孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないジレンマ

2017-06-24 22:37:22 | 中国

【2016年11月2日 NHK】

中国へのジレンマから「中国恐怖症」】
中国の国際的存在感が増すにつれ、中国との関係に苦慮する国も多くあります。
日本もその一つですが、オーストラリアも“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマを抱えています。

中国メディアは、そのようなオーストラリアの状況を“中国恐怖症”にかかっているとも皮肉っています。

****この国は「中国恐怖症」を患っている****
2017年6月20日、参考消息網は記事「中国製携帯すら恐ろしい?!この西側国家はなぜ“中国恐怖症”にかかったのか」を掲載した。

先日来、オーストラリアでは「中国」にまつわるさまざまな政治問題が取り沙汰されている。議会では「中国海軍のインド洋における活動が活発化しており、海軍は西海岸及び北部海岸でのプレゼンスを強化する必要がある」との提案が審議されたが、オーストラリア外務省は中国に配慮し、「活発化する外国海軍の活動に対応するため」と中国という言葉を出さない方向に修正するよう求めて話題となった。

また、20日には中国企業がオーストラリアのデータセンターの親会社を買収したことが報じられたが、オーストラリア国防省はその後、同社との取引中止を発表した。買収された企業はデータの安全は保持されるとの声明を出したが、まったく意味を持たなかったようだ。

それだけではない。オーストラリア議会発表の資料によると、今年3月までに少なくとも40台の中国製携帯電話が政府によって購入され、オーストラリア外務省及び国防省の官僚に支給されたことが明らかとなった。野党議員は「奇妙な決定だ」と強く批判している。

なぜオーストラリアにはこれほどまでに中国恐怖症が広がっているのだろう。中国現代交際関係研究院南太平洋研究室の郭春梅(グゥオ・チュンメイ)主任は、オーストラリアが戸惑いの時期にあるためだと分析する。経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれないという状況にあるためだという。【6月24日 Record china】
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“経済的には中国に依存しつつも、安全保障面では中国を信頼しきれない”というジレンマは、世論調査の結果にも示されています。

****豪世論調査、半数が中国の軍事的脅威に懸念、米国への信頼度は低下****
2017年6月21日、オーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所の世論調査結果によると、オーストラリア人のほぼ半数が「今後20年間に中国はオーストラリアにとって軍事的脅威になる」と考えていることが分かった。

中国のライバルである米国への信頼度は2011年当時のほぼ半分にまで低下している。調査は3月1日から21日までオーストラリアの成人1200人を対象に行われた。米ボイス・オブ・アメリカが伝えた。

オーストラリア人の間で、潜在的な軍事的脅威としての中国に懸念が高まっている。だがそうした懸念の一方で、多くのオーストラリア人(79%)が中国を重要な経済的パートナーと考えている。

米国との関係については、60%がトランプ大統領を好ましくないと考えているが、オーストラリアの安全保障にとって米国との同盟が重要だと考えている人は大多数を占めている。

同研究所のアレックス・オリバー氏は、「オーストラリア人は米国との同盟を中国を含むこの地域の潜在的脅威に対応するための『保険』とみなしている」と指摘している。【6月21日 Record china】
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アメリカ・トランプ大統領は気に入らないが、経済的な中国依存に対する不安感もあって、安全保障面でアメリカとの関係も重視せざるを得ない・・・といいたところです。

【「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」】
日本は2012年12月に始まったアベノミクス景気が、バブル期を超えて戦後3番目の長さになったそうですが、“一体どこが好景気なのだろうか?”とも思える実感に乏しい面もあります。

一方、オーストラリアは“26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していない”という超長期の成長路線を継続していますが、これをけん引している大きな要因は中国の経済成長や天然資源への需要の高まりです。

****豪経済、26年間景気後退なし 世界最長記録に並ぶ****
オーストラリア統計局が7日に発表した2017年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.3%増となった。26年間、103四半期連続でリセッション(景気後退)を経験していないことになり、オランダの持つ世界最長記録に並んだ。
 
一方で前年同期比では、1~3月期の成長率は1.7%増と、前期の2.4%増から鈍化。ただ3月末にオーストラリア北東部に上陸したカテゴリー4 の猛烈なサイクロン「デビー(Debbie)」による経済的な被害、貿易収支の数字が弱かったこと、さらには賃金の伸びが低調だったこともあり、多くのアナリストらは成長ペースの減速を予想していた。
 
オーストラリアの長期にわたる経済成長について、多くのエコノミストは同国が1980年代から90年代にかけて行った、変動相場制への移行、労働市場の柔軟化、金融部門や資本市場の規制緩和、関税の引き下げなどの経済改革が後押ししたと述べている。
 
また中国の経済成長や天然資源への需要の高まりも、資源が豊富なオーストラリアの経済に恩恵をもたらした。同国では鉱山部門への前例のない投資ブームが起こり、商品価格も記録的な水準となった。(後略)【6月7日 AFP】
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オーストラリアの輸出の3分の1が中国向けで、これは他のG20諸国のいずれよりも高い割合となっています。
また、中国のオーストラリアへの投資も増加しています。

日本同様、オーストラリアでも中国人観光客の急増、大量消費が需要を支える要因になっているようです。

****中国人観光客の爆買いに期待するなら、この一群を軽視してはならない****
2017年6月14日、環球網によると、オーストラリアの統計当局が13日発表したデータで、4月末までに同国を訪れた中国人観光客の数が120万人に達したことが分かった。

外国人観光客全体の数は前年同期比9.5%増の850万人で、中国人の伸び率は全体を上回る10.2%だった。国・地域別で最多だったのはニュージーランドからの観光客だが、年末には中国がニュージーランドを追い抜くとみられている。

中国人観光客の消費額は3月末時点で97億ドル(約1兆630億円)に上っており、現地の観光シンクタンクの責任者を務めるDon Morris氏は「中国人観光客の中で消費の主力となっているのは女性たち」と指摘、行政や関連業界がこの点を重視すべきとの考えを示す。

デロイト・アクセス・エコノミクス(DAE)の分析によると、短期滞在でオーストラリアを訪れる中国人観光客に占める女性の割合は2005年の40%から16年3月には57%に上昇。

Morris氏は「旅行目的地を選ぶ時に女性の意見が大きなポイントとなってくる。女性たちが好むのはハイセンスなホテルでの滞在や地元の人たちとのコミュニケーション。SNSへの投稿に備えたwifiサービスの提供も必要」と指摘している。【6月16日 Record china】
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現在、オーストラリアには中国系住民が100万人暮らしており、さらに14万の留学生がいるということで、そうした面でも中国の存在が大きくなっています。

****豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかり、豪メディアが警鐘****
2016年10月31日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙ヘラルドサンは28日、「豪州は政府も企業も頭の中は中国のことばかりになっている」との記事を掲載した。

政府も企業も何とかして中国の歓心を買い、チャイナマネーを呼び込むことに力を注いでおり、何らかの決定を下す際には常に中国を念頭に置いている。

どの経済フォーラムでも「中国はどうだ」「中国はそうではない」と議論され、企業は「中国に何をどう売るか」、観光業は「中国人客をどう呼び込むか」、大学まで中国人学生に頼り、不動産開発業も中国のバイヤーに期待をかけている。

中国から豪州への投資や企業買収は増加の一途をたどっている。2015年には150億豪ドル(約1兆2000億円)もの資金が投じられ、米国に次ぐ規模となっており、豪州国内の農業やエネルギー、医療、商業不動産、通信など、さまざまな分野に及んでいる。

豪州という籠は中国の卵でいっぱいになっており、それらはふ化を待っている。そして、誰もそのリスクに注意を向けようともしていない。【2016年11月1日 Record china】
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オーストラリアが最近移民政策を厳しくしている・・・という話は、5月7日ブログ“オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170507でも取り上げましたが、それとの関係はよくわかりませんが、昨年、中国人観光客受け入れ拡大に向けて、中国人を対象にしたビザ制度緩和を行っています。

****豪州が中国人対象に10年マルチビザ発行へ****
在オーストラリア中国使館はこのほど、オーストラリアのピーター・コスグローブ総督が、「1994年移民規制法」の改正法案に署名し、中国人を対象に有効期間10年の数次査証(マルチビザ)の発行が可能になったことを明らかにした。

オーストラリアが外国人を対象に有効期限が10年のマルチビザを発行するのはこれが初めて。現段階では、中国人だけが対象となるとしている。中国放送網が伝えた。(後略)【2016年11月24日 Record china】
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中国の国際秩序無視、内政干渉の疑いに対する強い警戒も
“(中国依存について)誰もそのリスクに注意を向けようともしていない”と、中国依存を警戒する前出記事にはありますが、実際のところは、オーストラリア政治・社会において中国に対する強い警戒感があるのは冒頭記事のとおりです。

安全保障面ではむしろ、強い調子の中国批判が目立ちます。

****中豪の舌戦ヒートアップ、豪外相や前駐米大使も中国を攻撃****
2017年6月5日、米華字メディアの多維新聞によると、アジア太平洋地域の安全保障について各国の国防相などが意見を交わす「アジア安全保障会議」でのターンブル豪首相の発言に端を発した中国との舌戦がさらにヒートアップしている。

オーストラリアのビショップ外相はこのほど、「中国は国際秩序を『直接無視』している」と述べ、週末のアジア安全保障会議で中国の拡大主義に警告を発したターンブル首相を支持した。

ターンブル首相は2日の基調講演で「中国がこの地域を支配するために、この半球にモンロー・ドクトリンを課し、他の国、特に米国の役割と貢献を疎かにしようとしていることに懸念が広がっている」「大国は、より小さな国に自分の意志を押しつけるべきではない」などと述べた。

これに対し、中国代表団の何雷(ホー・レイ)団長は3日の記者会見で「中国と中国政府は国際ルールと地域ルールを支持し、守る国だ」と反発した。

中国国営の環球時報も3日の社説で「ターンブル氏の発言は中国への説教に満ちている。彼はそうした発言がいかに滑稽なものであるかを理解していないようだ。最大の貿易相手国である中国にあれこれと口出しをしている。中国の度量が大きいことを祝うべきだ」などと論じた。(後略)【6月5日 Record china】
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南シナ海だけではなく、オーストラリア国内政治に及ぼす中国の影響にも懸念が強まっています。

****中国の「愛国」ビジネスマン、豪州で巨額の政治献金****
2017年6月9日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(中国語電子版)は、「中国の『愛国』ビジネスマンがオーストラリアで多額の政治献金を行い、南シナ海問題などが中国に有利に動くよう画策している」と伝えた。

豪メディアは「中国人ビジネスマン2人がオーストラリアの政治家に多額の政治献金を行っている」と伝えた。南シナ海問題などを中国に有利な状況に導くためとみられる。ジェームズ・クラッパー前米国家情報長官はこのほど、訪問先の豪キャンベラで「オーストラリアは中国による政治的な影響に警戒すべきだ」と警告している。(後略)【6月12日 Record china】
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また、オーストラリアメディアでは、“オーストラリアの学生への脅迫や嫌がらせを中国政府が支持し、オーストラリアで諜報活動のネットワークを有しており、オーストラリアの国家の安全を脅かしている”といった報道もなされ、中国外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官がこれに反論するようなやりとりもありました。【6月6日 Record chinaより】

こうしたオーストラリア側の懸念もあって、ターンブル首相は、中国による内政干渉の対抗すべく、スパイ法の見直しをおこなうことを表明しています。

****豪、中国対策にスパイ法見直し 政治献金による内政干渉に危機感****
オーストラリアのターンブル首相が、中国による内政干渉の対抗へ、スパイ法の見直しを表明した。

中国共産党とつながるとされる在豪の中国人実業家が、巨額献金で政治介入している実態が、豪メディアの調査報道で判明。経済面で関係を深め“親中派”ともされるターンブル氏だが、「主権」をめぐり中国への警戒を強めている。
 
「中国は自国だけでなく、豪州の主権も常に尊重すべきだ」。ターンブル氏は6日こう述べ、スパイ法など豪州内での外国政府の活動に関する関連法見直しを司法長官に指示したと明らかにした。年内にも報告書がまとまる見通しだ。(中略)

中国外務省の華春瑩報道官は6日、一連の報道を「悪意の憶測」と批判した。【6月7日 産経】
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中国からの留学生受け入れについても、見直しの動きも。

****豪州の大学に中国人学生の募集減らす動き、中国への過剰な依存を懸念****
2016年10月6日、中国紙・参考消息(電子版)によると、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドは5日、豪州の主要大学が中国人留学生の割合を徐々に減らそうとしていると伝えた。

オーストラリア国立大学は主要8大学の中で最も中国人学生の割合が多く、2016年に募集した留学生に占める割合は約60%。ある学生新聞が入手した資料では、大学執行部は中国の学生市場に過度に依存することは運営上リスクを抱えることになるとして、2015年から徐々に学生の多様化を図り、中国人学生の募集数を減らしているという。(後略)【2016年10月8日 Record china】
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中国の存在感が増すにつれ、人種的軋轢も出てきているようです。

****オーストラリアの中国系若者、9割が人種差別を経験****
2016年12月6日、オーストラリアのティーンエイジャーの3人に1人が、人種による差別や不公平な扱いを受けたことがあるとする調査結果がこのほど公表された。特にマンダリン(中国語の標準語)を話す若者が人種差別を経験した割合は90%と最も高かった。中国新聞網が伝えた。

ミッション・オーストラリアが15歳から19歳までの計2万2000人から回答を得た調査によると、4000人は家庭では英語以外の言語を話しており、中国語、ベトナム語、アラビア語の順で多いことが分かった。

人種差別を経験した割合は、マンダリン話者の若者が90%と最も多く、広東語話者とフィリピン語話者は80%だった。アボリジニとトレス海峡諸島の若者は、非先住民族の若者に比べて2倍の人種差別を経験している。(後略)【2016年12月8日 Record china】
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冒頭記事では中国製携帯電話の政府購入に対する野党からの批判が取り上げられていますが、昨年10月には、オーストラリア国防省が中国企業と軍服製作の契約を結んだことも、「発注した軍服に追跡可能な素材が使われる恐れがある」と批判と対象となっています。【2016年10月22日 Record chinaより】

同化せず外国(本国)に忠誠を誓う人間の集団
それがどこの国であれ、特定の国のマネー・コミュニティーが突出することへの懸念は起こりやすいものですが、中国の場合は中国政府の意向に同調する形で中国マネーと中国人コミュニティーが動くという特殊性があり、受入国側の不安を大きくしています。

****豪州に存在する中国系移民100万人と14万の留学生****
豪州国立大学名誉教授のポール・ディブが、9月6日付のオーストラリアン紙で、中国マネーと中国人コミュニティーの存在について警告する一文を書いています。要旨は次の通りです。

中国人コミュニティによる深刻な影響
豪州に対する中国の投資と豪州における大きな中国人コミュニティの存在が中国の影響力に関して深刻な問題を提起している。
 
豪州における中国の投資の累積額は英国、米国、日本に遠く及ばない。しかし、中国の投資の焦点と速度が安全保障上の懸念を惹起する。(中略)

多くの中国系住民の間で親中の態度がますます明らかになっており、また中国語のメディアはほぼ全て親中のグループに支配されている。(中略)

この関連で問題となるのが、中国人コミュニティの中国政府寄りの見解である。彼らの態度がこれ程までに圧倒的に人民共和国寄りであったことはないと聞く。

キャンベラの中国大使館が後ろで糸を引き、中国に残している家族に対する報復で脅かしていることに疑いはない。(中略)
中国ビジネスによる政党への献金が指摘されている。人民共和国と共産党にノスタルジアを抱く多くの中国系住民と学生がいることは事実である。そうであれば、我々は同化せず外国に忠誠を誓う人間の集団という危険なケースを抱えていることになる。(後略)【2016年10月12日 WEDGE】
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