(死者が150人、負傷者は300人以上に達した5月31日にカブール中心部で発生した自爆テロによる巨大な穴【6月6日 AFP】)
【悪化する首都カブールの治安 頻発するISのテロ】
前回アフガニスタン情勢を取り上げたのは、タリバンの春期攻勢が始まった時期の、5月2日ブログ“アフガニスタン 春期攻勢のタリバン アメリカの増派は? ロシア・イラン・中国の関与は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170502でした。
その概要は、下記記事に示されています。
****アフガンに“第2のシリア”の恐れ、タリバンが春期攻勢を宣言****
内戦の泥沼化の様相が深まる中、アフガニスタンの反政府組織タリバンはこのほど政府軍、駐留米軍に対して「春期攻勢」の開始を宣言、戦闘が一段と激化しそうな雲行きだ。
トランプ米政権は増派も含め、アフガン政策を見直し中だが、ロシアやイランの影もちらつき、同国が”第2のシリア”になる恐れも強まってきた。
政府軍死者が2倍に
(中略)こうした襲撃や交戦などでアフガニスタン軍の死者は毎年拡大する一方で、2016年は一昨年の2倍以上の6700人が犠牲になった。民間人の死傷者も1万1418人と急増した。
タリバンは現在、国土の50%以上を支配、アフガニスタンは米軍の支援と国際的な援助でなんとか国家の体裁を維持しているのが現実だ。
アフガンに駐留していた米軍中心の国際治安部隊は最大14万人に上ったが、2015年までに一部米軍を残して大半が撤退した。現在は約8500人の米軍が残留し、政府軍の訓練、助言などとともに、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに対するテロとの戦いを続けている。
米軍はアルカイダの潜伏するパキスタン国境との部族地域に対する無人機空爆作戦を続行する一方で、ISの拠点のある東部ナンガルハル州での掃討作戦を強化。(中略)
トランプ政権の本音は1日も早いアフガニスタンからの軍撤退だろう。しかし今、米軍が手を引けば、同国がタリバンに取って代わられる可能性が強い。現状のままでも、タリバンが一段と勢力を拡大、ISもテロを活発化させて内戦が泥沼化、“第2のシリア”に陥りかねない。
特にISは拠点のあるナンガルハル州から活動範囲を拡大し、3月には首都カブールの国軍病院で自爆テロを実施、49人を殺害した。ISは最盛期の勢力からは弱まっているものの、依然1000人以上の戦闘員がいると見られている。(中略)
イラン、ロシアの影
とりわけトランプ政権は隣国のイランとロシアがタリバンを支援しているのではないか、との懸念を深めている。(中略)
両国がタリバンを支援する理由は大いにある。
それは両国ともISに対する「防波堤」の役割をタリバンに担わせたいと願っているからだ。(中略)
しかしアフガンの治安回復のため、これまで2400人もの将兵の血を流してきた米国にしてみれば、ロシアの動きは容認し難い。
ロシアの動きをけん制するためにも、早急にアフガン政策を策定できるかどうか、トランプ政権の戦略が問われている。【5月2日 WEDGE】
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状況は前回ブログの時点から改善していない・・・と言うより、悪化しています。
5月3日には、首都カブールで駐留するNATO部隊の車列を狙った爆発が起き、通行人ら8人が死亡、NATO軍の隊員3人を含む約30人が負傷しました。ISが犯行声明を出しています。
5月8日には、アフガニスタン北部のクンドゥズで一部地区がタリバーンに占拠され、数千人の住民が避難を余儀なくされていることが報じられています。
5月17日には、東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで17日、武装集団が国営テレビ局「RTA」を襲撃し、治安部隊と銃撃戦になリ、少なくとも3人が死亡、16人が負傷しています。同州で影響を強めているISが系列のニュースサイトを通じて犯行声明を出しています。
5月20日には、首都カブールで外国人向けの宿泊施設が武装した集団に襲撃されて、ドイツ人女性とアフガニスタン人の警備員が殺害され、フィンランド人女性が拉致されたとみられています。
5月27日には、東部ホースト州の州都ホースト市でタリバンによるとみられる自動車爆弾攻撃があり、13人が死亡しました。米中央情報局(CIA)の支援を受けてタリバンに対する戦争をひそかに遂行しているとされる民兵組織を狙った攻撃とみられています。
一連の攻撃からは、タリバンだけでなくISによるテロも頻発していること、首都カブールの治安が悪化していることがうかがわれます。
その首都カブールでは5月31日に政府機関や大使館が集中する首都中枢での爆弾テロによって150人超が死亡、首都の治安対策の弱さが改めて浮き彫りとなっています。
また、6月3日には、上記テロの犠牲者の葬儀会場で複数回の爆発が起き、7人が死亡し、119人が負傷しています。
5月31日の大規模テロについては、犯行声明は出ておらず、タリバンは関与を否定しています。
アフガニスタン情報機関は、パキスタン情報機関の関与があったとしていますが、当然ながらパキスタン側は否定しています。
****<カブールテロ>「タリバン一派が実行」情報機関が声明****
アフガニスタンの首都カブール中心部で少なくとも80人が死亡した爆弾テロで、アフガンの情報機関・国家保安局(NDS)は5月31日、声明を発表し、旧支配勢力タリバンの一派である武装組織「ハッカーニ・ネットワーク」がパキスタンの軍情報機関ISIの支援を受け実行したとの見方を示した。
ただ、具体的な証拠は示しておらず、真偽は不明だ。アフガンとパキスタンは関係が冷え込んでおり、発表を機に両国関係がさらに悪化する可能性がある。
事件では犯行声明は出ておらず、タリバンは関与を否定している。アフガンではタリバンのほか、過激派組織「イスラム国」(IS)もテロを繰り返している。
ハッカーニ・ネットワークはパキスタン北西部を拠点とする武装組織で、アフガン国内で外国公館や駐留外国軍を狙ったテロ攻撃を行っている。タリバンに忠誠を誓っており、指導者のシラジュディン・ハッカーニ師は2015年にタリバンの副指導者に選出された。
一方、アフガンに対する影響力を維持したいパキスタンのISIが戦略的に支援してきたとも言われている。
アフガンとパキスタンは近年、互いに相手国から越境テロが行われているとして非難している。5月には国境を挟んで治安部隊同士が銃撃戦となり、双方に死者が出る事態に発展した。
今回の爆弾テロではパキスタン大使館の職員も軽傷を負い、パキスタン外務省は「あらゆる形式のテロを非難する」との声明を出した。アフガン当局に批判されたことで反発を強める可能性がある。【6月1日 毎日】
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上記記事にもあるように、アフガニスタンとパキスタンは5月5日に国境地帯で銃撃戦を行っており、両国で市民ら少なくとも計15人が死亡したとされています。
パキスタン軍などによると、国勢調査員を警備していた治安部隊が銃撃されたとしていますが、アフガニスタンの地元警察幹部は、パキスタン側から先に攻撃を受けたと主張、パキスタンが国勢調査を装って武装勢力を越境させていると指摘しています。
“両国の国境はタリバンなどの武装勢力が行き来しているとされ、互いに相手国からの「越境テロ」を非難している。昨年6月には別の国境地帯で両軍が衝突し、死傷者が出ている。”【5月6日 毎日】
その後も6月6日には、西部ヘラート州で爆発があり、少なくとも7人が死亡、16人が負傷しています。
【タリバン支援をめぐり米ロ対立】
冒頭【5月2日 WEDGE】にある、ロシアのタリバン支援に関しては、アメリカがロシアを非難、ロシアは関与を否定する形となっています。
****<アフガニスタン>米露が対立 タリバン支援疑惑巡り****
戦乱が続くアフガニスタンを巡り、米国とロシアが対立している。米軍幹部らはアフガン政府軍と戦闘を続ける旧支配勢力タリバンに対し、ロシアが支援していると主張。ロシアは疑惑を全面否定しているが、4月にアフガン情勢に関する国際会議を開くなど、独自にアフガンへの関与を強めている。シリア同様、米露の対立が深まれば、アフガン情勢はいっそう混迷を深める可能性がある。
「(ロシアによるタリバンへの)支援は昨年後半に始まった」。先月24日、駐留米軍のニコルソン司令官はカブールでの記者会見でこう語り、ロシアがタリバンに武器を供与しているとの疑惑についても「否定しない」と述べた。同席したマティス米国防長官も、明言は避けつつ「アフガンに武器を流入させることは国際法に反している」と指摘した。(中略)
一方、ロシア外務省は「でっちあげだ」と非難。タリバンも否定しており、真相は不明だ。
ただ、ロシアがアフガン情勢に関与を強めているのは事実だ。ロシアは先月14日、近隣諸国を集めてアフガン情勢に関する国際会議を主催した。ロシアが「和平協議の場を提供する」と提案し、タリバンとの和平で主導権を発揮する方針を明らかにした。
この会議には米国も招待されたが、出席を拒否している。
ロシアが関与を強める背景には、アフガン東部を拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)に対する懸念があると言われる。ロシアは昨年、タリバンに影響力を持つとされるパキスタンと初めて合同軍事演習を行うなど、冷戦時代に対立陣営だったパキスタンとも接近している。
ただ、ロシアは旧ソ連時代にアフガンへ侵攻した歴史があり、アフガン国内には不信感もある。またタリバンは米軍撤退を和平条件に掲げており、米国不在の交渉は実効性がないとの見方もある。(後略)【5月19日 毎日】
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【「勝てていない」米軍 増派を検討か】
一方、アフガニスタンに駐留する米軍も厳しい状況に置かれています。
現在アフガニスタンに駐留する米軍は約8400人。このほかNATO軍もアフガニスタン軍の訓練や顧問役として約5000人を同国に派遣しています。
しかし、敵は前方のタリバンやISだけではなく、指導しているはずのアフガニスタン兵士からも銃弾が飛んでくる状況です。
****アフガン特殊部隊員の銃撃で米兵3人死亡、タリバンの潜入員か****
アフガニスタン東部ナンガルハル州で10日、同国軍と米軍の合同作戦中にアフガニスタン軍の特殊部隊員が発砲し米兵3人が死亡、1人が負傷した。米アフガン双方の当局者が明らかにした。(中略)
事件については旧支配勢力タリバンがツイッターで犯行声明を出し、米兵を射殺したのはタリバンの潜入員だと主張している。(中略)
増える味方からの「内部攻撃」
米軍はアフガニスタンで同国軍と合同で過激派組織「イスラム国ホラサン(Islamic State Khorasan、ISIS-K)」の掃討作戦を展開している。ISIS-Kはイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の分派を名乗る国内の武装組織でイラクとシリアを拠点に攻撃を続けているが、アフガニスタンでは確実に拠点を失いつつある。
その一方でNATOでは最近、共に長期にわたって軍事作戦に臨んできたアフガニスタン兵が駐留軍兵士に銃を向ける「グリーン・オン・ブルー」と呼ばれる内部攻撃が大きな問題となっている。
欧米側の関係者らによれば、こうした内部攻撃は個人的な恨みや異文化間の誤解に起因するものがほとんどで、武装勢力の攻撃によるものは少ないという。【6月11日 AFP】
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オバマ前政権時代から、アフガニスタンだけでなくシリア・イラクでも、アメリカは大規模な軍隊を派遣する代わりに、「米国はまた戦争を始めた」との内外からの反発を避ける形で秘密裏に動ける特殊部隊を各地の紛争地域に送り込むようになっていますが、その分、特殊部隊にかかる「負担が過重になっているとの指摘があります。
「(人員が足りず)兵士たちは年に何度も派遣される状況に陥っています」(米統合特殊作戦軍(SOCOM:いわゆる特殊部隊)の司令官を務めるレイモンド・トーマス大将)
2017年現在、80か国以上で約8000人の特殊部隊が展開中とのことです。【5月31日 堀田 佳男氏 JB Press「悲鳴上げる米特殊部隊、激務で死亡者続出」】
こうしたアフガニスタンの状況について、「勝てていない」との認識を示しています。
****アフガン戦争「勝てていない」=来月中旬に新戦略策定―米国防長官****
マティス米国防長官は13日、上院軍事委員会での証言で「現時点ではアフガニスタンでの戦争に勝てていない」と述べ、7月中旬までに新たなアフガン戦略を策定する意向を示した。
マティス長官は反政府勢力タリバンについて、「勢力は増大している」と発言。共和党のマケイン委員長からの「政権誕生から約6カ月たっても新たなアフガン戦略を打ち出せていない」との批判に対し、「緊急性は理解しており、早急に策定する」と約束した。【6月14日 時事】
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また、以前から米政権の外交・安保担当高官らがトランプ大統領に、アフガニスタンへの米部隊増派を含む軍事関与拡大を提案したと報じられていました。
こうした情勢判断や提案を受けて、トランプ大統領は実質的に増派につながる方針変更を行っています。
****米、アフガンへ数千人増派か トランプ氏が国防総省に権限****
ドナルド・トランプ米大統領が国防総省に対し、アフガニスタンに駐留する米軍部隊の規模を決める権限を与えたことが分かった。米当局者が13日明らかにした。数千人規模の増派につながる可能性がある。
当局者は匿名を条件に、ジェームズ・マティス)国防長官がアフガニスタンへの派兵規模を決定する権限を付与されたとの一連の報道を認めた。具体的な増派数は決まっていないという。
当局者は、イラクとシリアでのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」掃討戦のためにトランプ大統領が承認した制度変更に言及し、ホワイトハウスは両国に関する措置と同じように「派兵規模を決める権限を国防長官に付与した」と説明した。
バラク・オバマ前政権下では、アフガン、イラク、シリアへの派兵規模はホワイトハウスによって厳密に管理されており、現場の指揮官らからこの制限が足かせとなっているとの不満が出ていた。
報道によれば、マティス国防長官は米軍と北大西洋条約機構(NATO)合わせて3000~5000人規模の増派を検討しているとされる。ただ、マティス氏本人はこの件についてほとんど言及していない。
アフガンに駐留するNATO軍を率いるジョン・ニコルソン司令官は2月、こう着状態にある戦況を打破するためには「数千人」の増派が必要だと訴えていた。【6月14日 AFP】
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NATOのストルテンベルグ事務総長も5月11日、アフガニスタンへの部隊増派の是非を検討していると明らかにし、「数週間以内に判断を下す」と見通しを示していますが、「戦闘任務に戻るのではなく、(アフガニスタン治安部隊への)訓練や支援を続ける」と強調しています。(5月11日 時事)
【必要とされるドラスティックな枠組み転換】
相次ぐテロを実行しているISは、勢力は小さくなっていると言われていますが、下記のような報道もあり実態はよくわかりません。
****IS、タリバン要衝制圧か=アフガン東部で勢力拡大****
アフガニスタン東部ナンガルハル州選出のザヒル下院議員は14日、過激派組織「イスラム国」(IS)が同州の山岳地帯トラボラをほぼ制圧したことを明らかにした。トラボラは反政府勢力タリバンの要衝で、アフガン東部でISの勢力拡大が続いていることが改めて浮き彫りになった。
ザヒル議員は「ISがトラボラの約8割、(州都ジャララバード南方の)チャパルハルの約9割を制圧した。首都カブールとジャララバードを結ぶ幹線道路の寸断を狙っている」と語った。
また、米軍が4月に同州のIS施設に大規模爆風爆弾(MOAB)を投下したことに関し、「外国軍は(投下で)ISが終わりを迎えつつあると言うが、根拠がない」と効果に疑問を呈した。【6月15日 時事】
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国連のグテレス事務総長は14日、首都カブールを予告なしに訪問し、カブールの避難民キャンプを訪れ住民と対話しています。事務総長は「きょうは自分も断食している」と明かし、ラマダン(イスラム教の断食月)に当たり、アフガン人の大半を占めるイスラム教徒への共感を示したとも。【6月14日 時事】
断食で連帯・共感を示すのも結構ですが、共通の敵であるISに対し、政府軍・米軍とタリバンが停戦・共闘するといったドラスティックな枠組み転換を図らないと、事態はますます悪化しそうです。アメリカが多少増派しても“第2のシリア”の泥沼にはまるだけです。
あと、5月31日のカブールでの大規模テロにパキスタン・ISIが関与しているのかどうかは定かではありませんが、いつも言うようにタリバンを支援しているとされる(少なくとも大きな影響力を有する)パキスタンを何とかしないとアフガニスタンはいつまでも安定しません。
パキスタンは中国とも接近していますので、北朝鮮対策同様に、中国を巻き込む必要もあるのかも。
それと、ウズベク人の有力者でもあるドスタム副大統領が政敵に暴行を加えた疑惑が浮上し、国外に逃亡したとのでは・・・との噂もあるようですが、“ドスタム将軍”のような内戦の過去を引きずる人物が政権中枢にいるようではアフガニスタン政府のまともな統治は期待できません。