孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  情勢を大きく左右する“ガス・水・電気”などの問題

2014-03-27 22:58:03 | 欧州情勢

(26日、ブリュッセルでEUのバローゾ欧州委員長(左)、ファンロンパイ大統領(右)と会談したオバマ米大統領 「欧米が何世代にもわたり作り上げた国際秩序が試練のときを迎えている」(オバマ大統領) “flickr”より By RC Isidro http://www.flickr.com/photos/47403588@N07/13426702975/in/photolist-mstn1T-mu6wws-mu4Dre-mtkX53-mqZTzP-mr2d1f-mqZkwc-mqZRqZ-mr2aAL-mr1aSP-mr29xy-mr25yb-mr1bdD-mqZS3R-mqZN7z-mqZh4a-mr25gN-mr19RR-mqZNkv-mqZSst-mqZzuH-mqZQ76-mqZRL8-mr2rBJ-mqZg3H-mqZW8V-mqZnX4-mqZAAF-mr27E5-mr2qqW-mqZPqM-mkwRR3-mpjT4c-msJfYF-mmbp98-mkvA5K-msGVg8-mmYCeV-moyabc-mn2Uga-mn3D7t-mn2SJT-mn4LfW-moeVvc-mtfwa3-mnsAo4-mmD1KZ-mu7oL6-mnz6Js-mmgjVa-mp2v8y)

世界の経済・政治力のバランスを変えうるシェール革命
アメリカで進むシェールガス・オイルの生産増加が世界の資源需給、ひいては国際関係に大きな影響をもたらすことは、これまでも再三取り上げてきました。

****米シェール革命の世界的影響****
エネルギー・アナリストであり、ピューリッツァー賞受賞者のダニエル・ヤーギンが、1月8日付Project Syndicateで、非在来型資源によるエネルギー革命が、米国に新たな回復力の源を提供しており、技術革新が如何に世界の経済・政治力のバランスを変えうるか論じています。

すなわち、エネルギーにおける、今世紀これまでで最大の技術革新は、シェールガスとタイトオイル(シェール層や砂岩層などの高密度な岩盤層から採取される中・軽質油の総称)の開発である。

豊富な供給量により、米国のガス価格は欧州の3分の1、アジアの5分の1ほどに下がった。タイトオイルは米国の石油生産を増やし、その増加量は12あるOPEC諸国の内8カ国それぞれの生産量よりも多い。

実際、国際エネルギー機関(IEA)は、今後数年間で米国はサウジアラビアとロシアを追い越し、世界最大の石油生産国になるだろうと予測している。

アメリカのシェールガスやタイトオイルは、世界のエネルギー市場を変えつつあり、米国に対する欧州の競争力及び、全般的な中国の製造競争力を低減し、世界政治にも変化をもたらしている。

世界で新たに開発されたLNG生産の多くは米国市場を念頭に置いていた。今、そうしたLNGは欧州市場に向かい、伝統的な供給国のロシアとノルウェーには、予期せぬ競争をもたらしつつある。

厳格な経済制裁がイランの石油輸出に課された時、多くの人は、世界の石油価格が急上昇し、制裁が最終的に失敗することを恐れた。しかし、米国の石油生産増加は、イラン産石油の不足を補うに余りあり、僅か2年前には気乗りしなかったような真剣な交渉の舞台に、イランを駆り立てている。

アラブの国々では、米国におけるタイトオイル生産の急速な増加が、中東での関与低下を加速させるのではという不安が募りつつある。

しかし、実際には、しばらく前から中東からの石油供給は、米国にとって大きな位置を占めていない。タイトオイルの増産以前ですら、ペルシャ湾は米国の総供給の約10パーセントを提供していたにすぎない。

米国の戦略的利益を定義するのに与っていたのは、中東からの直接的な輸入ではなく、むしろ世界経済と世界政治への石油の重要性であった。これは、この地域が、米国の中心的な戦略的関心であり続けるであろうということを意味する。

しかし、シェール・エネルギー革命は、全体として、米国に新たな回復力の源を提供し、アメリカの世界における地位を向上させている。米国におけるシェールガスやタイトオイルの出現は、技術革新がいかに世界の経済力、政治力のバランスを変えることができるか、今一度示している、と述べています。(後略)【3月24日 WEDGE】
********************

欧州が求めるアメリカのガス輸出緩和
このアメリカのシェールガス・タイトオイルは、現在国際問題の焦点となっているウクライナ・ロシア問題にも大きく影響します。

強硬な姿勢をとるロシアへ欧州各国が統一的対応をとることに苦慮しているのは、ロシアに天然ガスを依存してことが大きな原因となっており、欧州側の足元を見る形でロシアが強気に出ているとも言えます。

もしロシアに変わる天然ガス供給先が増加すれば、その分欧州側の選択の幅もひろがります。

また、ロシアが対欧州関係で切り札にしている天然ガスは、逆に言えばロシアにとって致命的な弱点ともなります。
天然ガス・石油といった資源輸出に依存した経済構造から脱却できないロシア経済にとって、天然ガス供給先が増加して長期的に自国の資源の輸出競争力が低下することは、経済の根幹を揺さぶることになります。

****資源でも脱ロシア模索 欧州、米のガス輸出期待****
欧州連合(EU)が資源でも「脱ロシア」へ動き始めた。
ロシアの天然ガスに頼っていることが、ウクライナ情勢を巡るロシアへの経済制裁に思い切って踏み切れない「弱み」にもなっているためだ。

欧州では、米国に天然ガス輸出を求める声が強まる。EU首脳は26日、ブリュッセルでオバマ米大統領に直談判した。
「米国が天然ガスを国際市場に供給してくれれば、世界にとってありがたい」。首脳会談後の共同会見で、EUのバローゾ欧州委員長はこう述べた。

オバマ氏は「(EUと交渉中の)自由貿易協定(FTA)を結べば、欧州向けの天然ガス輸出の許可がより出しやすくなる」と前向きな姿勢を見せた。会談後の共同声明でも「将来の米国のガス輸出の見通しを歓迎する」との文言が盛り込まれた。

ロシアに資源を大きく依存する欧州にとって、資源調達元の多様化は切実だ。それだけに欧州側は最近、「米国に天然ガス輸出のための制度を整えて欲しい」(ドイツのメルケル首相)と、天然ガスの輸出を要望する姿勢を強めてきた。

EU諸国はロシアから複数のパイプラインを通して天然ガスを輸入。EU全体で使う天然ガスの約3割はロシア産。ドイツでも4割近くを占める。2006年や09年にウクライナとロシアが対立し、ウクライナ経由のガスが滞った際にも「調達元」の多様化が議論されたが、進まなかった。

今回、クリミア併合を巡る対ロシア制裁でも、EUは資源禁輸には踏み切れていない。ロシア産ガスをEU側が買わなければロシアに大打撃を与えられるが、依存度が高い今の状況では、EU側が受ける被害も大きいからだ。米国が欧州へのガス輸出に乗り出してくれれば、ロシアへの「攻め手」が増える。

欧州からの呼びかけに、米議会でも、欧州を支援すべきだという意見が強まっている。共和党のバラッソ上院議員(ワイオミング州)は「プーチン(ロシア大統領)が行動を起こしている今、ロシア経済を弱めるために、米国産ガスを利用すべきだ」と議会公聴会で訴えた。

米国では近年、地下にある硬い頁岩(けつがん)(シェール)の岩盤に含まれる天然ガスを取り出す技術が進み、天然ガス生産が拡大している。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の原油と天然ガスの生産量は昨年、ロシアを抜いて世界一となった見通しだ。

米国はこれまで、輸出は生産量の一部にとどまり、低価格の天然ガスは国内にとどまっていた。そのおかげで、米国の天然ガス価格は、日本の5分の1、欧州の3分の1といわれ、米国内の企業にとっては大きな強みになっている。

米国では、FTAを結んでいない相手国へLNG(液化天然ガス)を輸出する場合、エネルギー省の許可を必要としている。

日本の商社などが参加する3件を含め7件が承認されたが、20件以上は承認待ちになっている。共和党議員らは、この手続きの迅速化を求めている。産業競争力に加え、ロシアへの対抗上、安全保障の観点から、欧州に天然ガスを輸出すべきだ――という論だ。

ただ、オバマ氏は26日の会見で、資源調達元の多様化は「一晩でできるものではない」とも指摘。米国に期待するのと同時に「欧州でも独自に調達元を探すことが有益だ」とクギを刺した。【3月27日 朝日】
*******************

対ロシア経済制裁という“新冷戦”にもつながりかねない危険な手段を使わなくても、アメリカが自国産業保護政策を緩めて資源輸出を拡大するだけで、市場原理に沿って需給バランスが変化し、結果、ロシアは苦しい状況に追い込まれていきます。

アメリカ政府の判断ひとつで可能な対応ですが、国内事情で簡単ではなさそうです。それは、“内向き”が言われるアメリカの国際対応の本気度を測るひとつの目安にもなるでしょう。

アメリカが資源輸出を拡大すれば、原発停止で大量の天然ガス輸入を強いられ、割高な天然ガス輸入代金支払いに困っている日本にとっても朗報となります。
アメリカからの直接的な輸入の道が開けるだけでなく、競争的に他のルートの供給価格も低下します。おそらく、真っ先にロシアが日本向け輸出を現在以上にアプローチしてくるでしょう。

ウクライナ本土に依存するクリミア経済・社会
国際関係には、派手な軍事的にらみ合い以外に、資源・エネルギーの問題を含めた人・物の流れなどが大きく作用します。
ロシアが編入したクリミア情勢についても同様です。

****クリミア:観光ピンチ ロシアはキャンペーンも****
ウクライナ南部クリミア半島の観光産業が窮地に立たされている。

クリミアがロシア連邦に一方的に編入されたことで、65%を占めるウクライナ人観光客の減少が見込まれるためだ。ロシア側は国民にクリミア旅行を呼びかけるなど対策に乗り出している。

クリミア南部セバストポリ市の黒海沿いにあるヘルソネス遺跡は、古代ギリシャの植民地だった紀元前6世紀の都市遺跡で、昨年に日本の富士山とともにクリミア初の世界遺産に登録された。年間36万人が訪れ、遺跡管理責任者のラリーサ・セジコワさんは「観光客は3割増えた。遺跡の保存と修復にも力を入れている」と話す。

クリミアはほかにもヤルタなど風光明媚(めいび)な保養地があり、年間の観光客は約600万人、観光収入は5800億円にのぼる。

しかし、春の観光シーズン入り直前に起きた“政変”で暗雲が垂れこめている。ウクライナ新政権はクリミアに関し、「不法に占拠された領土」として国民の訪問制限を打ち出しており、セジコワさんも「影響は避けられない」と指摘する。

一方、ロシアは政府を挙げて「クリミアに行こう」キャンペーンを開始。
クリミアの観光客のうちロシア人は25%だが、クリミア自治共和国のユルチェンコ・リゾート観光相は「60〜70%に高めたい」と意気込む。

ホテル宿泊料の10〜20%割引や、空路や航路の新設・増便などが検討されている。またロシアのコザク副首相は、露企業に対し従業員の保養先を従来のトルコやエジプトからクリミアに変更するよう求める考えを示した。【3月26日 毎日】
******************

短期手には、ロシア政府あげてのキャンペーンである程度カバーはできるでしょうが、長期的にはどうでしょうか?
クリミアにとってもウクライナとの関係正常化は不可欠になってくるように思われます。

観光よりもっと直接的問題は、水・電気・ガスなどの供給です。

“クリミア半島がウクライナから切り離される影響は、観光客に限らない。クリミア半島は水道の約8割、電気の約8割、ガスの約6割5分を、ウクライナ本土からの供給に頼っている。ロシアとの間には陸地がつながっておらず、ウクライナは、地理的に半島を兵糧攻めにできる立場にある。”【3月25日 国末憲人氏 フォーサイト】

****ロシアがウクライナ側に初の譲歩 キーワードは「水****
クリミア半島をめぐり、緊張状態にあるロシアとウクライナ。そんな中、ロシア側が初めて譲歩する姿勢をみせた。その背景にあるものとは。

「司令官を解放せよ」ロシアが、ウクライナからのクリミア半島併合を決めた直後の3月20日、ショイグ・ロシア国防相はクリミア自治共和国政府に、こんな緊急要請をした。 

19日にロシア側の武装勢力が、半島に艦隊基地があるウクライナ海軍のハイドゥク司令官を拘束、連行していた。「市民に向けた武器の使用を伝えた」疑いだった。
要請後、まもなく司令官は解放された。これは、武力を背景にクリミア半島を取り返す強硬策を続けてきたロシアが、初めてウクライナ側にした譲歩である。

なぜ、これほどあっさり譲歩したのか。
それを説明するキーワードは「水」だ。

司令官の連行を受けてウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、「司令官を解放しなければ、しかるべき技術的な措置を取る」と警告した。「技術的な措置」とは、ウクライナ本土から半島に供給している水、電気、天然ガス、通信などインフラの一切を指す。

半島はウクライナ本土とペレコープ地峡で結ばれている。その幅はせいぜい数キロしかない。そこに用水路、ガスのパイプライン、送電線、鉄道、道路が集中している。電気の9割、水の7割は本土に依存しているといわれる。

ウクライナが豊かな水量を誇るドニエプル水系からの送水を打ち切ると、たちまち半島は干上がってしまう。
このためロシアは、半島が東部でロシア本土と向き合うケルチ海峡に、橋と合わせて送水管などのインフラ施設も整備する予定だ。

だが、電気やガスはともかく、半島の200万住民をドニエプル水系から切り離して送水管だけでまかなえるかどうかは、はなはだ疑わしい。
つまり、水などのインフラを使ってゆさぶられる可能性を完全に消すには、半島の先のウクライナ本土も押さえる必要がある。

半島の併合後も、ロシアがウクライナ東南部への軍動員を認める上院の許可を取り消さない背景には、表向きのロシア系住民保護の題目のほか、こうしたことも指摘されている。※AERA 2014年3月31日号より抜粋【3月25日 dot】
*****************

これまでも、ウクライナ側が送電を半減させ、クリミアで停電が起きている・・・との報道もあります。

*****クリミアへ送電半減=ロシア編入に対抗か―ウクライナ****
ロシアに編入されたウクライナ南部クリミア自治共和国のテミルガリエフ第1副首相は23日、ウクライナ国営電力会社ウクルエネルゴがクリミアへの電力供給を半分に減らしたことを明らかにした。地元通信社が伝えた。

クリミア半島のロシア編入への対抗策として、ウクライナ新政権が送電を削減した可能性がある。新政権はクリミアで16日に実施された住民投票の結果を「一切認めない」との立場を表明していた。

第1副首相によると、クリミアの一部で停電が起きているという。【3月24日 時事】 
*****************

【“切り札”は慎重に
ただ、この“水・電気・ガス”といったカードは慎重に切る必要があることは素人でも想像できます。
住民の生活、生命に直結する問題であるだけに、ロシア側の“半島の先のウクライナ本土も押さえる必要がある”という強烈な反応を惹起する危険もあります。

切り札は切らずに、伝家の宝刀は抜かずに、相手を牽制するために使うものです。
現状では、ロシアがクリミアを手放すことは考えられません。
それを強いるような施策は、ロシア側との軍事衝突を覚悟する必要が出てきます。

現実的対応としてはクリミアを取り戻すということではなく、ウクライナ本土へのロシアの侵攻拡大を抑止するという戦略の一環として“水・電気・ガス”といったカードも使用すべきでしょう。

ロシアの政治・統治システムには、人権・自由に十分に配慮していないという根本的な問題があります。
“本当にロシア編入がよかったのか?”クリミア住民自身が考える日がくるでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする