孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・天安門事件から28年 事件の再評価を拒み、事件から国民の目を遠ざける当局

2017-06-04 22:25:51 | 中国

(国内の学生が外国人記者に託した画像(天安門での抗議行動に参加していた張健氏が提供)【http://www.epochtimes.jp/jp/2011/09/html/d45067.html】)

【「きょうは敏感な日だ」】
28年前の1989年6月4日(日曜日)、胡耀邦元党総書記の死をきっかけとして、中国・北京市にある天安門広場に民主化を求めて集結していた学生を中心とした一般市民のデモ隊に対し、中国人民解放軍が武力弾圧を決行し多数の死傷者がでました。いわゆる「天安門事件」です。

軍の武力弾圧では、市民に向けての無差別発砲や装甲車で轢き殺すなどもあったとされ、当局は死者を319人と発表していますが、実際の死者数については数百人から数万人に及ぶなど諸説あり定かではありません。

“ウィキリークスが2011年8月に公開した米外交公電の1990年3月の内容には、軍兵士は下された「無差別発砲」命令を受けて、1000人以上の学生を死亡させたことが記されていた。(中略)また、ソ連の公文書に収められているソ連共産党政治局が受け取った情報報告では、「3000人の抗議者が殺された」と見積もられている。”【ウィキペディア】

当時は、抗議行動への対応をめぐって共産党指導部・解放軍内部にも対立があるとされ、内戦状態に発展するかも・・・とも見られ、その成り行きを固唾をのんで見守った記憶もありますが、結局は鄧小平氏の決断で悲劇的な結末を迎えました。

事実上の一党独裁のもと国民の権利が大きく制約されている中国の政治体制には多くの問題がありますが、「天安門事件」は中国共産党の政治姿勢を象徴する事件であり、この事件をどのように評価するのか、これまでの共産党の評価のように、単なる「暴徒による動乱」とみなすのか、それとも「民主化を求める抗議行動」として前向きに再評価するのかが、中国の民主化・人権に関する試金石となっています。

しかし、中国共産党は「天安門事件」の再評価を頑なに拒み、当時の対応を正当化し、事件が国民の目に触れることを恐れるがごとく事件を隠蔽し、時間の経過による“風化”を目論んでいます。

今年も6月4日を迎え、特段の目新しい情報などはありませんが、中国当局の狙いどおりに事件が風化していくことがないように、関連記事をピックアップします。

****北京市内、厳戒に=天安門事件から28年-中国*****
中国・北京で民主化を求める学生らを武力弾圧した天安門事件から28年を迎えた4日、事件の現場となった天安門広場は厳戒態勢が敷かれた。習近平指導部は言論統制を一層強め、真相究明を求める声を抑え込んでいる。
 
快晴の休日となった4日、天安門広場は多くの観光客でにぎわっていた。しかし、普段より警備が強化され、記者は広場への立ち入りを認められなかった。現場の警官は「きょうは敏感な日だ。取材の許可証が必要だ」と説明した。
 
当局は4日が近づくと、事件犠牲者の遺族や人権活動家に対する監視を強めた。人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)などによると、5月以降、広東省広州市の当局は人権派弁護士を市外に退去させたり、活動家の集会を解散させたりして、引き締めを強化。

また、3日夜には、事件で多くの犠牲者が出た現場に近い地下鉄の駅入り口が封鎖され、周辺で多数の当局者が監視していた。
 
4日を前に犠牲者の親たちの会「天安門の母」は声明を発表し、「地上に焼き付けられた血痕を強弁で覆い隠すことはできない」と共産党・政府の対応を批判。事件の真相究明のため調査委員会を設置し、調査結果を公表するよう求めた。
 
だが、党・政府が事件を「暴乱」鎮圧とする見解を変える気配はない。むしろ、次期最高指導部の人事を決める5年に1度の党大会を秋に控え、習指導部は異論を許さず、国内の政治的締め付けをさらに強化している。【6月4日 時事】
*****************

【「中国の発展が十分(武力弾圧の正当性を)証明している」】
中国当局は「中国の発展が十分(武力弾圧の正当性を)証明している」と強弁し、国内外の批判を受け付けない姿勢です。

****天安門事件28年】中国報道官「肯定的な変化にもっと関心を****
中国外務省の華春瑩報道官は2日の記者会見で、4日で28年となる天安門事件について「前世紀80年代末の政治風波(騒ぎ)と関連の問題について、中国政府はすでに結論を出している。近年来の中国の発展が十分に証明している」と述べ、事件の再評価や真相の究明を行う考えはないことを強調した。

華氏は「中国社会の各方面で起きている肯定的な変化にもっと関心を払うよう希望する」と主張した。【6月2日 産経】
*********************

国民から事件の情報を遮断する中国当局
中国では4日午前6時すぎ(日本時間4日午前7時すぎ)、NHKが海外向けテレビ放送、「ワールドプレミアム」で天安門事件に関するニュースを伝えた際、映像と音声が2分近く中断され、画面が真っ黒になったとのことです。

かねてより中国当局は事件の全容が国民の目に触れないように神経を使っており、中国国民の多くは「天安門事件」についてほとんど知らない・・・といった実態もあるようです。

軍が自国民を虐殺した事件の実態が知らされないままに、仮に多少の「動乱」あったことを知ったとしても、混乱を収拾して現在の豊かな暮らしを実現した共産党の指導を評価するといったことにもなります。

****天安門事件の影響で中国ネットに書き込めない言葉 隠語まで規制****
中国で「5月35日」が危険な投稿?・・・天安門事件の影響、ネットの世界にも 天気ダメ、ろうそくもダメ
中国ネットに書き込めない言葉

1989年6月4日、中国で天安門事件が起きました。事件の影響は今も続いており、ネット空間では書き込めない言葉がいくつかあります。

事件があった日の日付や天気も「危険な投稿」としてブロックされます。それだけでなく一見、無関係でタイプミスのような「5月35日」も。(中略)

「5月35日」=5月31日+4日
中国のインターネットで、「天安門事件」は規制の対象になっています。そして、規制の対象は年々拡大しています。

「6月4日(月)、曇り、おはよう」――。2012年には中国版ツイッター「微博」で、このような文章も「公開に適しない」として削除されました。また、「今日」「広場」「民主」といった単語の検索も制限されました。

さらに規制は隠語にも広がっており、「5月35日」(5月31日+4日)や8の2乗を表す言葉(答えが64=6月4日)も「関連法規と政策に基づいて表示できない」との表示が出てしまいます。

また、追悼をイメージさせるろうそくの絵文字も削除されてしまいます。(後略)【6月4日 livedoor’NEWS】
********************

中国では今月から、インターネットに関する新たな法律が施行され、違法と見なされる情報の削除や突発的な事件が起きた際、特定の地域での通信制限を行うことが明文化されましたので、上記のような情報制限も今後さらに拡大・強化されると思われます。

一般の情報検索すらシャットアウトする状況ですから、再評価を求める活動など一切許されません。

********************
民主派の関係者によると、広東省広州市では5月、事件の再評価を訴えている活動家らが当局から強制的に市外に追い出された。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、中国当局は昨年、事件の発生日にちなんだ「八酒六四」のラベルを貼った中国酒を販売したなどとして四川省の活動家ら4人を拘束、3月に国家政権転覆扇動罪で起訴した。【6月4日 産経ニュース】
*********************

【「真実を示すことでしか、事件は清算されない」】
そうした状況ですので、事件を告発する関係者の活動の場も海外が多くなります。
中国国内での活動を続ける者は、当局の厳しい弾圧を覚悟する必要があります。

****天安門、今も続いている 戦車にひかれ両足失った方政さん きょう事件から28年****
1989年6月、中国・北京の天安門広場に集まり民主化を求めた学生らを、軍が弾圧した天安門事件から4日で28年になる。

共産党政権は異論を力で封じ込める姿勢を今も変えていないが、事件にこだわり、社会を変えていこうと声を上げ続ける人々がいる。
 
「私のような当時の学生だけでなく、新たな被害者が絶えず生み出されている。事件はまだ終わっていない」
 
天安門事件で戦車にひかれ、両足を失った方政(ファンチョン)さん(50)がこのほど来日し、朝日新聞のインタビューでこう語った。
 
北京体育学院の学生だった方さんは6月4日、デモ隊を蹴散らそうとする戦車に足を押しつぶされた。94年に北京で開かれた障害者スポーツの国際大会への出場資格を勝ち取ったが、外国人記者に事件を語るのを恐れた当局が出場を許さなかった。
 
事件に縛られ続ける生活に限界を感じ、09年に家族と渡米。サンフランシスコを拠点に、天安門事件を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録する運動を続ける。28年の歳月に加え、経済成長による社会の激変で、人々の記憶から事件が遠のいているのを感じるからだ。
 
方さんは「(当局の理不尽な仕打ちから)自分の暮らしや財産を守ろうとする人々の権利意識が広がっている。そこに中国の民主化の兆しがある」と期待を寄せるが、習近平(シーチンピン)指導部はそうした人々を支える弁護士やNGOを徹底的に弾圧している。

政権は「中国の発展が(当時の対応の正しさを)十分に説明している」(外務省の華春瑩副報道局長)とするのみで、「動乱」とした当時の民主化運動の評価の見直しはもちろん、軍による発砲の実態や犠牲者の数などを明らかにする気配すら見せていない。
 
方さんは「真実を示すことでしか、事件は清算されない。事件を本当の意味で歴史にするために私は声をあげ続けている」と話す。

 ■監視・暴行…私は屈しない 市民支援の元弁護士・倪玉蘭さん
批判的な声を厳しく取り締まり、弾圧する政権の姿勢は今も変わっていない。天安門事件の記憶を胸に、社会を変えようと圧力にあらがい続ける人もいる。
 
北京の元弁護士、倪玉蘭(ニーユイラン)さん(57)は4月、家を失った。前の家の契約が切れて引っ越したばかりだったが、「この部屋は賃貸できない。すぐ出て行け」と私服警官から宣告された。
 
自宅の強制立ち退きに遭った市民を支援し、弁護士の資格を取り消されても、政府への抗議を続けてきた。取り調べ中の暴行で下半身がマヒし、今は車いす生活だ。昨年、米国務省の「勇気ある国際的な女性賞」を受けると、当局の監視は一層厳しくなった。
 
退去を拒むと電気を止められた。それでも部屋にとどまると、身元不明の男たちに車で連れ去られ、戻ると家財はなくなっていた。一時は野宿を余儀なくされ、今はカンパでホテル暮らしをしながら家を探す。
 
事件当時、倪さんは運動には参加できなかったが、天安門広場の学生らに共感し、差し入れした。「この時代を生きる私たちが何もしなければ、この国はもっとひどくなる。不公正な社会が私たちを変えることはできない。たとえ微力でも、私たちが社会を変えていく」【【6月4日 朝日】
*********************

中国共産党と同じ価値観に立つアメリカ大統領
当局による種々の圧力、暴行等はあっても、命まで狙われることはない(実際のところどうなのかはよく知りませんが)というのは、政権批判者の暗殺等が珍しくない世界各国の現状にあって、中国はその意味では一定に限度をわきまえているのだろうか・・・とも思えますが、暗殺等の事件にしてしまうと国際社会からの批判が強まるので、“賢く”対応しているとみるべきなのかも。

もっとも、これまで中国に対する最大の批判者であったアメリカの大統領が、「天安門事件」に対する中国共産党の評価を容認していますので、今後は対外的批判をそんなに気にする必要もなくなったのかも。

****トランプ氏、天安門事件を「暴動」と呼ぶ 米大統領選TV討論会****
米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏は(2016年3月)10日、米CNNによるテレビ討論会で、1989年に中国・北京の天安門広場で行われた民主化運動を「暴動」と呼んだ。
 
司会役のジェイク・タッパー氏は、トランプ氏が1990年に米男性誌プレイボーイ上で述べた天安門事件についてのコメントに対して批判が上がっていることを受け、トランプ氏のコメントを求めた。

これに対しトランプ氏は、天安門で起きたことを支持していないと強調した上で、「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と発言した。(後略)【2016年03月11日 AFP】
********************

トランプ大統領については、アメリカ国民の半数が選んだ者であり、その主張・言動についてもいろんな見解・評価はあるでしょう。

ただ、「天安門事件」に関して中国共産党と同じような理解をしているということ、これまで欧米社会が最も重要なものとして守ってきた民主化・人権に関する価値観を共有していないという一点において、信頼に値する人物とは認められません。

トランプ氏のこうした感覚は、フィリピンのドゥテルテ大統領と行った電話会談で、「薬物犯罪の問題で素晴らしい仕事をしている」としてドゥテルテ氏を評価した件でもうかがえます。

アメリカにしても日本にしても、現在の国際情勢、今後の予想を考えれば、いたずらに中国と敵対するような対応がいいとも思いませんが、より緊密な関係を構築する場合でも、価値観の違いがあるということはわきまえておく必要があります。

価値観の違いを認識しないのであれば、単なる力比べや節操のない取引にすぎず、その時々の条件次第でいかような結果にもなるでしょう。また自国社会もいつのまにか中国のような社会に変容することも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする