孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカ奪還で本格化するポストISの“グレート・ゲーム” 最後の勝利者は?

2017-06-20 23:14:42 | 中東情勢

(ラッカから避難した人たちが多く集まる近郊の町アインイッサのキャンプで、地面に座る子ども(2017年6月10日撮影)【6月12日 AFP】 “グレート・ゲーム”で誰が勝利者となろうが、泣くのは住民です。)

時間の問題となったラッカ奪還
「イスラム国(IS)」の最高指導者バグダディ容疑者が、シリア・ラッカ南郊における5月28日のロシア軍の空爆で死亡した可能性が浮上していますが、死亡の確認はとれていません。

ただ、バグダディ容疑者の生死にかかわらずISの支配が最終段階を迎えていることは間違いありません。

しかしながら、ラッカ陥落後もIS戦闘員によるテロ攻撃は続くであろうこと、IS後退後の支配・影響力をめぐる各勢力・関係国の争いが新たな段階に入ることも間違いありません。

****戦闘員、死ぬか降伏かしかない」 対IS作戦の現状は****
過激派組織「イスラム国」(IS)が、これまで猛威を振るってきたイラク、シリア両国で劣勢に追い込まれている。どのように民間人の犠牲を抑え、IS支配地域の奪還を進めるのか。掃討作戦を主導する軍関係者に聞いた。
 
ISは2014年6月以来、イラク北部モスルを最大拠点としてきたが、現在の支配地域は旧市街のわずか約4平方キロ。イラク軍幹部は朝日新聞の取材に「すぐにでもISを壊滅できるが、民間人の犠牲とインフラの被害を最小限に食い止めるのが重要」と語った。
 
現在、モスルにいるIS戦闘員は500人程度とみられ、自爆攻撃や狙撃で抵抗している。国連は旧市街に民間人約15万人がいると推定。ISはこれらの民間人を建物内に閉じ込めて「人間の盾」にしているという。旧市街の道路は狭く、イラク軍は装甲車両などを使えない。歩兵が道路や建物を一つ一つ解放する「ストリート戦争をしている状態」(同幹部)だ。
 
一方、ISが「首都」と称するシリア北部ラッカの奪還作戦を進める有志連合の報道官、ライアン・ディロン米陸軍大佐は朝日新聞の取材に「ラッカは包囲され、解放は近い。IS戦闘員には死ぬか降伏するしか選択肢はない」と指摘した。ラッカに残るIS戦闘員は現在約2500人。ラッカを脱出したIS戦闘員の掃討のため、ラッカ周辺のIS支配地域への空爆も強化したという。
 
また、ヨルダン国境付近の南部タナフで訓練したシリアの反体制派も、東部の都市や砂漠地帯の対IS掃討作戦に投入される見通しという。
 
ただ、ISへの攻勢が強まるにつれ、空爆による民間人被害が増えているとの指摘もある。ライアン氏は「民間人被害の疑いがあるすべての案件を深刻に受け止めて調査している。決して非戦闘員を狙ってはいない」と話した。【6月18日 朝日】
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「戦闘員、死ぬか降伏かしかない」とありますが、実際には、ラッカを脱出してテロ活動・ゲリラ戦を続けるというのが一番ありそうな展開です。

“住民の話として伝えられるところによると、SDF(クルド人勢力を主体とする「シリア民主軍」)の突入作戦が開始される数週間前から、多数の戦闘員が家族とともにラッカからの退去を開始、武器・弾薬、発電機、通信機器も運びだされた、という。
 
退去先はラッカ南東、デイル・アルゾウル県のユーフラテス川沿いのデイル・アルゾウルやマヤディーンと見られている。”【6月17日 WEDGE】

南部・東部ではアサド政権・イランとアメリカが勢力争い
シリアをめぐる最近の情報は、もはや時間の問題ともなったラッカ奪還の話よりは、アサド政権、ロシア、イラン、アメリカ、クルド人勢力などの“ポストISの覇権争い”にもつながる動向が中心になってきています。

IS支配地域が狭まるにつれて、各勢力・関係国が直接に衝突するリスクも高まっています。

軍事的優勢に立つアサド政権は、シリア南部の反体制派支配エリアに進出、一方、この地域のイラク・ヨルダン国境も近いタンフではアメリカ特殊部隊も拠点を拡大し、反体制派支援にあたっています。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃、政権派組織の前進を妨げているような状況ですが、シリア政府軍・イラン系民兵とアメリカ特殊部隊の地上での直接交戦の危険も大きくなっています。

****米特殊部隊、シリアの砂漠地帯で拠点拡大=関係筋****
シリアの反体制派組織によると、同国南東部の砂漠地帯に展開する米軍の特殊部隊が拠点を拡大している。イランが支援するシリア政権派組織と、米軍が地上で直接対峙するリスクが増しているという。

米軍の特殊部隊は昨年以降、シリア南部のタンフを拠点として、シリアの反体制派組織を支援している。

反体制派組織は、過激派組織「イスラム国」(IS)からの領土奪還を目指しているが、シリア政権派組織もISからの領土奪還を目指しており、政権派と反体制派が競合する形となっている。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃。政権派組織の前進を妨げている。

反体制派によると、米軍の特殊部隊はタンフの北東60─70キロの地点に2つ目の拠点を設けた。【6月15日 ロイター】
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ロシアはアメリカの政府軍等への空爆を非難していますが、アメリカは移動式の最新式ミサイルをこの地域に持ち込んだとも報じられています。【6月15日 「中東の窓」より】

シリア東部をめぐるアメリカ・イランの“陣取り合戦”も激しくなっています。

****ポストISの覇権争い****
シリアのデイル・アルゾウル県(ISのラッカからの退却先)が次の戦闘の中心地として浮上する中、IS以後のシリアの支配をめぐる覇権争いも一気に激化してきた。

中部方面から東方の同県に迫っているのは、シリア政府軍とイラン配下の武装組織ヒズボラやシーア派の民兵軍団だ。一方、南部から同県に進撃しているのが米支援の反体制派だ。
 
シリア政府軍とイラン支援の武装勢力はロシア、イラン、トルコの3カ国調停によるシリア内戦の停戦合意の結果、余裕が生まれ、これまで内戦に投入していた部隊や予算を東部のデイル・アルゾウ県に回せるようになった。
 
しかし、東部に軍事勢力が集中すれば、緊張も高まる。米軍はイラクとの国境沿いのタンフに特殊部隊の基地を置いているが、シリア政府軍が肉薄してきたとして今月6日、シリア軍を空爆した。米軍は5月にもシリア政府軍を攻撃しており、これまでISを主に標的にしてきた米国がシリアの将来に焦点を移し始めた徴候と見られている。
 
特に米国はイランの動きに神経を尖らしている。同県はバクダッドとダマスカスを結ぶハイウエーが通る交通の要衝でもある。イランはイラク、シリア、レバノンという“シーア派三日月ベルト”の確保を戦略の柱に据えており、そのためにも同県の支配を不可欠だと見ている。
 
逆に米国にとっては、この戦略を阻止することがイランの影響力拡大を封じ込める上で、極めて重要だ。

しかし双方が突っ張り合えば、米軍が今後、イラン支援の民兵軍団やシリアに派遣されている革命防衛隊とすら衝突する懸念も出てくる。

その時、イランとともにアサド政権を支えるロシアが米国と対決するリスクを冒してまでイランを支援するのか、どうか。大きな焦点だ。【6月17日 WEDGE】
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ヒズボラやイランにすれば、多大な犠牲を払ってシリアに介入している以上、何らかの見返りがなければ・・・といったところでしょう。(そのためにアサド政権を支えてきたとも言えます)

米軍により政府軍機撃墜で高まる米ロの緊張
そうこうしているうちに、シリア北部では、アメリカが支援するクルド人勢力をシリア政府軍が攻撃、これに対抗してアメリカ軍機が集団的自衛権を発動してシリア政府軍機を撃墜する衝突も起きています。

****米、シリアでアサド政権の軍用機撃墜 クルド人部隊への爆撃に反撃****
米軍の戦闘機が18日、シリア北部でイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」を狙って爆撃したバッシャール・アサド政権軍の軍用機1機を撃墜した。ISの掃討作戦を展開している米主導の有志連合が発表した。(中略)

有志連合は声明で「シリア政権のスホイ22(Su-22)1機が(18日)午後6時43分、(シリア北部)タブカの南でSDFの戦闘員らの近くに爆弾を投下した。有志連合部隊の交戦規定に従い、集団的自衛権を発動して、米軍のFA18スーパーホーネット1機が(同機を)直ちに撃墜した」と発表した。
 
声明によると、その2時間前にはアサド政権側部隊がタブカの南にある町でSDFの戦闘員らを攻撃し多数を負傷させ、町から追い出していた。有志連合の航空機がその後、威嚇行動によってアサド政権側部隊の当初の前進を食い止めたという。【6月19日 AFP】
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アサド政権側は、「(米軍によって撃墜された)軍用機は対IS作戦を遂行中だった」として、米軍を非難しています。

アサド政権を支えるロシアも、アメリカがホットラインを用いて撃墜の警告をしなかったとアメリカ批判を強めており、今後米軍等の飛行機・無人機もすべて“標的”とすると発表しています。

****ロシア、有志連合の飛行体は「標的」 シリアめぐり米軍を牽制***** 
ロシア国防省は19日、シリアで米軍機がアサド政権軍機を撃墜したことに関連して、シリア上空でロシア軍が軍事作戦を展開する空域の「あらゆる飛行体」が今後、ロシア軍の対空兵器により「標的」として監視されると発表した。

イタル・タス通信が伝えた。露国防省は、「飛行体」には米軍主導の有志連合が使用する「飛行機、無人機」を含むと強調し、米側を強く牽制(けんせい)した。

対象となる空域は、ユーフラテス川より西側の地域の上空だとしている。
 
アサド政権軍を支援するロシアは、今回の撃墜をめぐり米側への態度を硬化させている。露国防省はまた、米側と交わしたシリア上空での偶発的衝突を避けるための覚書の履行を19日から「停止する」とも発表した。【6月19日 産経】
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アメリカは、ロシアとの衝突にもつながる事態を避けるべく、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけているようです。

****米、対ISで露との連絡回復図る 掃討作戦への影響懸念****
米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は19日、ロシアがシリア上空での偶発的衝突を防ぐ米露間の覚書の停止を発表したことに関し、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけていることを明らかにした。
 
トランプ政権は、シリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に支障が出るのを食い止めるため、ロシアとのこれ以上の緊張激化を防ぎたい考えだ。(後略)【6月20日 産経】
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イランのシリア領内へのミサイル攻撃
一方、イランは18日、7日に起きた首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連して、シリア北東部へミサイルを撃ち込んでいます。

****シリア北東部にミサイル攻撃=「同時テロの拠点」標的―イラン****
イランの革命防衛隊は18日、同国西部からシリア北東部デリゾール県に向けて中距離地対地ミサイル数発を撃ち込んだ。

7日に首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連し、「テロリストの拠点を攻撃した」という。イラン学生通信が伝えた。
 
同時テロは過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張。ISによるイランでのテロは初めてで、デリゾール県にはISの支配領域が所々広がっている。
 
革命防衛隊は声明で、ミサイル攻撃で「多数のテロリストを殺害し、武器などを破壊した」と強調。「イランに対して悪事を働く者は地獄に落とす」と警告した。【6月19日 時事】
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“イランが国外でミサイル攻撃を実施したのは1980~88年のイラン・イラク戦争以来30年ぶり。”【6月19日 AFP】とも。

クルド人勢力を警戒するトルコ
アメリカ、イラン、ロシア・・・・それにもう一つ忘れてはならないプレイヤーがトルコです。

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さらに忘れてはならないのは、クルド人の勢力拡大を食い止めるためにシリアに軍事介入している地域大国トルコの動向だ。

トルコは同国の「警護官逮捕状問題」で米国を強く非難するなど対米関係を悪化させており、ロシアへの接近を一段と強め、シリアに半恒久的に居座るかもしれない。【6月17日 WEDGE】
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【「グレート・ゲーム」の勝者は?】
“かつて中央アジアの覇権をめぐって展開したグレート・ゲームが舞台をシリアに移し、ポストISに向かって再び展開しようとしている。”【同上】とも

アメリカの元シリア大使は下記記事で、今後の「グレート・ゲーム」の行方に関して、アサド政権の復活、イランの影響力拡大と、アメリカにとって厳しい予想していますが、現在アメリカに協力して対IS戦略の中核となっているクルド人勢力は結局アメリカから見捨てられるとも・・・・。

****アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使****
シリア内戦はシリア政府とそれを支援するイランなどの外国勢力が勝利し、シリアで影響力を死守しようとしたアメリカにとってすべてが徒労に終わる。クルド人武装勢力は、ドナルド・トランプ米大統領に協力したことで今後大きな代償を払わされる──これが、アメリカの元シリア大使が描くシリア内戦の今後のシナリオだ。

バラク・オバマ政権下の2011〜2014年にアメリカのシリア大使を務めたロバート・フォードは月曜、ロンドンに拠点を置くアラブ紙「アッシャルク・アルアウサト」の取材に対し、米政府が掲げるISIS(自称イスラム国)の撲滅とシリアでのイランの台頭を抑え込むという目標の達成に関して「オバマはトランプ政権にわずかな選択肢しか残さなかった」と言った。

イランとロシアはシリアのバシャル・アサド大統領を支援し、アサドの退陣を求める反政府諸勢力やISISなどのジハーディスト(聖戦士)に徹底抗戦した。その間にアメリカは、クルド人主体だが他の少数民族やアラブ人なども寄せ集めた反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援してきた。

SDFはここにきて、ISISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカの奪還で快進撃を続けている。それでもフォードは、アサドを退陣させ、シリアでのイランの台頭を阻止するというアメリカの当初の計画について、「もう勝算はなくなった」と言う。

レバノン駐留米軍と同じ運命
「今後はイランの存在感が増す」とみるフォードは、今から2、3年後のシリアの勢力図を予想した。それによれば、シリア西部はアサドが支配を続け、シリア東部ではイランがアサド軍を支援し、最終的にアメリカを撤退させる。1980年代のレバノンで、イランが支援するシーア派のイスラム武装組織ヒズボラがアメリカを追い出したのと同じシナリオだ。

「勝ったのはアサドだし、アサドもそう思っているはずだ」とフォードは言う。アサドは欧米が戦争犯罪と非難した行為で罪に問われる可能性も低い。「恐らく10年以内に、アサドはシリア全土を取り戻すだろう」(中略)

反政府勢力の中にジハーディストが台頭するにつれ、アメリカはISIS掃討を優先する政策に舵を切り、クルド人主体のSDFへの支援を開始した。

シリア内戦が始まった当初、多くのクルド人は、反アサドの機運が高まったことを肯定的に受け止めた。イラク北部のクルド人自治区のように、シリア北部でクルド人自治区を作るチャンスと考えたからだ。

だがSDFの戦闘員たちは戦いが進むにつれ、敵はISISだけではなく、トルコの支援を受けた反政府武装組織もいると思い知った。国内にいる約1500万人のクルド人の独立を阻止したいトルコは、SDFを国家安全保障上の脅威とみなしているのだ。

アメリカはクルド人を守らない
そもそもSDFは、シリア政府軍と反政府勢力の戦いの中では、ほぼ一貫して中立の立場だった。だがISISの支配地域が縮小の一途をたどり、アメリカとアサド政権の緊張関係が高まった今、SDFはシリア政府軍との戦いの前線に立っている。

シリア政府軍とSDFが衝突した後の今週月曜、アメリカは初めてシリア政府軍機を撃墜した。SDF部隊の上空を飛行したのが理由だった。

クルド人がアメリカと手を結んだのは重大な過ちだったと、フォードは言う。イラク侵攻後にイラクを見捨てたのと同様に、米軍はシリアからISISが一掃され次第、クルド人勢力への支援を打ち切るとみるからだ。

「アメリカには、アサド軍からクルド人を守るつもりがない」とフォードは言った。「クルド人を利用するアメリカは、政治的に愚かなだけでなく、反道徳的だ」【6月20日 Newsweek】
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クルド人勢力はアメリカに見捨てられたら、前面にアサド政権軍、後ろには(アサド政権以上に敵意が強い)トルコを抱えて、非常に厳しい状況に置かれます。

もっとも、クルド人勢力もいつまでもアメリカが守ってくれると考えるほどお人好しでもないでしょう。
それなりの成算があっての・・・と言うか、権限拡大のためには“厳しいが、今立つしかない”と覚悟しての戦闘参加でしょう。
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