goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  来年国政選挙の前哨戦となる地方選挙 野党が議席増 与党も得票率で過半数は維持

2017-06-05 22:36:03 | 東南アジア

(選挙集会での支援者 帽子・胸元のマークからすると救国党支援者のようです。
人民党対救国党の争いという話のほか、両党ともに、候補者リストにおいて女性候補者が不当に下位に引き下げられるという女性差別の問題があるようです。【Poste】)

内戦・大虐殺を生き抜いてきたフン・セン首相 内戦の記憶も薄れ、腐敗・強権支配・格差への批判も
世界遺産アンコールワットを訪れた方は日本でも多いと思いますが、そのアンコールワットがあるカンボジアの政治状況となると、関心がある方はあまり多くないのでは。

カンボジア政治の日本への影響は全くない訳でもなく、後述のように、現在カンボジアを治めているフン・セン首相はASEAN内における“中国の代理人”的立場にありますので、フン・セン支配体制が崩れればASEANにおける中国の影響力にもダメージがあり、ひいては日本への影響も・・・という関係もあります。

カンボジア政治というと先ず思い出されるのはポル・ポト、クメール・ルージュによる想像を超えた悲惨な支配であり、1975年から1979年の間の死者数300万人、国民の3分の1が犠牲になったとも言われる大虐殺(犠牲者数は定かではなく、80〜100万人程度とする説もあります)です。

フン・セン氏は当時クメール・ルージュの一員でしたが、途中でベトナムに亡命、1979年にベトナムの支援でポル・ポトが追放されヘン・サムリン政権が成立すると外相に就任、1985年には閣僚評議会議長(首相)に選出されています。

その後、ラナリット殿下など政敵を蹴落として実権を掌握し、そのまま現在に至っています。

そのフン・セン首相率いるカンボジア人民党の支配体制に挑んでいるのが野党・カンボジア救国党で、その指導者はサム・レンシー氏でした。

国民とともにカンボジア内戦を生き抜いてきたフン・セン氏ですが、汚職・腐敗の蔓延、強権的支配・人権弾圧、経済成長に伴う格差の拡大・・・という諸問題で国民の不満は高まり、サム・レンシー党首率いる救国党は2013年7月の国民議会選挙では都市部の若年層を中心に支持を集め、約45%の得票を、また、選挙前の29議席を大幅に上回る55議席(定数123)を獲得しました。(フン・セン首相率いる人民党は大きく議席を減らしたものの、過半数は確保)

サム・レンシー氏に関する私個人のイメージは2015年12月20日ブログ“カンボジア 最近の話題から(タイとの関係強化 野党党首への逮捕状 カネがすべての社会)”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151220でも触れたところです。

***********************
最大野党・カンボジア救国党のサム・レンシー党首については、リベラル派ということで、フン・セン首相の力による政治、そのもとでの腐敗・汚職の蔓延というカンボジアの問題を改善してくれることが期待もされています。

ただ、個人的には、これまでも政治危機のたびにフランスへ逃れ、フランスとカンボジアを行ったり来たりしてきた経歴、あのポル・ポト、クメール・ルージュによる悲劇・狂気の大虐殺のときも国内にいなかったこと(いたら生きていませんが)に、政治家として強靭さに欠けると言うか、やや物足りないものも感じます。

フン・セン首相に問題があるのは事実ですが、「フン・センは自分たちと一緒に、厳しいポル・ポト時代を生き抜いてきた。サム・レンシーはその時、フランスでエアコンのきいた部屋にいた。ベトナムの力を借りたかもしれないが、実際にポルポト政権を倒したのは人民党だ」という国民の声には(ポル・ポトを倒したのがベトナムか人民党かという判断は別にして)重いものもあります。【2015年12月20日ブログよりの再録】
*******************

よくも悪くも内戦・大虐殺というカンボジアの悲劇的歴史を生き抜いてきたフン・セン氏ですが、時の経過とともに、内戦・虐殺を経験していない若者らも増えました。

選挙結果に危機感を持ったフン・セン首相の反撃(あるいは弾圧)によって、サム・レンシー氏に逮捕状が出され、同氏は再び国外に・・・という話は、2015年12月20日ブログでも取り上げました。

ただ、さすがに国外にいては党の指導もままならないということで、今年2月、党首を交代すことになりました。

****カンボジア最大野党、党首が辞任表明 サム・レンシー氏、海外に滞在中****
カンボジア最大野党、カンボジア救国党のサム・レンシー党首(67)は11日、党首を辞任し離党する意向を明らかにした。
 
カンボジアでは2018年の下院選を控え、フン・セン首相率いるカンボジア人民党政権が救国党への締め付けを強化。サム・レンシー氏は逮捕を避けるため、15年11月から海外に逃れているが、辞任表明は党首不在による党内の混乱を沈静化させ、下院選に向け態勢を整えるのが狙いとみられる。
 
首都プノンペンの裁判所は昨年12月、サム・レンシー氏に対し「カンボジア、ベトナム国境に関する虚偽の内容の文書を公文書としてフェイスブックに掲載した」として、被告不在のまま禁錮5年の判決を言い渡した。
 
またフン・セン首相は今年1月「虚偽の内容の発言で名誉を毀損された」として、サム・レンシー氏に100万ドル(約1億1000万円)の損害賠償を求めて提訴した。【2月11日 産経ニュース】
*********************

地方議会選挙 前回国民議会選挙同様に野党・救国党が議席増
こうした政治状況下で地方議会選挙が昨日4日に行われましたが、2013年の国民議会選挙同様に救国党が議席数を増やしたようです。

****カンボジア地方選挙 政権交代訴えた最大野党 議席伸ばす****
4日に投票が行われたカンボジアの地方選挙で、フン・セン首相率いる与党からの政権交代を訴えた最大野党が議席を伸ばし、来年の議会選挙に向けて弾みをつける形となりました。

来年の議会選挙の前哨戦とされるカンボジアの地方選挙は、全国に1600か所余りある末端の行政区の議員を選ぶ選挙で、4日に投票が行われ、即日開票されました。

与党・人民党がまとめた暫定の集計結果によりますと、1646の行政区のうち、フン・セン首相率いる与党・人民党が第1党となったのは前回より大幅に減って全体のおよそ7割となり、残りのおよそ3割の行政区では最大野党・救国党が勝利しました。

2002年から始まったカンボジアの地方選挙では、これまで与党・人民党が豊富な資金力と組織力を背景に圧勝しており、前回、5年前の選挙でも全体の97%の行政区で人民党が第1党になっていました。

しかし、4年前の議会選挙で野党・救国党が大きく躍進したのに続き、今回の地方選挙でも野党が議席を伸ばし、来年の議会選挙に向けて弾みをつける形となりました。

野党が議席を伸ばす背景には、高い経済成長の一方で貧富の格差が広がっていることや、30年余りにわたって実権を握るフン・セン首相の強権的な政権運営に対する不満などがあり、来年7月に予定されている議会選挙に向け、与野党の対立がさらに激しくなることも予想されます。【6月5日 NHK】
******************

*****与党過半数も野党伸長=カンボジア地方選****
来年7月に予定される総選挙の前哨戦として注目された4日投票のカンボジア地方選は5日、大勢が判明した。フン・セン首相率いる与党・人民党が過半数の票を得たが、最大野党・救国党も大きく票を伸ばした。
 
国家選挙管理委員会は公式開票結果を発表していないが、フン・セン氏がフェイスブックに投稿したメッセージによると、人民党は約51%の票を獲得した。これに対し、救国党によれば、同党の得票率は46%だったという。 【6月5日 時事】
*******************

救国党の得票率は46%ということであれば、ほぼ2013年国民議会選挙のときと同じです。
救国党が勢いを維持したとみるべきか、人民党も踏みとどまっているとみるべきか・・・。

簡単には政権を渡さないと思われるフン・セン氏
今回選挙でもフン・セン首相は激しい野党批判を行ってきました。

“与党への不満から救国党(CNRP)への支持は高まっており、危機感を持ったフン・セン氏はサム・ランシー前党首(2月に辞任)、後を引き継いだケム・ソカ党首に対し、過去の名誉毀損、女性問題などで攻撃を繰り返していた。フン・セン首相は「野党が大勝したら、内戦になりかねない」などとも繰り返し発言している。”

「野党が大勝したら、内戦になりかねない」・・・・武力に訴えても政権は渡さないということでしょうか。
いすれにしても、来年の国民議会選挙に向けて、フン・セン首相は合法・非合法いかなる手段を使っても、政権を維持するための方策をとってくるでしょう。

カンボジアの政治的事件に関するニュースは日本メディアではあまり知ることができませんが、昨年夏には下記のようなニュースも。

****反政権活動家、射殺される=白昼コンビニで―カンボジア****
カンボジアの首都プノンペンで10日、著名な政治活動家のケム・レイ氏(45)が射殺された。同氏はフン・セン政権を批判する評論活動で知られていた。
 
目撃者によると、ケム・レイ氏は同日午前9時(日本時間同11時)ごろ、ガソリンスタンドにあるコンビニエンスストアでコーヒーを飲んでいたところを銃撃された。

警察は事件発生から間もなく、容疑者として男(33)を逮捕した。警察によれば、男は犯行を認め、動機については借金をめぐるトラブルがあったと供述しているという。
 
今回の事件は、フン・セン首相率いる政権が最大野党・救国党や人権活動家への弾圧を強め、政治対立が深まる中で起きた。【2016年7月10日 時事】 
******************

なにせ、あの“カンボジアの悲劇”を生き抜いてきたセン・セン首相ですから、絶対に政権を渡さないと覚悟すれば、どんな手段をとるかは・・・・。生半可なことではすまないような懸念もあります。

【“中国の代理人”としてのカンボジア
フン・セン政権が中国と緊密な関係にあることは周知のところで、先述のようにASEANにおける“中国の代理人”とも評されています。

最近はフィリピン・ドゥテルテ大統領という新たな味方も中国は手に入れましたが、ドゥテルテ大統領はトランプ大統領同様に何に考えているのかよくわからない、何をするかよくわからない不安定さがあります。その点、フン。セン首相は中国にとって信頼できる存在です。

****カンボジアという代理人を確保した中国*****
カンボジアと中国との関係強化は、東南アジア情勢に波紋を及ぼすことになろう、と1月21日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は次の通りです。
 
二つの大国、タイとベトナムに挟まれたカンボジアは、小国の常として保護してくれる国を見出した。過去3代の中国主席がカンボジアを訪れ、気前のよい援助と投資を提供した。中国はカンボジアへの最大の投資提供国で、2015年の投資額は、他の諸国からの投資の総額を上回った。
 
現在、中国は軍事援助や投資を行うだけでなく、中国企業がカンボジアの建設・採鉱・インフラ・水力発電に深く関与、さらに、衣料や食品加工の工場を経営し、広大な土地利権を得て砂糖やゴム等を栽培している。2011~15年のカンボジアの工業投資の70%は中国企業に由来する。

一方、カンボジア政府は中国企業には、国立公園内でのリゾート開発や海岸線の20%の開発権を認める等、規則を曲げても便宜を図ることが多い。
 
貧しいカンボジアが得る最も明らかな利益は経済で、中国のカネがなければ買えなかったものを買い、建てられなかったものを建てている。
 
しかし、そこには経済的利益だけではなく、戦略的利益もある。中国はベトナムに対する防衛策として使える。クメール帝国時代の領土奪掠や1980年代の占領への恨みから、カンボジア人の反ベトナム感情は強い。
 
また、政府の行動を規制する条件が付く西側の援助と違い、中国のカネはヒモ付きではない。1990年代にフンセンがクーデターで連立相手を排除すると、西側は援助を停止したが、中国は逆に拡大した。
 
一方、中国にとってのメリットは、ASEAN内に代理人を確保できることだ。カンボジアは、ASEANが中国の南シナ海での行動について非難声明を出すのを繰り返し阻止した。昨年、領土問題の二国間解決を主張する中国をカンボジアが支持すると、中国は6億ドル相当の援助をカンボジアに与えている。

また、中国は地域における米国の影響力も侵食しつつあるようだ。今週、カンボジアは、過去8年行ってきた米国との合同軍事演習を今年と来年は見合わせると発表した。しかし、中国とは11月に合同演習を行っており、初の海洋演習も実施した。
 
中国がカンボジアに及ぼす影響は地域の結束を妨げるとのASEANの長年の主張も空疎なものになってきた。

南シナ海をめぐる結束は既に崩れたようで、中国を国際仲裁裁判所に提訴したフィリピンは路線を変更し、ドゥテルテ大統領は米国を軽侮し、親中の姿勢を見せている。同じく中国と領有権を争うベトナムも、最近、二国間解決を図ると約束した。

トランプ政権がいかなる南シナ海政策をとるかは不明だが、カンボジアは勝ち組を選んだように思える。(後略)【2月17日 WEDGE】
*********************

1月、カンボジアが米軍との合同軍事演習を中止(「発表では「延期」という言葉が使用されていますが、実質的中止とみられています)したのは上記のとおりです。

また、2月には中台問題で、中国の側に立った対応も示しています。

****台湾の旗を掲げてはならない」=カンボジア首相、中台問題で発言****
2017年2月7日、環球時報によると、カンボジアのフン・セン首相は先日開かれた華僑らの春節(旧正月)イベントの席で、「いかなる場合でも台湾旗の掲揚を認めない」との考えを示した。

現地紙によると、同首相は「いつ、いかなる場所においても台湾旗の掲揚を禁じる」と述べ、この決定はカンボジアの長期にわたる対中外交政策の継続だと説明。

さらに、台湾が公的な背景を持つ組織をカンボジア国内に設置することを決して認めないとし、「台湾問題において中国の尊厳と領土保全に影響を及ぼすいかなることも行わない」と発言した。

台湾は貿易関係を強化したいとして、カンボジアへの機関設置を過去に何度か目指したが、いずれもかなわなかった。2014年7月にはプノンペンに台湾貿易センターを設置する計画が発表されたが、フン・セン首相は1週間後に同計画を禁じると表明した。「一つの中国」政策の堅持がその理由という。【2月7日 Record China】
**********************

もし来年の国民議会選挙で人民党が敗北するようなことがあれば、現在のこうした“中国の代理人”的な対応も変更される可能性があります。

ただ、カンボジア経済はどっぷり中国資本につかっていますので、中国に代わって支援してくれる国がなければ、やはり中国に頼らざるを得ない・・・という話になるのかも。

****中国、カンボジア鉄道建設の覚書調印****
中国鉄建総公司(CRCC)十七局は17日、「カンボジア鉄道建設における覚書」に調印した。契約内容に、プノンペンからシアヌーク港間の高速鉄道建設などを含む国家レベルの重要プロジェクトだ。(中略)
 
(中鉄十七局の)盧氏は、「中国とカンボジアは、友好な関係にあり、政治的環境も安定している。カンボジアは、中国企業対外投資のホットエリア。近い将来、より多くの中国企業がカンボジアで投資を行うだろう」と語った。
 
現在カンボジア政府は、鉄道建設に関して3段階の建設プロジェクトを計画。既存の鉄道の建設を強化すると同時に、プノンペンからシェムリアップ、タイ、ラオス及びベトナム辺境までの鉄道、プノンペンからシアヌーク港の鉄道建設を予定している。【5月19日 CNS】
******************

私事では、今年12月に、15年ぶりのアンコールワット観光、10年ぶりのカンボジア旅行を計画しています。
プノンペンは経済成長で随分変わったと聞いていますが、そのあたりを実際に見てみたいとも思っています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする