孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  「飢餓債」購入で国民弾圧政権の延命に手を貸す「資本には心はない」ゴールドマン

2017-06-01 22:10:52 | ラテンアメリカ

(ゴールドマン本社前で「飢餓債」購入に抗議する人々【6月1日 Bloomberg】)

1日3回食べられるベネズエラ人はさほど多くはない
南米ベネズエラで“チャベスなきチャベス路線”を続ける反米・急進左派マドゥロ政権の無理な価格統制やバラマキ、そして主要輸出品である原油の価格下落による経済破綻(物価上昇、食料・日用品・医薬品の品不足、通貨下落、財政逼迫)、また、そうした状況への国民不満を押さえつけての強権的な居座り、それに対する国民の退陣を求める抗議行動などについては、このブログでも再三取り上げてきました。

最近では、「糞便瓶」が飛び交う状況などについて、5月12日ブログ“ベネズエラ 居座るマドゥロ大統領、新憲法制定を画策 連日の抗議行動で増える死者 「糞便瓶」も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170512など。

混乱が相変わらず続いています。
その“耐えがたい日常”生活について、昨年7月まで6年ほどベネズエラに在住した風樹茂氏が【WEDGE】http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9627で詳しく報じています。

リアルな日常生活における困難については原文をあたってもらうことにして、一部だけ抜粋します。

****破綻国家ベネズエラの耐えがたい日常 異形の国家が生き延びる理由****
ファシズム政権の暗部を隠す広告燈の役割も担っていたオーケストラ、エル・システマのバイオリン奏者Armando Cañizales(18)も抗議中に銃弾を受け殺された。
 
政治活動や言論の自由を求めて、何十万、何百万という国民がデモを行うことは、めったにない。独裁政権でも、それなりの生活が保障されていれば、国民はさほど文句を言わない。

ベネズエラでは、国会の立法権の剥奪の試み、大統領選出馬阻止を目的とする野党リーダー、エンリケ・カプリレスの政治活動15年の禁止と、その事務所への放火などをきっかけに、マドゥロ大統領退陣を求める大規模な抗議行動が3年振りに広がっている。

底流には何があるのか? 昨年7月まで6年ほど留まっていたベネズエラの耐えがたい日常を報告する。

電気も水もない 銃弾はある
土曜日の午前中にテレビでチャンピオンリーグの試合を見ているとき、突然、停電となった。途上国では珍しいことではない。水不足に加え、送電網や変電所の整備不備、盗電なども重なり、計画停電が続いている。

だが、実質無計画停電。いつ復旧するのか? 1日、2日、3日と続くことがある。電気がないとポンプが働かず、水も出ない。トイレの水も流れない。食事も作れない。シャワーも浴びられない。カリブの暑さは格別だ。たちまち汗がたらたらと落ちて行く。(中略)

自宅に戻ってから、自転車でパン屋とスーパーマーケットをはしごする。残念ながら、パンはどこにもない。小麦が手に入らないのだ。

でもラッキー! 2週間ぶりでスパゲティを見つけた。4000ボリバル、あっという間に価格は2倍になっている。5つ買えば、ベネズエラ人の月給はふっとんでしまう。
 
トイレットペーパーを買いたかったので、中国人経営の雑貨屋にも寄ってみた。ところが長蛇の列。紙おむつ、シャンプー、石鹸、鶏肉、トウモロコシの粉(アレパという主食を作る)などの価格統制品を買うための闇商人と普通の人たちだ。

身分証明書の番号によって、購入曜日が限られている。筆者は、日曜日と金曜日。だがめったに並ばない。
 
暑い日差しの中、早朝5時から3時間、4時間と並んでも、購入できる保障はない。途中、必ずといっていいほど、列のどこかでイライラが募り、小競り合いが始まり、警官の出動となる。あるいは略奪が始まる。人間の尊厳など皆無の長い長い不幸な苦役だ。だから、路上などで闇商人から数倍の値段で購入する。(中略)

時折、数カ月ぶりかで、友達に会うと驚く。ふっくらとしていたはずなのに、痩せて一回り小さくなっている。1日3回食べられるベネズエラ人はさほど多くはない。(中略)

どの店にも薬も注射液も存在しない。外貨不足で輸入できない。
 
国際金融市場にはベネズエラのデフォルトの噂が数年前から流れ続けている。けれども腐敗しているがゆえにこそ政府はどんな手段を使っても返済する。

もしデフォルトとなり政府が国際管理になったならば、政権は崩壊する。国家反逆罪、人権侵害、麻薬密売の罪が待っている(=『家に食べ物がなければ、盗むほかない 犯罪立国の謎(その1)』参照)。外貨は借金返済のためにある。(中略)

ベネズエラ国民の悲劇
10カ月が経過した。さすがのベネズラ人も我慢の限度にきたようだ。全土で何十万人もの人間が政府に対する抗議デモを1カ月以上続けている。

ところが、彼らを待ち受けているのは、催涙ガス、時に実弾、装甲車による轢殺、そして拷問の待つ刑務所だ。その上、犯罪集団がここぞとばかりに商店略奪へと繰り出す。
 
あっという間に犠牲者の数が10人、20人と増えて行った。憎悪の炎が一層盛り上がる。若者たちは糞爆弾や火炎瓶の投擲で装甲車に挑み、治安部隊の何人かを血祭りに上げる。

催涙ガスが実弾へと変わり始める。30人、40人、50人と犠牲者が増える。医師を目指していたのエル・システマのバイオリン奏者も射殺される(5月3日 若干18 歳)。治安部隊の側にも1人、2人と死者が出る。
 
このような時にこそ、ファシズム独裁政権(『民主政権下でのハイブリッド型ファシズム独裁の作り方』参照)はその真価を見せる。

マドゥロ大統領はサルサを踊り、新たな憲法を作ると宣言した。自信たっぷりだ。コカイン利権に深く関与する軍と治安警察が裏切ることはありえない。彼らの真の役割は国内反対勢力と国民の弾圧である。
 
もし万一彼らが裏切ったときは、チャべスが飼いならしてきた民兵がいる。もしも民兵に裏切られた時は、キューバの警護隊が政府高官と大統領を守る。ベネズエラ政府は盤石の態勢に見える。
 
その上、国際社会は北朝鮮と同様にベネズエラ政府の崩壊は望まない。

共産主義の変種チャべス主義を信奉し、反米なのにアメリカとの交易が25%以上を占め、トランプ大統領に献金し、スホイ戦闘機など最新兵器はロシアから買い、石油資源は半ば中国の担保に入り、政治はキューバの指示を仰ぎ、世界一の石油埋蔵量を持つのにガソリンを輸入し、国際金融への債務は必ず返す。

そのような政権はさほど悪いものではない。悲惨はすべて国民に負わせる。こうして、異形の国家は生き延びて行く。
 
かつてチリのピノチェト軍事独裁政権下の終末時に「Por No! =独裁にノー!」というクンビアの歌が全土に流行った。今はせめて国際社会にこの歌が流布されるとことを希望して。「ミスユニバースの国の自由へのバラード」
http://www.el-nacional.com/videos/protestas/video-conmovedor-las-heroinas-abarrotaron-las-calles-caracas_26386【5月27日 風樹茂氏 WEDGE】
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【「ベネズエラ庶民の苦しみから手っ取り早く一儲けすることにした」ゴールドマン
“ベネズエラほぼ内戦状態 政府保管庫には大量の武器<権力の座にしがみつこうとする一人の独裁者のせいで、経済と政治の危機から戦争状態へ>”【5月23日 Newsweek】といった記事もありますが、耐えがたい混乱にもかかわらず政権が維持されるのは、単に“権力の座にしがみつこうとする一人の独裁者のせい”ではなく、マドゥロ大統領を頂点とする周辺既得権益層、軍、警察、そして民兵組織という“権力構造”が存在するからです。

マドゥロ大統領個人はその中のひとつの駒にすぎず、場合によってはマドゥロ大統領を辞職させ、首をすげかえて体制の維持をはかることも行われるでしょう。

また、現体制を支えてきた中国・ロシア・キューバなどは別にしても、国際的にマドゥロ政権を批判する欧米諸国は多々ありますが、“国際金融への債務は必ず返す”限りは、なんだかんだ言われながらも延命が可能にもなります。

現体制にとって命綱ともいえる借金返済のための外貨獲得に、アメリカ・ニューヨークに本社を置く世界最大級の投資銀行「ゴールドマン・サックス」が加担しているとして批判を浴びています。

****ベネズエラ反政府デモ、米ゴールドマンに飛び火****
体制を支える「飢餓債」購入に怒り、マンハッタンの本社前で抗議へ
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年5月31日付)

ベネズエラ政府に抗議している野党勢力の幹部らは、窮地に立たされている同国からほぼ30億ドル相当の債券を購入したことで米ゴールドマン・サックスを非難し、これは他人の不幸からカネを稼ぐ利己的な行為だと訴えている。

デモ隊は彼らが「飢餓債」と呼ぶ証券を購入したことを批判し、マンハッタンにあるゴールドマンの本社に押し掛ける準備をしていた。

ベネズエラは経済・政治危機に見舞われており、国民は食料を買うために行列を作り、病院は医薬品不足を報告している。インフレは3ケタに達している。国際通貨基金(IMF)の試算では、ベネズエラ経済は昨年18%縮小しており、2017年も大幅な経済縮小が見込まれている。

反体制派のグループはこの2カ月というもの、ほぼ毎日街頭に繰り出し、不人気なニコラス・マドゥロ大統領を退陣させるための選挙実施を要求している。

外国企業はおおむね、投資をやめた。ベネズエラは債券償還資金をまかなうために外貨準備に手をつけており、同国の外貨準備高は4年前にマドゥロ氏が大統領に選出される前の300億ドルから100億ドル程度まで減少している。

ゴールドマンは先週、資産運用部門のゴールドマン・サックス・アセットマネジメント(GSAM)を通じて流通市場で問題の債券――ベネズエラの国営石油会社PDVSAが発行したもの――を購入した。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、GSAMは最近までベネズエラ中央銀行が保有していた28億ドル相当のPDVSA債を約8億6500万ドルで購入したと報じている。

GSAMは投資を擁護し、債券はあるブローカーから買ったもので、ベネズエラ政府とは接触していないと述べた。問題の債券は同社がクライアントのために運用するファンドや口座で保有されるという。

「状況が複雑で変化していること、ベネズエラが危機に陥っていることは認識している」。GSAMは声明でこう述べた。「ベネズエラの生活が改善されなければならないことには同意する。改善されると考えているからこそ投資した面もある」

ブルームバーグのデータによると、PDVSAは2014年に発行した債券に6%の利率を払っている。

ベネズエラの閣僚経験者で現在は米ハーバード大学の国際開発センター長を務めるリカルド・ハウスマン氏は、ゴールドマンは大幅なディスカウントで債券を買ったことから48%の利回りを期待できると指摘する。

「この債券は飢餓債だ」とハウスマン氏は言う。「ゴールドマンは人権について、守ることを誓った指針を出している。今回、自ら立てた誓いを破った」(中略)

野党議員のフリオ・ボルゲス氏はゴールドマンのロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)に宛てた公開書簡で、ゴールドマンは「ベネズエラ庶民の苦しみから手っ取り早く一儲けすることにした」と書いた。

「ゴールドマンが政権側に与えた金銭的な命綱は、国の政治改革を求めて平和的に抗議している何十万人ものベネズエラ国民に対して振るわれる残忍な抑圧を強める役目を果たす」。(中略)

今回のデモは、ロウアーマンハッタンにあるゴールドマン本社に抗議者が集まる最新の事例となる。今年に入ってからは、デモ隊が、ゴールドマン出身者らがトランプ政権の最高幹部職に就くことに抗議した。【6月1日 JB Press】
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“債券はあるブローカーから買ったもので、ベネズエラ政府とは接触していない”とのことですが、“最近までベネズエラ中央銀行が保有していた”ということからして、間に入ったブローカーも最終的にゴールドマンが引き受ける前提であり、実質的に資金はゴールドマンからベネズエラ中央銀行に入った・・・ということではないでしょうか。

仮に、単なる市場での債券購入だとしても、そういう購入者がいることで結果的に債券発行が容易になり、ベネズエラ側の外貨獲得が維持されるという構図はあるでしょう。
債券取引とは全く縁がない貧乏人なのでよくわかりませんが・・・・。

“改善されると考えているからこそ投資した”云々にいたっては噴飯もので、再建を安く買い叩くことで、“ベネズエラ庶民の苦しみから手っ取り早く一儲けすることにした”というのが実態でしょう。

ゴールドマンは、自分たちが支えるマドゥロ政権は抗議行動を徹底弾圧することでこの先もしぶとく生き残ると判断しているようです。

「飢餓債」の購入を止めるようにとの運動は8カ月前に始まったもののようで、ゴールドマンはそうした批判・抗議があることを承知で購入に踏み切ったようです。

結果的に、世界の注目を集めることで、ゴールドマンは抗議行動の存在を世界に広める“貢献”をした・・・とも。

****ゴールドマン、ベネズエラの「飢餓ボンド」運動に期せずして貢献****
ベネズエラの「飢餓ボンド」運動は開始から8カ月間、あまり前進しなかった。

非人道的政権への支援となる債券への投資をやめるよう国際的投資家に働きかけ、少なくとも同国の窮状の認知度を高める取り組みだが、この運動の名前すら少数の専門家の中で知られているだけだった。
  
そこへ、米ゴールドマン・サックス・グループが国営企業の社債に大きく投資した。全ての抗議運動には引き立て役が必要だが、過去に何回もこの役回りを果たしているゴールドマンが今回も役割を演じ、運動は一躍知名度を増した。

ニューヨークの同社本部ビル前では30日、デモ参加者らが「飢餓ボンドを買うな」とシュプレヒコールを繰り返した。飢餓ボンドの名前がインターネット上を駆け巡り、数々のツイートや飢えたベネズエラ人が食べ物を探す画像が登場した。

知名度アップでベネズエラ債ボイコットが成功するとは限らないが、昨年この運動を開始したベネズエラのビジネスマン、ホルヘ・ボッティ氏は大喜びだ。

「資本に心はないと友人たちは言うが、世界には違う機能の仕方もあると思う」と言う同氏は、運動が「少し世界に響き渡り始めるだろう」と述べた。【6月1日 Bloomberg】
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国民を銃弾で押さえつける強権支配政権と“資本に心はない”国際投資銀行の組み合わせは、これ以上はないほどわかりやすい組み合わせです。

2011年の“ウォール街を占拠せよ”運動、大統領選挙でのウォール街批判に乗ったサンダース氏やトランプ氏の躍進もわかる気がします。(なお、周知のように、「ワシントンから腐敗したウォール街及び政治に影響を与える富豪支配層を一層する」と公約したトランプ氏の政権にはゴールドマン出身者が多数入り、“ゴールドマン政権”とも言われています。)
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