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(スペインの飛び地メリリャとモロッコを隔てるフェンス “flickr”より By Chiara Tamburini http://www.flickr.com/photos/12522820@N05/2057427198/in/photolist-48NRqJ-4r24Ys-5gRXUz-6SpChR-7eRHjp-7eRHH4-7eRJDR-7eRKkx-7eRL7T-7eRLRD-7eRMcx-7eRMDp-7eRN28-7eRNmB-7eRPb6-7eRPUe-7eRQUZ-7eRRFv-7eVC1w-7eVCjN-7eVD77-7eVDLS-7eVEB1-7eVGMS-7eVHFU-7eVJjs-7eVJDN-7eVKrE-7eW2Nm-7oPEoa-da6rry-fDutLE-drwfJ4-drwzCo-drwx6y-dVS1dP-7ZjRaK)
【欧州を目指す移民の大量流入】
昨年8月に、イギリスが領有するジブラルタルを巡って、その返還を求めているスペインとイギリスの関係が悪化したことがありました。
ジブラルタルはスペイン領域内に飛び地として存在するイギリス領ですが、そのスペインは対岸のモロッコ領内にセウタ(海峡を挟んでジブラルタルと向かい合うアフリカ側の都市)とメリリャという2都市を飛び地として有しています。
イギリスに対してはジブラルタルを返せと言いつつ、セウタ・メリリャを返せとのモロッコの主張は退ける・・・ということで、スぺインの言い分には難しいものもあります。
参考:2009年7月22日ブログ「スペイン ジブラルタルは“返せ” セウタ・メリリャは“わが領土”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090722)
領土をめぐる議論は往々にして、この類の自分に都合のいい主張でもあります。
この北アフリカ・モロッコに存在するスペインの飛び地は、豊かな生活を求めて欧州を目指すアフリカ移民にとっては、欧州への不法移民の窓口にもなっています。
****北アフリカのスペイン領、移民1000人超が殺到****
アフリカ北部、地中海に面したスペインの領土メリリャで、マリやカメルーンからの1000人を超える移民が不法入国を試みた件を受けて、スペイン政府は19日、警察官ら120人をメリリャに派遣した。
メリリャはモロッコの北東部にあるスペインの飛び地。18日早朝に両国の治安部隊が移民の越境を阻止しようとしたが、500人ほどが国境のフェンスを乗り越え、「勝った、勝った」と叫びながら移民収容施設に向かって走って行ったという。
当局によれば、これほど多くの移民が一度に殺到するのは2005年10月以来のこと。この時には1日で350人が越境した。
スペイン政府の推計では、メリリャともう1つの飛び地セウタに入境しようと集まっている移民の数は4万人。さらに4万人がスペインへの入国を目指し、モーリタニアとモロッコの国境近くに集まっているという。
スペインのフェルナンデス内相は6日、セウタを訪問。移民の大量流入はスペインだけでなく欧州全体の問題だとして、欧州連合(EU)に協力を呼びかけた。
現在、メリリャの移民収容施設には、定員の3倍を超える約1800人が滞在している。
18日の大量流入を受けてスペイン赤十字社は軍とともにテントを増設して収容施設の敷地を拡大。だが現地では、政府は近いうちに移民の一部をスペイン本土に移送せざるを得ないとの報道も出ている。
先月6日には、泳いでセウタに入境しようとした15人の移民が溺死するという事件が起きたばかり。人権団体からはスペイン警察が発砲したゴム弾が死因ではないかとの見方も出ているが、政府は移民を直接狙って撃ったものではないとしている。【3月20日 CNN】
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ここにきてセウタ・メリリャに大量のアフリカ移民が殺到している事情についてはわかりません。
ただ、セウタ・メリリャを通じた不法移民の流れ、更には麻薬密輸の流れは以前からある問題です。
****豊かさ求め、国境越え スペイン領にモロッコ移民流入****
領土問題に揺れるセウタ、レイラ島、ジブラルタル
地中海を臨むモロッコと陸続きのセウタは、アフリカ大陸に残るスペインだ。植民地時代の「負の遺産」だとして、モロッコは返還を求めているが、解決のめどは立たない。その一方で、経済格差を背景に、移民による「静かな侵略」が続く。
黄土色の乾いた土がむき出しの丘の上に、家々が密集している。どれも無造作に建て増しされたものだ。入り組んだ細い路地からはアラビア語が聞こえた。小さなモスク(イスラム教礼拝所)もある。ここで欧州の雰囲気を感じることはない。
プリンシペ。モロッコ国境に近いスペイン領セウタにある移民の居住区だ。10年ほど前からモロッコからの移民たちが住むようになり、今では8千~1万人になった。
水道や電気も使える。しかし、ほとんどが無許可で、使用料も支払われていないという。人口約8万人のセウタで、プリンシペだけで1割ほどを占める計算だ。
セウタ中心部でも、目立つのは「非スペイン人」たちだ。カフェには仕事にあぶれた男たちが昼間から集まり、アラビア語で話していた。店の料理はすべて、イスラム教に沿ったものだという。商店街には、スカーフをしたイスラム教徒の女性の姿が目立つ。
「静かな侵略」。移民たちの増加はスペイン市民の間でそう呼ばれる。
周辺地域はかつてスペインが植民地化し「保護領」となった。周辺のモロッコ人は、身分証だけでセウタに入国できる「特典」が与えられている。モロッコとの平均収入の格差は約15倍。豊かさを求め移り住む人は絶えない。
移民はモロッコからだけにとどまらない。セウタへの入国の手引きをしているというモロッコ人男性に話を聞くと、サハラ砂漠以南のセネガルやギニアなどからもやって来るという。
記者がモロッコ側の国境地帯を車で走っていると、木の間にアフリカ系とみられる3人組が隠れているのが見えた。「国境越えのタイミングを待っているんだ」。運転手がそう教えてくれた。密入国が頻繁に行われていることがわかる。
国境越えの手口は、身分証を偽造したり、車のシートやコンテナに隠れたりするなどさまざま。スペインの外国人法では、非合法でも入国すれば強制送還されることはまれ。入国に成功すると、プリンシペにいったん住む。時期を見計らって、さらに豊かな欧州本土を目指し地中海を渡るという。
スペインも移民増加に手をこまねいていたわけではない。2005年には国境の柵の高さを3メートルから倍の6メートルにするなど様々な手を打ってきたが、大きな成果は上げていない。
さらにスペインを悩ませているのが、麻薬の流入だ。国連薬物犯罪事務所(本部・ウィーン)の調べでは、欧州に流入する大麻の大半がモロッコ産で、セウタ経由も少なくないとされる。移民の手引きをする者たちの中には、「大麻を扱うグループもいる」との話もある。
セウタは、アフリカからの移民と密輸麻薬の入り口にもなっているのだ。
モロッコ政府は1956年の独立以来、セウタの返還をスペインに求め続けている。モロッコのラルビ・メッサリ元情報大臣は「セウタや、その周辺の島々はいまだに返還されない植民地だ。地理的にも、歴史的にもモロッコ領であることは、疑いがない。モロッコには返還への確固とした戦略がある」と語る。
その一方で、メッサリ氏は「隣国は互いに協力しなければならない。今は、財政危機という病気の国を介抱する時だ」と財政難にあえぐスペインに同情すら見せた。モロッコ側に返還交渉を急ぐ考えは今のところうかがえない。モロッコ国内の世論も最近は、それほど盛り上がっているとはいえない。(後略)【2012年11月30日 朝日】
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【カンダタの悩み】
今回騒動となっている不法移民たちは、上記記事にもあるスペイン政府がつくった高さ6mのフェンスをよじ登って侵入しようとしているのでしょうか。
“モロッコとの平均収入の格差は約15倍”とのことですが、マリやカメルーンなどの不法移民にとっては食べていけるか飢え死にするかの差にも相当するでしょう。
それだけの差が“国境”なるもので決められるということになると、当然に人々は命がけでこの国境を越えようとします。
もちろん、国によって、日々積み重ねてきた努力に差はあるでしょう。指導者の資質の差もあるでしょう。ただ、個々人のレベルでみたとき、その差を受け入れるべきどれだけの違いがあるのか?
しかし、自分自身の日本国内におけるささやかな生活を含めて、先進国の豊かな社会はこの国境に守られて存在しており、これを否定すれば、現在の生活は直ちに危うくなります。
人々の自由な移動によって、結果的に、世界の所得水準は平準化するでしょうが。
さりとて、「蜘蛛の糸」のカンダタのように「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己(おれ)のものだぞ。お前たちは一体誰にきいて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と叫ぶのもいかがなものか・・・ということで、いつも悩む問題です。保身をむき出しにするのか、偽善的にふるまうのか、悟りを開くのか・・・。
そういう基本的な話とは別に、スペインがどうしてこんな厄介な飛び地の領有に固執するのか、よくわかりません。
もちろんいろんな権益はあるのでしょうが、厄介な飛び地はモロッコに渡して、身軽になった方がよさそうな気がしますが・・・。
「領土を譲ることなど、どんな理由でも認められない」ということなのでしょうか?