孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  拡大する日本企業に対する“強制連行訴訟”

2014-03-23 23:31:55 | 中国

(日本に強制連行された労働者の遺族と一緒に中国・北京の日本大使館前に立つ存命の元労働者の男性(2013年5月13日撮影) 【3月19日 AFP】)

【「歴史が残した問題を正確に認識し、適切に処理するよう要求する」】
日中戦争時に日本に強制連行され、北海道や福岡県の炭鉱などで過酷な労働をさせられたとして、中国人被害者や遺族の計37人が2月26日、日本コークス工業(旧三井鉱山)と三菱マテリアルを相手取り、1人100万元(約1650万円)の損害賠償と謝罪を求める訴訟を北京市第1中級人民法院(地裁)に起こした件については、この種の問題に関する司法判断に対する実質的決定権を有する中国共産党指導部がどのような判断を行うか注目されていました。

強制連行訴訟については、生存者や遺族が日本企業を提訴する訴訟が日本の裁判所で1990年代以降相次ぎ、地裁段階では原告勝訴の判決も出ましたが、日本の最高裁は2007年4月、「中国が戦争賠償の請求を放棄した1972年の日中共同声明で、個人の請求権も放棄された」との原告敗訴の判断を示しています。
その一方で、最高裁は「関係者が被害の救済に向けた努力をすることが期待される」とも付け加えています。

日本政府は「中国が戦争賠償請求権を放棄した日中共同声明後、請求権の問題は存在しない」という立場を取っています。
ただ、中国側は「共同声明で放棄したのは国家間の賠償であり、個人の賠償請求は含まれていない」との立場で、中国外務省報道官は当時、「強烈な反対」を表明したうえで、強制連行を「日本軍国主義の中国人民に対する重大な犯罪」と非難しています。

同様の訴訟は、中国でも2003年と10年に提起されましたが、対日関係を重視した共産党の判断があったと推測され、裁判所は受理しませんでした。

しかし、昨今の日中関係の悪化、中国側が日本の歴史認識を問題視し、そのことを国際的にもアピールする形で国際的な対日圧力を強めようとしているなかにあって、中国指導部は今回訴訟を受理する姿勢に転じ、3月18日、司法当局によって受理されました。

中国政府は、「これは中国の裁判所が法に基づき出した決定だ」と、裁判所の判断を支持した上で、日本側に対して「歴史が残した問題を正確に認識し、適切に処理するよう要求する」と促しています。

****中国:強制連行訴訟 指導部の「歴史問題で妥協せず」反映****
日中戦争時に強制連行され過酷な労働を強いられたとして、中国人被害者や遺族らが日本コークス工業(旧三井鉱山)と三菱マテリアルを相手取り損害賠償や謝罪を求めた訴訟を北京市第1中級人民法院(地裁)が18日に受理したのは、中国側が歴史問題で妥協しない姿勢を堅持している事情が背景にある。

「訴えは中国の法律にも符合するものであり、重大な意義がある」。法院から受理の通知を受け北京市内で記者会見した原告側の康健(こうけん)弁護士はこう話し、裁判への自信を見せた。提訴時は原告が37人だったが、現在は40人に増えたという。

原告側は「2社による被害者は9415人」としており、強制連行に関わった企業は35社、被害者は3万8953人としている。原告団には北京市や河北省、山西省、上海市の弁護士もおり、同様の訴訟が中国各地で続く可能性もある。(中略)

裁判が開かれれば、企業に賠償を命じる判決が出る可能性があり、中国で事業を展開する日系企業にとって新たなリスクになりそうだ。

歴史問題を巡っては、全国人民代表大会(全人代=国会)で李克強(りこくきょう)首相が政府活動報告で「第二次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることは決して許さない」と強調。

中国メディアによると、この直後に最長の12秒の拍手が起きており、国内で歴史問題は高い関心を集めている。22日から訪欧する習近平(しゅうきんぺい)国家主席はドイツなどで歴史問題で日本をけん制するとの見方も出ている。法院の提訴受理は、こうした指導部の言動を反映した動きとみられる。【3月18日 毎日】
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中国側のこうした対応に、日本側は懸念を表明しています。

****官房長官:強制連行訴訟の受理影響を懸念****
菅義偉官房長官は19日午前の記者会見で、日中戦争時の中国人強制連行被害者らが日本企業に損害賠償を求める訴訟を中国の裁判所が受理したことについて「中国国内で類似の事案を誘発することになりかねず、日中間の戦後処理の枠組みや日中経済関係への影響を深刻に懸念せざるを得ない」と表明した。菅氏は「日中間の請求権問題については個人の請求権の問題も含めて、日中共同声明の発出後、存在しない」と政府の立場を改めて強調した。【3月19日 毎日】
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なお、戦後補償を巡っては、韓国でも日本側が決着済みと位置づける元徴用工の損害賠償訴訟が続いています。
“中国国内の動きに「歴史問題で日本への圧力を強めるため、韓国との連携を強化する思惑もあるのではないか」(日中関係筋)との指摘も出ている”【2月26日 毎日】

【「原告は最終的に3千人前後に膨らむ可能性もある」】
訴訟の方は予想されたように急速に拡大しており、すでに原告が1000人規模となっており、“最終的に3千人前後に膨らむ可能性もある”とも指摘されています。

****強制連行」訴訟、原告1000人規模に 中国、さらに拡大も****
戦時中に日本に連行され過酷な労働を強いられたとして中国人元労働者ら40人が日本企業2社を相手取り中国の裁判所に起こした損害賠償請求訴訟で、原告に加わる意向を示した被害者と遺族が千人近くに達していることが22日分かった。今後さらに増える可能性があり、被告企業の対応が焦点となりそうだ。(中略)

起訴状に記載した原告は40人だが、原告側代理人の康健弁護士によると、訴訟に加わる意向を示している元労働者と遺族は千人近くに及ぶ。康弁護士は「原告は最終的に3千人前後に膨らむ可能性もある」との見通しを示した。

裁判所が原告の追加を認めた上で2社による強制連行の被害者と認定すれば、被告企業は膨大な賠償金の支払いを迫られる可能性がある。日中関係の大きな火種になるのは必至だ。

原告側は日本外務省がまとめた報告書をもとに強制連行された中国人が約3万9千人、関わった日本企業が35社に上ると主張。2005年の調査ではうち24社が現存していたといい、2社以外の提訴も「排除しない」との構えだ。【3月23日 朝日】
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現在の日中関係の状況からして、訴訟は原告側に有利に展開するものと思われます。
原告側は「訴訟が唯一の解決法ではない」と強調し、和解による実質的補償を求める動きもあるようです。

****被告企業の譲歩を期待 原告、個別交渉実らず 中国、強制連行訴訟****
戦時中の強制連行をめぐり中国で起こされた損害賠償請求訴訟に、千人近い元労働者や遺族が参加の意思を示していることが明らかになった。裁判所が原告の追加を認めれば日本にとって大きな政治的圧力になるのは避けられない。鍵を握るのは被告企業の対応だ。

北京の裁判所が膨大な数に上る元労働者らを被害者と認定し、原告に加えるかが焦点となる。
ただ中国の裁判所は共産党の指導下にあり、政治の影響を強く受ける。対日感情が悪化する中、裁判所が訴えを受理した以上、「被害者に不利となる判断をするとは考えにくい」というのが外交筋などの一致した見方だ。

中国外務省幹部は「日本の政府と企業が政策的、行政的にも誠意を示してこなかったことが今回の提訴につながっている」と指摘。
元労働者の訴えについて、「(1972年の日中)共同声明で放棄したのは、戦争行為による直接の被害。強制連行と慰安婦、遺棄兵器の問題は、戦争賠償とは別問題というのが中国政府の立場だ」と強調する。

原告側代理人の康健弁護士は「ある企業と和解交渉を続けたが、誠意のない事務的な対応に終始した。和解の希望はないと判断したのが提訴の直接の引き金だ」と話している。

日本の最高裁は2007年、西松建設を相手取った元労働者らの訴えについて「(中国は日中共同声明で)個人の請求権も放棄した」と退けた一方、「関係者が被害の救済に向けた努力をすることが期待される」と付け加えた。

こうした判断を踏まえ、原告側は企業側と個別の和解交渉を継続。西松建設は2億5千万円を拠出して被害者の基金を設立して和解したが、他企業には動きが広がっていない。

原告側は「訴訟が唯一の解決法ではない」と強調し、今回訴えた三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)から歩み寄りを引き出し、他の企業にも波及させたい考えだ。

一方、和解が成立しなければ中国の裁判所が原告敗訴の判決を出す可能性は低いとみられており、「他の日本企業が萎縮し、中国から撤退する動きが出てきかねない」(日中外交筋)との懸念も高まる。

強制連行問題に関する知識と経験を持つ中国の弁護士は少なく、大半が北京の弁護団に名を連ねている。今後は北京の原告団に加わることを望む被害者が増えるとみられ、当面は北京の裁判所に訴えられた2社の対応が焦点となりそうだ。

■原告団が強制連行に関わったと主張する主な企業
古河機械金属(旧古河鉱業)、日鉄鉱業、三菱マテリアル、日本コークス工業(旧三井鉱山)、三井造船、住友金属鉱山、宇部興産、熊谷組、飛島建設、大成建設、鉄建、IHI(旧播磨造船所)※2005年段階の調査による
【3月23日 朝日】
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強制連行に関しては、上記のような報道にあるような情報しか持ち合わせていませんので、特にコメントすべきものはありません。

自らの過去から逃げない対応を
ただ、日中・日韓の間に横たわる戦争時の諸問題にかんする一般論で言えば、日本は法律的な形式論、あるいは細部にこだわった議論を超えて、相手国民の心に届くような対応をすべきと考えています。

近年の中国の力を背景にしたような強圧的な対応、韓国の執拗な日本批判など、感情的には苛立たしいことも多々あります。
戦争時の問題についても、法的な解釈の問題もあるでしょう。
具体的事例については、細部において「日本はそんなことはしていない」というような部分もあるでしょう。

しかしながら、日本が朝鮮半島を統治し、中国を戦場としたという事実は厳然としてあります。

当時の日本のやむを得ない諸事情はあるでしょう。
日本だけが侵略行為を行っていた訳でなく、当時としては常識的な対応だったと言えば、そうでしょう。

しかしそれでも、日本統治下で、日本との戦争において、多くの人々が苦しみ、生命・財産を失った事実は変わりません。

仮に、強制連行や慰安婦問題で日本側に言われるような非道な行為はなかったとしても、日本による統治下での貧困などの社会問題、あるいは日本との戦争によって引き起こされた社会的混乱から惹起された諸問題であったことは間違いないでしょう。

当時の価値基準では普通のことであったとしても、現在の価値基準からすれば許されないようなことも多々あったでしょう。被害者側の感情として“当時は当たり前だった”で済まされるでしょうか?

現在の日本でも、“ヘイトスピーチ”やネット上の見るに堪えない差別的暴言、先日の“Japanese only”の件などに見るように、強い民族差別意識が残存しています。

ましてや、当時の一般的日本人が中国や韓国の人々にどのような意識を持っており、その結果どのような行動をとったかは想像に難くないところです。

加害者側は時間とともにそうした記憶は薄れていき、いつまでも蒸し返されることに苛立ちますが、被害者側は全く別です。

そのことは、日本と中国・韓国の立場を入れ替えて想像してみれば明らかなことです。
もし、日本が支配され、戦場とされていたなら、その当時に起きた悲惨な多くの出来事について“もう法律的に済んだこと”“別に暴力的に強要した訳でない”“仕方ない事情があったし、他の国だって同様の事をしている。”云々で納得するでしょうか?

日本がとるべき対応は、形式的な問題や些末な問題にこだわらず、日本の責任を認めることではないでしょうか。
見苦しい言い訳・責任逃れを行わないことが、日本人としての最低限の誇りであり矜持であると考えます。

日本がアジアで、世界で尊敬される立場を得ることができるとしたら、それは経済力や軍事力ではなく、自分の過去から逃げない責任ある対応によってではないでしょうか。
コメント (2)
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