孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  “過去にけりをつけたい”社会の空気

2014-03-06 22:50:31 | 欧州情勢

(イスラエル訪問時にネタニヤフ首相(右)と会談したドイツ・メルケル首相(左) メルケル首相の鼻の下にヒトラーの口ひげのようなものが・・・・ もちろん、ネタニヤフ首相の指の影すぎません。
こうした写真がことさらに話題になることにドイツはうんざりしてきているようでもあります。
“flickr”より By Τα υπ' όψιν http://www.flickr.com/photos/80099982@N08/12785548844/in/photolist-ktPhej-kwuLbT-kwwSUs-ks75Wr-ks6ot4-ks8yYs-ks79kv-kwwSZN-kupCDQ-kwSAqg-kEuc5e-kwSZWT-kGFPFB-kte1Wd-ktoVv4-kmHRvp-kDPkJV-kKJ9yU-kKJgVC-kKGN4B-kKJaLJ-kKG5Ma-kKJajb-kKG7vv-kKG1kV-kKGH46-kKGMg4-kKG6nZ-kKG8Nv-kKJgpC-kKJh6s-kKG5ki-kKJhXY-kKJ98d-kKG3zp-kKJebE-kKGP9H-kKG2BH-kKG7Pr-kKGNdV-kKRfkZ-kr2VMu-kqZGZR-kqZGW4-kAtpvc-kCwhJr-kCvJui-kCvq6e-kCwR2J-kCuFsi-kCwVLo)

中国 「反ファシズム」キャンペーンで日本包囲外交
日中関係に改善の兆しがないなかで、中国は第2次世界大戦を巡る歴史問題などを使って、日本の「歴史認識」を批判する形で世界各国への働きかけを強めています。

****中国が日本包囲外交 歴史問題使い連携図る 急接近で韓国当惑****
日本の安倍政権との対立を深める中国が、日米関係のきしみをよそに、第2次世界大戦を巡る歴史問題などを使って、世界各国への連携を働きかけている。

とりわけ韓国に急接近。新たに陝西省西安市で、韓国臨時政府の記念碑を作る動きも見せ始めた。
中国の動きは、韓国政府も戸惑うほどだ。1月、中国黒竜江省ハルビン駅の構内に、朝鮮独立運動家の安重根(アンジュングン)をたたえる記念館がオープンした。(中略)

だが、韓国政府関係者は「こんなに大規模なものになるとは」と驚きを隠さない。朴槿恵(パククネ)大統領が昨年6月に訪中した際、習近平(シーチンピン)国家主席に依頼したのは「安の記念碑を建てて欲しい」というものだったからだ。

韓国政府内には、日米などへの配慮から「中国と全面的に共闘していると取られてはまずい」との懸念もある。別の政府関係者は中国との関係を「経済分野や対北などでの協力の必要性から強化しているだけ」とも話す。

しかし、中韓関係筋によると、中国は西安市でも、旧日本軍に抵抗した大韓民国臨時政府の軍事拠点があったことを示すプレートの設置計画を進めている。習主席は21日、訪中した韓国議員団に「朴大統領とは昨年、中韓関係の未来を一緒に描き、一つ一つ実を結んでいる」と語った。

中国のこうした「日本包囲外交」は世界各地に及ぶ。昨年末、安倍晋三首相が靖国神社に参拝すると、中国外務省は世界各国の大使らに命じ、現地のメディアなどで日本に軍国主義復活の兆しが表れているという「反ファシズム」キャンペーンを展開した。

 ■「旧連合国」利用
今月、ソチ五輪の開会式に出席した習主席は、プーチン大統領に来年、「反ファシズム戦争勝利70周年」の記念式典の共同開催を改めて提起。

14日に訪中した米国のケリー国務長官には、李克強(リーコーチアン)首相が70周年の話題を持ち出し、旧連合国としての連帯を促した。フランスやモンゴルなどとの首脳級会談でも、同様の働きかけを進めている。(後略)【2月24日 朝日】
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中国外務省は2月19,20の両日、江蘇省南京市で、中国に駐在する外国記者を対象に、南京事件に関するプレスツアーを実施した。歴史問題をめぐって国際的な情報発信を強めることで、対日宣伝戦を進める狙いがあるとみられています。

中国、ホロコースト記念碑視察を打診 ドイツは断る
こうした対日戦略の一環として、習近平国家主席の3月の欧州訪問に向け、中国政府はドイツ政府に対しホロコースト(ユダヤ人大虐殺)関連施設の訪問を打診したと伝えられています。

“中国は安倍晋三首相の歴史認識を巡る対応への批判を続けており、習主席はドイツ訪問時に、戦後処理などを巡る問題で日本とドイツとの対応の違いを引き合いにして、改めて日本をけん制する可能性がある。”【2月24日 毎日】

しかし、ドイツは日本との対立に巻き込まれるのを望んでおらず、中国側がドイツの悲惨な過去に再三言及していることに不満を抱いているとも報じられています。

****中国、ホロコースト碑視察打診=対日けん制にドイツ困惑****
中国政府が3月下旬に予定する習近平国家主席のドイツ訪問で、ベルリン中心部のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑視察を打診したと伝えられ、ドイツ政府が困惑している。中国にはドイツが過去を反省していると強調し、歴史認識問題で国際的な対日批判を高める狙いがあるとみられるが、ドイツは日中の対立に巻き込まれることに警戒を強めている。

習主席の碑視察計画はロイター通信が報じた。それによると、ナチスに虐殺されたユダヤ人犠牲者を追悼する碑の視察について、「戦争の負の遺産」に注目が集まることを望まないドイツは即座に断った。このため、中国は戦没者追悼施設の視察を働き掛けているという。【2月27日 時事】 
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“ドイツは過去を反省している。それに対し日本は・・・・”という論調に対する保守派的立場からの批判はネット上に山ほどあります。

そうした批判とは異なる立場から、日本の“奇妙な「冷戦的な分裂」、つまりは一種の思考停止”を指摘したのが下記記事です。

****日本とドイツ、「戦後の国のかたち」の違いとは何か? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
・・・・まず、ドイツでは「第三帝国という国のかたち」が消滅し、分断の苦しみの後に新たな国家を建設していったわけです。そのような「完全な国体変革」があったドイツと違って、日本の場合は「国のかたち」がある種の連続性として維持されています。

この点を取り上げて「日本は依然として枢軸国」だとか「戦犯国家」だという中傷があります。ですが、これはおかしな話です。戦後日本の「国のかたち」というのは、確かに不連続的な変革ではなかったかもしれませんが、官民挙げての平和国家への努力ということで「国のかたちの変革」がされたのは事実です。例えば戦後の長い間、日本は積極的に国際紛争をエスカレートさせる行動は全くしなかったわけで、それによって「国のかたち」は正常化していると考えることができます。

また、連合国との和解ということでも、日本は1956年という早い時期に「連合国の発展形」である国際連合に加盟して、加盟国として多大な国際貢献をしてきたわけです。その戦後日本を「枢軸国」だという中傷は全くの「的外れ」でしかありません。

また、ドイツは最終的に周辺国との国境紛争を「全て相手の主張を呑む形で譲歩した」という見方があります。確かに、ドイツは1990年に「再統一」を進める過程で、旧連合国との間で「最終的な戦争終結」のための「ドイツ最終規定条約」を締結、批准しています。その中で東部国境に関しては、オーデル・ナイセ線を採用し、それ以東の「領土再請求権」は放棄しているのです。

この方式は日本の場合には全く当てはまりません。この決定は1990年時点で「統一ドイツという強国」が誕生することへの周辺国の警戒心を解くという「極めて特殊なギブアンドテイク」として成立していったものだからです。ですから、この「ドイツ最終規定条約」を前例として、日本に関係する国境紛争に適用せよというのは、仮にそうした主張が出てきたとしても、全く筋違いであると思います。

一方で、ドイツに見習わなくてはならない姿勢というのもあると思います。ドイツは戦後の長い時間、ずっと「ナチズムを生み出した風土」への反省的な分析を続けています。「ドイツ連邦共和国」は国家として第三帝国を継承することはなかったのですが、民族として、文化圏としての反省的な姿勢から外れることはありませんでした。

これに対して、日本の場合は「戦前を否定する勢力は東側の軍事同盟の影響下」にあった一方で、「自由経済を志向する側は戦前的な価値観に甘い」という奇妙な「冷戦的な分裂」、つまりは一種の思考停止が続いたわけです。自分の力で自由な発想で「枢軸に与して亡国に至った」歴史や、「周辺国の名誉を毀損し続けた」あるいは「成熟した経済社会を築けなかった」歴史への反省を行うということについては、ドイツほどの徹底は出来ていません。

要するに、ドイツとの比較論ということで言えば、公的な「国のかたち」に関して日本は戦前との連続性はあるものの、戦後は自らの行動によって名誉あるポジションに自分を持っていくことができたわけで、戦前との非連続だけでなく分裂の苦しみを経験したドイツの例とは「正常化のプロセス」に違いがあったわけです。公的な、あるいは法的な問題としての戦後処理ということでは、全く違うのです。

従って、現在の日本は「国のかたち」が戦前と連続した面があるから「枢軸国」であるとか、ドイツに見習って周辺の国境紛争では全面譲歩せよ、というような主張は一蹴して良いと考えます。その一方で民族や文化圏としての「歴史への反省的な姿勢」ではドイツに学ぶべきであると思います。【2月25日 Newsweek】
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【「長かった、もう普通の国に戻っていいはずだ」】
一方、日本では過去の歴史問題を繰り返し指摘・批判されること、過去を責め続けることへの嫌悪感・反発が高まっていますが、「歴史への反省的な姿勢」をとってきたとされるドイツにおいても、似たような雰囲気も出てきているようです。

****ドイツが踏み出したホロコーストとの決別****
自分たちの「過去」を責め続けた国が、ようやくタブーもジョークにできる「普通の国」に?

ドイツで空前の大ヒットとなったコメディー映画『ゲーテなんてクソくらえ』。
映画の中盤で、臨時教師(実は元銀行強盗)から修学旅行を提案されると、生徒たちは不満の声を上げる。「また強制収容所かよ!」

ホロコースト(ユダヤ人人虐殺)をジョークにするのは早過ぎる? 
そんなことはない、というのがドイツ人の本音だ。彼らは戦後何十年間も自責の念を抱いてきたが、もう自国の過去を許していいと思い始めている。

ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は1月末、過去の「後遺症」を乗り越えて前進しようと国民に呼び掛けた。ベルリン市民の間にも同様の声がある。
「戦争は悲惨な出来事だった。でも自分が経験したわけじやないし、両親だって経験していない。ある程度の年月を経たら歴史は歴史になるべきだ」 

一方、他の国々の見方は違う。ドイツでテレビ放映された『われわれの母たち、われわれの父たち』が今年2月にニューヨークで劇場公開された際、ニューヨーク・タイムズの映画批評家A・O・スコットは「ドイツの歴史を普通と見なす」試みと非難した。

しかし、ドイツは単に過去を否定しようとしているわけではない。ホロコーストの遺産にドイツは3段階の対応をしてきたと、ハーバード大学でこの問題を研究するヤッシヤームンクは言う。

ナチスの罪に向き合えなかった50~60年代。真剣に過去と向き合った70~80年代。そして90年代以降は、長い内省の時期に「けり」をつけようとする動きが広がっている。

「過去にけりをつけて『長かった、もう普通の国に戻っていいはずだ』と言いたい・・・今のドイツにはそんな空気がある」とムンクは言う。

議論は決して終わってはいない。多くの人が『われわれの母たち、われわれの父たち』を見て、ナチスを人間として描くことの是非を真剣に議論した。

「ドイツは日本やオーストリアなどと比べれば非常に真剣に過去と向き合ってきた。それはドイツの戦後史でも特に素晴らしく立派な点だ」と、ムンクは言う。
「しかしだからといって、もう問題が残っていないということにはならないと思う」

「ドイツは異質」の弊害も
ドイツは文化的に異質でジェノサイド(大虐殺)などに走りやすい・・・そう見なされ続けると、現実に深刻な悪影響を及ぼしかねないと、ムンクをはじめ多くの人が指摘する。 

過去にけりをつけたがる人は、ユーロ圏創設の最大の狙いは、再統一後のドイツが強大になり過ぎないようにすることだと考えている。
ドイツの極右勢力はそうした思い込みを利用し、ユーロ懐疑論を都合よくゆがませていると、専門家は言う。

昨年9月の連邦議会選挙で、反ユーロの新党「ドイツのための選択肢(AfD)」は党内にネオナチがいるとライバル政党から中傷されて敗退。

今年1月にはフランクワルター・シュタインマイヤー外相がヨルダン川西岸のイスラエル入検地を批判し、「ユダヤ人に住む場所を指図する」のは「歴史健忘症」だと非難された。

「ギリシヤの愚かなデモ参加者がヒトラーのような口ひげを描いたアンゲラ・メルケル首相のポスターを掲げるたび、ドイツのメディアはドイツ人に道義的責任があるのかと騒ぎ立てる。その結果、外交政策に悪影響か出る」と、ムンクは言う。

罪の意識を次世代にも負わせれば、ドイツ人はアイデンティティーを攻撃されたと感じ、ドイツが単一文化の国だというイメージも強まりかねない。『ゲーテなんてクソくらえ』の監督はトルコ系ドイツ人なのだが。
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ドイツの事情がわからないので細部で分かりにくい箇所もある記事ですが、ドイツでも過去にけりをつけたがる人が増えていること、“ドイツは文化的に異質でジェノサイド(大虐殺)などに走りやすい・・・そう見なされ続けると、現実に深刻な悪影響を及ぼしかねない”との指摘は興味深いところです。

習近平主席のホロコースト記念碑視察の打診云々は、ドイツからすれば、単に日中対立に巻き込まれたくないという国際関係の話だけでなく、上記記事のような“過去にけりをつけたい”社会の空気からしてもあまり歓迎されざる話なのかも。

もちろん、「長かった、もう普通の国に戻っていいはずだ」というのは、真摯に過去と向き合ってきたうえでの話ですが。
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