孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス総選挙 「強い大統領」演出で、マクロン大統領が率いる新党が圧倒的な勢い 今後への期待と不安

2017-06-16 23:06:18 | 欧州情勢

(【5月29日 CNN】 話題になったトランプ大領との長い、指の関節が白くなるほどの固い握手 「決して譲歩しない」とのマクロン大統領の意を込めた“握手外交”でした。)

【“新人と経験者のバランス”で「1強体制」へ
6月11日に第1回投票が行われたフランス総選挙(下院・国民議会選挙)は、第1回投票で過半数を取った候補者がいない場合には、1回目の投票で12.5%以上の得票率を得た候補による決選投票が明後日(18日)に行われます。
この選挙でマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込みであることは報道のとおりです。

「共和国前進」は、マクロン氏が大統領選に向けて1年前に結成した政治グループ「前進!」から発展した新党です。

大統領選挙に当選はしたものの議会内に支持基盤を持たず、新党を率いて総選挙に臨むマクロン大統領は、議会において多数派を形成できないと苦しい政権運営を強いられるのでは・・・との懸念がありました。

“フランス憲法の規定では、立法や予算承認、首相の解任の権限を持つのは議会だけであり、議会で過半数を取れなければ、今後の改革をスムーズに進めることは難しい。

もちろん従来の大統領達は、みな所属する政党を軸に過半数を獲得してきた。しかしながらマクロン氏が建てた政党「前進」は現状ではゼロ議席で大きな政党が築いてきた基盤もなかったのだ。”【6月13日 Japan In-depth】

しかし、「第1党を確保しそう」→「過半数に迫るい勢い」→「過半数越え」→「最大で400議席も」→「400を大きく超える勢い」と、日を追うごとに勢いを増し、決選投票直前の15日の世論調査では440─470議席という驚異的な予測が出されています。470議席だと全体の8割を占めることにもなります。

****仏下院選、マクロン大統領の新党が440─470議席獲得へ=調査****
15日に公表された世論調査によると、18日に第2回投票が行われる仏国民議会(下院)選挙はマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込み。

調査会社オピニオンウェイとハリス・インタラクティブがそれぞれ行った調査では、同グループが全577議席中440─470議席を獲得すると予想されている。

オピニオンウェイは保守派の共和党と中道右派連合の議席を70─90、社会党は20─30と見込んでいる。

極右の国民戦線(FN)は1─5議席、極左の「不屈のフランス」は5─15としている。

ハリス・インタラクティブも同様の予想を示している。

オピニオンウェイによると、投票率は46%と第1回投票から低下する見込み。【6月16日 ロイター】
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当初は圧勝・地滑り的大勝利が予測されながら、労働党の追い上げにあって、結局過半数割れとなったイギリスのメイ首相率いる保守党とは対照的な推移です。

マクロン新党については圧勝予測もさることながら、そもそも、5月の大統領選挙から時間的余裕もないなかで、ほぼ全選挙区に候補者を擁立できたこと自体も驚きです。上述のように大統領選挙に勝利しても議会選挙で勝たないと意味がないということで、大統領選挙と並行して候補者選びを進めていたことは報じられていましたが・・・。

****仏議会選に向けて右旋回を目指すマクロンの試練****
・・・・国民議会の定数は577。小選挙区制で、REM(「共和国前進」)はできるだけ多くの候補者を擁立しようと、約1万9000人の応募者から有望な人材を絞り込み、最終的に526人の候補者リストを発表した。

候補者選びは困難を極めた。マクロンの試みは現代のフランスばかりか、どこの国の政界でもまず前例のない政治的チャレンジだ。既成政党からのくら替え組と政治の素人を擁立して、全く新しい政党を議会の多数党に仕立てようというのだ。

社会党色の払拭がカギ
マクロンから独立した選考委員会が左右両陣営、さらには新人と経験者のバランスを見計らいつつ候補者の選定を進めた。

マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請。元女性闘牛士のマリー・サラ、長髪の数学者セドリック・ビラニといったタレント候補もリストに含まれる。(後略)【6月5日 Newsweek】
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“マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請”ということは、逆に言えば、半数ほどは既成政党(左派の社会党、右派の共和党)からの鞍替え組です。

大統領選挙における“マクロン優勢”の流れに乗る形で、左右両派からの大量の移籍が見られました。今回選挙予測で既存の二大政党は劇的に議席を減らす見込みですが、すでに候補者選定段階でマクロン新党にその基盤を侵食されていたとも言えます。

一方、首相のフィリップ氏が中道右派・共和党の出身、閣内には同党や中道左派・社会党の大物議員が名を連ねるということで、ルペン党首率いる右翼・国民戦線(FN)からは「従来通りの古い顔」などの批判も浴びていますが、環境運動家や企業経営者も閣僚に登用し、そうした印象を薄めています。“新人と経験者のバランス”です。【6月13日 朝日より】

候補者選定段階での“ゴタゴタ”はそれなりにあったようですが、それは当然でしょう。

自身が社会党・オランド政権の経済相だったこと、大統領選の序盤では社会党の支持をバネに有力候補にのし上がったこともあって、マクロン新党は社会党の影響が強いとみられがちでしたので、中道右派の共和党支持者の票も取り込んで議会選で勝つにはそのイメージを払拭する必要もありました。

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フランスのエマニュエル・マクロン大統領率いる新党「前進する共和国(REM)」にとって、それは願ってもない宣言に思えた。

社会党のフランソワ・オランド前大統領率いる政権で首相・内相を務めたマニュエル・バルスが「社会党は死んだ」と宣言。6月に実施される国民議会(下院)選挙ではマクロンの新党から出馬する意向を発表したのだ。

ところが公認候補の選考に当たるREMの委員会は、バルスの申し出を拒否。これには誰もが耳を疑った。マクロンはバルス首相の内閣で経済相を務めている。しかも、大統領選で社会党の候補を差し置いて自分を支持してくれたバルスは、マクロンにとっては恩人のはずだ。

それでもあえてバルスを切った苦渋の決断が、マクロンの直面するとてつもない試練を物語っている。マクロンは自分を選んでくれた有権者を説得しなければならないのだ。議会選ではこれまでの支持政党を捨てて、REMに入れてほしい、と。【同上】
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さすがにマクロン大統領は、バルス氏の選挙区には対立候補を立てていません。
バルス氏だけでなく、協力してくれる他党の候補者には対立候補を立てていません。

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前進が波に乗る中、他党の候補にはその勢いに乗じようとの動きもある。
 
パリ北部の選挙区では保守党の候補が「大統領のための多数派を」と訴え、自身のツイッターに共和党出身のフィリップ氏との写真を掲載。支持率低迷中の左派、社会党の候補もポスターに「マクロン氏と進歩派の多数派のため」と掲げ、社会党のロゴマークを目立たないように記した。
 
前進は他党候補でも協力が見込めれば対抗しない戦略をとり、この選挙区に公認候補はいない。有権者からは「どちらも相手より前進に近いと説明してくる」(前進の支持者)と戸惑いの声も上がる。【6月10日 朝日】
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既成の2大政党である中道左派・社会党と中道右派・共和党の候補からも、マクロン大統領との近さをアピールする動きが出ており、今後の政界再編は不可避の情勢です。

【「強い大統領」演出に成功
マクロン大統領はまだ就任したばかりで実績云々はまだの段階ですが、主要7カ国(G7)首脳会議など外交舞台も無難にこなし、ロシア・プーチン大統領やアメリカ・トランプ大統領に対し1歩も引かない強い姿勢を見せることで、強い指導者という国民の信頼を得ることに成功しています。(今のところは・・・ですが)

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・・・・大統領選でのマクロン氏の勝利は、右翼・国民戦線(FN)のルペン党首の大統領就任を防ぐという消極的選択の面が強いと指摘された。

それを考えると、マクロン陣営の勢いは大方の予想以上だ。政治学者のブルーノ・コトレス氏は「政権はおおむね順調にスタートしてマクロン人気が続いている。一方の野党はおぼつかない」とみる。
 
マクロン氏は、ロシアのプーチン大統領に、同性愛者の人権問題で苦言を呈したと記者会見で説明した。

またトランプ米大統領が温暖化対策の「パリ協定」離脱を発表した際には、深夜に機敏にテレビ演説し、「間違っている」と訴えた。

39歳の若きリーダーは米ロ両大国の首脳と渡り合い、「強い大統領の姿をうまく演じている」(仏紙記者)という。【6月6日 朝日】
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こうした「「強い大統領」のイメージをなるべく広く浸透させるイメージ戦略・印象操作にも力を入れたようです。

****マクロン新党大躍進のわけ****
■マクロン人気の背景
大統領選の時点では、まだまだマクロン氏の実力に疑心暗鬼の有権者も多く、「FNには入れたくないので無難な方を選択」ぐらいの気持ちの人がいたかもしれない。

しかし大統領選出後はマクロン氏の人気はうなぎのぼりだ。階段を駆け上る若さ、今までの大統領とは違う振る舞い、あらゆることが好感を得る結果になっている。

さらにマクロン人気を加速させたのが、トランプ氏が地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した直後の発言だ。トランプ氏の発言「アメリカを偉大な国にする」を皮肉り、「世界をもっと偉大にする。賛同する人はフランスに来てください。」と英語で呼びかけた。

この言葉はツイッターで24万回リツーイトされ、この人気に早速反応したマクロン氏のスタッフ達はすぐさまグレートモアのサイトを立ち上げ、フランスに来る研究者達への窓口を設けたことも話題を呼んだ。「開かれた国」フランスを世界にアピールするだけでなく実際にフランスに来る方法の道筋が作られたのだ。

マクロン氏の言葉が世界中に拡散されていくのを目のあたりにして、年配の有識者で「マクロンはなんて運がいい男なのだ」と言う人がいた。

しかし、ほんとうに運がいいだけなのだろうか?この状態をラッキーとしか考えられないのでは全ての見方を誤るのではないのか?

確かに従来の政治家たちのやり方とは違うかもしれない。しかしながら大きな実績を残す実業家たちが行っている行動そのものに重なってみえる。

マクロン氏を陰で支える頭脳集団は、起業して実績を残す実業家も多い。そしてスピードがある。マクロン氏が「階段を駆け上がる」ことに違いを感じた人がいれば、すぐさまそれをアピールし旧体制を批判してきた層を獲得した。

トランプ大統領に向けた言葉に注目が集まればすぐさま対応し、世界のトランプ反対層を獲得。その上で、マクロン氏のフランス事業基盤を立て直すという計画にもつながる優秀な人材を呼び寄せる宣伝にまでつなげたのだ。

■マクロン政権は「スタートアップ」
大統領就任後の流れには、「取り組みの情熱」「周囲の巻き込み」「スピード」など、新事業を成功させるのに必要とされる全ての要素がうまく詰まっていることが見てとれる。

フランスでは起業する人を応援するスタートアップに力を入れているが、マクロン政権自体がとても見事なスタートアップを実践してみせた。その結果は確実に議員選に現れたと言えるだろう。

来週に2回目選挙が残っているが、現時点では圧勝が予測されている。これでマクロン政権の基盤が確立される。今後の動きにも注目していきたい。【6月13日 Japan In-depth】
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マクロン大統領が好んで着ている青を基調とした細身のスーツ(価格は5~6万円程度)が、人気を集めているそうですが、“大手投資銀行出身のマクロン氏は、かつて日本円で数十万円のスーツを着ていたが、経済相に就任した約3年前、ブリジット夫人(64)の助言で、「庶民派」に変身したと言われている”【6月15日 読売】とも。イメージは重要です。

大統領選挙でのルペン氏、選挙後のトランプ大統領と“敵役”に恵まれた感もあります。

【“古い政治”を脱して新しい政治をつくれるか?】
圧倒的な“マクロン人気”にも見えますが、第1回投票の投票率の低さにも示される政治離れも進行しています。
“投票率は48.7%と、前回2012年の第1回投票時の57.2%から大幅に低下した。アナリストらは反マクロン陣営の支持者たちが投票を控えたためだと分析している。”【6月12日 BBC】

****それでもマクロン支持は「相対的」でしかない****
・・・・この棄権率の高さは、大統領選挙でも見られたような、国民の既成政党への不信と政治離れを再確認したことになる。

有権者は「相対的」にマクロンを支持したに過ぎず、フランス政治そのものに対する期待が小さくなっていることがうかがわれる。

少し意地悪な数字であるが、棄権・無効票に投票事前未登録などを加えると、実際の投票率はもっと下がる。マクロン派が30%以上の支持率を得ているとしても、実際にマクロンに投票した人は有権者の10人に1人程度、という見方である。

これは単なる数字のマジックであるが、表向きの大勝利の裏で、国民の政治離れは歴然としている。

マクロン政権が心機一転、世代交代と政界再編成を目指すのは確かだ。それは候補者の平均年齢が49歳ということにも表れている。

選挙制度が変わって兼職が禁止されたために、市長や地域県議会議長にとどまり、国会議員の再立候補をあきらめた現職議員が200名にも上るといわれる一方、マクロン派の候補者の半数は政治経験のない人たちだといわれる。マクロン大統領もそうだったように、今回が初めての立候補だという候補者も多い。

マクロンに求められている新たな改革は、まずは人心の転換、本当の意味での政治の風を起こすことである。【6月16日 Foresight】
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“政治経験のない人たち”がどれだけ働けるか?という問題とともに、多くの“乗り換え組”の“古い政治”克服も課題となります。

すでに、フェラン国土団結相のパートナーだった女性に利益を誘導した疑惑、バイル司法相のスタッフが欧州議会で勤務していたように装って不正な報酬を得ていた疑惑などが噴き出しています。

“実務を進めるとなると、ベテラン議員の力を借りざるをえないのが実情だ。そしてベテラン議員の中には、旧来型のしがらみや腐敗に染まった人物が混じっていたという皮肉な構図だ。”【6月15日 日経】

今のところは、こうした疑惑を大きく超える“マクロン人気”の順風を受けていますが、今後に向けてはこうした“古い政治”一掃ができるかどうかが、国民の信頼をつなぎとめる重要なカギになります。

もちろん政策面で結果を出す必要もあります。政策面での課題は経済政策でしょう。

“フランス国民は相次ぐテロに加え、高い失業率などの経済問題に辟易していたと言われる。それらを解決できなかった既存の2大政党にそっぽを向いたのだ。

マクロン氏の喫緊の課題は、世論調査でいつも不満のトップの失業率の改善。しかし、EU残留を主張する立場で、有効な対処手段を見いだせるだろうか?”(“伝説のディーラー”藤巻健史氏)【6月7日 dot】といった指摘も。

今回選挙に関しては、マクロン新党以外にも、マリーヌ・ルペン氏の極右FNと、極左ジャン=リュック・メランション氏率いる「不服従のフランス(FI)」の意外な伸び悩みといった話もあります。

簡単に極右FNに関して触れると、大統領選挙でルペン氏が決選投票に残ったとはいえ、その結果が惨敗であったことが支持者を大いに落胆させたこと、組織内の路線をめぐる内紛(その結果、姪のマレシャル・ルペン氏が不出馬)、選挙資金の枯渇(大統領選挙ではプーチン大統領に頼っていましたが)などの要因が指摘されています。【6月16日 Foresightより】

もし、マクロン大統領が国民の期待に応えられない結果に終われば、次はいよいよ“ルペン大統領”・・・・とも言われています。
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