孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ 「苛政は虎よりも猛し」 経済崩壊へ転げ落ちても、なお政権を維持するマドゥロ大統領

2018-08-20 22:40:29 | ラテンアメリカ

(アイスキャンディーを買うための紙幣を数える男性(16日、カラカス)【8月20日 WSJ】)

2018年末までにインフレ率は100万%に 食料や医薬品、さらには燃料も不足 医療も崩壊
石油資源に恵まれ、かつては豊かな国だった南米・ベネズエラが、古色蒼然とした反米・左派を掲げるマドゥロ大統領の失政・無策で猛烈なインフレーションに襲われ、国民の多くが食事も十分にとれない苦境(ベネズエラの人口3100万人のうち、約4人に1人が1日2食以下で過ごしているとも)に陥っていることはこれまでも再三取り上げてきました。

問題は、これだけの失政を続けて経済破綻を招いても、強権支配に支えられた権力を引きずりおろすことはなかなか困難なことであり、野党勢力の分断もあって、今もマドゥロ体制が維持されていることです。

8月4日には、マドゥロ大統領が国家警備隊創設81周年の式典で演説中、爆発物を積んだ小型無人機ドローンが上空で爆発するという“大統領暗殺未遂事件”もありましたが、マドゥロ政権は野党議員を拘束するなど野党側への取り締まりを強め、(当然に体制内組織である)最高裁は8日、野党のボルヘス元国会議長に対する拘束命令を出しています。

****大統領暗殺未遂で14人逮捕「自作自演」指摘も****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領を標的に小型無人機「ドローン」が爆破された暗殺未遂事件で、ベネズエラ政府は14日、事件に関与した疑いがあるとして、13日までに計14人を逮捕したと明らかにした。
 
政府の発表では、逮捕した14人の中には軍高官2人や野党議員が含まれている。ベネズエラのサーブ検事総長は「米国や隣国コロンビアにいる人物を含む34人が事件に関わっており、うち20人は逃走中だ」と述べた。
 
事件は4日夕、首都カラカスで開かれた軍の行事の最中に発生した。マドゥロ氏が演説中に爆薬を積んだドローン2機が爆発し、兵士7人が負傷した。米国や野党関係者は自作自演の可能性を指摘している。【8月15日 読売】
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当然のようにマドゥロ大統領は反対勢力弾圧を強め、現在の経済破綻もこうした反政府勢力や外国勢力のせいだと責任転嫁しています。

自作自演云々の真相はわかりません。

“今回の事件では「Tシャツの兵士」を名乗るグループが犯行声明を出したが、その実態についてはほとんど知られていない。軍と警察内部にも反政府勢力がいると見られ、2017年6月末には警察のヘリコプターがカラカスにある最高裁判所と内務省を攻撃する事件も起きている。”【8月16日 Newsweek】との指摘も。

いずれにしても、マドゥロ個人を排除しても、与党とこれに協力する軍部の体制が残る限り、単にトップの首のすげ替えに終わるだけです。そして弾圧は強化されます。

****ベネズエラで止まらない危機の連鎖──首都カラカスの断水で病院の手術ができない****
<ドローン爆発による暗殺をまぬがれたマドゥロ大統領は「米政府の支援を受けた」反政府勢力にすべての責任をなすりつけるが>

ハイパーインフレ、不足する医療物資、スーパーの棚は空っぽ――国民の苦難が続くベネズエラの首都カラカスで、水不足がさらに追い討ちをかけている。

ロイター通信によると、医療器具が洗えない病院では手術を延期せざるを得ない、と伝えた。

断続的に水が出ることはあるが、しょっちゅう汚い水が出る。ただでさえワクチンや抗生物質が不足し、十分な医療が提供できないのが現状で、病院はリスクを承知で汚れた水を使うしかない。

ベネズエラ中央大学病院では、手術待ちの患者が増える一方だ。「手術の前に手を洗う必要があるが、蛇口を開けても水が一滴も出てこない」と、婦人科医のリナ・フィグエリアは嘆く。

5年前から経済危機に苦しむベネズエラ。2015年の原油価格の大暴落で、事態はさらに悪化した。財政破綻寸前に追い込まれた政府は紙幣を大増刷。この対応がハイパーインフレを招き、通貨ボリバルは紙屑同然になった。

300万人のカラカス市民は、日常的な断水に直面している。カラカスは海抜900メートルの盆地に位置し、低地にある水源からポンプで水を汲み上げているが、予算不足でポンプや配管のメンテナンスができなくなっている。

「長年にわたって設備の老朽化が気付かないうちに進んでいた。今や水の供給システム全体が手の施しようがないほど劣化している」と言うのは、カラカスの上水道を運営している国営の水道会社ヒドロカピタルのホセ・デビアナ元社長だ。

100万%の超インフレ
ベネズエラのNGOの調査によると、カラカス市民のざっと75%は恒常的な水の供給を受けられていない、水の汚染による皮膚炎や胃腸障害を訴える人は約11%にのぼるという。

ホルヘ・ロドリゲス通信情報相は今年7月、水危機の解消を目指す「特別計画」があると発表したが、詳細は明らかにしなかった。

ニコラス・マドゥロ大統領率いる現政権は、政権打倒を企む右派テロリストが首都の上水道施設を破壊していると主張。そればかりか大統領とその取り巻きは、米政府の支援を受けた国内の反政府勢力が「経済戦争」を仕掛け、ベネズエラ経済の危機を拡大しようとしていると国民に説明している。

現実には通貨価値の大暴落で輸入がストップし、食料や医薬品、さらには石油大国にもかかわらず燃料まで不足。

IMF(国際通貨基金)が7月に発表した予測によると、2018年末までにインフレ率は100万%に達し、「深刻な経済・社会危機」が続く可能性があるという。政府はもはや公式データを発表していないため、正確なインフレ率は算出しにくい。

食料確保も困難な状況で、ベネズエラからコロンビアなど周辺国に脱出する難民は増加の一途をたどる。国連によると、ベネズエラ難民はすでに230万人に上り、引き続き1日に5000人前後が国境を越えていると見られている。(後略)【8月16日 Newsweek】
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社会主義的なバラマキに終始し、生産設備や社会インフラへの投資を行ってきたつけが回ってきています。
今になって、市場を無視した価格統制令や、強制的な商品供給命令を出しても、事態は改善しません。

それにしても“100万%の超インフレ”というものがどんなものなのか、まったく想像ができません。(政府が公式データを発表していない状況で、もはやこうした数字も意味を失っているようにも)

貨幣経済は機能しているのか?具体的には、市民が買い物するさいの支払いはどのように行われているのか?

そうした疑問への答えのひとつが冒頭写真です。
アイスキャンディーひとつ買うのに相当の札束は必要ですが、一応こうした紙幣による売買は行われているようです。

ただ、払う方も、受け取る方も、金額の確認が恐ろしく大変でしょう。
また、もっと高額な商品の売買ではどうしているのでしょうか?

ハイパーインフレーションについては、第1次大戦後のドイツ・ワイマール共和国が有名で、最近ではアフリカ・ジンバブエのインフレも天文学的数字のレベルに達しました。

ドイツでは買い物の際に札束をつめた大きなバッグを引きずって出かける様子の写真を、昔世界史の教科書で見たような記憶があります。

ネット検索すると、1946年のハンガリーで、ゴミ以下の価値化しかないお札を箒で集める写真が。ハイパーインフレに関する本の表紙にもなっている写真です。

(史上最悪の1京3,600兆パーセントのインフレに見舞われた 1946年のハンガリーで「ゴミより価値がなくなった」紙幣を集めて捨てている。この時の紙幣の額面は、 100,000,000,000,000,000,000 (1万京)だった。【http://oka-jp.seesaa.net/article/187508353.html】)

“紙幣の額面は、 100,000,000,000,000,000,000 ”・・・・そんな数字はもはや認識できません。
ベネズエラでもデノミを実施するようです。

****100000→1 ベネズエラで通貨ボリバルを切り下げ****
深刻なインフレが起きている南米ベネズエラで、通貨を切り下げるデノミネーションが20日に実施され、ゼロが5桁削除される。

ただし、国際通貨基金(IMF)は同国の2018年のインフレ率が100万%に達すると予測しており、デノミの効果は限定的との見方が強い。
 
19日現在、対ドルの公定レートは約25万ボリバル。今年2月上旬は同約2万5千ボリバルで、6カ月間で価値が10分の1になった計算になる。闇で交換される実質レートは、さらに数倍の開きがある。
 
電話取材に応じた首都カラカスの市民によると、デノミへの対応のため、銀行や大半の商業施設が営業しておらず、20日も営業しない見通しだという。
 
ベネズエラは故チャベス大統領時代から、埋蔵量世界一とされる豊富な石油資源の収入を元手に貧困層の支援に力を注いだ。

だが、原油価格の低迷などで社会主義的政策が行き詰まり、経済危機に直面。多くの国民がブラジルやコロンビアなど周辺国に逃れる事態となっている。【8月20日 朝日】
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単にゼロの数を減らすデノミだけでなく、いろいろ通貨制度をいじるようです。

****ベネズエラ、仮想通貨ペトロとのペッグ制導入 実質96%切り下げ****
ベネズエラのマドゥロ大統領は17日、独自の仮想通貨ペトロにペッグした通貨制度の導入を発表した。実質的には96%の切り下げとなる。

マドゥロ大統領は、向こう数週間に最低賃金を3000%超引き上げ、法人税率を引き上げるほか、ガス価格を引き上げると明らかにした。

コンサルタント会社エコアナリティカのエコノミスト、アズドルバル・オリヴェロス氏は「大幅な切り下げと、最低賃金引き上げという金融の拡張で、一層深刻なハイパーインフレが起きるだろう」と指摘した。

大統領は為替レートを見直し、給料や年金、物価をペトロにペッグすると述べた。政府がこうした変更をどのように実行するのかは現時点で不明で、ロイターは情報省に取材を試みたが、まだ応答はない。

大統領の17日の説明によると、今回の改革で1ペトロは60ドル、3億6000万ボリバルに等しくなる。

つまり、新たな相場は1ドル=600万ボリバルと、闇市場で広く使われている相場とほぼ同じになり、公式為替レート(DICOM)の現行水準である1ドル=24万8832ボリバルと比べて、96%の切り下げに相当する。【8月20日 ロイター】
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何だかよく理解できません。

仮想通貨自体がよく理解できませんが、ペトロは“初期値は1月中旬時点の1バレル当たりのベネズエラ産原油価格に基づいている。ただし、ペトロは自国の埋蔵原油などを裏づけとしており、ウグベル・ロア大学教育・科学技術相は「価格は原油市場の変動で変わる」と指摘した。【2月1日 AFP】”と、石油にリンクしたものだったように思います。

価格統制下で最低賃金を引き上げるとなると、企業はどう対応するのでしょうか?
下記WSJ記事によれば一定期間、負担増分を政府が肩代わりするようですが、そこでまた紙幣の大増刷がおこなわれるのではないでしょうか?

****ベネズエラ大統領による金融崩壊****
ニコラス・マドゥロ大統領は、経済再生計画を打ち出している。かつて豊かだったこの国に社会主義がもたらした経済的打撃から救うためだ。

だがマドゥロ氏が17日に発表した計画を見ると、ベネズエラは金融崩壊に陥る可能性がある。
 
マドゥロ氏の計画は大掛かりな通貨切り下げが中心となる。同氏の言う「強いボリバル」の新しい固定相場は1ドル=600万ボリバルだ。

公式レートは400万ボリバルだった。ゼロが多すぎてめまいがしそうだが、心配はいらない。政府は21日に「ボリバル・ソベラノ(ソブリン)」を導入する。桁が5つ減るため、1ドルは60ボリバル・ソベラノとなる。
 
金融政策の手直しが進むなか、今回の動きには怪しい雰囲気がある。

ベネズエラはハイパーインフレに見舞われており、経済学者スティーブ・ハンケ氏によると過去最大の年率6万1463%に達した。国際通貨基金(IMF)はインフレ率が100万%に達しかねないと予想している。

闇相場に近づく新たなボリバル相場は、物価の上昇スパイラルに歯止めをかけ、ボリバルへの信頼を取り戻すことを狙っている。
 
問題は、同じ人々が中銀を運営し、彼らが今後もマドゥロ氏に応えるとみられることだ。マドゥロ氏は17日に最低賃金を6000%引き上げることを命じた。マドゥロ氏が率いる統一社会党の身分証明書を保有する者に対しては、政府は60万旧ボリバル相当のボーナスを支払う。
 
マドゥロ氏は全国的に物価を凍結するとも宣言したが、その日程は不明だ。ベネズエラ企業は何年も価格統制の下で操業しているが、小幅な調整のメカニズムはある。

新たな価格統制がどれほど厳格になるかは分からないが、値上げのできない時に新たな最低賃金を支払おうとする企業の幸運を祈る。
 
マドゥロ氏もこれが問題であることは理解しているらしく、中小企業の賃上げ分を90日にわたり政府が負担すると宣言した。

資金の一部は9月に実施される12%から16%への付加価値税率の引き上げで賄われる予定だ。闇市場以外で売られる物が残っていればの話だが。
 
当然、ハイパーインフレを受けた現金不足は深刻で、基本的な取引もままならないほどだ。ガソリンスタンドやバス、多くの非公式市場では現金が必要だが、小銭を見つけるのは難しい。

新たな通貨の下で古い紙幣を使って調整を行うことは、日々のビジネスで価格が急騰することを意味する。
 
これら全てが積み重なれば、本格的な金融パニックと経済的秩序の崩壊をもたらす。
マドゥロ氏は自国の制度と通貨への信頼感を破壊した上、新たな計画はそれを悪化させる。

カオスへの転落を避ける唯一の方法は経済のドル化かもしれない。当面は社会主義のせいで堕落したベネズエラから人と資本が逃げ出すという最悪の事態に備えるべきだ。【8月20日 WSJ】
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逃げ足の速い資本は、まだ残っているのでしょうか?
人の方は“逃げる”とは言っても簡単ではありませんが、それでもすでに大勢が逃げ出しています。

世界各地で難民が問題となっていますが、ベネズエラからもコロンビアやブラジルへの難民流出が起きています。“国連によると、ベネズエラ難民はすでに230万人に上り、引き続き1日に5000人前後が国境を越えていると見られている。”【前出Newsweek】 

最初の話にもどりますが、そんな“国民を苦しめる”政権であっても、強権を行使し、軍部が支える状況では、容易には交代させられないのが現実です。

“統一社会党の身分証明書を保有する者に対しては、政府は60万旧ボリバル相当のボーナスを支払う”【前出WSJ】というように、支持層には一定のつなぎ止めがなされています。配給でも同様でしょう。(もっとも、旧公式レートでは1ドル=400万ボリバルでしたが、“60万旧ボリバル相当”というのがどれだけの価値があるのでしょうか)

政権を支持しない国民は、生活は保障されません。

国民の生存が難しくなるようなところまで、行くところまで行かないと、事態は変わらないのかも。

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