることが予想されます。また、ロシアを後ろ盾とするアサド政権を強気にさせることにもなっています。

****シリア反政府デモ発生3年 露のウクライナ強硬策 アサド政権の後押し****
シリアは、内戦につながった反政府デモ発生から15日で3年を迎える。今年1、2月にスイスで行われたアサド政権と反体制派の当事者間協議が不調に終わり、内戦の政治解決機運は後退。

ロシアの中東での「橋頭堡(きょうとうほ)」として同国の支援を受ける政権側にとっては、ウクライナ情勢をめぐってロシアが自国勢力圏を死守する構えを鮮明にしていることも追い風となっている。

「ロシアは国際関係に重要な役割を果たしている」。シリア国営通信によるとアサド大統領は11日、こう述べ、自身の後ろ盾であるロシアの最近の動きを称賛した。ロシアがウクライナ問題で米欧への強硬姿勢を貫いていることが、政権側に、シリア問題でもロシアの関与は揺るがないとの自信を与えるとみられる。

国際社会の関心がウクライナに集中していることで、政権側の軍事行動に対する米欧の目が行き届かなくなるとの指摘もある。

シリアの隣国レバノンなどからの報道によると、政権側はこのところ、首都ダマスカス周辺やレバノン国境地帯、北部の主要都市アレッポ周辺へ重点的に戦力を展開。北部のトルコ国境地帯や東部などの反体制派支配地域を面的に制圧するのは難しいことから、要衝に絞って軍事的優位の確保を図っているもようだ。

政権側の「たる爆弾」と呼ばれる焼夷(しょうい)弾による空爆も続いており、3年前の反政府デモ発生以降の死者数は全土で14万人を超した。

シリア内戦をめぐっては1、2月、政権側と反体制派の代表組織「シリア国民連合」の当事者間協議が行われた。
武力介入に消極的な米欧は、協議を通じてアサド氏退陣へ道筋をつけたい考えだったが、政権側は退陣を念頭に置いた議論には乗らず、協議の成果は激戦地の中部ホムス旧市街からの住民脱出など限定的なものにとどまった。内戦の長期化も辞さずに生き残りを狙う政権側の外交的勝利ともいえる。

シリアでは今年、大統領選が予定され、アサド氏の出馬・当選が確実視されている。アサド氏は選挙結果を盾に政権の正当性を主張していくものとみられる。【3月15日 産経】
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犠牲者を止めるために求められる現実的対応
今後のシリア情勢については、“シリア情勢の専門家、英エジンバラ大学のトマス・ピエレ氏は、「シリア内戦は、欧米の介入がなければ今後何年も続くだろう。しかし米大統領がバラク・オバマ氏である限り、介入は全く見込めそうにない」と指摘する。「(オバマ氏の後任選挙が行われる)2016年以降には、状況が変わるかもしれない」”【3月14日 AFP】とも。

しかし、政府軍の兵糧攻めで市民に餓死者が出るような状況で、“今後何年も続くだろう”“2016年以降には・・・”というのは、救いのない話です。

****良い筋書きなど存在しない****
目下、反体制派の内部ではこれまでにないほど分裂が進んでおり、政権側に加え、かつて同盟関係にあったイスラム武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」とも戦っている。

穏健派・過激派、両方の反体制派に加え、国際テロ組織アルカイダ系の「アルヌスラ戦線」までもが、今年1月以降、ISILに対し激しい戦闘を仕掛けており、今のところ収束の気配もない。

専門家らは、政権側は最近領土奪還を進めているが、全土を取り返すだけの兵力は持ち合わせていないと分析している。

識者らの推定によると、反体制派は10万~15万人の戦闘員を抱えており、そのうちの1万~2万人が外国人。また反体制派には約2000の武装組織があり、そのうち「イスラム戦線」が最も重要な立場を保持している。

一方政府軍の兵力は30万人とされ、このうちの半数が徴集兵。加えて、数千人規模の親政権派民兵らの支援も受けられる。しかしシリア人権監視団によると、政権側は過去3年間に5万人もの戦闘要員を失ったという。

「どちらにとっても勝ち戦ではない」。ドイツ国際安全保障研究所の所長で、「Syria under Bashar(バッシャール下のシリア)」を著したフォルカー・ペルテス氏はAFPに対し語った。

「もしかしたらアサド氏は、領土の大半を取り戻し、制圧できていない地域については焦土作戦を展開するかもしれない。しかし、再び国全体を支配下に置くことは決してないだろう」

ペルテス氏はさらに、国家崩壊は「可能性の一つではなく、一つの現実であり、仮に戦争があす終わったとしても国の再建には10年以上かかるだろう」という見通しを示している。

また、同じくシリア問題に詳しい地理学者のファブリス・バランシュ氏は、シリアの分裂もあり得ると指摘。「どちらか一方の勝利には終わらず、北東部のクルド人地域と、北部の反体制派地域、そして中部の政権掌握地域という、事実上の分割状態」を予測している。

「シリアにとって良い筋書きなど存在しない。アサド氏は再びゆっくりと支配を強めるだろうが、そのためにどれだけの犠牲を払わなければならないことか」
「政権側が復権を果たせば抑圧を伴うのは必至で、そうなれば数十万人の流出につながるだろう」
「2006年に(イスラエルとの衝突後に)レバノンに注入されたような資金をシリアが受け取るようなことは考えにくく、イラクのような産油国でもないのだから」【3月12日 AFP】
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死傷者や避難民の増加を嘆いているだけで、この先何年も同じような状況を続けるのは愚かしい道のように思えます。

欧米側が描いていた反体制派を主体とした政権構想は、内部分裂し、イスラム過激派の台頭を抑えきれない反体制派の現状では、完全に破たんしていると言わざるを得ないでしょう。
力づくでアサド政権を引き摺り下ろし、反体制派主体の政権をつくったとしても、更なる混乱のスタートになるだけに思えます。

現段階でシリア統治の主体となりうる可能性があるのは、“全土を取り返すだけの兵力は持ち合わせていない”ながらも戦局を優位に進めているアサド政権しかないように思われます。

アサド政権側がこれまでに行ってきた多くの非人道的行為を考えると、いかなる形にせよアサド政権の残存を認めることは、欧米側にとっては耐え難い筋書でしょう。

しかし、すでに十分すぎる犠牲者を出し、更にこの先数年同様の惨状を続けるという最悪のシナリオに比べればまだましではないでしょうか。

シリアは、嘆き、悲しみ、批判ではなく答えを求めています。これまでの経緯に縛られることを止め、今後の犠牲者を速やかに減少させる答えがどこにあるのか、現実的に考えるべき時期ではないでしょうか。

ただ、ウクライナ・クリミア問題で欧米・ロシアの亀裂が深まり、互いの譲歩のなかで協調して解決策を探す気運にないことはシリアにとって残念なことです。
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