(苦戦の国民会議派にあって、存在感を見せているガンジー家令嬢プリヤンカ・ヴァドラ氏 “flickr”より By Pressbrief .in https://www.flickr.com/photos/28101929@N08/13909864498/in/photolist-ncaG6Y-ntHH4f-ntE5bK-ncawtF-nxAdKk-nvR5VL-nrzZxY-nrzRBN-nc8LJ8-nc8FUk-nvpjsX-ntEwj5-nc8Z8j-nc8STU-nc8DMV-nc8Xs3-nvpj7B-nc8EYF-ncc4go-nejGyH-nc8Kt2-ntkNMa-npmHbg-nboK1j-ndrmXz-nboLch-ndr6wB-nboHr7-nboGoq-nvTdG3-ntNL69-nvTegu-nemRb8-nen1UN-nemKNH-ntNKgo-nssQb6-noDUko-noDLxQ-noDD9b-nst4yZ-nssVGX-nqJKRf-nqpSPj-nqq3E1-nqpZxj-nqpW3x-nqJBSu-nqq2Gj-nqq1Ww)
【多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の亀裂が拡大】
インドでは、有権者約8億1459万人の「世界最大の選挙」が4月7日に始まりましたが、投票は5月12日まで国内各地で9段階に分けて順次行われ、5月16日にまとめて開票されます。
ということですから、現在進行中で結果はまだわかりません。
投票時間終了と同時に、各TV局の結果予測が一斉に流される日本とは随分異なります。(開票率0%で当確が打たれる日本の“早すぎる”選挙速報にも違和感がありますが)
4月10日ブログ「インド 「世界最大の選挙」実施中 新首相の可能性が高いモディ氏の危ない側面」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140410)でも触れたように、“ネール・ガンジー王朝”の与党・国民会議派が敗北し、ヒンズー至上主義的な野党のインド人民党(BJP)がおそらく勝利するものと見られています。
その場合、グジャラート州の州首相として経済運営で実績がある、人民党の党首モディ氏が首相になることが予測されますが、そのヒンズー至上主義的な姿勢に危うさもあることを、前回ブログで取り上げました。
もっとも、BJPが第1党になっても、過半数に届かない場合は各政党間の連立ということになりますが、議席数によっては第1党のBJPが組閣できない場合もあり得ます。
今日は、進行中のインド総選挙に関する様々な話題をとりあげます。
最大の懸念は、BJPのヒンズー至上主義的な姿勢がもたらしている宗教間の緊張の高まりです。
多宗教国家インドにとっては、国家の根幹にかかわる問題です。
****相次ぐヘイトスピーチ=顕在化する宗教の亀裂―印総選挙****
4月7日に始まったインド総選挙が後半戦に突入する中、他宗教の住民を敵視するヘイトスピーチ(憎悪表現)が相次いでいる。
選挙管理委員会が問題発言をした政治家らを処分して沈静化を図るが、憎しみは憎しみを呼び、多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の亀裂が広がっている。
「イスラム教徒に報復を」。ヒンズー至上主義を掲げる野党インド人民党(BJP)のアミット・シャー幹部はこのほど、昨年8~9月に宗教間暴動が起きたウッタルプラデシュ州ムザファルナガルでの演説で、有権者をこう扇動した。
BJP首相候補のナレンドラ・モディ氏の右腕とされるシャー氏の発言に、暴動で60人以上が死亡したイスラム教徒は色めき立った。慌てた選管はシャー氏の選挙活動を一時的に禁止した。
それでも、ヘイトスピーチに歯止めはかからない。別のBJP幹部は東部ビハール州で「モディ氏を批判する者はパキスタンに行け」と発言。さらに、ヒンズー過激派「世界ヒンズー評議会」幹部が、ヒンズー教徒居住地域からイスラム教徒を退去させるべきだと話す映像も流出した。
一方、イスラム教徒の支持を受ける社会党幹部も「暴動の殺りく者の手にこの国を渡すな」と発言し、選管から処分を受けた。【5月1日 時事】
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こうした流れは予測された事態であり、宗教間の対立からムスリム票は反BJPに殆ど流れるのだろう・・・と思っていたのですが、必ずしもそういうことでもないそうで、やや意外です。
*****インド:総選挙で割れるイスラム教徒 次期首相候補に賛否****
インド総選挙で勝利が予想されるヒンズー教至上主義政党・インド人民党の支持を巡り、人口の1割強を占めるイスラム教徒が割れている。
その多くが人民党の過激思想に警戒心を抱く一方、インテリ層を中心に党の次期首相候補、ナレンドラ・モディ氏(63)の経済手腕に期待が高まっているためだ。
16日の開票を前に、「ムスリム(イスラム教徒)票」の行方が注目されているが、政治アナリストのK・G・スレーシュ氏は「ムスリムは今回の選挙で両極化するだろう」と分析している。
「モディは良くない。危険だと思う」。首都ニューデリー南部のモスク(イスラム礼拝堂)近くの市場で、織物屋の店員、ムシームさん(23)は声を潜めた。
モディ氏は党の支持母体である極右団体「RSS」(民族奉仕団)出身。2002年に自身が州首相を務める西部グジャラート州でヒンズー教徒とムスリムが衝突した際、適切に対応せずヒンズー教徒による虐殺を黙認したと批判されている。だが、世論調査では人民党の大勝が予想され、次期首相に最も近い人物だ。
こうした中、一部の社会活動家らは人民党以外に投票を呼びかけるキャンペーンを展開。だが、与党・国民会議派は失政で支持が伸び悩み、腐敗一掃を掲げる新党・一般人党も浸透しているとは言えない。
結果的にムスリムの「反モディ票」は分散するとみられている。イスラム教の聖職者イジャーズ・フセイン師(70)は「ムスリムの指導者さえまとまっていない」と嘆く。
一方、州首相としてグジャラート州を発展させたモディ氏に期待するムスリムも多い。
インド映画の国民的スター、サルマン・カーン氏は人民党の選挙運動を支援。脚本家の父もモディ氏の公式サイトをつくった。モディ氏の伝記漫画を出版した人気漫画家、ハニフ・アズハルさん(46)は「グジャラート州のムスリムは発展の恩恵を受けた。インテリ層はこのことに気づいている」と話した。【5月9日 毎日】
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“州首相としてグジャラート州を発展させたモディ氏に期待するムスリムも多い”・・・・ヒンズー対イスラムという不毛の宗教対立の枠組みを脱した、建設的な発想と見るべきか、それとも、カネさえ儲けさせてくれれば、その政治姿勢は問わないという無責任さと見るべきか・・・・。
【選挙で煽られたマイノリティ同士の対立】
一方、インド北東部アッサム州西部では、モンゴロイド系ということでインド社会において差別の対象となってきた少数民族ボド族(大半がヒンズー教徒で一部はキリスト教徒)と、多数派ヒンズーから差別を受けるイスラム教徒・・・というマイノリティ同士の対立が選挙によって噴出しています。
****インド:少数民族がイスラム教徒虐殺34人死亡****
インド北東部アッサム州で今月、少数民族ボド族がイスラム教徒を襲撃し、少なくとも34人が殺害された。
先月に投票があった総選挙でイスラム教徒がボド族の候補を支持しなかったことが背景にあるとみられ、16日の開票を前に治安当局が警戒を続けている。
報道によると、1日夜から2日にかけて、同州コクラジャルなどでボド族の集団がイスラム教徒を無差別に銃撃し、家屋に放火した。被害者には女性や子供も含まれるという。
コクラジャルでは先月24日に総選挙の投票があった。地元紙によると、イスラム教徒の8割はボド族の対立候補に投票したとされ、今回の衝突の要因になった可能性がある。
治安当局者は4日、ボド族の独立国家創設を主張する過激派組織「ボドランド民族民主戦線」が虐殺を主導したと指摘した。
ボド族は州人口(約3100万人)の1割弱を占めるとされ、バングラデシュの公用語・ベンガル語を話すイスラム教徒を「不法移民」と批判している。同州では2012年にもボド族とイスラム教徒の衝突があり、約100人が死亡した。
総選挙で勝利が予想されるヒンズー至上主義政党・インド人民党の次期首相候補、ナレンドラ・モディ氏(63)は4日、隣接する西ベンガル州で移民について「インドの若者の生計手段を奪っている」と演説し、強硬姿勢を示した。【5月5日 毎日】
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****イスラム教徒を少数民族が殺害 インドアッサム州でマイノリティー間の衝突再び****
・・・・コクラジャルは、ボド族が主導して自治を行う「ボド地域自治区」(約88万人在住)の中心都市だ。
付近では、ボド族とイスラム教徒というインドにおける民族と宗教の“マイノリティー間”の衝突がたびたび起きてきた。12年に103人が死亡した事件の以前にも、08年10月に64人が殺害されている。
■総選挙で対立再燃
対立の根は、もともとボド族が多く住んでいた地域で、ベンガル系などのイスラム教徒住民が増えてきたことにある。この地域には、03年に「ボドランド地域評議会」と呼ばれるボド族中心の自治組織と、ボド地域自治区が作られた。しかし、現在はボド族の占める割合は30%程度しかないとされる。
多数派からの陥落で自治を主導する立場を脅かされているボド族は、イスラム教徒の人口増はバングラデシュからの不法移民のせいだと訴えてきた。
今回の襲撃は、総選挙でイスラム教徒らがボド族候補に投票せず、別の独立系候補を支持したことにボド族住民が腹を立てたのが原因とみられ、現地の警察はボド族居住地域の解放を訴える反政府武装組織ボドランド民族民主戦線(NDFB)の仕業とにらんでいる。
イスラム教徒側は、NDFBだけではなく、ボドランド地域評議会を主導する地域政党のボドランド人民戦線(BPF)が関与したと主張している。(後略)【5月10日 産経】
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ミャンマー西部ラカイン州において、ミャンマー全体においては少数民族の立場にある仏教徒・ラカイン族が、バングラデシュからの不法移民であるとしてイスラム教徒ロヒンギャと激しく衝突している状況と似たような感もあります。
BJPモディ氏がバングラデシュからの不法移民取締り強化の主張を繰り返していることが、アッサム州での対立を煽っているという点に関しては、“国民会議派も「モディ氏はインドを分断させるモデルだ」(カピル・シバル連邦政府法相)と非難を強めているが、BJP側は「法と秩序を維持せず、武装集団の取り締まりをできない国民会議派のせいだ」と反論している。”【同上】とのことです。
【苦戦の国民会議派の救世主になれるか?ガンジー家「令嬢」】
苦戦が予想されれている国民会議派については、“ネール・ガンジー王朝”の“御曹司”ラフル・ガンジー副総裁(43)の迫力不足については前回ブログでも触れました。
その際に、ラフル・ガンジー氏の妹であるプリヤンカ・ヴァドラ氏が政治的資質の評価が高く、祖母譲りのカリスマ性もあって「インディラ・ガンディーの再来」とも言われているということも紹介しましたが、選挙戦でもこの“ご令嬢”が存在感を見せているようです。
****ガンジー家「令嬢」が救世主に=兄押しのけ、存在感増す―インド総選挙****
インド総選挙で与党国民会議派の敗色が濃厚となる中、名門ガンジー家の「令嬢」プリヤンカ・ガンジー・バドラさん(42)の存在感が増している。
対立する野党インド人民党の首相候補ナレンドラ・モディ氏(63)との舌戦にも一歩も引かず、会議派の「救世主」との呼び声が高い。同党の実質的首相候補の兄ラフル・ガンジー氏より指導者にふさわしいとの声すら上がっている。
「リーダーに必要なのは力ではなく、大きな心だ」。プリヤンカさんは4月下旬、こう言い放った。次期首相有力候補とされるモディ氏が自らを指し、「経済発展には胸囲56インチ(約142センチ)の胸が必要だ」と発言したことを受けたものだった。
ネール初代首相ら3人の首相を輩出したガンジー家出身。祖母と父はいずれも元首相で、母は会議派総裁を務める。実業家と結婚し、政治の表舞台には立たなかった。
しかし、会議派の歴史的大敗が予想される今回の総選挙では各地を行脚し、モディ氏と真っ向から対決。モディ氏がラフル氏の演説におけるミスを指摘し「コメディアンより面白い」とやゆした際には、「何を子どもじみたことを言っているのか」と一蹴し、兄をかばった。
メディアへの露出度はラフル氏を上回る勢いで、会議派巻き返しの原動力になっている。【5月8日 時事】
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敗戦必至と言われる国民会議派も、負け方次第では選挙後の連立工作で息を吹き返す余地がありますから、ご令嬢の活躍は重要です。
【選ぶ側、選ばれる側の資質の問題】
****インド:総選挙に映画スター 過去最多24人の候補者****
7日に投票が始まったインド総選挙(改選数543、5月16日開票)で、映画スターの候補者が乱立している。インドでは独立以降、元女優の州政府首相が誕生するなど映画界から政界入りする例は珍しくない。
だが、今回は映画界からの候補者数が前回(2009年)の約5倍に上っており、「セレブに貧困問題が理解できるのか」などと批判も上がっている。(後略)【4月19日 毎日】
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このあたりは、日本の選挙でも“タレント候補”がしばしば問題になるように、インドだけの話ではありません。
もっと手厳しい批判もあります。
****インド総選挙の争点は政策より女性関係?****
インド各州で総選挙の投票が進むにつれて明らかになってきたのは、今回の選挙は激しくも醜い戦いだということだ。ついには政治家の私生活まで争点になり始めた。
国内メディアは、政治家の私生活の暴露や中傷に走り、レベルの低さをさらけ出している。政党間の争いから浮
き彫りになっているのは、インド社会の暗部-偽善、女性蔑視、時代錯誤な国民性だ。
(中略)
インド国内はこうした論争に終始し、肝心の政策論争は下劣なものにすり替わってしまった。
メディアは関係者のプライバシーを顧みずに写真を垂れ流し続けている。
一方の国民も、普通の人間なら誰でも行うようなことをあげつらう。卑しさをむき出しにして相手の女性を非難す
るのは、その女性が自分の人生を選ぶ権利を無視する行為と言っていい。(後略)【5月13日号 Newsweek日本版】
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まあ、このあたりについても、日本も似たり寄ったりのところで、あまりインドをとやかく言える立場にありません。
女性関係が焦点になるのは、昨今のインドにおける女性問題への意識の高まりが関係しているのかもしれません。
****インド選挙の「ウーマニフェスト」 女性の権利が争点に****
インドの首都ニューデリーで2012年12月に女子学生(当時23)がバス車内で集団レイプされ死亡した事件を転機として、インド国内では女性の権利を巡る議論が一気に活発になった。事件後に全国規模で抗議運動が起こり、政治問題と化したのである。
インド最高裁弁護士のカルナ・ナンディ氏によれば、抗議運動がこれほど盛り上がったのは、インド中の女性による「もうたくさんだ」という意思表示に他ならない。
こうした思いは、今回のインド総選挙でも多くの有権者に共有されている。
最近の世論調査によると、90%以上の有権者が、選挙で優先されるべき争点として、女性への暴力の根絶をあげた。さらに、75%の有権者が、政治家が示した女性の権利擁護の公約を不十分だと考えていることも明らかになった。
ナンディ氏は「政治家はこの状況に対処しなければならない」と述べ、政治の側での対応を促す。(後略)【5月4日 CNN】
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インドの場合、メディアや一般国民だけでなく、議員自身の資質にも大きな問題があります。
選挙目当てのばらまきは言うに及ばず、04年総選挙で当選した543人の国会議員のうち、犯罪の嫌疑をかけられた経験のある人物が128人(殺人が84件、強盗が17件、窃盗及び恐喝が28件)いたそうで、犯罪とのかかわりを指摘される議員が多すぎて議会が混乱状態に陥ったとか。【2009年3月18日号 Newsweek日本語版より】
いろんな問題は抱えつつも、まずは16日の開票結果が待たれるところです。
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