孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  反政府勢力による原油輸出を阻止出来ず、首相は罷免 国内対立に拍車か

2014-03-14 22:02:51 | 北アフリカ

(リビア東部から原油“密輸”を行った北朝鮮国旗を掲げたタンカー 【3月12日 International Business Times】)

国家財政の要の原油を巡る利権争奪戦
カダフィ政権崩壊後のリビア情勢については、2013年11月16日ブログ「リビア “瀕死”の民主化プロセス それでも“一応及第点”との評価も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131116)で取り上げました。

東西間の部族対立、内戦後も武装解除に応じない民兵組織の跋扈、カダフィ強権支配体制のもとで抑え込まれていたイスラム過激派やカダフィ支持派によるテロ活動の活発化・・・・という状況で、中央省庁が武装民兵によって占拠される、更には白昼堂々と武装組織によって首相が拉致されるといった事件も起き、背後には第2党でもあるイスラム主義政党が存在しているのでは・・・といった具合で、“瀕死の民主化プロセス”にあるとも言えますが、それでもシリアのような内戦状態にはまだ陥っていないとも言える・・・・そんなところのようです。

リビアにとって原油輸出は国家再建の要ですが、反政府民兵組織が支配する東部の港で、政府・軍の阻止にもかかわらず北朝鮮国旗を掲げるタンカーによって原油が積み出されるという事件が起きました。

ゼイダン首相は爆撃警告までしながらもこれを阻止できず、国の威信を失墜させたとして議会によって罷免される事態となっています。

****リビア:原油密輸防げず、首相罷免−−制憲議会****
リビア制憲議会は11日、原油の密輸出を防げず国の威信を失墜させたとして、ゼイダン首相を罷免した。新首相を選任するまで、サニ国防相が職務を代行する。

ロイター通信によると、自治拡大を要求し部族勢力が不法占拠する東部シドラ港では、北朝鮮国旗を掲げたタンカーが無許可で原油を積み込み、首相が部族勢力に警告。しかし、タンカーは11日、海軍の警戒網を破り公海上に逃走した。

タンカー所有者はサウジアラビアの企業だとの情報もあるが、サウジ政府は否定。目的地も不明だ。タンカーは、最大3500万ドル(約35億円)相当の原油を積んでいるとみられ、北朝鮮が原油調達先の多角化を狙っている可能性もある。

検察当局は、汚職容疑の捜査のため、ゼイダン氏に海外渡航禁止を命じた。

リビアでは、2011年の内戦でカダフィ独裁政権が崩壊。だが、内戦後も部族勢力や民兵組織が武装解除に応じず、中央省庁を占拠するなど政府とたびたび対立。昨年10月にはゼイダン首相が武装集団に一時誘拐される事件も起きた。【3月12日 毎日】
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“油田が集中するリビア東部では旧カダフィ政権の崩壊後、港湾の警備が民兵組織に委ねられた。この組織の指導者らが昨年以降、「政府は信用できない」として自治拡大や利益の分配を要求。港を占拠し、原油の輸出を妨害してきた。”【3月9日 CNN】という状況下での密輸事件でした。

“東部の石油施設を占拠して石油輸出を止め、独自の石油輸出ルートを開拓すると脅して中央政府により多くの利益配分を要求する諸勢力に対し、リビア暫定政府や米国はリビア政府以外から石油を買わないようにと国際社会に強く求めてきており、小規模の「密輸」は行われても、公然と大々的に船積みして出航する事例は筆者の知る限りない。”【3月12日 池内恵氏 フォーサイト】とも。

【「われわれは中央政府や議会(国会)に反抗しているのではない。われわれの権利を主張している」】
原油輸出を強行した反政府勢力側については以下のように報じられています。

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9日、リビアの石油施設警備隊幹部(兼東部自治政府幹部)で反カダフィー派のイブラヒム・ジャトハラン氏が率いる元兵士らが抗議活動を行った。

ジャトハラン氏はリビア政府の委託を受けて石油の積出を行う港の警備を担当してきた。しかし昨年7月、ジャトハラン氏らは少なくとも3つの重要な石油の積み出し港を掌握し、輸出を遮断し、東部の自治権をこれまで以上に強化し、収益の共有を求めた。

リビアの連邦化を主張しているキレナイカ評議会を率いるラボ・バラシ氏は、シドラ港からの原油輸出を再開したと発表した。「われわれは中央政府や議会(国会)に反抗しているのではない。われわれの権利を主張している」と述べた。

キレナイカ評議会はキレナイカの自治を宣言し、2013年10月に独自の政権を樹立している。

キレナイカとはリビア東部、地中海とエジプト、スーダン、チャドの国境に接する地域を指し、今日ではリビアのベンガジ州にあたる。

1949年、イドリース1世がキレナイカの独立を宣言(キレナイカ首長国)、1951年にトリポリタニアやフェザーンとの連合王国・リビア王国が誕生した。

イドリース統治下では、石油収益はリビアの地域で分配されていた。カダフィ大佐によるクーデターで王国が倒された後、キレナイカは抑圧され、キレナイカの部族は冷遇されていた。

このため同地域では旧王政支持者や反カダフィ勢力が強く、2011年の内戦では反カダフィー体制打倒の拠点になった。

タンカーが攻撃を受ければ「リビア東部地方のキレナイカはこれに応戦し、石油擁護と革命は決定的になる。このような動きは宣戦布告になる」とバラシ氏は声明で述べている。【3月12日 International Business Times】
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カダフィ政権との内戦当時からトリポリを中心とする西部と、反カダフィの中核となったベンガジを中心とす東部は対立を続けており、今回事件もその対立の延長線上にあります。

それにしても、いきなり首相罷免とは・・・という不思議な感もありましたが、“これを報じたal jazeera net 等は、リビア国会はこれまでもzidan首相を不信任しようとしていたが、票数が足りなかったところ、今回のタンカー事件が「ラクダの背なかをへし折った最後の一本の麦わら」の役割を果たして、不信任することとなったと評しています。”【3月12日 「中東の窓」 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/cat_73705.html】といった事情が背景にあるそうです。

議会から罷免されたゼイダン首相は、金銭をめぐる不正疑惑があるとして検察当局が渡航禁止を命じていましたが、同氏は12日までにリビアを出国、欧州に渡ったもようだとも報じられています。【3月12日 msn産経より】

政府の警告を無視しての大規模密輸も国家の威信を失墜させたとも言えますが、首相が罷免されて国外逃亡したことによる威信失墜の方が大きいように思えます。

謎の北朝鮮国旗を掲げたタンカーが、本当に北朝鮮当局の意を受けたものなのかについては、“サウジアラビア黒幕説”などもあってよくわかりません。

“北朝鮮政府は国際海事機関(IMO)に対し、同船が国内法に違反したと通告するとともに、船籍を取り消したという。”【3月13日 CNN】

問題のタンカーのその後ですが、“リビア海軍が砲撃し、停止させた”“公海上に出たタンカーが、ミサイル攻撃を受けて炎上している”といった情報もあるようですが、上記CNNは次のように報じています。

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タンカーをめぐっては反政府組織が、同船が原油を積み込んで出港し、リビア海軍の妨害をかわして公海に出たと発表。

サニ国防相は12日、海軍はタンカーに向けて砲撃を行ったものの、環境汚染を懸念する米海軍の制止を受けて攻撃を中止したことを明らかにしている。エジプト軍のアリ報道官は12日、同国海軍が問題のタンカーの航行を監視し、領海内に入った場合には臨検を行う方針を明らかにした。【同上】
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結論としては、“政府が武装勢力を抑えきれないなか、石油をめぐるリビア国内の対立は今後、混乱の度を深める可能性もある。”【同上】というところです。
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